DV(家庭内暴力)やモラハラの被害を受けて離婚に至るケースでは、離婚後に元配偶者から自分や子の居場所を知られたくないという強い要望が生じます。離婚協議書には、住所・連絡先の非開示と通知方法の代替設計を盛り込むことで、被害者保護を強化できます。本記事では、住所非開示条項の意義、住民票閲覧制限制度(DV等支援措置)との連動、代替連絡方法の設計、そして2024年に拡充された保護命令制度との関係を実務目線で整理します。
【DV・モラハラ離婚で住所非開示が必要な方へ】行政書士法人Tree|離婚協議書・公正証書作成
住所非開示条項は、養育費の支払いや親子交流など離婚後の連絡を継続しつつ、被害者の安全を確保するための重要な条項です。当事務所では、合意成立後の協議書作成・公正証書化サポートをご提供します。
料金プラン:離婚協議書 ミニマムプラン21,780円(税込)/スタンダードプラン27,500円(税込)/公正証書作成サポートプラン32,780円(税込)
目次
1. 離婚後に住所を知られたくない場合に住所非開示条項が必要な理由
離婚成立後も、養育費の支払い、親子交流(改正民法766条「親子交流」、2026年4月1日施行)、扶養手続き、各種通知など、元配偶者間の連絡が必要な場面は少なくありません。一方で、DV・モラハラ被害者にとっては、加害者である元配偶者に居場所を知られることが大きな精神的負担となり、また再被害のリスクにもつながります。
住所非開示条項は、離婚協議書に「相手方は、自己の現住所・連絡先を秘匿することができ、相手方からの通知は次条の代替連絡方法によって行う」旨を明記することで、被害者の安全と、必要な連絡の継続を両立させる仕組みです。協議書を公正証書化すれば、住所秘匿の合意を公文書として明確化できます。なお、強制執行認諾文言によって直ちに強制執行できるのは、養育費など一定の金銭債務等に限られ、住所秘匿条項そのものが直ちに強制執行の対象となるわけではありません。
もっとも、住所非開示はあくまで当事者間の合意による私的な取り決めであり、これだけで行政・司法上の閲覧が一律に制限されるわけではありません。後述する住民票閲覧制限などの公的制度と組み合わせることで、実効性が高まります。
2. 住民票・戸籍附票の閲覧制限(DV等支援措置)|離婚後に住所を知られないために
住民票・戸籍附票の閲覧制限は、住民基本台帳事務処理要領に基づくDV等支援措置として運用されています。被害者が市区町村に申出を行い、警察・配偶者暴力相談支援センター等の意見を踏まえて支援の必要性が確認されると、加害者からの住民票の写し等の交付請求・戸籍附票の写し等の交付請求等が制限されます。なお、第三者による正当な目的の請求まで一律に制限される制度ではありません。
支援措置の期間は原則1年ですが、要件継続中は延長(更新)が可能で、実務では複数年継続するケースもあります。離婚協議書の住所非開示条項と並行して、この行政上の制限措置も併用することで、より強固な保護が実現できます。住民票閲覧制限の申出は、市区町村窓口での本人手続きとなり、行政書士の代理範囲とは異なります。手続きの流れについては、お住まいの市区町村やDV相談窓口にご確認ください。
3. 住所を教えずに連絡を続ける代替連絡方法の設計
住所を非開示にしつつ、必要な連絡を継続するためには、代替連絡方法を協議書に明記することが必要です。実務で活用される代替方法は次のとおりです。
① 弁護士・第三者機関等を経由:紛争性がある場合や相手方対応が必要な場合は、代理人弁護士や第三者機関を経由して連絡する方法が安全です。行政書士事務所を連絡先として記載する場合は、合意済み書面の作成に付随する機械的な文書転送等に限り、相手方との交渉・請求代理・条件調整は行わない設計にする必要があります。
② 私書箱・郵便局留めの活用:郵便物の受取先を私書箱や郵便局留めにすることで、自宅住所を知られずに書面通知を受けられます。
