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婚前契約書(プレナップ)の書き方|記載事項・法的効力・公正証書化を解説

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「婚前契約(プレナップ)を結びたいが、日本では法的に有効なのか」「何を書けばいいのかわからない」——婚前契約に関心はあっても、具体的な作成方法や法的効力がわからずに踏み出せない方は少なくありません。結論から言えば、日本の民法には夫婦財産契約(民法755条〜759条)という制度があり、婚姻届出前に契約を締結し登記すれば、法定財産制とは異なる財産ルールを定めることができます。ただし、契約の対象は主に財産関係に限られ、養育費や親権など子どもに関する事項を事前に確定させることには限界があります。この記事では、行政書士の視点から婚前契約書の書き方・記載事項・公正証書化のメリット・法的効力と限界について解説します。

「婚前契約書を作りたいが、法的に有効な内容にできるか不安」という方は、行政書士法人Treeにご相談ください。ご夫婦の状況に応じた契約書の作成をサポートいたします。相談は何度でも無料です。

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婚前契約(プレナップ)とは?日本での法的根拠

婚前契約とは、婚姻前に夫婦間の財産関係や離婚時の取り決めについて合意する契約です。英語では「Prenuptial Agreement(プレナップ)」と呼ばれ、欧米では広く普及しています。

日本の民法では、民法755条で「夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる」と規定されています。つまり、婚姻届出前に財産契約を結べば、法定財産制(民法760条〜762条)とは異なる独自のルールを設定できるということです。

夫婦財産契約の法的要件は?

民法上の夫婦財産契約として第三者にも対抗力を持たせるためには、以下の要件を満たす必要があります。

要件 内容 根拠条文
締結時期 婚姻届出に締結すること 民法755条
登記 夫婦財産契約の登記を行うこと(第三者対抗要件) 民法756条
変更制限 婚姻届出後は原則として契約内容を変更できない 民法758条1項

登記は法務局で行います。登記をしなくても夫婦間では契約は有効ですが、第三者に対して契約内容を主張するためには登記が必要です(民法756条)。たとえば、一方の配偶者の債権者に対して「この財産は契約で相手方のものと定めた」と主張するには、登記がなければ認められません。

法定財産制(民法の原則ルール)との違いは?

婚前契約を結ばない場合、夫婦の財産関係は民法の法定財産制に従います。法定財産制の主なルールは以下のとおりです。

  • 婚姻費用の分担(民法760条):夫婦は資産・収入等に応じて婚姻費用を分担する
  • 日常家事債務の連帯責任(民法761条):日常の家事に関して生じた債務は夫婦が連帯して責任を負う
  • 夫婦別産制(民法762条):婚姻前から有する財産と婚姻中に自己の名で得た財産は特有財産。帰属不明の財産は共有と推定

婚前契約では、これらの原則と異なるルール(例:共有財産の範囲を限定する、特定の財産を一方の特有財産と明確にする等)を定めることが可能です。

婚前契約書には何を書く?主な記載事項

婚前契約書に記載する事項は法律で定められていませんが、実務上は以下のような項目を盛り込むのが一般的です。

財産に関する取り決め

記載事項 内容の例
特有財産の範囲 婚姻前に取得した不動産・預貯金・有価証券等を特有財産として明記する
婚姻中の財産の帰属 婚姻中に得た収入や資産の帰属ルール(共有とするか各自の特有財産とするか)
生活費の分担方法 婚姻費用の負担割合・管理方法
住宅ローン等の債務 既存の債務や婚姻中に生じる債務の負担ルール

離婚時に関する取り決め

記載事項 内容の例
財産分与の方法 離婚時の財産分与の算定方法・対象財産の範囲
慰謝料の取り決め 不貞行為等があった場合の慰謝料の額または算定基準
年金分割 合意分割の按分割合についての取り決め

子どもに関する取り決め(注意が必要)

養育費・親権・面会交流などの子どもに関する事項も記載すること自体は可能です。ただし、子どもの利益に反する合意は法的に無効とされる可能性があります。養育費は子どもの権利であり、親の合意だけで放棄することはできません。親権についても、実際の離婚時には子の福祉を基準に判断されるため、婚前契約で確定的に定めることには限界があります。

