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2020年4月の民法改正で、消滅時効に関する用語が大きく変わりました。それまで「中断」と呼ばれていた制度は「更新」に、「停止」は「完成猶予」へと整理されています。名前が変わっただけではなく、新たな完成猶予事由として「協議を行う旨の合意」が追加されるなど、制度の中身にも変更が加えられました。
借金の消滅時効を主張(援用)したいと考えている方にとって、完成猶予と更新の違いを正しく理解しておくことは不可欠です。どちらも時効の完成を妨げる制度ですが、その効果はまったく異なります。この記事では、完成猶予と更新それぞれの仕組み・該当する事由・旧法との対応関係を整理し、借金問題の場面で特に注意すべきポイントを解説します。
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目次
時効の「完成猶予」と「更新」とは? — 2つの制度の基本
消滅時効の進行を妨げる仕組みには、完成猶予と更新の2種類があります。いずれも債権者が時効の完成を防ぐための制度ですが、効果の強さがまったく異なります。
完成猶予 — 時効の完成を「一時停止」する
時効の完成猶予とは、一定の事由がある間、時効期間の満了(完成)を先延ばしにする制度です。時効期間のカウントそのものが止まるわけではなく、「本来であれば時効が完成するタイミングが到来しても、猶予事由が続いている間は完成しない」という仕組みです。猶予事由が終了すれば、時効は通常どおり完成に向けて進行を再開します。
たとえば、債権者が債務者に催告(支払いの請求通知)を送った場合、その時点から6か月間は時効が完成しません。しかし、6か月以内に債権者がさらなる法的手続き(訴訟提起等)を取らなければ、時効はそのまま完成します。
更新 — 時効期間を「ゼロからやり直し」にする
時効の更新とは、一定の事由が生じたときに、それまで積み上がっていた時効期間がリセットされ、ゼロから新たに時効期間がスタートする制度です。たとえば、借金の時効が4年目に差し掛かった段階で更新事由が生じると、その4年間の経過はなかったことになり、再び最初から5年(または10年)を数え直すことになります。
借金の時効援用を目指す方にとっては、完成猶予よりも更新のほうがはるかに影響が大きい制度です。
| 区分 | 効果 | わかりやすく言うと |
|---|---|---|
| 完成猶予 | 時効の完成が一定期間先延ばしになる | 時計の針が「一時停止」する |
| 更新 | 時効期間がゼロにリセットされ再スタート | 時計の針が「ゼロに戻る」 |
旧民法の「中断」「停止」との対応関係
2020年4月施行の改正民法以前は、「中断」と「停止」という用語が使われていました。改正後の用語との対応関係は以下のとおりです。ただし、単純な名称変更ではない点に注意が必要です。
| 旧民法の用語 | 現行民法の用語 | 効果 | 改正での変更点 |
|---|---|---|---|
| 中断 | 更新 | 時効期間のリセット | 旧法の「中断」には完成猶予的な効果を含むものもあり、改正で整理 |
| 停止 | 完成猶予 | 時効完成の先延ばし | 「協議を行う旨の合意」が新設 |
旧法では「中断」という1つの用語の中に、実質的に「完成猶予+更新」の2段階の効果が含まれていました。たとえば、裁判上の請求(訴訟の提起)は旧法では「中断事由」とされていましたが、実際には訴訟の提起により時効の進行がストップし(=完成猶予の効果)、確定判決によって権利が確定した時点で時効がリセットされる(=更新の効果)という2段階の構造になっていました。
改正民法ではこの2段階の構造を明確に分け、「まず完成猶予が生じ、一定の条件を満たすと更新に至る」という流れがわかりやすく整理されています。この点が「単なる名称変更ではない」と言われる理由です。
民法改正の全体像について詳しくは法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」をご確認ください。
完成猶予・更新が生じる事由一覧【条文対応表】
現行民法で規定されている完成猶予・更新の事由を、条文ごとに整理します。借金問題の場面で特に重要なものには★印を付けています。
完成猶予と更新の両方が生じる事由
以下の事由は、手続きの進行中は完成猶予の効果があり、手続きの終了・権利の確定によって更新が生じます。つまり「完成猶予 → 更新」の2段階で作用します。
