結論から言えば、石工事業(許可通知書などで「石」と略記される業種)の営業所技術者が退職しても、その瞬間に建設業許可が失われるわけではありません。ただし、営業所技術者は原則として退職日までに確保する必要があり、後任者を配置したうえで2週間以内に変更の届出をしなければ許可を維持できず、後任者を確保できないまま放置すれば建設業法第29条第1項第1号により許可は取消しの対象となります。本記事では、建設業許可の申請・届出を扱う行政書士の立場から、石工事業者の技術者退職時に必要な手続と期限、実務でよくある誤りとその対策を整理します。なお、退職に伴う社会保険・雇用保険の手続は社会保険労務士、役員変更登記は司法書士の職域であり、当事務所では必要に応じて各専門家と連携して許可維持の手続を進めています。
目次
石工事業の営業所技術者(旧・専任技術者)とは|令和6年12月13日に名称変更
石工事業は建設業許可29業種の一つで、石材(石材に類似のコンクリートブロック及び擬石を含む)の加工又は積方により工作物を築造し、又は工作物に石材を取り付ける工事を指します。石積み・石張り工事、コンクリートブロック積み(張り)工事などが代表例です。
建設業者は営業所ごとに、請負契約の締結・履行の技術上の管理をつかさどる技術者を専任で置かなければなりません(建設業法第7条第2号)。この技術者は長く「専任技術者」と呼ばれてきましたが、令和6年12月13日施行の改正建設業法で「営業所技術者」(特定建設業では「特定営業所技術者」。総称は「営業所技術者等」)に名称が改められました。同日施行の改正では、一定の要件を満たす場合に営業所技術者等が工事現場の主任技術者等の職務を兼ねられる特例(同法第26条の5)も新設されています。
一般建設業の許可で石工事業の営業所技術者になれるのは、次のいずれかに該当する人です。
- 指定学科(石工事業は土木工学又は建築学に関する学科)を修めて高校卒業後5年以上、大学・高等専門学校卒業後3年以上の実務経験がある人(同法第7条第2号イ)
- 石工事に関して10年以上の実務経験がある人(同号ロ)
- 国土交通大臣がイ・ロと同等以上と認定した人=施工管理技士や技能検定合格者などの資格者(同号ハ)
- 施工管理技士の第一次検定合格者(技士補)で、1級合格者は指定学科の大学卒業者と同等(合格後3年の実務経験)、2級合格者は指定学科の高校卒業者と同等(合格後5年の実務経験)とみなされ、石工事業(指定建設業ではありません)でも営業所技術者になれます。令和5年7月1日施行の建設業法施行規則改正により、対応する技術検定の第一次検定合格者も同様にこの道を利用できます
技術者の退職が許可に与える影響
営業所技術者は許可の維持要件そのものです。退職で不在となり後任者を置けない状態になれば、許可行政庁は許可を「取り消さなければならない」と定められています(建設業法第29条第1項第1号)。裁量の余地がない義務的な取消しである点が重要です。
許可を失うと、請け負えるのは軽微な建設工事――石工事であれば1件の請負代金が500万円(税込)未満の工事――に限られます(同法第3条第1項ただし書、建設業法施行令第1条の2)。契約を分割しても原則として合計額で判定され、注文者から材料の支給を受ける場合は、その市場価格又は市場価格及び運送賃が請負代金に加算されます(建設業法施行令第1条の2第3項)。無許可のまま500万円(税込)以上の工事を請け負えば、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金の対象です(同法第47条第1項第1号)。経営事項審査や公共工事の入札参加、元請からの信用にも直結する問題です。
退職時に必要な手続と期限|原則は「2週間以内」
技術者に関する届出の期限は、商号変更などの変更届(30日以内)より短い2週間以内です。状況別に整理すると次のとおりです。
| 状況 | 必要な手続 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 後任者を置いて許可を維持する | 営業所技術者の変更に係る書類の提出 | 2週間以内 | 建設業法第11条第4項 |
| 後任者を置けず要件を欠いた | 基準を満たさなくなった旨の届出 | 2週間以内 | 同法第11条第5項 |
| 石工事業の営業自体をやめる | 廃業等の届出 | 30日以内 | 同法第12条 |
変更に係る書類の不提出や虚偽記載、要件を欠いた旨の届出をしなかった場合には、6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金という罰則があります(同法第50条第1項第2号・第3号)。
よくある誤りと対策
当事務所への相談で実際に多いパターンを挙げます。
- 誤り1:更新申請まで届出を保留する——変更届の期限は2週間以内で、懈怠は罰則の対象です。退職日が確定した時点で書類の準備を始めてください。
- 誤り2:退職者を書類上だけ在籍させておく——いわゆる名義貸しで、虚偽の届出として罰則の対象となり得ます。営業所技術者の常勤性は健康保険・雇用保険などの資料で確認されるため、更新時や経審で判明します。
- 誤り3:現場に常駐する職長をそのまま後任にする——営業所技術者は営業所への常勤・専任が原則です。専任が求められる現場の主任技術者等との兼任は、令和6年12月13日施行の特例(法第26条の5)の要件を満たす場合に限られます。
- 誤り4:経営業務の管理責任者を兼ねていた人の退職で技術者側だけ手当てする——同一人が常勤役員等(法第7条第1号)と営業所技術者を兼ねていた場合、退職により両方の要件を同時に欠きます。後任は要件ごとに確認が必要です。
