結論から言えば、離婚届の本籍欄は「もとの戸籍に戻る」か「自分を筆頭者とする新しい戸籍をつくる(新本籍を決める)」かのどちらかを選ぶ欄であり、戸籍法第19条が定める二つの選択肢に対応しています。婚姻時に氏が変わった側だけが記入対象で、戻る場合は婚姻前の本籍と筆頭者を、新戸籍をつくる場合は新本籍を書きます。行政書士は、離婚協議書や公正証書の原案作成と事実関係の整理を通じて、戸籍の選び方が財産分与・親権・親子交流(いわゆる面会交流)の取り決めとどう噛み合うかを文書面から整理します。戸籍そのものの記載審査は市区町村、登記は司法書士、調停・交渉・慰謝料の代理は弁護士、年金分割の請求手続は年金事務所と、それぞれの職域で連携して進めます。
目次
離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄は戸籍法第19条の選択肢
婚姻すると、戸籍法第16条により、夫婦について原則として新しい戸籍が編製されます。夫の氏を称する場合は夫、妻の氏を称する場合は妻が筆頭者となり、氏を改めた側はその戸籍に記載されます。ただし、夫婦が称する氏の側がすでに戸籍の筆頭者である場合は、新戸籍を編製せず、その既存の戸籍に配偶者が入ります。離婚で氏が婚姻前に戻る(復氏する)と、戸籍法第19条第1項により原則として「婚姻前の戸籍に戻る(復籍する)」のが基本です。ただし同項は、(1)新しい戸籍を編製する旨の申出をしたとき、(2)もとの戸籍がすでに除かれている(全員が抜けて消除済み)ときは、その人について新しい戸籍を編製する、と定めています。
離婚届の用紙にある「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄は、まさにこの選択を届け出るための欄です。チェック方式で「もとの戸籍にもどる」か「新しい戸籍をつくる」かを選び、それぞれ必要な事項を記入します。氏が変わらない側(筆頭者として戸籍に残る側)は、この欄を記入する必要はありません。
「もとの戸籍にもどる」を選ぶときの書き方
婚姻前にいた親などの戸籍に戻る選択です。記入するのは次の二つです。
- 婚姻前の本籍(都道府県・市区町村・番地まで正確に)
- その戸籍の筆頭者(多くは父または母の氏名)
筆頭者とは、戸籍法第14条により戸籍の最初に記載される人で、本籍と並んで戸籍を特定する「見出し」の役割を持ちます。筆頭者は離婚や死亡で戸籍から抜けても変わりません。したがって、たとえば父が亡くなっていても、もとの戸籍の筆頭者欄には父の氏名を書くのが原則です。なお、もとの戸籍がすでに除かれている場合は戻ることができず、後述の新戸籍編製になります。
「新しい戸籍をつくる」を選ぶときの書き方
自分を筆頭者とする新しい戸籍を編製する選択です。この場合は新本籍を記入します。新本籍は、届出時点で日本国内に実在する地番(または住居表示の街区符号まで)であれば、住んでいるかどうか・土地を所有しているかどうかに関係なく、原則として自由に定められます。実務上は、現住所・元の本籍地・思い入れのある場所などを選ぶ方が多いです。
新戸籍をつくる主な場面は次のとおりです。
- 子どもを自分の戸籍に入れたい場合(戸籍法第17条により親と子と孫の「三代戸籍」は編製できないため、もとの親の戸籍に戻ると子を同じ戸籍に入れられません)
- もとの戸籍がすでに除かれている場合(自動的に新戸籍編製)
- 独立した自分名義の戸籍にしておきたい場合
とくに「子どもを離婚後に自分と同じ戸籍へ」と考える場合は、新しい戸籍をつくる選択が前提になります。ただし子を実際に入籍させるには、家庭裁判所の「子の氏の変更許可」(子が父または母の氏を称する場合)を得たうえで、別途「入籍届」が必要です。離婚届だけでは子の戸籍は動きません。子が15歳未満で共同親権の場合は、原則として父母が共同で申し立てる必要があるため、家庭裁判所の案内も確認してください。
