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任意後見契約とは?制度の仕組み・手続き・費用を行政書士が解説

更新: 約18分で読めます

日本の65歳以上の高齢者人口は約3,600万人。厚生労働省の推計では、2025年時点で認知症の方は約700万人に達するとされています。判断能力が低下してからでは、預金の引き出し、不動産の管理、施設への入所契約といった重要な法律行為が自分ではできなくなります。こうした事態に元気なうちから備えておく制度が「任意後見契約」です。この記事では、任意後見契約の仕組み・3つの類型・手続きの流れ・費用・注意点を網羅的に解説します。将来の判断能力の低下に備えたい方、おひとりさまの方はぜひ最後までお読みください。

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任意後見契約とは?制度の基本

任意後見制度の定義と目的

任意後見契約とは、将来、認知症や精神上の障害により判断能力が不十分になったときに備え、あらかじめ自分が信頼する人(任意後見受任者)に対し、財産管理や身上監護(介護契約の締結、施設入所の手続き等)に関する代理権を付与しておく契約です。

この制度の最大の特徴は、本人が元気なうちに、自分の意思で後見人を選び、任せる内容を決められる点です。法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため本人の希望が反映されるとは限りませんが、任意後見なら「誰に」「何を」任せるかを自分で決めておけます。自己決定権の尊重という理念に基づいた制度です。

法定後見との違い

成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。両者の主な違いは以下の通りです。

比較項目 任意後見 法定後見
契約のタイミング 判断能力が十分なうちに締結 判断能力が低下した後に申立て
後見人の選任 本人が選ぶ 家庭裁判所が選任
代理権の範囲 契約で自由に設定 法律で定められた範囲
取消権 なし あり(日用品の購入等を除く)
監督 任意後見監督人(裁判所が選任) 家庭裁判所が直接監督
開始の要件 家庭裁判所への監督人選任の申立て 家庭裁判所への後見開始の審判申立て
契約の形式 公正証書(必須) 申立て+審判(契約なし)
類型 将来型・移行型・即効型 後見・保佐・補助の3類型

任意後見の大きな弱点は取消権がないことです。法定後見であれば本人が悪徳商法等で不利な契約を結んでも後見人が取り消せますが、任意後見人にはその権限がありません。取消権が必要なケースでは法定後見が適切な場合もあります。

任意後見契約に関する法律

任意後見契約は「任意後見契約に関する法律」(平成11年法律第150号)に基づく制度です。同法により、任意後見契約は公正証書によって締結しなければならないと定められています(同法第3条)。私文書では無効です。

同法第10条により、任意後見契約が登記されている場合は原則として任意後見が法定後見に優先します。ただし、本人の利益のために特に必要と認められる場合には、家庭裁判所が法定後見の開始を審判することもあります。

任意後見契約の3つの類型

任意後見契約には、効力発生のタイミングや組み合わせる契約の有無によって3つの類型があります。自分の状況に合った類型を選ぶことが重要です。

将来型(最も一般的)

将来型は、現在は判断能力に問題がなく、将来の判断能力低下に備えて契約だけを先に結んでおく類型です。実際に判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、そこから任意後見がスタートします。

最もシンプルな形であり、利用割合も最も高い類型です。ただし、契約から効力発生までの間に本人の状況を把握する仕組みがないため、判断能力の低下に気づくのが遅れるリスクがあります。そのため、見守り契約を併用して定期的な連絡・訪問を行うことが推奨されます。

移行型(財産管理委任契約とセット)

移行型は、まず財産管理等委任契約を締結して日常的な財産管理を任せ、判断能力が低下した時点で任意後見契約に移行する類型です。身体機能の衰えにより銀行や役所に出向くのが難しくなった場合など、判断能力はあるものの事実上の支援が必要なケースに適しています。

将来型と異なり、契約締結後すぐに受任者との関係が始まるため、判断能力低下の兆候を受任者が早期に発見しやすいメリットがあります。一方、財産管理委任契約の段階では任意後見監督人による監督がないため、受任者の権限濫用リスクには注意が必要です。

即効型(すぐに効力を発生させたい場合)

即効型は、契約締結と同時に家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立て、直ちに任意後見を開始する類型です。すでに軽度の判断能力低下が見られるものの、契約締結能力はまだ残っている場合に用いられます。

ただし、契約時点で判断能力が不十分であれば、そもそも有効に契約を締結できるかという問題があります。判断能力の程度によっては法定後見を検討すべきケースもあるため、専門家への相談が不可欠です。

3つの類型の比較

比較項目 将来型 移行型 即効型
契約時の判断能力 十分にある 十分にある やや低下している
効力発生の時期 将来、判断能力低下時 財産管理は即時/後見は低下時 契約締結後すぐ
併用する契約 見守り契約(推奨) 財産管理等委任契約(必須) なし
メリット シンプル、費用が低い 空白期間がない、早期発見しやすい すぐに保護が始まる
デメリット 低下の発見が遅れるリスク 監督のない期間がある 契約の有効性が争われる可能性
利用が多いケース 元気な50〜70代 身体機能の低下がある方 軽度認知障害(MCI)の段階

