結論から言えば、技術者の退職そのものより「空白期間」が最大のリスクです。とび・土工・コンクリート工事業の許可を維持するには、営業所ごとに営業所技術者(旧・専任技術者)を欠かさず置く必要があり(建設業法第7条第2号)、後任のないまま退職日を迎えると許可取消事由(同法第29条第1項第1号)に直結します。届出期限は2週間以内と短く、退職の申出を受けた時点から逆算した準備が欠かせません。本記事では、建設業許可の書類作成・提出代行を行う行政書士の立場から、退職する技術者の役割別に必要な手続と現場対応を整理します。なお、退職に伴う社会保険手続や賃金・退職金をめぐる労務問題は社会保険労務士・弁護士の職域であり、当事務所は必要に応じてこれらの専門家と連携して対応します。
目次
なぜ営業所技術者(旧・専任技術者)の退職が建設業許可の存続に直結するのか
建設業許可は、請負代金500万円(税込)以上のとび・土工・コンクリート工事を請け負うために必要です(建設業法第3条第1項ただし書、同法施行令第1条の2)。この許可の人的要件の柱が営業所技術者で、営業所ごとに専任で置くことが許可の基準とされています(建設業法第7条第2号)。一人でも欠けて基準を満たさなくなれば、許可行政庁は許可を「取り消さなければならない」と規定されており(第29条第1項第1号)、裁量の余地がない義務的取消しです。
とび・土工・コンクリート工事業では、足場・掘削・基礎・コンクリート打設と業務範囲が広い一方、資格者が現場常駐と営業所業務を行き来している会社が少なくありません。ベテラン1名に許可要件と現場配置の両方を依存している体制では、その1名の退職が会社の受注基盤そのものを揺るがします。まず自社の技術者が「どの役割」を担っているかの棚卸しが出発点です。
最初に確認すること|退職者が担う役割の切り分け
建設業法上の技術者には、性質の異なる2つの役割があります。
- 営業所技術者(旧・専任技術者):営業所に専任で置く許可要件上の技術者(第7条第2号)。令和6年12月13日施行の改正で名称が変更されましたが、求められる要件自体は従来と同じです。
- 主任技術者・監理技術者:請け負った工事現場ごとに置く配置技術者(第26条第1項・第2項)。下請契約の総額5,000万円(税込)以上の元請工事では監理技術者が必要です(令和7年2月1日施行の政令改正後の金額)。
同じ人が退職しても、営業所技術者であれば「許可の維持」の問題、配置技術者であれば「進行中の現場」の問題となり、手続も期限も異なります。両方を兼ねている場合は双方の対応を並行して進める必要があります。
営業所技術者が退職する場合|2週間以内の届出と空白期間の回避
後任となる有資格者がいるときは、交代から2週間以内に営業所技術者の変更に係る書面を許可行政庁に提出します(第11条第4項)。後任がなく基準を満たさなくなったときも、2週間以内にその旨の届出が必要です(同条第5項)。これらを怠り、または虚偽の記載をすると、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となります(第50条第1項)。
実務上の要点は、退職日と後任の就任日を連続させ、1日も空白を作らないことです。後任は次のいずれかに該当する必要があります(第7条第2号イ〜ハ)。
- 指定学科を修めて卒業後、大学・高専卒は3年以上、高校卒は5年以上の実務経験を有する者
- とび・土工・コンクリート工事に関し10年以上の実務経験を有する者
- 国土交通大臣がこれらと同等以上と認定した者(告示で定める資格者等。土木施工管理技士や技能検定「とび」などが代表例で、級・種別により合格後の実務経験が求められる場合があります)
いずれの場合も、その営業所への常勤(専任)の実態が必要です。実務経験10年での証明は工事請負契約書や注文書等の裏付け資料の収集に時間がかかるため、退職の申出を受けたらすぐ着手すべき作業です。
現場の主任技術者・監理技術者が退職する場合|途中交代の考え方
請負代金4,500万円(税込)以上の公共性のある工事現場(令和7年2月1日施行の政令改正後の金額。とび・土工の単独工事はこちらが基準)では、配置技術者は現場ごとの専任が原則です(第26条第3項)。この「公共性のある施設・工作物に関する重要な建設工事」には、個人住宅を除くほとんどの民間工事(事務所・共同住宅・工場等)も含まれます(建設業法施行令第27条第1項)。国土交通省の監理技術者制度運用マニュアルは、工事途中の技術者交代は慎重かつ必要最小限とし、具体的な交代条件を注文者と事前に合意したうえで、工事の継続性や品質確保に支障が生じない引継ぎを行うよう求めています。退職による交代自体は認められ得ますが、発注者への事前説明と、現場の標識(掲示)の記載変更を忘れずに行ってください。施工体制台帳・施工体系図を作成している工事では、技術者名の記載も更新します(作成義務は下請契約の総額5,000万円以上の元請等に限られます)。
注意すべきは、技術者を配置できないからといって、請け負った工事を丸ごと他社に施工させることです。これは一括下請負の禁止(第22条)に抵触し、営業停止等の監督処分につながる重大な違反です。自社で施工管理を続けられる体制の確保が大前提となります。
後任を確保できないときに検討できる選択肢
直ちに後任が立てられない場合でも、次の順で検討の余地があります。
- 社内の有資格者・実務経験者の発掘:同一営業所内であれば、各業種の要件を満たす限り1人で複数業種の営業所技術者を兼ねられます(他の営業所や他社の技術者との兼務は不可)。現場側の社員に10年実務経験や資格試験合格者が埋もれていることもあります。
