結論から言えば、特定技能1号「漁業」は、漁船漁業を担う「漁業区分」と、いけす・養殖場での作業を担う「養殖業区分」の2つに分かれており、原則として区分ごとの技能試験への合格が必要です(ただし対応する技能実習2号を良好に修了した場合は試験が免除されることがあります)。さらに漁業分野は、農業分野とともに「派遣」での受入れが認められている数少ない分野で、漁期や潮回りによる繁忙・閑散の波に対応できる点が大きな特徴です。行政書士は、在留資格認定証明書交付申請や変更・更新の申請取次、雇用契約・支援計画の適合性確認を職域として担います。派遣契約そのものの設計や労務トラブルは社会保険労務士・弁護士、税務は税理士と連携しながら、受入れ全体を整える形で進めるのが安全です。本記事では、2区分の違いと派遣・季節性の実務を、公式の運用方針に沿って整理します。
目次
漁業分野は「漁業」と「養殖業」の2区分に分かれる
特定技能1号「漁業」は、令和8年1月23日の閣議決定により定められた「漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針」(別紙14)に基づき、業務内容によって2つの区分に分かれています。取得した区分の範囲でしか就労できないため、採用前にどちらの区分が必要かを見極めることが出発点になります。
| 区分 | 主な業務内容 |
|---|---|
| 漁業 | 漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保 等 |
| 養殖業 | 養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲(穫)・処理、安全衛生の確保 等 |
同じ「漁業分野」でも、沖に出て魚を獲る漁船漁業と、陸上・沿岸のいけすで魚介類や海藻を育てる養殖業とでは、求められる技能がまったく異なります。両方の業務に従事させたい場合は、それぞれの区分の技能試験に合格する必要があり、片方の区分だけで採用した外国人をもう一方の業務に従事させることは原則できません。なお、これらの主たる業務に「関連業務(漁獲物の製造・加工、漁業用機械の整備、出荷・梱包など)」に付随的に従事することは、日本人が通常従事する範囲で認められています。
1号取得のルートと試験・日本語要件
特定技能1号「漁業」の在留資格を得るルートは、大きく2通りです。第一に、技能試験と日本語試験の両方に合格するルート。第二に、技能実習2号を良好に修了し、対応する職種からそのまま移行するルートです。
- 技能試験:区分に応じて「1号漁業技能測定試験(漁業)」または「同(養殖業)」に合格する必要があります。試験は一般社団法人大日本水産会が実施しています。
- 日本語試験:「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT)N4以上」のいずれかに合格していること。
- 試験免除:漁船漁業職種・養殖業職種の技能実習2号を良好に修了した方は、技能試験・日本語試験がともに免除され、特定技能1号へ移行できます。
在留期間は1年・6か月・4か月のいずれかで、更新により通算で上限5年まで在留できます。1号には家族帯同が認められていません。なお、漁業分野では2023年6月9日の閣議決定を経て同年8月31日から特定技能2号の受入れも開始されており、2号漁業技能測定試験の合格や一定の実務経験などの要件を満たせば、在留期間の更新を続けながら長期就労する道もあります(漁業分野の2号は日本語能力試験N3以上の合格も要件です)。
漁業分野は「派遣」で受け入れられる数少ない分野
特定技能制度では、受入れ機関と外国人が直接雇用契約を結ぶ「直接雇用」が原則です。しかし漁業分野は、農業分野とともに例外的に「派遣」での受入れが認められています。これは、漁期・魚種・天候によって作業量が大きく変動し、繁忙期と閑散期の差が激しいという漁業の特性を踏まえたものです。複数の漁業者・養殖業者の間で人材を融通できるため、年間を通じた安定就労につながりやすいという利点があります。
派遣形態で受け入れる場合、登場するのは次の三者です。
- 派遣元(特定技能所属機関):労働者派遣事業の許可を受けていることに加え、漁業・養殖業を行っている者、地方公共団体やその出資する法人など、運用要領で定める要件を満たす必要があります。
- 派遣先:実際に作業に従事させる漁業者・養殖業者。派遣先も労働関係法令の遵守などの基準を満たすことが求められます。
- 特定技能外国人:取得した区分の業務に、派遣先で従事します。
派遣であっても、直接雇用と同様に、報酬は日本人が従事する場合と同等以上であること、支援体制が整っていることなど、特定技能共通の基準を満たす必要があります。
季節性への対応と就労環境の留意点
漁業は、漁期や潮回りに合わせて早朝・深夜の作業が生じたり、漁に出られない時期に陸上作業が中心になったりと、季節性・変動性の強い仕事です。特定技能で受け入れる際は、こうした実態を雇用条件書や支援計画に正しく反映させることが欠かせません。具体的には、労働時間・休日の設定、繁忙期の時間外労働の取扱い、閑散期の業務内容、宿泊施設や移動手段の確保などを、あらかじめ明確にしておく必要があります。
