結論から言えば、解体工事の現場で重大な事故が発生した場合、事業者は「火災・爆発や建設物の倒壊などの事故報告(労働安全衛生規則第96条)」と「労働者が死亡・休業したときの労働者死傷病報告(同第97条)」という、性格の異なる二つの報告義務を負います。さらに第三者を巻き込む公衆災害では国土交通省の対策要綱に沿った通報も重なります。これらは「いつ・どこへ・どの様式で」が法令・要綱等で定められており、特に労働者死傷病報告を故意に提出しない、または虚偽の内容で提出することは「労災かくし」として問題になります。行政書士は、建設業許可・解体工事業登録・建設リサイクル法の届出など、行政書士の職域内の許認可・届出書類の作成と提出代行を行えます。ただし、労働安全衛生法に基づく事故報告・労働者死傷病報告の作成や提出代行は社会保険労務士の職域となるため、当事務所が直接代行するものではありません。労災給付の請求は社会保険労務士、刑事・民事の対応は弁護士と、士業が連携して対応にあたります。本記事では解体工事に関わる事故報告義務の全体像を整理します。
目次
解体工事の事故で必要な報告先・様式・期限の全体像
解体工事は、重量物の落下、構造物の倒壊、重機の転倒、粉じん・アスベストの飛散など、第三者災害・労働災害の双方を引き起こしやすい工種です。事故が起きた場合に求められる報告は、おおむね次の四系統に整理できます。
- 事故報告(労働安全衛生規則第96条)— 人の死傷を問わず、一定の重大事故の発生自体を報告
- 労働者死傷病報告(労働安全衛生規則第97条)— 労働者が死亡・休業したときの報告(いわゆる労災報告)
- 公衆災害に係る通報・連絡(建設工事公衆災害防止対策要綱ほか)— 第三者を巻き込んだ場合の発注者・関係機関への連絡
- アスベスト関係の報告(石綿障害予防規則・大気汚染防止法)— 解体に伴う石綿飛散に関わる事前調査結果報告等
それぞれ根拠条文・提出先・様式・期限が異なります。順に見ていきます。
事故報告(安衛則第96条)— 死傷者がいなくても報告
労働安全衛生規則第96条は、人の死傷の有無にかかわらず、一定の重大事故が発生した場合に「遅滞なく、様式第二十二号による報告書」を所轄労働基準監督署長へ提出することを定めています。解体現場で特に関係が深いのは次のものです。
- 事業場またはその附属建設物内での火災または爆発の事故
- 遠心機械、研削といしその他高速回転体の破裂の事故
- 機械集材装置、巻上げ機または索道の鎖または索の切断の事故
- 建設物、附属建設物、煙突、高架そう等の倒壊の事故
- クレーン・移動式クレーンの逸走・転倒・倒壊・ジブの折損、ワイヤロープ等の切断
- エレベーター・建設用リフトの昇降路等の倒壊・搬器の墜落、ワイヤロープの切断
ポイントは、けが人がいなくても報告義務がある点です。解体中の建物が予定外に倒壊した、揚重機が転倒したといった場合、第96条の対象になり得ます。提出期限は「遅滞なく」、提出先は所轄労働基準監督署長です。実務では死亡・重大災害を伴う場合、まず発生地を管轄する労働基準監督署へ電話連絡し、その後に書面で報告する運用が一般的です。
労働者死傷病報告(安衛則第97条)— 死亡・休業時の報告
労働安全衛生規則第97条は、労働者が労働災害その他就業中または事業場内もしくはその附属建設物内における負傷・窒息・急性中毒により死亡し、または休業したときに、報告書を所轄労働基準監督署長へ提出する義務を定めています。休業日数によって様式と期限が分かれます。
| 区分 | 様式 | 提出期限 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 死亡または休業4日以上 | 様式第二十三号 | 遅滞なく | 所轄労働基準監督署長 |
| 休業4日未満 | 様式第二十四号 | 四半期(1〜3月/4〜6月/7〜9月/10〜12月)ごとに、当該期間の最後の月の翌月末日まで | 所轄労働基準監督署長 |
なお令和7年(2025年)1月1日施行で報告事項が改正され、労働者死傷病報告(様式第23号・第24号)は電子申請が義務化されました。パソコン等がない事情がある場合は、当分の間、書面での報告も認められています。電子申請は厚生労働省のポータルサイト「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」から行います。
この報告を提出しない、または虚偽の報告をした場合、いわゆる「労災かくし」として処罰の対象となり、許可業者としての信用にも直結します。なお報告は「給付請求とは別物」であり、労災保険給付(療養・休業補償等)の請求手続は社会保険労務士の職域です。書類の性格を取り違えないことが大切です。
公衆災害(第三者災害)の通報
解体工事は道路・隣地に近接して行われることが多く、外壁の落下や飛散物による第三者被害(公衆災害)のリスクがあります。国土交通省の「建設工事公衆災害防止対策要綱」は令和元年(2019年)9月2日に改正・施行され、工事の関係者以外の第三者(公衆)の生命・身体・財産に対する危害および迷惑の防止を目的としています。
第三者を巻き込む事故が起きた場合、まず人命救助と二次災害防止を最優先し、消防・警察(緊急時は119番・110番)へ通報したうえで、発注者・元請・関係行政機関へ速やかに連絡します。公共工事では発注者ごとに事故報告書の様式と提出時期が定められていることが一般的で、その取扱要領に従う必要があります。民間工事でも、第三者被害が生じた場合は損害賠償等の民事対応が伴うため、初動の記録化が重要です。
アスベスト関係の報告と解体の事前手続
解体工事では石綿(アスベスト)の飛散防止も重大なテーマです。令和4年(2022年)4月1日以降、一定規模以上の工事について、石綿の有無に関する事前調査結果の報告が義務付けられました。対象は次のとおりです。