その他の取り決め

  • 家事・育児の分担に関する方針
  • 親族との関わり方に関する方針
  • 通知義務(借入や保証人引き受けの際の事前通知等)
  • 婚姻後の生活ルールに関する確認条項(※民法上の夫婦財産契約そのものは婚姻後に原則変更できないため、見直しの対象は夫婦財産契約とは別の生活上の合意である旨を明記する)

婚前契約書の記載例

以下は婚前契約書の基本的な構成例です。実際の契約書はご夫婦の状況に応じて条項を追加・修正する必要があります。

婚前契約書(記載例)

○○○○(以下「甲」という。)と△△△△(以下「乙」という。)は、婚姻届出前に以下のとおり契約を締結する。

第1条(目的)
甲と乙は、円満な婚姻生活の維持と万一の場合の紛争予防を目的として、本契約を締結する。

第2条(特有財産)
甲および乙は、別紙「財産目録」に記載した財産が各自の特有財産であることを相互に確認する。

第3条(婚姻中の財産の帰属)
婚姻中に各自の名義で取得した財産は、その名義人の特有財産とする。ただし、共同生活の用に供する家財道具は共有とする。

第4条(生活費の分担)
甲と乙は、各自の収入に応じて婚姻費用を分担するものとする。具体的な負担割合は、別途協議して定める。

第5条(離婚時の財産分与)
離婚に際しては、婚姻中に形成された共有財産を2分の1ずつ分与するものとする。ただし、第2条に定める特有財産は分与の対象としない。

第6条(慰謝料)
甲または乙が不貞行為を行った場合、有責配偶者は相手方に対し、慰謝料として金○○○万円を支払うものとする。

第7条(通知義務)
甲および乙は、金○○万円以上の借入れまたは保証契約を締結しようとするときは、事前に相手方にその旨を通知するものとする。

第8条(婚姻後の生活上の確認)
甲と乙は、婚姻後○年ごとに生活費、家事・育児分担その他の生活上の取決めについて協議することができる。ただし、本契約が民法上の夫婦財産契約に当たる部分については、婚姻後に原則として変更できないことを相互に確認する。

第9条(合意管轄)
本契約に関する一切の紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

令和○年○月○日

甲(住所・氏名・押印)
乙(住所・氏名・押印)

上記はあくまで基本的な構成例です。個別の事情(事業を営んでいる場合の事業用資産の取り扱い、外国籍の配偶者がいる場合の準拠法の指定等)に応じて専門家に相談のうえ作成することを推奨します。

婚前契約書を公正証書にするメリットは?

婚前契約書は私文書(当事者間で作成する契約書)のままでも夫婦間では有効ですが、公正証書にすることで以下のメリットが得られます。

公正証書化の3つのメリット

メリット 内容
1. 証拠力が高い 公証人が当事者の意思を確認して作成するため、「署名を偽造された」「内容を理解していなかった」といった主張が困難になる
2. 原本が公証役場に保管される 紛失・改ざんのリスクがなく、正本・謄本の再交付も可能
3. 金銭支払条項については強制執行認諾文言付き公正証書にできる場合がある お金の支払いを目的とする条項については、強制執行認諾文言付きの公正証書とすることで、裁判を経ずに強制執行(差押え)が可能になることがある。ただし、婚前契約のすべての条項が直ちに執行対象になるわけではない

公正証書の作成手続き

公正証書は、全国の公証役場で作成できます。手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 契約内容を当事者間で合意する(行政書士に原案作成を依頼することも可能)
  2. 公証役場に連絡し、事前に契約内容を伝える
  3. 公証人が公正証書の案文を作成する
  4. 当事者双方(または代理人)が公証役場に出向き、内容を確認のうえ署名・押印する
  5. 公正証書の正本・謄本が交付される

