結論から言えば、育成就労外国人との雇用契約を終了させる場面では、労働基準法第20条の解雇予告や労働契約法第16条・第17条といった日本人と共通の労働法ルールに加えて、外国人育成就労機構への届出や転籍支援という制度固有の手続きが上乗せされます。育成就労制度は2027年4月1日施行予定で、受入機関(育成就労実施者)には、契約終了時の適正な手続きに加え、本人を次の受入先へ「接続」するまでの対応が求められます。本記事では、入管手続きを専門とする行政書士法人Treeが、本人都合・受入機関都合それぞれの契約解除の流れと転籍への接続方法を整理します。なお、解雇の有効性判断や未払賃金請求など労務紛争は行政書士の職域外のため、提携する弁護士・社会保険労務士と連携して対応しています。
目次
育成就労制度における雇用契約の位置づけ
育成就労制度は、2024年6月21日に公布された改正法(令和6年法律第60号)により、技能実習制度を発展的に解消して創設される制度です。施行期日は政令で2027年(令和9年)4月1日と定められ、施行に先立ち、監理支援機関の許可申請は2026年4月15日から2027年3月31日までの施行日前申請を受付中で、育成就労計画の認定申請は2026年9月1日から受付が開始されます(出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」)。
育成就労外国人は、受入機関と直接雇用契約を結ぶ「労働者」です。労働基準法・最低賃金法・労働契約法などが日本人と同様に適用され、解雇の場面で受入機関に有利な特例はなく、むしろ機構への届出義務や転籍支援など受入機関側の義務が加重されます。制度の細目は政省令(2025年9月30日公布)および育成就労制度運用要領で定められているため、手続きの際は最新版の運用要領を確認してください。
本人都合による契約解除(退職)の手続き
育成就労の雇用契約は有期労働契約が通常で、期間途中に労働者側から一方的に解除するには民法第628条の「やむを得ない事由」が必要です。ただし契約期間が1年を超える有期契約の場合、労働基準法第137条により契約初日から1年経過後はいつでも退職が可能です。実務では双方の合意による退職(合意解約)として処理するのが一般的です。
本人から退職の申出があったとき、受入機関がまず行うべきは真意の確認です。現行の技能実習制度でも本人の意に反した帰国が行われないよう帰国前の意思確認が求められており、育成就労でも帰国の強要は許されません。確認すべきは次の3点です。
- 退職の意思が本人の自由な判断によるものか(第三者からの強要・誘導がないか)
- 退職後の希望は帰国か、転籍か、特定技能1号など他の在留資格への移行か
- 賃金・残業代の精算、社宅の退去時期、帰国費用の負担に争いがないか
本人都合の退職であっても、後述する機構への届出やハローワークへの外国人雇用状況の届出は、受入機関側の義務として残ります。
受入機関都合による解雇・契約解除の手続き
受入機関側からの解雇には二重のハードルがあります。第一に、労働契約法第17条第1項により、有期労働契約の期間途中の解雇は「やむを得ない事由」がなければできません。これは期間の定めのない契約の解雇より厳格な基準と解されています。第二に、労働契約法第16条の解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります。
手続き面では、労働基準法第20条により、解雇日の30日前までに予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。天災事変等で事業の継続が不可能になった場合や労働者の責めに帰すべき事由による解雇では予告義務が除外されますが、事前に労働基準監督署長の解雇予告除外認定が必要です。
倒産や事業縮小など経営上の理由で育成就労を継続できなくなる場合は、解雇の手続きと並行して、次章の実施困難時の届出と転籍支援への協力が必要になります。
契約終了時に必要となる届出の一覧
雇用契約の終了は労働法上の手続きだけでは完結しません。育成就労法および2025年9月30日公布の施行規則により、次の届出が必要です。
| 届出 | 届出者 | 届出先 | 根拠・期限 |
|---|---|---|---|
| 育成就労実施困難時届出書の提出 | 受入機関 | 監理型は監理支援機関へ通知(同機関が機構へ届出)/単独型は機構へ届出 | 育成就労法第19条。困難となったとき遅滞なく |
| 外国人雇用状況の届出(離職) | 事業主 | ハローワーク | 労働施策総合推進法第28条。雇用保険被保険者は資格喪失届の期限まで、それ以外は離職日の翌月末日まで。違反は30万円以下の罰金 |
| 契約機関に関する届出(契約の終了) | 外国人本人 | 出入国在留管理庁長官 | 入管法第19条の16第1号。事由発生から14日以内(技能実習が同号の対象で、育成就労も同様と見込まれる) |
受入機関都合か本人都合かを問わず、これらの届出は必要です。特に実施困難時の届出は機構による転籍支援の起点となる手続きで、怠れば法令違反となります。外国人雇用状況の届出の詳細は厚生労働省の案内ページをご覧ください。
転籍への接続|やむを得ない事情による転籍と本人意向転籍
育成就労制度の転籍には、「やむを得ない事情がある場合の転籍」と「本人の意向による転籍」の2つのルートがあります。解雇・契約解除の場面で主に使われるのは前者です。