③ メール・メッセージアプリのみの連絡:電話・住所を知らせず、メールアドレスやメッセージアプリのIDのみで連絡する方法です。アカウントを離婚後に新規作成することで、過去のやり取りから住所を推測されるリスクも低減できます。
④ 養育費支払いの口座振込:養育費を相手方指定の口座に振り込むことで、住所を伝えずに金銭授受が完結します。口座は被害者本人名義の新規口座を活用すると、過去の取引履歴から住所を推測されることも防げます。
4. 親子交流(旧面会交流)と住所非開示の両立
親子交流(2026年4月1日施行の改正民法766条で呼称変更)は、子の福祉のために重要な制度ですが、DV事案では特別な配慮が必要です。親子交流の場所・方法を、被害者の住所を明かさない形で設計する必要があります。
具体的には、第三者立会機関の活用が有効です。家庭問題情報センター(FPIC)、自治体の親子交流支援事業、民間の親子交流支援団体などが、立会または送迎の役割を担います。離婚協議書には、親子交流の場所を「第三者機関の指定場所」とし、送迎方法を「機関のスタッフによる送迎」と明記することで、被害者の住所を秘匿したまま親子交流を実施できます。
親子交流の頻度・時間・方法は、子の年齢と状況に応じて柔軟に設計します。DV被害者の心理的負担を考慮し、無理のない範囲での実施が望まれます。安全上の理由から親子交流の制限・中止が問題となる場合や、当事者間で協議が整わない場合には、家庭裁判所での調停・審判や保護命令等との関係も含めた検討が必要となるため、弁護士へのご相談をおすすめします。
5. 2024年改正で拡充された保護命令制度
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)の保護命令制度は、2024年4月1日施行の改正で拡充されました。主な改正点は次のとおりです。
① 接近禁止命令の期間延長:従来6か月だった接近禁止命令の期間が1年に延長されました。
② 対象の拡大:従来の身体に対する暴力や生命・身体に対する脅迫に加え、自由・名誉・財産に対する加害の告知による脅迫を受けた場合も、接近禁止命令等の申立対象に含まれるよう拡大されました。
③ 罰則の強化:保護命令違反の罰則が引き上げられました。
保護命令の申立先は地方裁判所です(家庭裁判所ではありません)。保護命令の申立書は裁判所提出書類であり、その作成は司法書士または弁護士の業務、申立ての代理は弁護士の業務となります。行政書士は申立書の作成・代理を行うことはできないため、必要時には提携の司法書士・弁護士をご紹介します。
6. 強制執行時の住所開示問題
養育費の不払いが発生した場合、相手方の財産に強制執行をかける必要が生じます。民事執行法の第三者からの情報取得手続により、金融機関・登記所・市区町村から相手方の財産・勤務先情報を取得できますが、この手続は債権者の住所等が相手方に伝わる場面もあり得ます。
強制執行手続の代理は弁護士業務であり(司法書士は裁判所提出書類の作成が可能なほか、少額訴訟の債務名義に基づく少額訴訟債権執行に限り140万円以下で代理が可能です)、行政書士の業務範囲外です。ただし、協議書の段階で「相手方は財産開示手続に協力する」「住所変更時は直ちに通知する」旨の条項を入れておくことで、実行段階でのトラブルを予防できます。
7. 子の住所秘匿|学校・幼稚園・保育園との調整
離婚後、子の通学先・通園先で加害者が子に接触するリスクも考慮する必要があります。学校・幼稚園・保育園に対しては、DV等支援措置の事実を伝え、加害者からの問合せに住所・連絡先を回答しないよう要請することが可能です。
転居・転校を伴う場合は、新住所・新学校を加害者に知らせない設計が重要です。学校への連絡記録、緊急連絡先の指定、行事参加の方法など、細かな運用も事前に整理しておくことで、安全な生活基盤を確保できます。
8. 住所非開示条項のひな型
