結論から言えば、建設業の会社で日給単価の引き上げや手当の新設など「固定的賃金」に変動があり、変動月から続く3か月間の平均報酬が従前の標準報酬月額と2等級以上ずれた場合には、健康保険・厚生年金保険の「被保険者報酬月額変更届」を日本年金機構へ速やかに提出しなければなりません。単価改定や手当の見直しが頻繁な建設業は、この随時改定が特に起こりやすい業種です。社会保険の届出書類の作成・提出代行は社会保険労務士の職域ですが、令和2年10月1日以降は適切な社会保険への加入が建設業許可の要件とされており、許可を扱う行政書士にとっても無関係ではありません。本記事では、建設業許可を専門とする行政書士の立場から、提携する社会保険労務士との連携を前提に、月額変更届の要件と、現場で誤解されがちな「2か月」をめぐる運用を整理します。
目次
月額変更届(随時改定)とは|健康保険法第43条・厚生年金保険法第23条
健康保険・厚生年金保険の保険料は、実際の給与額そのものではなく「標準報酬月額」に保険料率を掛けて計算します。標準報酬月額は原則として毎年7月に提出する算定基礎届による定時決定で見直され、その年の9月から翌年8月まで使われますが、その途中で報酬が大幅に変わったときは、健康保険法第43条・厚生年金保険法第23条に基づき随時改定が行われます。このときに事業主が提出する届書が「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」(70歳以上被用者の月額変更届と同一様式)です。届出を怠ると保険料が実態と乖離し、後日遡って精算が必要になるほか、傷病手当金や将来の年金額にも影響します。
随時改定の3要件|「2等級以上の差」はどう判定するか
随時改定は、日本年金機構の案内のとおり、次の3つをすべて満たしたときに行われます。
- 昇給または降給などにより固定的賃金に変動があったこと
- 変動月からの継続した3か月間に支給された報酬(残業手当などの非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと
- その3か月間とも支払基礎日数が17日以上あること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)
固定的賃金の変動には、昇給・降給のほか、日給から月給への給与体系の変更、日給や時間給の基礎単価の変更、固定的な手当の追加や支給額の変更、継続して3か月を超える一時帰休による低額な休業手当の支給などが含まれます。改定のタイミングは、変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目です。ここでいう「変動月」は、変動後の固定的賃金にもとづく報酬を実際に支払った月を指します。たとえば4月支給分から日給単価が上がった場合は4・5・6月の平均で判定し、該当すれば7月から新しい標準報酬月額になります。改定後の標準報酬月額は、1月から6月に改定された場合はその年の8月まで、7月から12月に改定された場合は翌年8月まで適用されます。なお、固定的賃金は上がったのに残業の減少で3か月平均が下がったなど、固定的賃金の変動方向と等級差の方向が食い違う場合には、随時改定は行われません。ただし、標準報酬月額の上限または下限にわたる等級変更の場合は、例外的に1等級差でも随時改定の対象となります。
「2か月変更」をめぐる2つの論点|3か月平均との混同と短期雇用の運用変更
建設業の現場では「2か月変更」という言い方を耳にすることがありますが、制度を正確に押さえておく必要があります。論点は2つです。
第一に、随時改定の判定はあくまで変動月からの継続した3か月平均で行うという点です。「2等級以上の変更」という要件の「2」と混ざって「2か月で変更になる」と誤解されがちですが、2か月分の給与実績だけで先回りして届け出ることはできません。正しくは「3か月平均・2等級差・4か月目改定」です。
第二に、社会保険のいわゆる「2か月ルール」の運用変更です。健康保険法第3条第1項第2号ロ・厚生年金保険法第12条第1号ロは「2か月以内の期間を定めて使用される者」を適用除外としていますが、令和4年10月1日からは、雇用契約書等で契約が更新される旨(または更新される場合がある旨)が明示されているとき、あるいは同一事業所で同様の契約が更新された実績があるときは、雇用期間の当初から被保険者となる取り扱いに改められました。現場単位で2か月以内の短期契約を繰り返す建設業では影響が大きく、資格取得の時期を誤ると、その後の随時改定の起点もずれてしまいます。
建設業で月額変更届(随時改定)が必要になりやすいケース|日給単価改定・手当新設・残業変動
| 建設業でよくある場面 | 随時改定の対象になるか |
|---|---|
| 日給単価の引き上げ・引き下げ(例:日給18,000円→20,000円) | 基礎単価の変更として固定的賃金の変動に該当 |
| 日給月給制から完全月給制への切り替え | 給与体系の変更として該当 |
| 職長手当・現場手当など固定的な手当の新設・増額 | 該当(毎月定額で支給されるもの) |
| 残業時間の増減だけで支給額が変わった | 非固定的賃金のみの変動であり対象外(定時決定で反映) |
| 雨天休工などで支払基礎日数17日未満の月がある | 3要件を欠くため、その組み合わせでは改定されない |
日給制・時給制の支払基礎日数は出勤日数で数えるため、悪天候や工程の谷間で稼働が落ちる月は17日を割ることがあり、月給制の従業員と判定が分かれる点に注意が必要です。
