結論から言えば、育成就労外国人も日本人と同じく労働組合法(昭和24年法律第174号)上の労働者であり、労働組合への加入・結成、団体交渉、団体行動の権利を国籍に関係なく保障されています。受入機関(事業主)は、外国人従業員が加入したユニオン等から団体交渉を申し入れられた場合、正当な理由なくこれを拒むことはできません。私たち行政書士法人Treeは、在留資格・登録支援の手続面を担う立場から、団交が労使紛争に発展しないための日常の支援体制や通訳手配の準備をご提案します。個別労働紛争の代理交渉は弁護士、就業規則や社会保険の詳細設計は社会保険労務士の職域であり、必要に応じて連携してご案内します。
目次
育成就労外国人にも労働組合法が適用される
日本国内で就労する外国人には、国籍を問わず、原則として日本の労働関係法令が適用されます。育成就労外国人についても、労働基準法・労働契約法・労働安全衛生法・労働組合法などが日本人労働者と同様に適用されます。2027年(令和9年)4月1日に施行される育成就労制度のもとでも、この点は変わりません。
労働組合法第3条は「労働者」を、職業の種類を問わず賃金・給料その他これに準ずる収入によって生活する者と定義しており、在留資格の種類や国籍はここに含まれません。したがって育成就労外国人は、地域のユニオン(合同労働組合)への個人加入も、社内での労働組合結成もできます。「外国人だから」「育成就労中だから」労働組合に関われないと考えるのは誤りです。
労働三権と労働組合法上の3つの権利
労働組合法が労働者に保障する中核は、次の権利です。育成就労外国人にもそのまま当てはまります。
- 団結権:労働組合を結成し、または加入する権利。受入機関はこれを理由に不利益取扱いをしてはなりません。
- 団体交渉権:労働組合を通じて使用者と労働条件等を交渉する権利。労働組合法第6条は、労働組合の代表者または委任を受けた者が団体交渉の権限を有すると定めます。
- 団体行動権(争議権):正当な争議行為について、刑事・民事の免責が認められます(労働組合法第1条第2項、第8条)。
これらの権利は、賃金・残業代の未払い、ハラスメント、解雇、転籍をめぐるトラブルなどを契機に、外国人従業員が外部のユニオンに駆け込む形で行使されることが少なくありません。
育成就労実施者(受入機関)の団体交渉応諾義務と不当労働行為
使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことは、労働組合法第7条第2号で不当労働行為として禁止されています。団体交渉の議題が、組合員である外国人従業員の労働条件その他の待遇(賃金・賞与、労働時間、配置転換、懲戒、解雇など)や労使関係の運営に関する事項であれば、受入機関はこれに応じる義務があります。
注意したいのは、応諾義務が単に「席に着く」ことにとどまらない点です。使用者は誠実に交渉する義務(誠実交渉義務)を負うとされ、組合の要求を拒む場合でもその理由や根拠資料を示して協議することが求められます。形式的に応答するだけでは団交拒否と評価されるおそれがあります。労働組合法第7条はこのほか、組合加入や正当な組合活動を理由とする不利益取扱い(第1号)、組合への支配介入(第3号)も不当労働行為として禁じています。
不当労働行為があった場合、労働組合は都道府県労働委員会に救済を申し立てることができます(労働組合法第27条以下)。救済命令が出れば団交応諾や原状回復が命じられます。育成就労外国人の事案でも、この救済手続を利用できる点は同じです。
育成就労法の保護規定と労働組合の関係
育成就労法は、「育成就労外国人の保護」を目的の一つに掲げています。2026年現在、関係省令、基本方針、分野別運用方針および育成就労制度運用要領が公表されています。制度は、技能実習制度で指摘された人権侵害や労働関係法令違反への対応を強化する仕組みとして設計され、育成就労外国人本人の意向による転籍も、就労期間、日本語能力、技能その他の所定要件を満たす場合に認められます。
もっとも、育成就労法による行政上の保護と、労働組合法による団体交渉や争議という労使自治の枠組みは別物です。「制度上の保護があるから労使紛争は起きない」と考えるのではなく、労働組合法上の団交対応も当然に起こり得る前提で備えておくことが現実的です。なお、転籍要件・送出機関規制・日本語要件・技能評価などの制度の細目は最新の政省令・運用要領で必ず確認してください。
育成就労外国人の労働組合から団体交渉を申し入れられた場合の対応手順
受入機関に団体交渉申入書が届いた場合、慌てて不用意な対応をすることが最も危険です。以下を意識してください。
| 場面 | 受入機関がとるべき対応の方向性 |
|---|---|
| 申入書の受領 | 無視・放置をしない。日時・議題・出席者を確認し、誠実に応答する姿勢を示す。 |
| 交渉の準備 | 就業規則・賃金台帳・タイムカード等、議題に関する根拠資料を整理する。事実関係を社内で確認する。 |
| 交渉当日 | 結論を留保してでも誠実に協議する。回答できない事項は持ち帰り、後日回答する旨を明確に伝える。 |
| 合意・記録 | 合意事項は書面化する。交渉経過の記録を残す。 |