協議書に盛り込む条項例(あくまでひな型・個別事案に応じた修正が必須):
第○条(住所非開示)
1. 甲(被害者)は、自己の現住所及び連絡先を乙(相手方)に対して秘匿する権利を有する。
2. 乙は、甲の住所・連絡先を第三者から取得しようとせず、また甲の同意なく訪問・接触しない。
3. 乙から甲への通知は、次条に定める代替連絡方法によって行う。
第○条(代替連絡方法)
1. 乙から甲への通知は、甲が別途指定する連絡先又は第三者機関宛てに行うものとし、甲の現住所を乙に開示しない方法で行う。
2. 緊急時の連絡は、甲指定のメールアドレス(甲が乙に通知したもの)に対して行う。
3. 親子交流に関する連絡は、第三者機関○○を通じて行う。
4. 乙からの連絡内容に紛争性がある場合又は条件変更・請求・交渉を伴う場合は、甲は弁護士その他の適切な専門家を通じて対応する。
実務では、被害者の状況と相手方の理解度に応じて文言を調整します。協議成立前の交渉や、相手方が条項に応じない場合の対応は弁護士業務となるため、必要時にはご紹介をいたします。
9. 住所非開示条項の限界と留意点
住所非開示条項は有効な保護手段ですが、いくつかの限界があります。
第一に、当事者間の合意である以上、相手方が合意に反して住所を探索した場合、条項違反に基づく損害賠償請求等は可能でも、物理的な接触を完全に防げるわけではありません。実効性を高めるには、公的な閲覧制限や保護命令との併用が重要です。
第二に、訴訟・調停・強制執行など裁判手続では、手続上の必要から住所等が相手方に開示される場面があります。裁判所には住所等の秘匿を求める制度(民事訴訟法上の秘匿決定等)もあるため、これらの手続が見込まれる場合は弁護士に相談しておくと安心です。
第三に、未成年の子がいる場合は、親子交流や養育費の運用と住所秘匿のバランスを慎重に設計する必要があります。安全確保と子の福祉の双方に配慮した条項設計が求められます。
10. 住所非開示と他の協議書条項との関係
住所非開示条項は単独で機能するものではなく、離婚協議書の他の条項と連動させて設計することで実効性が高まります。
① 通知義務条項との関係:養育費・財産分与の支払いや親子交流の連絡のため、住所変更時の通知義務を定めることが一般的です。被害者側については、住所そのものではなく「代替連絡先の変更を通知する」形にアレンジすることで、安全と連絡継続を両立できます。
② 守秘義務条項との関係:離婚の経緯やお互いの個人情報をSNS等で公開しない守秘義務条項を併せて定めることで、住所・勤務先などの間接的な特定リスクを下げられます。
③ 接触禁止の合意:協議書上で、正当な理由のない訪問・接触・付きまといをしない旨を合意しておくことができます。ただし、これは当事者間の合意であり、法的な接近禁止命令とは効力が異なります。
これらを組み合わせて、被害者の生活実態に合った条項セットを設計することが重要です。
11. 公正証書化の手順とメリット
住所非開示条項を含む離婚協議書は、公正証書にしておくことで実効性が高まります。手順とメリットは次のとおりです。
手順:(1) 当事者間で合意内容を確定し、協議書案を作成、(2) 公証役場に案文と必要書類を提出、(3) 公証人が内容を確認し公正証書を作成、(4) 当事者(または代理人)が公証役場で署名・押印。
メリット:養育費など金銭債務について「強制執行認諾文言」を入れておけば、不払い時に裁判手続を経ずに強制執行が可能になります。また、公文書として高い証明力を持つため、合意内容をめぐる後日の紛争を予防できます。
当事務所では、合意成立後の協議書の起案と、公証役場での嘱託手続きのサポートを行います。なお、合意がまとまっていない段階での交渉や、相手方との条件調整は弁護士業務となるため、必要時には提携弁護士をご紹介します。
12. 関連記事のご案内
13. よくある質問(FAQ)
Q1. DV保護命令申立書の作成は依頼できますか?