日本年金機構への提出方法と提出時期
月額変更届は、随時改定に該当したら速やかに、管轄の年金事務所または事務センターへ提出します。窓口持参・郵送のほか、電子申請も利用できます。様式や記入例は日本年金機構の月額変更届のページからダウンロードできます。添付書類は原則不要ですが、業務の性質上、季節的に報酬が変動する事業では、年間平均額による随時改定(保険者算定)を申し立てる方法もあり、その場合は申立書や比較のための書類の添付が必要です。制度の詳細は日本年金機構「随時改定(月額変更届)」で確認できます。
建設業許可・許可行政庁への届出との関係
税込500万円以上の建設工事を請け負うには建設業許可が必要ですが、令和2年10月1日施行の改正建設業法により、適切な社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)への加入が許可の要件となりました(建設業法第7条第1号に基づく許可基準として、建設業法施行規則第7条第2号に規定)。新規許可だけでなく5年ごとの更新でも確認されるため、社会保険の手続を適正に回すことは許可の維持そのものに直結します。許可申請の際には様式第7号の3「健康保険等の加入状況」を提出し、加入状況や事業所整理記号・番号に変更が生じたときは、変更後2週間以内に許可行政庁への変更届が必要です。変更が従業員数のみの場合は、毎事業年度経過後4か月以内の決算変更届にあわせて届け出れば足ります。また、保険料負担を逃れる目的の偽装一人親方化は社会保険・労働法令上の問題があるうえ、施工実態を伴わない丸投げは一括下請負の禁止(建設業法第22条)に抵触するおそれもあります。経営事項審査における社会保険の取り扱いを含め、所管行政庁の最新の運用は都度確認が必要です。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeは、建設業許可の申請書類の作成・提出代行を専門としています。様式第7号の3「健康保険等の加入状況」を含む新規申請・業種追加・更新のほか、社会保険の加入状況に変更が生じた場合の建設業法上の変更届にも対応します。月額変更届をはじめとする社会保険の届出書類の作成・提出代行は社会保険労務士の独占業務ですので当事務所では行いませんが、提携する社会保険労務士と連携し、年金事務所への手続と許可行政庁への手続を漏れなく進められるよう窓口を一本化してご案内します。料金は、建設業許可(知事・新規)110,000円、業種追加55,000円、更新55,000円(いずれも税込、登録免許税・証紙代等の実費は別途)です。詳しくは建設業許可サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
月額変更届(随時改定)は、固定的賃金の変動・3か月平均で2等級以上の差・3か月とも支払基礎日数17日以上という3要件で判定し、変動月から4か月目に標準報酬月額が改定されます。「2か月変更」という現場の言い回しは、判定期間(3か月)と等級差(2等級)の混同であることが多く、さらに令和4年10月からは2か月以内の短期雇用契約でも更新見込みがあれば当初から社会保険に加入する運用へ変わりました。令和2年10月以降、社会保険の適正加入は建設業許可の要件でもあります。年金事務所への届出は社会保険労務士、許可行政庁への申請・届出は行政書士という役割分担を踏まえ、両輪で管理していくことが建設業経営の安定につながります。
建設業の月額変更届に関するよくある質問
Q:日給の単価を上げた場合、社会保険料はいつから変わりますか?
A:単価変更後の給与を初めて受けた月から3か月間の平均報酬で判定し、従前の標準報酬月額と2等級以上の差があれば、4か月目に標準報酬月額が改定されます。たとえば4月支給分から単価を上げた場合、4・5・6月の平均で判定し、7月から新しい標準報酬月額に基づく保険料になります。
Q:残業代が増えただけでも月額変更届は必要ですか?
A:不要です。随時改定は固定的賃金(基本給・日給単価・固定手当など)の変動が起点となる要件のため、残業手当など非固定的賃金だけが増減した場合は対象になりません。その分の報酬の変化は、毎年7月の定時決定(算定基礎届)で標準報酬月額に反映されます。
Q:雨で休工が多く、出勤日数が少ない月がある場合はどうなりますか?
A:随時改定は、変動月からの3か月とも支払基礎日数が17日以上あることが要件です。ただし、短時間労働者は11日以上が基準です。日給制の場合の支払基礎日数は出勤日数で数えるため、休工などで17日未満の月が含まれる場合、その組み合わせでは随時改定は行われません。
Q:月額変更届の提出を忘れていたことに気づいたらどうすればよいですか?
A:気づいた時点で速やかに提出してください。随時改定は本来の改定月に遡って行われるため、保険料の差額の納付や、従業員給与からの控除不足・控除しすぎの精算が必要になることがあります。
Q:社会保険に未加入のままだと建設業許可は取得できませんか?
A:令和2年10月1日以降、健康保険・厚生年金保険・雇用保険のうち加入義務のある保険に加入していることが建設業許可の要件です(建設業法第7条第1号に基づく許可基準として、建設業法施行規則第7条第2号に規定)。新規だけでなく更新の際にも確認されるため、未加入の場合はまず加入手続を済ませる必要があります。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


