建築物や工作物を解体・改修する工事では、石綿(アスベスト)の飛散を防ぐために、大気汚染防止法に基づくいくつかの手続が必要になります。とりわけ2020年(令和2年)の法改正(2021年4月・2022年4月の段階施行)以降、「石綿の事前調査」とその「結果報告」が大幅に強化され、対象となる工事の範囲も段階的に広がってきました。本記事では、解体工事に関わる大気汚染防止法上の届出・報告の全体像を、対象規模・期限・根拠条文とともに整理し、建設リサイクル法の分別解体等の届出との違いにも触れながら解説します。届出書類の作成・提出代理は行政書士の業務範囲であり、煩雑な手続の負担を軽減することができます。
目次
解体工事と大気汚染防止法の関係
大気汚染防止法は、ばい煙・粉じん等による大気汚染を防止するための法律ですが、その中で石綿(アスベスト)は「特定粉じん」として位置づけられています。建築物等の解体・改造・補修工事に伴い石綿が飛散すると、周辺住民や作業者の健康に深刻な影響を及ぼすおそれがあるため、同法は工事の発注者・施工者に対して、(1) 工事前の事前調査、(2) 一定規模以上の工事についての事前調査結果の報告、(3) 石綿が使用されている場合の特定粉じん排出等作業の届出、という段階的な義務を課しています。
これらは労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則(石綿則)と密接に関係しており、報告先・届出先や様式が一部共通化されています。解体業者・元請業者だけでなく、発注者にも費用負担や工期への配慮義務があり、双方が制度を正しく理解しておくことが重要です。
すべての工事で必要な「石綿の事前調査」
大気汚染防止法第18条の15は、建築物等を解体・改造・補修する作業を伴う建設工事(解体等工事)を行う元請業者等に対し、あらかじめ石綿の使用の有無を調査すること(事前調査)を義務づけています。この事前調査は、工事の規模の大小にかかわらず、原則としてすべての解体等工事で必要です。
事前調査は、設計図書その他の書面の調査と、現地での目視調査の双方によって行います。さらに2023年(令和5年)10月1日以降に着工する建築物の解体等工事については、一定の知識を有する有資格者が事前調査を行うことが義務づけられました。具体的には、次のいずれかの資格者です。
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て住宅・共同住宅の住戸の内部のみ調査可能)
- 2023年9月30日までに日本アスベスト調査診断協会に登録され、登録が継続している者(経過措置)
加えて、工作物(ボイラー・反応槽・配管設備・煙突・電気設備等)の解体等工事については、2026年(令和8年)1月1日以降に着工するものから、一定の工作物について「工作物石綿事前調査者」等の有資格者による事前調査が義務化されます。事前調査の記録は、調査者の氏名・資格を証する事項を含め、解体等工事が終了した日から3年間保存しなければなりません。
一定規模以上の工事で必要な「事前調査結果の報告」
2020年改正大気汚染防止法により創設され、2022年(令和4年)4月1日から運用が始まったのが「石綿の事前調査結果報告制度」です。一定規模以上の解体等工事について、施工者(元請業者)は、工事に着手する前に事前調査の結果を都道府県等へ報告しなければなりません。報告の対象となる工事の規模は次のとおりです。
| 工事の種類 | 報告対象となる規模 |
|---|---|
| 建築物の解体工事 | 解体作業の対象となる床面積の合計が80㎡以上 |
| 建築物の改造・補修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(消費税込み) |
| 工作物(環境大臣告示で定めるものに限る)の解体・改造・補修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(消費税込み) |
報告は、原則として電子システム「石綿事前調査結果報告システム」を用いて行います。同システムは2022年3月18日から本稼働しており、パソコン・タブレット・スマートフォンから24時間オンラインで報告でき、1回の操作で都道府県等と労働基準監督署の双方へ報告できる仕組みになっています。石綿の有無にかかわらず、上記規模に該当すれば調査結果(石綿が「なかった」場合を含む)の報告が必要である点に注意が必要です。
