結論から言えば、協議離婚の合意書(離婚協議書)には夫婦が合意した事項を幅広く記載できますが、①公序良俗違反などで法的に無効となる条項、②書面に書くだけでは効力が生じない事項、③争いが残り合意に至っていない事項――この三つは盛り込めない、あるいは盛り込んでも目的を達せられません。特に③は弁護士法第72条が定める弁護士の独占業務に関わる領域で、行政書士が交渉や和解あっせんに踏み込むことは法律で禁じられています。本記事では、離婚協議書の作成を業務とする行政書士の立場から、「書けない事項」「書いても無効な条項」と士業ごとの職域の境界を整理します。行政書士法人Treeは、合意内容の書面化と公正証書の原案作成を担い、紛争性のある事案は提携弁護士に、不動産登記は司法書士に、年金分割の請求手続は年金事務所にと、適切な窓口へつなぐ連携体制をとっています。
目次
離婚協議書に盛り込めない事項|3つの類型に分けて考える
離婚協議書には、財産分与・慰謝料・養育費・親子交流・年金分割の合意など幅広い事項を記載できますが、次の三類型に当たるものは記載できないか、記載しても意味がありません。
- 類型1:法的に無効となるおそれが高い条項――公序良俗(民法第90条)に反する条項や、子ども自身の権利を父母の合意で処分する条項
- 類型2:書くだけでは効力が生じない事項――年金分割、不動産登記、住宅ローンの債務者変更など、別の手続や第三者の同意が必要なもの
- 類型3:紛争性があり、合意に至っていない事項――金額や条件に争いが残る慰謝料・養育費など。この局面の交渉・和解あっせんは弁護士の独占業務です
行政書士法第1条の2第1項は権利義務・事実証明に関する書類の作成を行政書士の業務と定めますが、同条第2項は「他の法律において制限されているもの」は業務にできないと明記しています。離婚分野でこの「他の法律」の中心が弁護士法第72条です。
法的に無効となるおそれが高い条項の具体例
双方が納得して署名しても、次の条項は後に効力を否定される可能性が高く、当事務所でも記載をお勧めしていません。
- 再婚や交際を禁止する条項――婚姻の自由を過度に制約するもので、公序良俗(民法第90条)違反として無効と判断されるおそれが高い条項です。
- 「養育費を一切請求しない」という放棄条項――扶養を受ける権利は子ども自身の権利であり、これは処分することができないため(民法第881条)、父母の合意だけでは消滅させられません。事情が変われば家庭裁判所が養育費を定め直す余地が残ります。
- 親子交流を将来にわたり全面禁止する条項――子の監護に関する事項は子の利益を最優先に定めるべきものとされ(民法第766条)、全面排除は効力が争われます。
- 過大な違約金・制裁条項――実損とかけ離れた高額の違約金は、全部または一部が無効となり得ます。
- 親権と金銭を交換する条項――親権者の定めは子の利益の観点から行うべきもので、金銭の対価とする合意は効力が否定されるおそれがあります。
書面に書くだけでは効力が生じない事項
合意自体は有効でも、離婚協議書に書いただけでは実現しない事項があります。代表例が年金分割です。合意分割(按分割合の上限は2分の1)は、協議書や公正証書に按分割合を書くだけでは年金額に反映されず、日本年金機構(年金事務所)への標準報酬改定請求が必要です。請求期限は、令和7年の年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、令和8年4月1日以後に離婚した場合は離婚から5年に延長されました(同日より前の離婚は従来どおり2年。日本年金機構の案内参照)。
不動産を財産分与する場合も、合意書だけでは足りず所有権移転登記が必要です。登記申請の代理は司法書士の業務(司法書士法第3条)で、行政書士は代理できないため、当事務所では提携司法書士をご紹介しています。また、住宅ローンの債務者変更や連帯保証の解除には債権者である金融機関の同意が必要で、夫婦間の合意書だけでは金融機関を拘束できません。
なお、協議離婚そのものは離婚届の受理によって成立します(民法第764条が準用する第739条第1項)。合意がないまま届出をされるおそれがある場合の不受理申出は戸籍法第27条の2第3項に基づく制度で、いずれも市区町村の戸籍窓口での手続です。
紛争性のある事項――弁護士法第72条が引く境界線
弁護士法第72条は、弁護士・弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件や「その他一般の法律事件」に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を業として取り扱うことを禁じています。違反には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の罰則もあります(同法第77条)。次のような状況では紛争性(事件性)があると評価され、行政書士は関与できません。
- 慰謝料や財産分与の金額・条件に争いがあり、双方の歩み寄りができていない
- 相手方が離婚そのものに応じていない、または連絡を拒んでいる
- 一方の代理人として相手方と交渉し、説得することを求められている
- DVやハラスメントがあり、当事者間の対等な協議が成立し得ない
行政書士が行えるのは、双方の合意がすでに成立している内容の整理・書面化と、制度の一般的なご説明までです。当事務所では、ご依頼の途中で争いが顕在化した場合は作成を中断し、速やかに提携弁護士へお引き継ぎします。また、調停申立書など裁判所提出書類の作成も行政書士の業務ではないため、調停・裁判を見据えた段階では最初から弁護士にご相談ください。