個別の交渉戦略や、団体交渉の場での法的な代理対応は弁護士の職域です。就業規則の作成・改定や、労働・社会保険関係法令に基づく申請書等の作成・提出代行は、原則として社会保険労務士の職域です。未払賃金・残業代等をめぐって紛争が生じている場合は弁護士への相談が必要となります。私たち行政書士は団体交渉の代理人にはなれませんので、案件の内容に応じて各専門家へおつなぎします。
外国人との団体交渉における通訳手配の実務
育成就労外国人が当事者となる団体交渉では、言語の壁が大きな論点になります。内容を理解できないまま交渉や合意を進めることは、後の「言った・言わない」のトラブルや合意の有効性をめぐる争いを招きます。
実務上は、次のような準備が有効です。
- 中立的な通訳の確保:いずれにも偏らない通訳を手配し、双方が内容を正確に共有できるようにする。組合が独自に通訳を伴うこともあります。
- 議事の母語要約:交渉の要点や合意内容を、本人の母語でも文書化して交付する。誤解の防止につながります。
- 事前の用語整理:賃金・残業・控除・解雇など、争点になりやすい用語の対訳をあらかじめ準備しておく。
- 日常からの多言語化:就業規則・労働条件通知書を本人が理解できる言語でも整備しておくことが、紛争の予防になります。
育成就労実施者や監理支援機関は、育成就労外国人との円滑な意思疎通を図るため、必要に応じて適切な通訳を確保し、生活相談体制を整えることが、団体交渉時のリスク管理につながります。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeは、育成就労・特定技能をはじめとする就労系在留資格の申請取次を行い、特定技能では登録支援機関として支援業務も担っています。在留資格手続、制度に関する一般的な相談対応など行政書士の職域内でご支援いたします。労使紛争そのものの代理交渉は行わず、紛争性のある局面では弁護士へ、就業規則や労働・社会保険関係法令に基づく手続は社会保険労務士へおつなぎします。
就労ビザ・特定技能の登録支援に関するご相談は 就労ビザ申請・登録支援サポートページ をご覧ください。登録支援機関による義務的支援の内容・費用は、受入企業様の状況に応じて個別にお見積りいたします。ご相談は何度でも無料です。
外国人材の受入れ・登録支援でお困りの企業様へ。行政書士法人Treeでは、在留資格の申請取次に加え、支援計画の作成や各種届出までをサポートします。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
育成就労外国人も労働組合法上の労働者として、団結権・団体交渉権・団体行動権を国籍に関係なく保障されます。受入機関は、外国人従業員が加入した労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒めず(労働組合法第7条第2号)、誠実交渉義務を負います。育成就労法(令和6年法律第60号、2027年4月1日施行予定)による行政上の保護と、労働組合法による労使自治は別の仕組みであり、団交対応は当然に起こり得る前提で備えることが大切です。とりわけ言語の壁を埋める通訳手配と多言語での記録整備は、紛争の予防と適正な合意形成の鍵になります。手続面・予防面のご支援は当事務所が、紛争・労務の専門領域は弁護士・社会保険労務士が担い、連携してサポートします。
育成就労外国人の労働組合参加に関するよくある質問
Q:育成就労中の外国人が労働組合に加入することはできますか。
A:できます。労働組合法は国籍や在留資格を問わず労働者に適用され、育成就労外国人も労働組合への加入・結成が認められます。地域のユニオンへの個人加入も可能です。加入を理由とする不利益取扱いは不当労働行為として禁止されています。
Q:受入機関は外国人が加入した労働組合との団体交渉を断れますか。
A:原則として断れません。労働組合法第7条第2号により、雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことは不当労働行為とされます。組合員の労働条件等が議題であれば、受入機関は誠実に交渉する義務を負います。
Q:団体交渉で外国人従業員が日本語を理解できない場合、どうすればよいですか。
A:双方が内容を正確に共有できるよう通訳を手配し、合意内容は本人の母語でも文書化して交付することが望まれます。理解しないまま進めた合意は、後に有効性をめぐる争いの原因になり得ます。日頃から労働条件通知書等を多言語で整備しておくことも有効です。
Q:行政書士は団体交渉の場に出席して代理交渉できますか。
A:個別労働紛争の代理交渉は弁護士の職域であり、行政書士は代理人として交渉することはできません。当事務所は、在留資格手続や登録支援、通訳手配・多言語化など職域内の支援を担い、紛争性のある局面では弁護士・社会保険労務士へおつなぎします。
Q:育成就労法ができれば労使紛争は起きなくなりますか。
A:育成就労制度は2027年4月1日に施行され、育成就労外国人の保護を目的の一つとしています。2026年現在、関係省令、基本方針、分野別運用方針および運用要領が公表されています。ただし、これらは行政上の制度であり、労働組合法に基づく団体交渉や争議が起こり得る点は変わりません。育成就労実施者は団体交渉への対応も想定して日常の体制を整えておくことが重要です。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