| 事由 | 条文 | 完成猶予の時期 | 更新の時期 |
|---|---|---|---|
| ★ 裁判上の請求(訴訟提起・支払督促等) | 民法第147条 | 手続き終了まで | 確定判決等で権利確定時 |
| 和解・調停の申立て | 民法第147条 | 手続き終了まで | 確定判決等で権利確定時 |
| 破産手続参加等 | 民法第147条 | 手続き終了まで | 確定判決等で権利確定時 |
| ★ 強制執行(差押え等) | 民法第148条 | 手続き終了まで | 手続き終了時 |
| 担保権の実行・競売 | 民法第148条 | 手続き終了まで | 手続き終了時 |
| 財産開示手続 | 民法第148条 | 手続き終了まで | 手続き終了時 |
| 第三者からの情報取得手続 | 民法第148条 | 手続き終了まで | 手続き終了時 |
特に注意すべきは、確定判決によって権利が確定した場合、新たな時効期間が10年になることです(民法第169条第1項)。もともと5年で時効が完成するはずだった借金でも、判決確定後は10年に延長されます。
完成猶予のみの事由(更新には至らない)
| 事由 | 条文 | 猶予期間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ★ 催告(内容証明等による請求通知) | 民法第150条 | 催告から6か月 | 再度の催告では猶予されない |
| 仮差押え・仮処分 | 民法第149条 | 事由終了から6か月 | 本案の訴訟提起が必要 |
| 協議を行う旨の合意(★改正で新設) | 民法第151条 | 合意から最長1年(再合意で通算5年まで延長可) | 書面(電磁的記録を含む)での合意が必要 |
| 天災等 | 民法第161条 | 障害消滅から3か月 | 天災で裁判上の請求等ができない場合 |
更新のみの事由
| 事由 | 条文 | 効果 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ★ 承認(債務の承認) | 民法第152条 | 承認の時点から時効期間が再スタート | 一部弁済・支払猶予の申入れも含む |
承認は、裁判手続きを経ずに時効がリセットされる唯一の事由です。一部弁済や「少しずつ返します」といった発言など、日常のやり取りの中で意図せず成立してしまうことがある点は特に要注意です。承認にあたる具体的な行為については、消滅時効が更新(中断)されるケースと対処法の記事で詳しく解説しています。
借金問題で特に注意すべき3つのポイント
完成猶予と更新の仕組みを理解したうえで、借金の時効援用を検討している方が実務上気を付けるべきポイントを整理します。
1. 催告は「完成猶予」にとどまる — 慌てて対応しない
債権者や債権回収会社から「催告書」「ご通知」といった書面が届くことがあります。この催告によって生じるのは完成猶予であり、時効がリセット(更新)されるわけではありません。催告から6か月以内に債権者が訴訟を提起しなければ、時効は完成に向けて進行を続けます。
ここで注意したいのは、催告に動揺して債権者に電話をかけ、「もう少し待ってほしい」「分割なら払える」と伝えてしまうケースです。このような発言は「承認」に該当し、時効が更新されるおそれがあります。催告書が届いた段階では、自分で対応する前にまず専門家に相談することをおすすめします。
2. 裁判上の請求は「完成猶予 → 更新」の2段階
債権者が訴訟を提起した場合、訴訟の進行中は完成猶予が生じ、確定判決が出ると時効が更新されます。さらに、判決確定後の時効期間は10年に延長されます。
裁判所から訴状や支払督促が届いた場合は、放置すると債権者の主張どおりの判決が出てしまう(欠席判決)ため、必ず適切に対応してください。支払督促の場合は2週間以内に督促異議を申し立てる必要があります。詳しくは裁判所「支払督促手続の概要」をご確認ください。
3.「協議合意」の書面に安易にサインしない
2020年改正で新設された民法第151条の「協議を行う旨の合意」は、債権者と債務者が権利について話し合うことを書面(電磁的記録を含む)で合意した場合に、1回の合意につき最長1年間の完成猶予が生じる制度です。さらに、再度の合意により通算5年まで延長されうる点にも注意が必要です(同条2項)。口頭の合意では効力がありませんが、メール等の電磁的記録でも有効であるため、債権者から協議に関する書面やメールでの合意を求められた際に安易に応じてしまうと、時効の完成が長期にわたって先延ばしになるおそれがあります。