DV保護命令の申立書作成は裁判所提出書類として司法書士または弁護士の業務、申立ての代理は弁護士の業務となるため、行政書士は対応できません。当事務所では提携司法書士・弁護士をご紹介いたします。
Q2. 保護命令はどこに申し立てるのですか?
保護命令の申立先は地方裁判所です。2024年4月施行の改正で接近禁止命令の期間が6か月から1年に延長され、身体に対する暴力や生命・身体に対する脅迫に加え、自由・名誉・財産に対する加害の告知による脅迫を受けた場合も接近禁止命令等の申立対象に含まれるようになりました。
Q3. 住所非開示条項に違反した場合のペナルティは?
違約金条項を協議書に盛り込むことで、違反時の損害賠償請求の根拠を明確化できます。ただし、公正証書化しても、直ちに強制執行できるのは、金銭債務の額・支払期限・支払方法等が具体的に特定され、強制執行認諾文言が付された場合に限られます。違反の有無や精神的損害の立証、金額算定に争いがある場合は弁護士業務となります。
Q4. 公正証書にできますか?
住所非開示条項を含めて公正証書化が可能です。当事務所が起案し、公証役場での嘱託手続きをサポートいたします。
Q5. 子の戸籍はどうなりますか?
離婚時の親権者の戸籍に子を移すには、子の氏の変更について家庭裁判所の許可(民法791条)を得たうえで入籍届を行います。戸籍附票はDV等支援措置の対象とすることで閲覧制限が可能です。
Q6. 引っ越し後の転入届で住所が知られませんか?
住民票・戸籍附票の閲覧制限(DV等支援措置)の申出をしておくことで、加害者からの第三者請求を制限できます。転居前に支援措置の手続きについて市区町村に相談しておくことをおすすめします。
【記事のまとめに代えて】行政書士法人Tree|離婚協議書・公正証書作成サポート
住所非開示条項は、合意成立後の書面化として行政書士業務範囲です。協議成立前の交渉や、相手方が住所開示を主張する場合の対応は弁護士業務となるため、提携弁護士をご紹介します。DV保護命令申立書の作成は司法書士または弁護士の業務となるため、提携の司法書士・弁護士をご紹介します。
料金プラン:離婚協議書 ミニマムプラン21,780円(税込)/スタンダードプラン27,500円(税込)/公正証書作成サポートプラン32,780円(税込)
まとめ
住所非開示条項の意義:DV・モラハラ被害者の安全を確保しながら、養育費・親子交流など離婚後の連絡を継続するための重要な仕組みです。離婚協議書での書面化により、合意内容を明確化できます。
住民票閲覧制限との併用:市区町村でのDV等支援措置(住民票・戸籍附票の閲覧制限)と離婚協議書の住所非開示条項を併用することで、行政上・民事上の二重の保護が実現できます。
代替連絡方法の設計:弁護士・行政書士事務所経由、私書箱、第三者機関を通じた親子交流、口座振込での金銭授受など、住所を明かさずに必要な連絡を継続する方法を協議書に明記します。
保護命令制度の拡充:2024年4月施行の改正DV防止法により、接近禁止命令の期間が1年に延長され、精神的暴力等にも対象が拡大されました。保護命令の申立先は地方裁判所で、申立書作成は司法書士または弁護士の業務、申立ての代理は弁護士の業務です。
行政書士法人Treeでは、合意成立後の協議書作成・公正証書化サポートを行政書士業務範囲でご提供します。DV保護命令申立書作成(司法書士または弁護士の業務)、接近禁止命令・損害賠償交渉(弁護士業務)が必要な場合は、提携専門家をご紹介する体制を整えています。安心してご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