石綿が使用されている場合の「特定粉じん排出等作業の届出」
事前調査の結果、吹付け石綿、石綿を含有する保温材・断熱材・耐火被覆材など、飛散性の高い特定建築材料(いわゆるレベル1・レベル2建材)が使用されていることが判明した工事は、大気汚染防止法上の「特定工事」に該当します。この場合、工事の発注者または自主施工者は、大気汚染防止法第18条の17に基づき、特定粉じん排出等作業の実施について、作業開始の14日前までに都道府県知事(政令市等ではその長)へ届け出なければなりません。
届出(特定粉じん排出等作業実施届出書)には、作業の場所・期間・方法、石綿の除去等の方法、飛散防止措置の内容などを記載します。また、特定工事の元請業者・下請負人は、第18条の20に基づき、作業基準(負圧隔離・湿潤化・除去後の確認など)を遵守する義務を負います。届出の主体が「発注者または自主施工者」である点は、施工者が報告主体である事前調査結果報告制度と異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
建設リサイクル法の分別解体等の届出との違い
解体工事では、大気汚染防止法とは別に、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)に基づく届出が必要になる場合があります。一定規模以上(建築物の解体は床面積80㎡以上など)の対象建設工事については、発注者が工事着手の7日前までに都道府県知事等へ「分別解体等の計画」を届け出る義務があります。
両者は目的が異なり、提出主体・期限も次のように異なります。
- 大気汚染防止法:石綿の飛散防止が目的。事前調査結果報告は施工者が着工前に報告、特定粉じん排出等作業届出は発注者等が作業開始14日前までに届出。
- 建設リサイクル法:建設廃棄物の分別解体・再資源化が目的。発注者が工事着手7日前までに分別解体等の計画を届出。
一つの解体工事で両方の手続が同時に必要になることも多く、それぞれ別個に対応しなければならないため、全体のスケジュール管理が重要です。
届出・報告を怠った場合のリスクと専門家活用
事前調査・報告・届出の各義務に違反した場合、大気汚染防止法には罰則が定められており、特定粉じん排出等作業の届出義務違反や作業基準違反等については、行政指導にとどまらず罰則の対象となり得ます。また、無届け・無調査での解体は、近隣トラブルや工事差止め、是正命令につながるおそれもあります。
これらの届出・報告は、対象規模の判定、様式の選択、添付書類の整備、提出先(都道府県・政令市等)の確認など、実務上の判断を多く伴います。行政書士は、こうした各種届出書類の作成および提出代理を業務として行うことができます。スケジュールに余裕をもって専門家へ相談することで、着工遅延や手続漏れのリスクを抑えることができます。なお、税務に関する事項は税理士、近隣との紛争など法的紛争性のある事項は弁護士が取り扱う業務となります。
料金・ご相談について
解体工事に伴う大気汚染防止法の事前調査結果報告・特定粉じん排出等作業の届出、建設リサイクル法の届出等の代行に関する費用については、工事の規模や手続の内容により異なりますので、個別にお問い合わせください。ご相談は何度でも無料です。詳しくは建設業・解体に関するご相談ページをご覧ください。
まとめ
解体工事における大気汚染防止法上の手続は、(1) 規模を問わず必要な有資格者による事前調査、(2) 一定規模以上(建築物解体は床面積80㎡以上、改修・工作物は請負代金100万円以上)で必要な事前調査結果の報告、(3) 飛散性石綿が使用されている特定工事で必要な特定粉じん排出等作業の届出(作業開始14日前まで)、という段階で構成されます。さらに2023年10月からの建築物に係る有資格者要件、2026年1月からの工作物に係る有資格者要件など、制度は段階的に強化されています。建設リサイクル法の分別解体等の届出と併せて、漏れなく適時に対応することが、安全かつ円滑な解体工事の前提となります。届出書類の作成・提出でお困りの際は、行政書士法人Treeへお気軽にご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。