受入機関の倒産・事業廃止、暴力やハラスメントなどの人権侵害、賃金不払いといった、本人の責めに帰さない「やむを得ない事情」がある場合の転籍は、転籍制限期間の経過を待たずに認められます。転籍先は同一の業務区分内に限られ、外国人育成就労機構・監理支援機関・ハローワークが連携して職業紹介などの支援を行います。この転籍に民間の職業紹介事業者は関与できません。
これに対し、本人の意向による転籍は、(1)同一受入機関での就労期間が分野ごとに定める転籍制限期間(1年以上2年以下)を超えていること、(2)技能検定基礎級等の試験と日本語能力A1相当以上(日本語能力試験N5合格等)の水準を満たすこと、(3)転籍先が優良な育成就労実施者であり、転籍者の受入れ割合等の基準を満たすこと、(4)民間職業紹介事業者等を関与させていないこと、(5)転籍元の初期費用を所定の方法で補填することなどの要件を満たす必要があります。
いずれも転籍先で新たに育成就労計画の認定を受け、在留関係の手続きを行う流れが想定されます。要件の細部は政省令、育成就労制度運用要領および各分野の分野別運用方針で定められているため、最新の公表資料の確認が欠かせません。
トラブルを防ぐ実務対応のポイント
解雇が無効と判断されると契約期間満了までの賃金支払いを命じられるなど、受入機関側の負担は大きくなります。
- 解雇を検討する前に、指導記録・面談記録を残し、配置の見直しや再教育など解雇回避の努力を尽くす
- 契約終了の理由と条件を、母国語または平易な日本語で説明し、書面でも交付する
- 旅券・在留カードの取上げや帰国の強要は現行の技能実習法でも禁止されており、育成就労でも同様の保護が及ぶ
- 解雇の有効性に少しでも疑義があれば、実行前に弁護士・社会保険労務士へ相談する
- 転籍を希望する本人には機構・ハローワークの公的ルートを案内し、情報提供に協力する
当事務所のサポート
行政書士法人Treeは、育成就労・特定技能など就労系在留資格の申請、契約終了・転籍に伴う入管への届出・在留諸申請、特定技能1号への移行手続きなど、出入国在留管理庁に対する手続き全般を扱っています。解雇の有効性など労務紛争の代理は弁護士、社会保険・雇用保険手続きは社会保険労務士の職域のため、提携専門家と連携して対応します。
特定技能へ移行した後の登録支援機関としての支援委託費および在留資格手続きの報酬は、事案に応じて個別にご案内いたします。人材紹介はグループ会社の株式会社TreeGlobalPartners(許可番号13-ユ-317879)が担当しますが、育成就労の転籍に民間職業紹介は関与できないため、転籍は公的ルートのご案内と入管手続き支援に徹します。詳しくは就労ビザサポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
育成就労外国人の解雇・契約解除は、労働契約法第16条・第17条と労働基準法第20条という一般ルールを土台に、機構・ハローワーク・入管への各届出と転籍への接続という制度固有の対応が重なる手続きです。2027年4月1日の施行に向けて政省令・運用要領の整備が進む段階にあり、受入機関には「辞めさせて終わり」ではなく「次の受入先へつなぐ」ことまで含めた体制づくりが求められます。
育成就労の解雇・契約解除に関するよくある質問
Q:能力不足を理由に、契約期間の途中で解雇できますか?
A:有期労働契約の期間途中の解雇には、労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」が必要で、単なる能力不足では認められにくいのが実情です。指導・教育や配置の見直しを尽くしてもなお改善が見込めない場合に限り、実行前に弁護士・社会保険労務士へ相談のうえ検討してください。
Q:解雇予告手当はいくら支払う必要がありますか?
A:労働基準法第20条により、解雇日の30日前までに予告しない場合は、30日分以上の平均賃金の支払いが必要です。予告日数は、1日分の平均賃金を支払った日数だけ短縮できるため、たとえば10日前の予告であれば20日分以上の予告手当を支払う計算になります。
Q:受入機関が倒産したら、本人は帰国するしかないのでしょうか?
A:いいえ。倒産は本人の責めに帰さない「やむを得ない事情」に当たり、転籍制限期間内であっても同一業務区分内での転籍が認められます。機構・監理支援機関・ハローワークが連携して転籍先探しを支援する仕組みが予定されており、意に反する帰国はさせられません。
Q:本人から突然「辞めて帰国したい」と言われたら、受入機関は何をすべきですか?
A:まず退職・帰国が本人の真意かを確認し、賃金精算や帰国費用の扱いを明確にします。そのうえで実施困難時の届出(監理型は監理支援機関へ通知し、同機関が機構へ届け出ます)とハローワークへの外国人雇用状況の届出を行い、本人にも入管への届出(入管法第19条の16)が必要になる点を案内してください。
Q:転籍先が決まるまでの間、在留資格はどうなりますか?
A:現行の技能実習制度では、転籍手続中の実習生について在留管理上の措置が講じられています。育成就労での具体的な取扱いは、施行時に適用される法令および育成就労制度運用要領を確認の上、出入国在留管理庁または行政書士にご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