- 建築物の解体工事で、解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上
- 建築物の改修工事で、請負金額が100万円以上(税込)
- 特定の工作物(環境大臣が定めるもの)の解体・改修工事で、請負金額が100万円以上(税込)
報告は石綿障害予防規則(労働基準監督署)と大気汚染防止法(都道府県等)の双方に必要ですが、「石綿事前調査結果報告システム」を使えば1回の操作で両方へ報告できます。これは事故報告ではなく着工前の手続です。なお、令和8年(2026年)1月1日以降着工の工事から、対象工作物の事前調査は工作物石綿事前調査者など資格要件を満たす者が行う必要があります。調査・除去が不適切なまま飛散事故に至れば、別途の行政指導・処分の対象になり得ます。
あわせて建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)では、床面積の合計80平方メートル以上などの一定規模の解体工事について、発注者または自主施工者が工事着手日の7日前までに都道府県知事等へ届け出ることとされています。これらの事前届出を確実に済ませておくことが、事故時の責任関係を明確にする前提にもなります。
解体工事業の登録・許可と事故の影響
解体工事を請け負うには、建設業法上の「解体工事業」の許可、または請負金額500万円(税込)未満の工事を行う場合の建設リサイクル法に基づく「解体工事業者の登録」が必要です。重大事故で労働安全衛生法・建設業法等の違反が認められれば、許可行政庁による指示・営業停止・許可取消し等の監督処分につながる可能性があります。また建設業法第22条は一括下請負(丸投げ)を原則禁止しており、施工体制が不適切なまま事故が起きると、責任の所在をめぐって重い評価を受けかねません。
事故報告そのものは事業者が労働基準監督署へ行いますが、その後の許可・登録の維持、変更届、経営事項審査(経審)への影響整理など、書類面の対応は多岐にわたります。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、建設業許可・解体工事業登録に関する書類作成と提出代行を承っています。事故報告そのものの代行は行いませんが、解体工事業の許可・登録の新規取得や更新、変更届、各種事前手続(建設リサイクル法の届出に関する書類整備など)を通じて、報告義務を確実に果たせる体制づくりをお手伝いします。事故後の労災給付請求は社会保険労務士、刑事・民事対応は弁護士、税務は税理士と、必要に応じて各専門家と連携してご案内します。
解体工事業関連の料金目安は次のとおりです(いずれも報酬額。登録手数料・許可手数料等の実費は別途)。
- 解体工事業登録:66,000円(税込)
- 建設業許可(解体工事業):110,000円(税込)
- 解体登録+産業廃棄物収集運搬業セットプラン:110,000円(税込)
解体工事業の許可・登録や、安全体制に関する書類面のご相談は建設業許可サポートのご案内ページをご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
解体工事の重大事故では、(1)死傷の有無を問わない事故報告(安衛則第96条・様式第22号)、(2)死亡・休業時の労働者死傷病報告(安衛則第97条・様式第23号/第24号、令和7年1月から電子申請義務化)、(3)第三者を巻き込む公衆災害の通報、(4)アスベスト関係の手続、という複数の義務が重なります。提出先・様式・期限を取り違えず、まずは人命救助と関係機関への連絡を最優先することが基本です。許可・登録や事前届出の書類面でお困りの際は、行政書士をご活用ください。
解体工事業の事故報告義務に関するよくある質問
Q:けが人が出ていない事故でも報告は必要ですか。
A:はい。労働安全衛生規則第96条は、火災・爆発、建設物の倒壊、クレーンの転倒など一定の事故について、人の死傷の有無にかかわらず「遅滞なく、様式第二十二号」で所轄労働基準監督署長への報告を求めています。死傷者の有無で報告義務がなくなるわけではありません。
Q:労働者が休業した場合、いつまでに報告すればよいですか。
A:死亡または休業4日以上の場合は「遅滞なく」様式第二十三号で、休業4日未満の場合は四半期ごと(1〜3月など)に当該期間の最後の月の翌月末日までに様式第二十四号で、それぞれ所轄労働基準監督署長へ提出します。死亡・重大災害ではまず電話連絡を行う運用が一般的です。
Q:労働者死傷病報告は紙でも提出できますか。
A:令和7年(2025年)1月1日施行で電子申請が義務化されました。ただしパソコン等がない事情がある場合は、当分の間、書面による報告も認められています。電子申請は厚生労働省のポータルサイトから行います。
Q:報告を出さなかった場合、どうなりますか。
A:労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の報告をした場合は、いわゆる「労災かくし」として処罰の対象となります。許可業者としての信用にも直結するため、報告は確実に行う必要があります。なお労災保険給付の請求は別手続で、社会保険労務士の職域です。
Q:第三者にけがをさせてしまった場合の通報はどうすればよいですか。
A:まず人命救助と二次災害防止を最優先し、緊急時は消防・警察へ通報します。そのうえで発注者・元請・関係行政機関へ速やかに連絡してください。公共工事では発注機関ごとに事故報告の様式・時期が定められていることが多く、その取扱要領に従う必要があります。民事の賠償対応は弁護士にご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


