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2020年4月の民法改正により、それまで「瑕疵担保責任」と呼ばれていた売主の責任が「契約不適合責任」に再編されました。改正から6年が経過しましたが、いまだに旧法時代のひな形をそのまま使っている契約書を目にすることがあります。改正前の「瑕疵」という文言が残った契約書は、条項の有効性をめぐって解釈上の疑義が生じるリスクがあり、早急に見直す必要があります。
契約不適合責任条項を設計する際の要点は、(1)「契約の内容に適合しない」という判断基準の明確化、(2)買主の救済手段(追完請求・代金減額・損害賠償・解除)の範囲設定、(3)通知期間・責任期間の定め方、(4)免責特約の有効性、の4つです。
この記事では、旧瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを比較表で整理したうえで、売主・買主それぞれの立場に応じた条文例を示しながら、条項設計のポイントを解説します。
「契約書に残っている旧法の文言を改正後の内容に直したい」「売買契約書の契約不適合責任条項をどう設計すればよいかわからない」という方は、行政書士法人Treeにご相談ください。契約書作成の専門家が、取引内容に合わせた条項設計をサポートいたします。相談は何度でも無料・全国対応です。
目次
契約不適合責任とは?2020年民法改正で変わった売主の責任
契約不適合責任とは、売買契約において引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」場合に、売主が買主に対して負う責任です(民法562条〜564条)。
改正前の民法では、この責任を「瑕疵担保責任」と呼び、目的物に「隠れた瑕疵」がある場合に売主が責任を負うとされていました。2020年4月1日施行の改正民法では、「隠れた瑕疵」という要件が廃止され、判断基準が「契約の内容に適合するかどうか」に変更されています。
この変更の意味は大きく、改正前は買主が瑕疵の存在を知らなかったこと(善意無過失)を要件としていたのに対し、改正後は買主が不適合を知っていたかどうかにかかわらず、目的物が契約内容に合致しているかという客観的な基準で判断されます。つまり、「契約で約束した品質・仕様を満たしているか」が問題の核心であり、仮に買主が不適合を認識していたとしても、契約内容と異なる目的物が引き渡された事実は変わりません。
買主に認められた4つの救済手段
改正民法では、契約不適合があった場合に買主が行使できる権利として、以下の4つが整備されました。旧法の瑕疵担保責任では「損害賠償」と「解除」の2つしか認められていなかったため、買主の救済手段が拡充された形になります。
| 救済手段 | 条文 | 概要 |
|---|---|---|
| 履行の追完請求 | 562条 | 目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しを請求できる |
| 代金減額請求 | 563条 | 追完の催告後、相当期間内に追完がない場合に不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる |
| 損害賠償請求 | 564条・415条 | 契約不適合による損害の賠償を請求できる(売主の帰責事由が必要) |
| 契約の解除 | 564条・541条・542条 | 催告解除または無催告解除により契約を解除できる |
注意すべき点として、損害賠償請求には売主の帰責事由(故意・過失)が必要ですが、追完請求と代金減額請求は売主の帰責事由を問いません。一方、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、追完請求も代金減額請求も認められません(562条2項・563条3項)。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い【比較表】
旧法の瑕疵担保責任と現行法の契約不適合責任の違いを比較表で整理します。契約書の見直しや新規作成の際に、どの点が変わったのかを正確に把握しておくことが重要です。
| 比較項目 | 旧法:瑕疵担保責任 | 現行法:契約不適合責任 |
|---|---|---|
| 責任の名称 | 瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 |
| 判断基準 | 目的物に「隠れた瑕疵」があるか | 目的物が「契約の内容に適合」しているか |
| 買主の善意無過失 | 必要(隠れた瑕疵=買主が知らなかったこと) | 不要(契約内容との適合性で判断) |
| 対象物 | 特定物のみ(通説) | 特定物・不特定物を問わない |
| 買主の救済手段 | 損害賠償・解除の2つ | 追完請求・代金減額・損害賠償・解除の4つ |
| 損害賠償の範囲 | 信頼利益に限定(通説・判例) | 履行利益まで含む(415条・416条に基づく) |
| 損害賠償と帰責事由 | 無過失責任(法定責任説) | 帰責事由が必要(契約責任説を明確化) |