債権者から何らかの書面に署名・押印を求められた場合は、その内容をよく確認し、自分で判断できない場合は専門家に相談してから対応してください。
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よくある質問
Q. 完成猶予と更新の両方が同時に生じることはありますか?
はい。たとえば裁判上の請求(訴訟提起)では、訴訟が提起された時点でまず完成猶予が生じ、確定判決によって権利が確定すると更新に移行します。このように、完成猶予と更新は段階的に作用する事由があります(民法第147条・第148条)。
Q. 旧民法で「中断」とされていた事由は、すべて「更新」に置き換わったのですか?
単純な置き換えではありません。旧法の「中断」には、実質的に完成猶予の効果を含むものが混在していました。改正民法では、手続き進行中の効果を「完成猶予」、権利確定後の効果を「更新」と整理し、制度の構造を明確にしています。また、旧法にはなかった「協議を行う旨の合意」(民法第151条)が新たな完成猶予事由として追加されました。
Q. 催告(内容証明等による請求通知)を繰り返し受けたら、その都度6か月延長されるのですか?
延長されません。催告によって完成猶予が生じている間に再度の催告を行っても、重ねて猶予の効果は生じないと明文で規定されています(民法第150条第2項)。債権者が催告だけで無限に時効の完成を引き延ばすことはできない仕組みです。
Q. 時効援用の内容証明を送ること自体が「承認」にあたり、更新されることはありませんか?
ありません。時効援用は「時効の利益を受ける」という意思表示であり、債務の存在を認める行為(承認)とは性質が異なります。時効援用は「この債務は時効により消滅した」と主張する手続きですので、承認とは正反対の行為です。
Q. 2020年改正前に発生した借金にも、新しい完成猶予・更新の規定が適用されますか?
原則として、2020年4月1日より前に発生した債権については、時効期間に関しては旧法の規定が適用されます。ただし、完成猶予・更新の事由が施行日(2020年4月1日)以後に生じた場合には新法が適用される場合があるなど、個別の事情によって適用関係が変わることがあります。ご自身の借金がどちらの法律の適用を受けるかは、発生時期や最終返済日等を踏まえて判断する必要があるため、不明な場合は専門家にご確認ください。
まとめ
消滅時効の「完成猶予」と「更新」は、いずれも時効の完成を妨げる制度ですが、その効果はまったく異なります。
- 完成猶予:時効の完成が一定期間先延ばしになるだけ(時計の一時停止)
- 更新:時効期間がゼロにリセットされ、最初から数え直し(時計のリセット)
- 旧民法の「中断」に含まれていた2つの効果を、改正法で「完成猶予」と「更新」に分離・整理
- 2020年改正で「協議を行う旨の合意」が新たな完成猶予事由として追加
- 催告は完成猶予にとどまるが、承認(一部弁済・支払猶予の申入れ等)は更新事由にあたるため特に注意
時効の成否は、最終返済日・債権者の法的措置の有無・承認にあたる行為の有無など、個別の事情によって判断が分かれます。「自分の借金は時効が成立しているのか」「完成猶予や更新が生じていないか」の確認は、専門家に相談するのが確実です。
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※ 2026年3月時点の民法・民事訴訟法に基づく解説です。個別の債務状況により対応が異なります。具体的な時効成否の判断は専門家にご相談ください。
※ 記事の内容には細心の注意を払っておりますが、万が一誤りがございましたらご指摘いただけますと幸いです。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言ではございません。具体的なケースについては専門家へのご相談をおすすめいたします。