また、漁船での作業は安全衛生面のリスクが高いため、ライフジャケットの着用や安全教育の徹底など、労働安全衛生上の配慮も受入れ機関に求められます。労働時間管理や賃金の割増、就業規則の整備といった労務の核心部分は社会保険労務士の領域であり、行政書士は在留資格手続の観点から、雇用条件が制度基準に適合しているかを確認しながら、各士業と連携して進めます。
漁業特定技能協議会への加入義務
漁業分野で特定技能外国人を受け入れる機関(派遣の場合は派遣元)は、農林水産省(水産庁)が設置する「漁業特定技能協議会」の構成員になる義務があります。漁業分野では、令和6年(2024年)6月15日以降、初めて特定技能外国人を受け入れる場合、在留資格に係る申請の時点で既に協議会の構成員であることを示す資格証明書の提出が求められるようになりました。つまり、新規受入れでは「申請より前」に加入を済ませておく必要があります。加入手続が未了のままだと、その後の受入れに支障が生じます。
協議会には漁業分科会・養殖業分科会が置かれ、構成員には協議会およびその構成員に対し必要な協力を行うことが求められます。加入は、所定の加入申請書・申請内容様式を提出し、資格証明書の交付を受ける流れです。問い合わせ先は水産庁漁政部企画課(ダイヤルイン:03-6744-2340)です。受入れ計画と並行して、早めに加入準備を進めておくと安心です。
受入れ見込み数と入管手数料
漁業分野の受入れ見込数は、令和6年度(2024年度)から令和10年度(2028年度)までの5年間で1万7,000人とされています。これは分野全体の受入れ上限として運用される数値であり、経済情勢や人手不足の状況などに応じて見直される可能性があります。
申請に伴う入管手数料(手数料納付)は、2025年4月1日の改定により、在留資格変更許可・在留期間更新許可の手数料が窓口6,000円/オンライン5,500円(旧4,000円)に変更されています。在留資格認定証明書の交付申請自体に手数料はかかりません。最新の金額・運用は、出入国在留管理庁の公式情報で必ずご確認ください。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、特定技能「漁業」の受入れについて、漁業・養殖業どちらの区分が必要かの整理から、在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請の作成・申請取次までを、職域の範囲で一貫してお手伝いします。雇用条件書や1号特定技能外国人支援計画が制度基準に適合しているかの確認、漁業特定技能協議会の加入手続のご案内も行います。派遣契約の細部設計や労務管理は社会保険労務士、税務は税理士、紛争対応は弁護士と連携し、安心して受け入れられる体制を整えます。
料金は、特定技能1号の通常料金として、認定・変更申請89,800円(税込)、更新申請33,000円(税込)です。万一不許可となった場合の無料再申請保証も設けています。手続の詳細は 就労ビザ・特定技能サポート をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
特定技能1号「漁業」は、漁船漁業の「漁業区分」と養殖の「養殖業区分」に分かれ、それぞれ別の技能試験で在留資格が決まります。漁業分野は派遣での受入れが認められる数少ない分野で、漁期による繁忙・閑散の波に対応できる一方、季節性に応じた労働条件の設計や安全衛生の確保、初めて受け入れる場合の在留資格申請前の協議会加入など、押さえるべき実務が複数あります。区分の選び方や手続の進め方でお悩みの際は、士業連携で対応する当事務所までお気軽にご相談ください。
特定技能「漁業」に関するよくある質問
Q:漁業区分と養殖業区分の両方で働かせることはできますか?
A:可能ですが、それぞれの区分の技能試験(1号漁業技能測定試験の漁業・養殖業)に合格している必要があります。片方の区分のみで取得した在留資格では、もう一方の区分の業務に従事させることは原則できません。
Q:なぜ漁業分野は派遣が認められているのですか?
A:漁業は漁期・魚種・天候によって作業量の変動が大きく、繁忙期と閑散期の差が激しい産業です。複数の漁業者・養殖業者の間で人材を柔軟に融通できるよう、農業分野とともに例外的に派遣形態が認められています。
Q:技能実習からそのまま特定技能「漁業」へ移行できますか?
A:漁船漁業職種・養殖業職種の技能実習2号を良好に修了した方は、技能試験・日本語試験が免除され、対応する区分の特定技能1号へ移行できます。移行には在留資格変更許可申請が必要となります。
Q:協議会にはいつまでに加入すればよいですか?
A:漁業分野では、令和6年(2024年)6月15日以降、初めて特定技能外国人を受け入れる場合、在留資格に係る申請の時点で既に漁業特定技能協議会の構成員である必要があります。新規受入れでは申請より前の加入が前提となるため、受入れ計画と並行して早めに加入準備を進めておくことをおすすめします。
Q:派遣の場合、申請手続は誰が行いますか?
A:派遣形態では、雇用主である派遣元(特定技能所属機関)が在留資格に関する申請の主体となります。行政書士は派遣元からの依頼を受けて、認定・変更・更新の各申請を取次します。派遣先の漁業者・養殖業者の基準確認も併せて行います。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