離婚公正証書で強制執行できるのは金銭の一定額の支払い等に限られる
養育費や慰謝料の不払いに備えるには、強制執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)が有効ですが、その対象は金銭の一定額の支払い等を目的とする請求に限られます(民事執行法第22条第5号)。親子交流の実施、不動産の明渡し、動産の引渡しといった金銭以外の約束は、公正証書に記載しても直接の強制執行はできず、実現には家庭裁判所の調停・審判等を経る必要があります。この点は誤解の多い部分です。
また、令和8年4月1日施行の改正民法では、子の監護の費用(養育費・婚姻費用等)に係る確定期限付き定期金債権について一般の先取特権が付与されました(民法第306条第3号・第308条の2)。ただし先取特権が及ぶ額は子1人あたり月額8万円(複数の場合はその子の数を乗じた額)を上限とする法務省令(令和7年法務省令第56号)が定められており、合意額がこれを超える部分については従来どおり債務名義が必要です。公正証書の作成手数料は、令和7年10月1日施行の改正後の公証人手数料令に基づき、目的の価額に応じて算定されます。
令和8年4月1日施行の改正民法で協議事項はどう変わったか
「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)が令和8年4月1日に施行され、協議離婚で定めるべき事項も変わりました(法務省の解説ページ参照)。
- 親権――協議離婚の際、父母の双方(共同親権)または一方を親権者と定めることになりました(民法第819条)。争いがある場合の親権者の指定は家庭裁判所の手続となります。本人申立ても可能ですが、代理や法律相談は弁護士にご相談ください。
- 親子交流――従来「面会交流」と呼ばれてきた事項は「親子交流」として整理されました(民法第766条)。
- 財産分与――請求できる期間が離婚の時から2年以内から5年以内に延長されました(民法第768条)。
- 裁判離婚の離婚原因――民法第770条第1項の旧第4号(強度の精神病)が削除され、旧第5号が第4号に繰り上がりました。訴訟は弁護士の職域ですが、協議書作成の前提知識となる変更です。
施行日をまたぐケースでは、新旧どちらの規律が適用されるかの確認が必要です。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeは、離婚条件について双方の合意がすでに成立している方を対象に、事実関係と合意内容の整理、離婚協議書の作成、公正証書の原案作成と公証役場との事前調整を行っています。紛争性のある交渉・調停・裁判は提携弁護士、不動産登記は司法書士、年金分割の請求手続は年金事務所と連携し、どの手続をどの専門家が担うのかを明確にしてご案内します。
料金は、離婚協議書の作成がミニマムプラン21,780円(税込)、条項を充実させたスタンダードプラン27,500円(税込)、公正証書作成サポートが32,780円(税込)です。お急ぎの方には超特急対応(追加5,000円・税込)、公証役場での代理人作成(追加15,000円・税込)も可能です。詳細は離婚協議書作成サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
協議離婚の合意書には、①公序良俗違反や子の権利の処分にあたる無効な条項、②年金分割・登記・債務者変更のように書くだけでは実現しない事項、③争いが残ったままの紛争性ある事項は盛り込めません。とりわけ③の交渉・和解あっせんは弁護士法第72条により弁護士の独占業務であり、行政書士が担えるのは合意済みの内容の書面化までです。この境界を踏まえ、無効になる条項を避け、強制執行の可否まで見据えた条項設計を行うことが、離婚後のトラブル防止につながります。すでに合意ができている条件を有効な書面に整えたい方は、離婚協議書作成サポートよりお問い合わせください。
協議離婚の合意書に盛り込めない事項に関するよくある質問
Q:慰謝料の金額で相手と揉めています。行政書士に間に入って交渉してもらえますか?
A:できません。争いのある事案の交渉や和解あっせんは、弁護士法第72条により弁護士の独占業務です。当事務所では提携弁護士をご紹介し、合意成立後の書面化を担当します。
Q:「再婚してはならない」という条項は書けますか?
A:再婚を禁止する条項は公序良俗(民法第90条)違反で無効となるおそれが高く、記載をお勧めしません。再婚などの事情変更があった場合に養育費等の額を協議し直す旨の条項として整理するのが実務的です。
Q:「養育費はいらない」と合意すれば、子どもは将来請求できなくなりますか?
A:なりません。扶養を受ける権利は子ども自身の権利であり、これは処分することができないため(民法第881条)、父母の合意では放棄できません。事情の変化があれば、家庭裁判所で養育費が定められる可能性が残ります。
Q:離婚協議書に年金分割の按分割合を書けば、年金事務所での手続は不要になりますか?
A:不要にはなりません。年金事務所への標準報酬改定請求をして初めて分割されます。令和8年4月1日以後に離婚した場合の請求期限は離婚から5年です(それより前の離婚は2年)。
Q:公正証書にすれば、親子交流(面会)の約束も強制執行できますか?
A:できません。公正証書による強制執行の対象は金銭の支払い等に限られます(民事執行法第22条第5号)。親子交流の実現を求める場合は家庭裁判所の調停・審判等を利用します。本人申立ても可能ですが、代理や法律相談は弁護士にご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