| 権利行使の期間制限 | 事実を知った時から1年以内に「権利行使」 | 不適合を知った時から1年以内に「通知」 |
| 消滅時効 | (上記期間制限のみ) | 通知後、権利を行使できることを知った時から5年または権利を行使できる時から10年 |
見落としがちな「通知」と「権利行使」の違い
実務上特に重要なのが、期間制限に関する変更です。旧法では、買主は瑕疵を知った時から1年以内に「権利を行使」する(具体的な請求を行う)必要がありました。改正後の民法566条では、1年以内に求められるのは「その旨を売主に通知」することに緩和されています。つまり、買主は不適合の存在を1年以内に売主へ通知しておけば、具体的な請求(修補請求や損害賠償請求など)は別途消滅時効の期間内に行えばよいということです。
ただし、この規定は種類・品質に関する不適合にのみ適用されます。数量や権利に関する不適合には民法566条の期間制限は適用されず、一般の消滅時効(166条1項)のみが適用される点に注意が必要です。
契約書のリーガルチェックでは、こうした期間制限の規定が正確に反映されているかどうかを確認することが不可欠です。チェックの具体的な方法については「契約書のリーガルチェックとは?確認すべき10のポイント」で解説しています。
契約不適合責任条項の書き方と条文例
契約不適合責任条項を設計する際は、売主・買主のどちらの立場かによって条項の方向性が大きく異なります。以下に、実務で使われる条文例をパターン別に紹介します。
パターン1:基本形(民法の原則に従う)
第○条(契約不適合責任)
1. 買主は、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないとき(以下「契約不適合」という。)は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
2. 買主が相当の期間を定めて前項の追完を催告し、当該期間内に追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
3. 前二項の規定は、民法第415条の規定による損害賠償の請求及び民法第541条・第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
4. 買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければならない。当該期間内に通知をしなかったときは、買主は、当該契約不適合を理由とする前三項の請求をすることができない。
民法の規定をほぼそのまま契約書に落とし込んだ基本形です。買主の4つの救済手段(追完・減額・賠償・解除)がすべて認められ、通知期間は「知った時から1年」と民法566条に合わせています。売主・買主間の力関係が対等な場合や、取引金額が比較的大きく標準的なリスク配分を求める場合に適します。
パターン2:売主に有利な条項設計
第○条(契約不適合責任)
1. 引き渡された目的物に契約不適合があったときは、買主は、売主に対し、目的物の修補又は代替物の引渡しによる追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による追完をすることができる。
2. 前項に基づく契約不適合責任の期間は、目的物の引渡し後○か月間とし、買主は当該期間内に売主に対し書面により通知しなければならない。
3. 本条に基づく売主の責任は、目的物の修補又は代替物の引渡しに限られるものとし、買主は、契約不適合を理由とする代金の減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をすることができないものとする。ただし、売主の故意又は重大な過失に基づく場合はこの限りでない。
売主のリスクを大幅に限定するパターンです。買主の救済手段を「追完請求のみ」に制限し、代金減額・損害賠償・解除を排除しています。責任期間も民法の「知った時から1年」ではなく「引渡し後○か月」と短く設定し、起算点を引渡時に固定しています。ただし、故意・重過失の場合にまで免責する特約は、公序良俗(民法90条)に反して無効と判断されるリスクがあるため、ただし書きを設けています。
パターン3:買主に有利な条項設計
第○条(契約不適合責任)
1. 引き渡された目的物に契約不適合があったときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し又は買主が合理的に選択するその他の方法による履行の追完を請求することができる。
2. 売主が前項の追完を買主が指定した期限までに履行しないときは、買主は催告なく代金の減額を請求することができる。
3. 前二項の規定は、損害賠償の請求(逸失利益を含む。)及び契約の解除を妨げない。
4. 買主は、目的物の引渡し後○年間、契約不適合を理由とする本条の請求をすることができる。
買主の保護を手厚くするパターンです。追完方法の選択権を買主に与え、催告なしの代金減額請求を認め、損害賠償の範囲に逸失利益を含めています。責任期間も民法の「知った時から1年」ではなく「引渡し後○年間」と長期に設定しています。買主が大口の発注者であり、品質に対する要求が高い取引で用いられることがあります。