離婚後も婚姻中の氏を続けたい場合(戸籍法第77条の2の届)
離婚すると氏は原則として婚姻前に戻りますが、離婚の日を含めて3か月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届」(戸籍法第77条の2の届)を出せば、婚姻中の氏を引き続き名乗れます。この届を出すと、原則として、その氏で自分を筆頭者とする新しい戸籍が編製されます。ただし、すでに届出人が筆頭者で同籍者がいない場合など、新たな戸籍を編製しない取扱いになる場合があります。
- 期限:離婚の日(協議離婚は届出受理日、調停・和解離婚は成立日、認諾離婚は認諾日、審判・判決離婚は確定日)を含めて3か月以内
- 3か月を過ぎた場合:婚姻中の氏を称するには家庭裁判所の許可が必要になります
離婚届と同時に出すこともでき、その場合は離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄は記入せず、この届に現在の本籍・筆頭者、変更前後の氏、離婚の際に称していた氏を称した後の本籍・筆頭者となる本人の氏名を記入します。氏を戻すか続けるかは、子の氏との関係や仕事上の事情にも関わるため、文書を作る段階で整理しておくと迷いにくくなります。
「分籍」との違い(戸籍法第21条・第100条)
「分籍」は、いまの戸籍から自分だけ抜けて、氏は変えずに新しい戸籍を編製する手続です(戸籍法第100条・第101条による分籍届)。離婚に伴う戸籍の選択とは別の制度で、混同しやすい点を整理します。
| 項目 | 離婚での新戸籍編製(戸籍法第19条) | 分籍(戸籍法第21条・第100条) |
|---|---|---|
| きっかけ | 離婚による復氏 | 本人の任意 |
| 届出できる人 | 離婚で氏が戻る側 | 成年者に限る。戸籍の筆頭者とその配偶者は分籍できない |
| 氏 | 婚姻前の氏に戻る(または第77条の2で婚姻中の氏) | 従前の氏のまま変わらない |
| もとの戸籍への復帰 | 「もとの戸籍にもどる」を選べば可能 | 分籍後はもとの戸籍に戻れない |
分籍は成年者であれば本人の意思だけででき、親族の同意は不要です。一方で、いったん分籍するともとの戸籍へは復籍できない点が大きな違いです。離婚の場面では分籍届を使うことは通常なく、離婚届の本籍欄の選択で足ります。
本籍欄を記入する前に整理しておきたいこと
本籍の選び方は、その後の手続や子どもの戸籍に影響します。記入前に次の点を整理しておくと、書き直しや二度手間を避けやすくなります。
- 子どもを自分の戸籍に入れる予定があるか(あるなら新戸籍が前提)
- 氏を婚姻前に戻すか、婚姻中の氏を続けるか(続けるなら第77条の2の届)
- 新本籍をどこにするか(将来の戸籍取得のしやすさも考慮)
- もとの戸籍が現存しているか(除籍済みなら自動的に新戸籍)
これらは財産分与や親子交流(いわゆる面会交流)、養育費などの取り決めと一緒に考えると、全体の見通しが立てやすくなります。離婚に伴う合意内容は、口約束ではなく離婚協議書や公正証書という形で残しておくことが、後日のトラブル予防につながります。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、離婚協議書・公正証書の原案作成と事実関係の整理を承っています。財産分与・養育費・親子交流(いわゆる面会交流)などの取り決めを文書に落とし込む過程で、戸籍をどう選ぶか(もとの戸籍に戻るか・新戸籍をつくるか・婚姻中の氏を続けるか)が子の入籍や手続とどう関係するかを、文書面から整理してご説明します。なお、戸籍記載の審査・受理は市区町村、登記は司法書士、調停・交渉・慰謝料請求の代理は弁護士、裁判所提出書類(調停申立書等)の作成は弁護士または司法書士、年金分割の請求手続は年金事務所と、それぞれの職域で連携します(年金分割の取扱いは2026年4月1日施行の改正に対応)。