手数料は契約の目的価額に応じて公証人手数料令に基づき算出されます。2025年10月1日の改正後の手数料体系では、目的価額50万円以下で3,000円、200万円以下で5,000円などと段階的に設定されています(改正前は100万円以下が5,000円等)。正本・謄本の交付料等が別途加算されますので、最新の料金は日本公証人連合会の公式ページでご確認ください。

夫婦財産契約の登記とは?手続きの流れ

民法756条に基づき、夫婦財産契約を第三者に対抗するためには婚姻届出前に登記を完了する必要があります。登記は法務局で行います。

登記の手続き

  1. 婚前契約書(公正証書が望ましい)を作成する
  2. 管轄の法務局に夫婦財産契約登記の申請を行う
  3. 登記完了後、婚姻届を提出する

登記をしないとどうなる?

登記をしなくても、夫婦間では契約は有効です。しかし、第三者(例:一方の債権者)に対しては契約内容を主張できません。たとえば、「この不動産は契約により配偶者の特有財産である」と主張しても、登記がなければ債権者は差し押さえることが可能です。

なお、実務上、夫婦財産契約の登記件数は非常に少なく、制度としてはあまり活用されていないのが実情です。多くの場合は、公正証書にすることで証拠力を確保し、登記までは行わないケースが多く見られます。

婚前契約の法的効力と限界|無効になりやすい条項も解説

婚前契約書は万能ではありません。以下のような限界がある点を理解しておく必要があります。

法的に有効となる条項

  • 特有財産の明確化・財産分与の方法に関する合意
  • 慰謝料の予定額に関する合意
  • 生活費・家計管理の方法に関する合意
  • 通知義務・情報開示義務に関する合意

法的効力に限界がある条項

条項 限界の内容
養育費の放棄 養育費は子の権利であるため、親の合意のみで放棄する条項は無効となる可能性が高い
親権の事前確定 親権は離婚時に子の福祉を基準に決定されるため、事前に確定させることは困難
離婚自体を禁止する条項 離婚の自由は法律上保障されており、離婚を禁じる合意は公序良俗に反し無効
一方に著しく不利な条項 信義則違反・公序良俗違反として無効とされる可能性がある
変更不可の原則 民法758条1項により、婚姻後は原則として契約内容の変更ができない

日本と海外の違い

アメリカやヨーロッパでは婚前契約(プレナップ)が広く普及しており、裁判所もその有効性を積極的に認める傾向にあります。一方、日本では夫婦財産契約の登記件数自体が非常に少なく、裁判例の蓄積も限られています。そのため、契約の有効性が争われた場合の予測可能性は、海外に比べると低いといえます。

ただし、契約の内容が合理的であり、双方が十分に理解した上で締結したものであれば、裁判所が契約内容を尊重する可能性は十分にあります。特に公正証書で作成し、当事者の意思が明確に確認されている場合は、証拠力が高く評価されます。

婚前契約書を作る際のよくある不備・失敗

婚前契約書の作成にあたって、以下のようなミスや不備が見受けられるケースがあります。事前に確認しておくことが重要です。

不備1:婚姻届出後に契約を締結してしまう

民法755条の夫婦財産契約は婚姻届出前に締結する必要があります。婚姻届出後に作成した契約は、夫婦財産契約としての対抗力を持ちません。もっとも、婚姻後であっても「夫婦間の合意書」として一定の効力は認められ得ますが、夫婦財産契約の登記はできなくなります。

不備2:財産目録を添付しない

特有財産を明確にするためには、契約締結時点の財産を具体的に記載した財産目録の添付が重要です。「婚姻前の財産は各自の特有財産とする」と抽象的に記載しただけでは、将来紛争が生じた際に立証が困難になります。預貯金は金融機関名・口座番号・残高を、不動産は所在地・地番等を明記しましょう。

不備3:一方に著しく不利な内容にしてしまう

「離婚時に一切の財産分与を請求しない」「慰謝料は理由を問わず一方のみが負担する」といった極端な条項は、公序良俗違反(民法90条)として無効と判断されるリスクがあります。双方にとって合理的な内容にすることが、契約の有効性を確保するために不可欠です。