任意後見契約の手続きの流れ

Step 1: 後見人候補者の選定(家族・専門家・NPO)

最初に、将来の任意後見人となる受任者を決めます。受任者になるために特別な資格は不要で、信頼できる家族や親族に依頼することも、行政書士・弁護士・司法書士等の専門家やNPO法人に依頼することもできます。

受任者は原則として1名ですが、複数名を選任し役割分担することも可能です。その場合は代理権の範囲が重複しないよう整理が必要です。

Step 2: 契約内容の検討(代理権の範囲)

受任者に付与する代理権の範囲を具体的に決めます。代理権目録として契約書に記載するのが一般的で、主な項目は以下の通りです。

  • 預貯金の管理・払い戻し
  • 不動産の管理(賃貸借契約の締結・解除、修繕の手配等)
  • 不動産の処分(売却・担保設定)
  • 保険契約に関する事項
  • 介護サービス契約の締結・変更・解除
  • 施設入所契約の締結
  • 医療契約に関する事項
  • 税務申告に関する事項
  • 行政機関への届出・申請

代理権の範囲は自由に設定できますが、変更には公正証書の作り直しが必要なため、将来必要になりそうな事項はなるべく網羅的に含めておくことが実務上重要です。

Step 3: 公正証書による契約締結

任意後見契約は必ず公正証書で作成しなければなりません(任意後見契約に関する法律第3条)。私文書での契約は無効です。公証役場に連絡し、事前に契約内容のドラフトを送付して打合せを行った上で、本人と受任者が公証役場に出向いて契約を締結します。

なお、本人が病気や身体の障害等で公証役場に出向けない場合は、公証人が出張して作成することも可能です(出張手数料が別途かかります)。

Step 4: 東京法務局への登記

公正証書が作成されると、公証人から東京法務局(後見登記を一括管理)に登記の嘱託が行われます。これにより、任意後見契約の内容が登記事項証明書で確認できるようになります。登記手続きは公証人が行うため、当事者が直接手続きをする必要はありません。

Step 5: 判断能力低下時 → 家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申立て

本人の判断能力が実際に低下した段階で、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のいずれかが、家庭裁判所任意後見監督人の選任を申し立てます。家庭裁判所が監督人を選任した時点で、任意後見契約の効力が発生します。

申立て時には医師の診断書、戸籍謄本、登記事項証明書等が必要で、審理期間はおおむね1〜3か月程度です。

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任意後見契約の費用

公証役場の費用

任意後見契約の公正証書作成に必要な費用は以下の通りです。金額は公証人手数料令に定められた法定費用であり、全国一律です。

費用項目 金額
公正証書作成手数料 13,000円
登記嘱託手数料 1,600円
収入印紙(登記のため) 2,600円
正本・謄本の交付手数料 1枚300円 × 枚数
公証人の出張費(出張の場合) 日当 + 交通費(別途)

任意後見契約の作成手数料は目的価額を算定できないものとして一律13,000円と定められています(2025年10月改定)。正本・謄本の交付手数料を含めると、公証役場に支払う総額は概ね2万〜2万5千円程度です。

行政書士に依頼した場合の費用

任意後見契約の公正証書を自分だけで作成することは制度上可能ですが、代理権の範囲の設定、契約条項の検討、公証役場との事前調整など専門的な知識が求められるため、行政書士や弁護士等の専門家に依頼するケースが一般的です。行政書士に依頼した場合の報酬は事務所により異なりますが、概ね数万円〜十数万円程度が目安です。

見守り契約や死後事務委任契約もあわせて作成する場合はセット対応が可能な事務所もあるため、複数の契約をまとめて検討するとよいでしょう。

任意後見監督人の報酬

任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決定します。本人の資産額や事務の内容に応じて決まりますが、一般的な目安は月額1万〜3万円程度です。資産額が5,000万円を超える場合はそれ以上になることもあります。

この報酬は任意後見が続く限り毎月発生する点に注意が必要です。任意後見契約を検討する際は、長期的な報酬負担も考慮に入れておきましょう。

任意後見人は誰に頼む?

家族・親族に頼む場合

最も身近な選択肢です。家族であれば本人の生活状況や希望をよく理解しているため、身上監護面で適切な判断がしやすいメリットがあります。報酬を無償とする契約も可能で、費用を抑えられます。

ただし、家族に任せる場合でも任意後見監督人の選任は必須です。また、受任者となる家族が先に判断能力を失ったり、亡くなったりするリスクへの備えとして、予備的な受任者を定めておくことも検討すべきです。

行政書士・弁護士等の専門家に頼む場合

法律の専門家に依頼するメリットは、契約内容の設計から後見事務の遂行まで専門知識に基づいた対応が受けられる点です。財産管理や各種手続きに精通しており、公的機関や金融機関とのやり取りもスムーズに進みます。