- 営業所技術者の現場兼任特例の活用:令和6年12月13日施行の改正で、自社営業所で契約した請負代金1億円未満の工事であれば、移動時間・連絡体制・情報通信技術の活用等の要件を満たす場合に、営業所技術者等が現場の主任技術者または監理技術者を兼ねられるようになりました(第26条の5、国土交通省の解説ページ参照)。ただし兼務できる専任工事現場は1件までで、営業所から現場までの移動時間がおおむね2時間以内であること、現場への連絡員の配置、CCUS等による入退場の遠隔確認といった要件があり、他の兼任特例との併用も認められません。要件を満たせば、残る技術者の配置を組み替える余地が広がります。
- どうしても欠ける場合:許可は取消しの対象となりますが、取消し前に締結済みの請負契約に係る工事は施工を継続でき、許可の取消し等の処分または許可失効の日から2週間以内に、その旨を注文者へ通知します(第29条の3)。以後は500万円(税込)未満の軽微な工事に限定して営業を続け、要件が整い次第、新規許可を取り直す道もあります。
なお、退職者の名前だけを残す、いわゆる名義貸しは、常勤・専任の実態を欠く虚偽届出として罰則・監督処分の対象です。絶対に避けてください。
退職の申出から退職日までのチェックリスト
- 退職予定日と、担当している役割(営業所技術者か配置技術者か、兼任か)の確認
- 進行中の現場の竣工時期・工程の切れ目と、専任義務(4,500万円(税込)以上か)の確認
- 後任候補の要件確認(資格証、卒業証明、実務経験の裏付け資料)と常勤性の確保
- 変更届(2週間以内)に向けた書類準備、健康保険等の常勤確認資料の手配
- 経営事項審査を受けている場合は技術職員数の変動による評点への影響確認(最新の運用は許可行政庁・審査行政庁にご確認ください)
- 社会保険・雇用保険の資格喪失手続等は社会保険労務士へ、退職金の税務は税理士へ相談
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、とび・土工・コンクリート工事業をはじめとする建設業許可の申請書類作成・提出代行を行っています。技術者退職時の変更届、後任者の要件の事前チェック、実務経験の裏付け資料の整理、許可の維持が難しい場合の再取得プランのご提案まで、期限から逆算してサポートします。料金は、建設業許可(知事・新規)110,000円(税込)、業種追加55,000円(税込)、更新55,000円(税込)です(登録免許税・証紙代等の実費は別途)。営業所技術者等の変更届出書代行は27,500円(税込)です。その他の各種届出についてもお承りしますので、お気軽にお問い合わせください。詳細は建設業許可サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
建設業許可の取得・更新でお困りではありませんか。行政書士法人Treeでは、要件の確認から申請書類の作成・提出代行、決算変更届や各種変更届まで対応します。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
営業所技術者の退職は、許可の義務的取消事由に直結する経営リスクであり、対応の鍵は「空白期間を作らないこと」と「2週間以内の届出」です。現場の配置技術者の退職は、工程の切れ目での交代と引継ぎ、発注者への説明が要点となります。令和6年12月13日施行の兼任特例など、残る技術者で乗り切るための制度も整ってきました。退職の申出を受けた時点で、役割の切り分けと後任要件の確認に着手することが、とび・土工・コンクリート工事業の事業継続を守る最短ルートです。
技術者退職時の対応に関するよくある質問
Q:営業所技術者が退職したら、許可はすぐに失効しますか?
A:自動的に失効するわけではありませんが、基準を満たさない状態は許可の取消事由(建設業法第29条第1項第1号)です。後任がいれば2週間以内に変更の書面を、いなければ2週間以内にその旨の届出を提出する必要があります(第11条第4項・第5項)。
Q:後任の就任まで1か月ほど空いてしまう場合はどうすればよいですか?
A:空白期間中は許可の基準を欠くため、取消しの対象となり得ます。退職日の調整や後任者の前倒し就任で空白を避けるのが原則です。調整が難しい場合は、早い段階で許可行政庁に事情を相談してください。
Q:工事の途中で主任技術者が退職してもよいのでしょうか?
A:退職は国土交通省の運用マニュアル上「真にやむを得ない場合」として交代が認められ得ます。ただし工程上の切れ目での交代、同等以上の後任、引継ぎの重複期間の確保が求められ、発注者への説明と施工体制台帳の変更も必要です。
Q:資格がなくても営業所技術者の後任になれますか?
A:国家資格がなくても、所定の実務経験要件を満たせば就任できます。とび・土工・コンクリート工事に関する10年以上の実務経験(指定学科卒業なら3年または5年に短縮)があれば要件を満たします(第7条第2号イ・ロ)。ただし契約書・注文書等による経験の証明が必要で、資料収集に時間がかかる点に注意してください。
Q:退職した技術者の名前をしばらく残しておくことはできますか?
A:できません。営業所技術者には常勤・専任の実態が必要で、退職者の名義だけを残すのは虚偽の届出にあたり、罰則(第50条)や監督処分の対象です。実態に合わせて速やかに変更または欠如の届出を行ってください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。