不備4:子どもの権利に関する事項を確定的に記載してしまう

養育費の額や親権者を確定的に記載しても、実際の離婚時には子の福祉の観点から見直される可能性があります。子どもに関する事項は「目安」や「協議の基準」として記載し、確定的な表現は避けるのが適切です。

よくある質問(FAQ)

Q. 婚前契約は婚姻届提出後でも結べますか?

民法755条に基づく「夫婦財産契約」は、婚姻届出前に締結する必要があります。婚姻届出後に締結した場合、夫婦財産契約としての登記はできず、第三者への対抗力は認められません。ただし、婚姻後であっても夫婦間の合意書(いわゆる「婚後契約」)として作成することは可能で、夫婦間では一定の効力が認められ得ます。

Q. 婚前契約書は自分たちだけで作成できますか?

法律上、婚前契約書の作成に専門家の関与は必須ではなく、当事者だけで作成することも可能です。ただし、法的に無効となる条項を含めてしまったり、記載内容が不十分で紛争時に役立たなかったりするリスクがあります。特に、事業用資産がある場合、国際結婚の場合、高額資産や相続予定財産がある場合は、条項設計を慎重に行う必要があります。公正証書化や夫婦財産契約登記を行う場合は、行政書士等の専門家に原案作成を依頼する方が確実です。

Q. 婚前契約の内容は婚姻後に変更できますか?

民法758条1項により、夫婦財産契約の内容は婚姻届出後に変更することが原則としてできません。これは、婚姻後に一方が他方に不当な圧力をかけて契約内容を変更させることを防ぐための規定です。ただし、夫婦財産契約とは別に、新たな合意書を作成して婚姻後の取り決めを追加することは可能と解されています。

Q. 婚前契約書に公正証書化は必須ですか?

法律上は必須ではありません。私文書の契約書でも夫婦間では有効です。ただし、公正証書にすることで証拠力が格段に高まり、金銭支払いに関する条項には強制執行認諾文言を付けることもできます。将来の紛争予防を重視するのであれば、公正証書での作成を推奨します。

Q. 婚前契約書の作成費用はどのくらいですか?

行政書士に契約書の原案作成を依頼する場合、一般的に数万円〜十数万円程度が相場です。公正証書にする場合は、別途公証人手数料がかかります。公証人手数料は契約の目的価額に応じて定められており、2025年10月1日の改正後は目的価額500万円の場合は13,000円です(改正前は11,000円)。正確な金額は契約内容や枚数によって変動しますので、最寄りの公証役場にお問い合わせください。行政書士法人Treeでは離婚協議書の作成を21,780円(税込)〜で承っており、婚前契約書についてもお気軽にご相談ください。

Q. 外国籍の婚約者との婚前契約は日本法で有効ですか?

国際結婚の場合、夫婦財産制の準拠法は「法の適用に関する通則法」26条により決定されます。原則として夫婦の本国法が同一であればその法律、異なる場合は夫婦の常居所地法が適用されます。ただし、夫婦が署名し日付を記載した書面によって、契約の中で準拠法を指定することも可能です(同条2項)。国際結婚の場合は、準拠法の問題を含めて専門家に相談されることを推奨します。

Q. 婚前契約で離婚時の慰謝料額を決めておくことは有効ですか?

慰謝料の予定額を定めること自体は有効と解されています。損害賠償額の予定(民法420条)として、不貞行為やDV等があった場合の慰謝料額を合意しておくことは可能です。ただし、金額が著しく高額または低額で公序良俗に反すると判断された場合は、裁判所が減額または増額する可能性があります。

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行政書士法人Treeでは、婚前契約書の原案作成から公正証書化のサポートまで対応しています。離婚協議書の作成は19,800円〜(税込)、離婚公正証書の作成は29,800円〜(税込)で承っております。まずはお気軽にご相談ください。相談は何度でも無料・全国対応です。

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※本記事は2026年4月時点の法令に基づき、細心の注意を払って作成しておりますが、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案については専門家にご相談ください。
著者: 代表行政書士 櫻井勇輝 / 行政書士法人Tree

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