パターン4:免責特約(売主の責任を全部免除)
第○条(契約不適合責任の免除)
売主は、本件目的物の契約不適合について一切の責任を負わないものとし、買主は売主に対し、履行の追完、代金の減額、損害賠償の請求又は本契約の解除をすることができないものとする。
売主の契約不適合責任を全面的に免除する特約です。中古品の売買(「現状有姿」での引渡し)など、目的物の性質上、品質を保証することが困難な取引で見られます。ただし、以下の場合は免責特約が無効となるため注意が必要です。
- 売主が不適合を知りながら告げなかった場合(民法572条):免責特約があっても、売主は責任を免れない
- 消費者契約の場合:消費者契約法8条により、事業者の損害賠償責任を全部免除する条項は無効
- 宅地建物取引業法の適用がある場合:宅建業者が売主の場合、契約不適合責任を民法の規定より買主に不利に定める特約は無効(宅建業法40条)。引渡しから2年以上の期間を設ける場合を除き、責任の制限・免除は認められない
契約不適合責任と密接に関連する損害賠償条項の設計方法については、「損害賠償条項の書き方|賠償範囲・上限額の定め方と条文例」で詳しく解説しています。
商人間売買では商法526条にも注意
事業者同士の売買契約(商人間売買)では、民法だけでなく商法526条の規定にも注意が必要です。商法526条は、買主に対し、目的物の受領後「遅滞なく」検査を行い、契約不適合を発見したときは「直ちに」売主に通知する義務を課しています。さらに、直ちに発見できない不適合についても、引渡しから6か月以内に発見・通知しなければ、買主は契約不適合を理由とする請求ができなくなります。
民法566条の「知った時から1年」と比べて大幅に短い期間制限が適用されるため、商人間の売買契約書では、検査条項と契約不適合責任条項をセットで設計し、検査の方法・期限・通知手続きを具体的に定めておくことが重要です。
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よくある質問
Q. 旧法の「瑕疵担保責任」の文言が残った契約書はそのまま使えますか?
法律上、「瑕疵担保責任」という文言が残っていても契約書自体が直ちに無効になるわけではありません。ただし、改正前の条文構成をそのまま使っていると、買主の救済手段が「損害賠償・解除」の2つに限定されているケースが多く、追完請求や代金減額請求を排除する意図があるのか、単に更新していないだけなのかが不明確になります。解釈上の疑義を避けるためにも、現行民法の用語・構成に合わせた改訂をお勧めします。
Q. 契約不適合責任の通知期間を契約書で短縮・延長できますか?
民法566条の「知った時から1年」という通知期間は任意規定であり、当事者間の合意によって短縮・延長することが可能です。売主の立場では「引渡し後3か月」「引渡し後6か月」など短縮する方向で交渉し、買主の立場では「知った時から2年」「引渡し後3年」など延長する方向で交渉するのが一般的です。ただし、消費者との取引や宅建業法の適用がある場合は、法律で定められた最低限の保護を下回る特約は無効となります。
Q. 請負契約にも契約不適合責任は適用されますか?
適用されます。改正民法では、請負契約においても、仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合、注文者は請負人に対して履行の追完請求・報酬減額請求・損害賠償請求・解除ができます(559条により売買の規定を準用)。旧法では、建物その他の土地の工作物については解除が制限されていましたが、改正後はこの制限が撤廃されています。業務委託契約書の書き方において、この点を反映した条項設計が必要です。
Q. 契約不適合責任を全部免責する特約は有効ですか?
事業者間の契約(B2B)であれば、原則として有効です。ただし、売主が不適合を知りながら買主に告げなかった場合は、免責特約があっても売主は責任を免れません(民法572条)。また、消費者契約では消費者契約法8条により全部免責の特約は無効であり、宅建業者が売主の場合は宅建業法40条により引渡し後2年未満に責任期間を制限する特約は無効です。免責特約を設ける場合は、取引の性質と適用法令を踏まえた慎重な検討が必要です。
まとめ
契約不適合責任は、2020年の民法改正によって瑕疵担保責任から大きく再編された制度です。この記事の要点を整理します。
- 判断基準が「隠れた瑕疵」から「契約の内容に適合するか」に変更された
- 買主の救済手段が追完請求・代金減額・損害賠償・解除の4つに拡充された
- 期間制限は「1年以内の権利行使」から「1年以内の通知」に緩和された
- 契約書では、自社の立場に応じて救済手段の範囲・責任期間・免責範囲を調整する
- 商人間売買では商法526条の検査義務・短期の通知期間にも注意が必要
改正前の「瑕疵担保責任」の文言が残った契約書を使い続けると、条項の解釈をめぐるトラブルの原因になりかねません。契約書の新規作成はもちろん、既存の契約書のアップデートについても、現行民法に対応した条項設計を行うことが重要です。
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