この記事では任意後見契約と法定後見制度の違いを解説します。高齢化が進む日本において、判断能力が低下した方の財産や生活を守るための「後見制度」の重要性が増しています。後見制度には大きく分けて「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあり、それぞれ仕組みや手続きが異なります。
本記事では、任意後見契約と法定後見制度の違いをわかりやすく解説し、どのような場合にどちらの制度を選ぶべきかについて詳しくご説明します。
後見制度とは、認知症・知的障がい・精神障がいなどにより判断能力が不十分な方を法律的に保護・支援するための制度です。具体的には、本人に代わって財産の管理や法律行為(契約の締結・解除など)を行う人を選任し、本人の権利と利益を守ります。
後見制度は以下の2種類に大別されます。
任意後見制度:本人の判断能力が十分なうちに、将来に備えてあらかじめ後見人を選んでおく制度
法定後見制度:本人の判断能力がすでに低下した後に、家庭裁判所が後見人を選任する制度(詳しくは裁判所の公式サイトをご参照ください)
つまり、「事前の備え」か「事後の対応」かという点が最も大きな違いです。以下、それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。
任意後見制度は、本人がまだ判断能力を有しているうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ信頼できる人(任意後見受任者)との間で後見契約を結んでおく制度です。
この契約は「任意後見契約」と呼ばれ、必ず公正証書で作成する必要があります(任意後見契約に関する法律第3条)。
任意後見契約の特徴
- 本人が後見人を自由に選べる:家族・友人・専門家(行政書士・弁護士など)から、自分の意思で選択できます
- 委任する内容を自由に決められる:財産管理の範囲や、介護サービスの選択など、具体的な代理権の内容を契約で定めます
- 公正証書で締結:公証人が関与し、法務局に登記されるため、確実性・信頼性が高い
- 任意後見監督人の選任が必要:実際に後見が開始される際、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、後見人の業務を監督します
任意後見契約の3つの類型
任意後見契約には、利用の仕方に応じて以下の3つの類型があります。
- 将来型
判断能力低下後に初めて効力が発生する、最も一般的な類型です。契約締結時点では効力は発生せず、将来本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることで効力が発生します。 - 移行型
契約締結時から財産管理等の委任契約(通常の委任契約)を開始し、判断能力が低下した段階で任意後見契約に移行する類型です。高齢で身体機能が低下している方に適しています。 - 即効型
契約締結後、すぐに任意後見監督人の選任を申し立てる類型です。軽度の認知症が始まっているものの、まだ契約を締結する能力がある場合に利用されます。
この制度は、すでに判断能力が低下している方について、本人や家族などの申立てにより、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて以下の3つの類型に分かれます。
法定後見の3類型
- 後見(判断能力がほとんどない場合)
日常的な買い物すら困難な状態の方が対象です。成年後見人には包括的な代理権と取消権が与えられます。 - 保佐(判断能力が著しく不十分な場合)
日常的な買い物は可能だが、不動産売買や借金などの重要な法律行為については援助が必要な方が対象です。保佐人には特定の行為について同意権・取消権が与えられます。 - 補助(判断能力が不十分な場合)
判断能力が不十分ではあるが、ある程度のことは自分でできる方が対象です。補助人には本人が申し立てた特定の行為についてのみ同意権・取消権が与えられます。
法定後見では、家庭裁判所が後見人を選任するため、必ずしも家族が選ばれるとは限りません。近年は弁護士・司法書士などの専門職後見人が選任されるケースが増加しています。最高裁判所の統計によると、専門職後見人の割合は大多数に達しています。
任意後見制度と法定後見制度の主な違いを表にまとめました。
| 比較項目 | 任意後見制度 | 法定後見制度 |
|---|---|---|
| 開始のタイミング | 判断能力があるうちに契約 | 判断能力低下後に申立て |
| 後見人の選び方 | 本人が自由に選択 | 家庭裁判所が選任 |
| 後見人の権限 | 契約で定めた代理権のみ | 法律で定められた包括的権限 |
| 取消権 | なし | あり(後見・保佐の場合) |
| 監督機関 | 任意後見監督人 | 家庭裁判所(直接監督) |
| 契約の形式 | 公正証書が必須 | 裁判所の審判 |
| 本人の意思反映 | 高い(自分で内容を決定) | 低い(裁判所の判断に委ねる) |
| 費用 | 公正証書作成費用+報酬(任意) | 申立費用+鑑定費用+報酬 |
| 開始まで期間 | 監督人選任申立てから1〜2ヶ月 | 申立てから2〜4ヶ月 |
メリット
- 自分の意思で後見人を選べる:信頼できる人に将来を託すことができ、安心感があります
- 委任内容をカスタマイズできる:「この財産の管理はお願いするが、この部分は自分で」など柔軟に設計できます
- 本人の希望を反映しやすい:生活の方針や介護施設の希望なども契約に盛り込めます
- 手続きがスムーズ:すでに契約が存在するため、判断能力低下時に速やかに後見を開始できます
デメリット
- 取消権がない:任意後見人には本人が行った不利益な契約を取り消す権限がありません。悪質商法の被害防止には限界があります