身寄りのない方にとっては特に有力な選択肢です。見守り契約・死後事務委任契約・遺言書をまとめて依頼できる利便性も魅力です。

NPO法人・社会福祉法人に頼む場合

NPO法人や社会福祉法人が後見業務を受任するケースも増えています。法人であれば個人と異なり組織として継続性があるため、受任者が先に亡くなるリスクが低い点が強みです。地域の社会福祉協議会が成年後見のサポートを行っている自治体もあります。

ただし、法人によってはサービス内容や対応体制に差があるため、事前に確認しておくことが大切です。

任意後見人の選び方について、おひとりさまの方向けの総合的な解説は「おひとりさま終活の完全ガイド」でも紹介しています。

任意後見契約の注意点

死後事務は別途契約が必要

任意後見契約は本人の生存中の支援が目的であり、本人が亡くなると効力が終了します。葬儀の手配、届出、契約解約等の死後の手続きは権限外です。死後までカバーするには「死後事務委任契約」を別途締結する必要があります。

本人の判断能力が既に不十分な場合は法定後見

任意後見契約は本人に契約締結能力があることが前提です。すでに認知症が進行し、契約内容を理解できない状態であれば、有効な契約を結ぶことはできません。この場合は法定後見制度(後見・保佐・補助)の利用を検討することになります。

軽度の判断能力低下であれば「即効型」で対応できる場合もありますが、判断能力の程度の見極めは慎重に行う必要があります。

契約内容の変更は公正証書の作り直しが必要

任意後見契約は公正証書で作成されるため、代理権の範囲を変更したい場合や受任者を変更したい場合は、既存の契約を解除した上で新たに公正証書を作り直す必要があります。変更の都度、公証役場への手数料がかかるため、契約時に代理権の範囲を十分に検討しておくことが重要です。

任意後見監督人は裁判所が選任する(本人が選べない)

任意後見人は自分で選べますが、任意後見監督人は家庭裁判所が職権で選任します。本人が「この人に監督人になってほしい」と希望しても、裁判所はその希望に拘束されません。監督人には弁護士や司法書士が選任されることが多く、その報酬は本人の財産から支払われます。

よくある質問

Q. 任意後見契約はいつ効力が発生しますか?

任意後見契約は、公正証書を作成しただけでは効力は発生しません。本人の判断能力が実際に低下した段階で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、監督人が選任されたときに効力が発生します。つまり、契約締結と効力発生の間にはタイムラグがあります。

Q. 任意後見契約を解除できますか?

はい。任意後見監督人が選任される(効力発生前)であれば、本人または受任者からいつでも解除できます。ただし、公証人の認証を受けた書面による通知が必要です(任意後見契約に関する法律第9条第1項)。監督人選任(効力発生後)の解除は、正当な事由がある場合に限り家庭裁判所の許可を得て行います(同条第2項)。

Q. 任意後見人に不動産の売却を任せられますか?

はい。代理権目録に不動産の処分に関する事項を含めておけば、任意後見人に不動産の売却を代理させることが可能です。ただし、任意後見監督人の監督のもとで行われるため、本人の利益に反する売却がなされないようチェックされます。なお、法定後見の場合は居住用不動産の処分に家庭裁判所の許可が必要ですが(民法第859条の3)、任意後見では代理権目録に定めがあれば裁判所の許可は不要です。ただし任意後見監督人による監督は及びます。

Q. おひとりさまでも任意後見契約できますか?

もちろん可能です。身寄りのない方こそ任意後見契約の意義が大きいといえます。家族がいなければ判断能力低下時に支援してくれる人がいないため、元気なうちに行政書士・弁護士等の専門家やNPO法人を任意後見受任者として選んでおくことが有効な備えになります。

Q. 任意後見と遺言書は両方必要ですか?

任意後見契約は生存中の財産管理・身上監護をカバーし、遺言書は死後の財産承継をカバーします。役割が異なるため、可能であれば両方を用意しておくのが理想的です。遺言書の種類については「遺言書の種類と選び方」で詳しく解説しています。

Q. 任意後見監督人の報酬は誰が払いますか?

本人の財産から支払われます。報酬額は家庭裁判所が本人の資産状況等を考慮して決定します。任意後見人の報酬とは別に発生するため、両方の報酬負担を見込んだ資金計画が必要です。

Q. 任意後見契約と死後事務委任契約の違いは?

任意後見契約は本人の生存中に判断能力が低下した場合の財産管理・身上監護を目的とする契約です。一方、死後事務委任契約は本人の死後に必要な事務(葬儀手配・届出・契約解約等)を委託する契約です。生前から死後まで切れ目なく備えるには、両方を締結しておくことが推奨されます。

まとめ

  • 任意後見契約は、判断能力が十分なうちに自分で後見人を選び、任せる内容を決めておく制度であり、公正証書での作成が法律上必須
  • 3つの類型(将来型・移行型・即効型)があり、自分の状況に応じて見守り契約・財産管理委任契約との組み合わせを検討すべき
  • 死後事務は任意後見契約の範囲外のため、死後事務委任契約や遺言書と併用することで「生前から死後まで」の備えが万全になる

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