- 誤り5:技術者不在の間も従来どおり受注する——要件を欠いた状態での500万円(税込)以上の受注は無許可営業の問題に発展しかねません。契約を500万円未満に分割しても合計額で判定されます(施行令第1条の2第2項)。
- 誤り6:許可を持つ他社に形だけ請けさせて実質は自社で施工する——一括下請負の禁止(法第22条)に抵触するおそれがあり、処分リスクを増やすだけの回避策です。
後任者を確保する三つのルート
石工事業の営業所技術者を用意する方法は大きく三つです。
- 資格者を充てる:一級土木施工管理技士、二級土木施工管理技士(種別「土木」)、一級建築施工管理技士、二級建築施工管理技士(種別「仕上げ」)のほか、技能検定の石材施工、石工・石積み、ブロック建築などが石工事業に対応します(技能検定は等級により合格後の実務経験が求められる場合があります)。対応資格の正確な範囲は国土交通省公表の資格一覧で確認してください。
- 指定学科卒業+実務経験:土木工学又は建築学に関する学科を修めた大学・高専卒業者は卒業後3年、高校卒業者は5年の実務経験で足ります。
- 実務経験10年:資格・学歴がなくても、石工事に関する10年以上の実務経験で認められます。ただし工事請負契約書・注文書・請書などで経験期間を裏付ける必要があり、証明書類の範囲や他業種と重複する期間の扱いは都道府県ごとに運用が異なります。
いずれのルートでも、後任者がその営業所に常勤していること(社会保険の加入状況などで確認されます)が前提です。出向者を充てる場合の取扱いなど判断に迷う点は、届出前に許可行政庁へ確認しておくと安全です。
退職前からできる予防策
技術者の退職は突然決まることが多く、後任確保は平時の備えで決まります。
- 営業所技術者になり得る資格者・経験者を社内に複数確保しておく(施工管理技士・技能検定の受験を会社として支援する)
- 従業員ごとの実務経験を裏付ける契約書・注文書・請書を年次で整理保存しておく
- 就業規則上の退職申出期間を活用し、退職予定を早期に把握する体制を作る
- 退職者が主任技術者として現場に配置されている場合は、配置技術者の変更手続も併せて確認する
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、石工事業をはじめとする建設業許可について、営業所技術者の要件診断、変更届など各種届出書類の作成と提出代行、新規申請・業種追加・更新申請までを一貫してサポートしています。技術者退職の連絡を受けた段階でご相談いただければ、2週間の期限から逆算して必要書類を整理し、後任者が要件を満たすかどうかの見通しもあわせて確認します。料金は、営業所技術者等の変更届出書代行27,500円、新規建設業許可申請代行(知事許可)110,000円、業種追加(知事許可)55,000円、建設業許可更新申請代行(知事許可)55,000円(いずれも税込。行政手数料等の実費は別途)です。詳細は建設業許可サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
建設業許可の取得・更新でお困りではありませんか。行政書士法人Treeでは、要件の確認から申請書類の作成・提出代行、決算変更届や各種変更届まで対応します。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
石工事業の営業所技術者が退職したときは、(1)後任者がいれば2週間以内に変更の届出、(2)後任者を置けなければ2週間以内にその旨の届出、(3)業種をやめるなら30日以内に廃業等の届出、という期限の把握が出発点です。要件を欠いたまま放置すれば義務的な許可取消し(建設業法第29条第1項第1号)につながり、名義貸しや契約の分割といった回避策は罰則・処分のリスクを増やすだけです。資格者の育成と実務経験書類の保存という平時の備えが、最も確実な対策になります。退職の連絡を受けて期限が迫っている場合は、建設業許可サポートから早めにご相談ください。
石工事業の技術者退職に関するよくある質問
Q:営業所技術者が退職したら、許可はすぐ取り消されますか?
A:退職時点で後任者がいなければ、その時点から許可の基準(建設業法第7条第2号)を欠くため、義務的な取消し(同法第29条第1項第1号)の対象です。要件を欠いた場合は2週間以内の届出義務もあります。
Q:後任者への変更の届出はいつまでに提出しますか?
A:営業所技術者が置かれなくなった場合に代わるべき者があるときは、2週間以内に所定の書類を提出します(建設業法第11条第4項)。商号や役員の変更(30日以内)より短い期限である点に注意してください。
Q:後任者が見つかるまでの間、工事は請け負えますか?
A:許可要件を欠いた状態では、1件500万円(税込)以上の石工事の請負は避けるべきです。軽微な建設工事(500万円未満)は許可がなくても請け負えますが、契約を分割しても原則として合計額で判定されます(建設業法施行令第1条の2)。
Q:社長が経営業務の管理責任者と営業所技術者を兼ねています。退任するとどうなりますか?
A:同一営業所に常勤する限り両者の兼任は可能ですが、その人が退けば経営体制(第7条第1号)と技術者(同条第2号)の要件を同時に欠きます。後任はそれぞれの要件で確保する必要があり、特に早めの準備が必要です。
Q:10年の実務経験はどのような書類で証明しますか?
A:一般には、証明する期間分の工事請負契約書・注文書・請書などで石工事の実務経験を裏付け、あわせて当時の在籍を確認できる資料を提出します。必要書類の範囲や期間の数え方は都道府県により運用が異なるため、申請先の手引を必ず確認してください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