料金(いずれも税込)は、離婚協議書 ミニマム21,780円/スタンダード27,500円、公正証書作成サポート 32,780円です。お急ぎの場合の超特急対応は+5,000円(税込)、代理人作成サポート(1名追加につき)は+15,000円(税込)で承ります。詳しくは離婚協議書・公正証書作成サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
離婚届の本籍欄は、戸籍法第19条に基づき「もとの戸籍にもどる」か「新しい戸籍をつくる」かを選ぶ欄です。戻る場合は婚姻前の本籍と筆頭者を、新戸籍をつくる場合は新本籍を記入します。子どもを自分の戸籍に入れたいなら、三代戸籍を禁じる戸籍法第17条の関係で新戸籍が前提です。婚姻中の氏を続けたいときは離婚日から3か月以内に戸籍法第77条の2の届を出します。氏を変えずに任意で戸籍を分ける「分籍」とは別制度で、分籍後はもとの戸籍に戻れない点に注意してください。迷ったら、財産分与や子の取り決めと合わせて文書面から整理しておくと安心です。
離婚届の本籍欄に関するよくある質問
Q:新本籍はどこでも自由に決められますか。
A:届出時点で日本国内に実在する地番(または住居表示の街区符号まで)であれば、住んでいるか・土地を所有しているかにかかわらず、原則として自由に定められます。実務では現住所・元の本籍地・ゆかりのある場所などを選ぶ方が多いです。戸籍謄抄本を取り寄せる機会を考え、取得しやすい場所にしておくと便利です。
Q:もとの戸籍に戻りたいのに、筆頭者の父がすでに亡くなっています。書けますか。
A:筆頭者は戸籍法第14条により戸籍を特定する見出しで、死亡や離婚で戸籍から抜けても変わりません。したがって父が亡くなっていても、もとの戸籍が現存していれば筆頭者欄には父の氏名を書いて戻れます。ただし、戸籍の全員が抜けて除籍済みの場合は戻れず、新しい戸籍を編製することになります(戸籍法第19条)。
Q:子どもを離婚後に自分と同じ戸籍にしたいのですが、本籍欄はどう選べばよいですか。
A:「新しい戸籍をつくる」を選んでください。戸籍法第17条は親・子・孫の三代が同じ戸籍に入ることを認めていないため、もとの親の戸籍に戻ると子を同じ戸籍に入れられません。なお、離婚届だけでは子の戸籍は動かず、家庭裁判所の「子の氏の変更許可」を得たうえで別途「入籍届」が必要です。子が15歳未満で共同親権の場合は、原則として父母が共同で申し立てる必要があるため、家庭裁判所の案内も確認してください。
Q:離婚届の本籍欄と「分籍」は何が違いますか。
A:離婚届の本籍欄は、離婚で氏が戻る人が「もとの戸籍に戻る」か「新戸籍をつくる」かを選ぶものです(戸籍法第19条)。分籍は、離婚とは関係なく成年者が任意に自分だけ別戸籍を編製する手続(戸籍法第21条・第100条)で、氏は変わりません。分籍は筆頭者とその配偶者にはできず、いったん分籍するともとの戸籍に戻れない点が異なります。
Q:婚姻中の氏を続けたい場合も本籍欄を書きますか。
A:その場合は離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄は記入せず、「離婚の際に称していた氏を称する届」(戸籍法第77条の2の届)に現在の本籍・筆頭者、変更前後の氏、離婚の際に称していた氏を称した後の本籍・筆頭者となる本人の氏名を記入します。離婚日を含めて3か月以内であれば離婚届と同時に提出できます。3か月を過ぎると、家庭裁判所の許可を得て氏の変更届を行う必要があるため、期限にご注意ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