- 公正証書作成の手間と費用:公証役場での手続きが必要で、作成費用がかかります
- 任意後見監督人への報酬:家庭裁判所が選任する監督人に対する報酬が発生します(月額1〜3万円程度)
- 開始時期の判断が難しい:判断能力の低下を誰がどのタイミングで判断するかが課題です
メリット
- 取消権がある:本人が行った不利益な法律行為を取り消すことができ、悪質商法等の被害から本人を強力に保護できます
- 事前の準備が不要:判断能力低下後からでも利用可能で、事前の契約がなくても申し立てられます
- 裁判所による直接監督:後見人の業務を家庭裁判所が直接監督するため、不正防止の機能が強い
- 包括的な保護:法律で定められた広い権限により、本人の財産を包括的に管理できます
デメリット
- 後見人を自分で選べない:家庭裁判所が適任と判断する人物が選任されるため、希望通りにならない場合があります
- 手続きに時間がかかる:申立てから後見開始まで2〜4ヶ月、鑑定が必要な場合はさらに時間を要します
- 本人の意思反映が難しい:すでに判断能力が低下しているため、本人の希望を十分に反映できない場合があります
- 行動の制約が大きい:後見が開始されると、会社の役員に就けなくなるなど、一定の資格制限が生じる場合があります
- 費用が高額になりやすい:鑑定費用(5〜10万円)、専門職後見人への報酬(月額2〜6万円)など、継続的な費用負担があります
どちらの制度を利用すべきかは、現在の判断能力の状態によって決まります。
判断能力が十分な場合 → 任意後見制度がおすすめ
将来に備えて、元気なうちに自分の意思で後見人を選び、委任する内容を決めておくことができます。
すでに判断能力が低下している場合 → 法定後見制度を利用
任意後見契約を結ぶことができないため、家庭裁判所に後見人等の選任を申し立てます。
特に以下のような場合には、任意後見制度の活用を強くおすすめします。
- 一人暮らしの高齢者で、将来の財産管理に不安がある方
- 身寄りのない方で、信頼できる第三者に将来を託したい方
- 自分の財産の使い方について明確な希望がある方
- 特定の人物(家族や専門家)に後見を任せたい方
- 認知症の家族歴があり、将来に備えておきたい方
任意後見契約を締結する場合の一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
家族・友人・行政書士などの専門家の中から、将来後見人になってもらう人を決めます。信頼性・専門性・年齢(自分より若い方が望ましい)などを考慮して選びましょう。
委任する事務の範囲(財産管理・介護契約・医療契約など)や報酬について話し合い、具体的な内容を決定します。行政書士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
公証役場にて、公証人立会いのもと任意後見契約の公正証書を作成します。本人と受任者がそろって公証役場に出向く必要があります。費用は約1万1,000円〜数万円程度です。
公正証書が作成されると、公証人の嘱託により東京法務局に任意後見契約が登記されます。この登記により、契約の存在が公的に証明されます。
本人の判断能力が低下したら、本人・配偶者・受任者などが家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。監督人が選任されることで、任意後見契約の効力が発生し、後見が開始されます。
任意後見契約を締結する際にかかる費用の目安は以下のとおりです。
| 費用項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 公正証書作成手数料 | 13,000円 |
| 登記嘱託手数料 | 1,600円 |
| 登記に必要な印紙代 | 2,600円 |
| 正本・謄本の交付手数料 | 約5,000円〜 |
| 行政書士等への報酬(任意) | 50,000円〜150,000円 |
| 任意後見監督人報酬(後見開始後) | 月額10,000円〜30,000円 |
上記は一般的な目安です。契約内容の複雑さや財産の規模により変動します。
Q. 任意後見契約を結んだ後に内容を変更できますか?
はい、本人の判断能力が十分にある間は、既存の契約を解除して新たな契約を締結することで変更可能です。ただし、任意後見監督人が選任された後(後見開始後)は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除することができます。
Q. 任意後見人に身元保証人になってもらえますか?
任意後見人の権限は契約で定めた「法律行為の代理」に限られます。身元保証や介護などの事実行為は任意後見の対象外です。身元保証が必要な場合は、別途身元保証サービスの利用を検討する必要があります。
Q. 家族が遠方に住んでいる場合はどうすればよいですか?
家族が遠方の場合は、お住まいの地域の行政書士・弁護士・司法書士などの専門家を任意後見受任者に選任する方法が有効です。専門家であれば定期的な面談や財産管理を確実に行うことができます。
任意後見制度と法定後見制度は、どちらも判断能力が不十分な方を保護するための重要な制度です。しかし、「自分の意思で将来を決められる」という点において、任意後見制度には大きなメリットがあります。
元気なうちに将来への備えを考えることは、決して早すぎることはありません。「まだ自分には関係ない」と思っている方こそ、今のうちに任意後見契約について知り、準備を始めることが大切です。
行政書士法人Treeでは、任意後見契約の作成から公正証書の手続きまで、一貫してサポートしております。任意後見制度に関するご相談は無料で承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。