国税庁の令和5年分(2023年分)の申告事績では、相続税額のある申告書に係る被相続人数は155,740人、死亡者数に対する課税割合は9.9%でした。これは納税した相続人の人数や、税額ゼロでも特例適用のため申告した方まで含む人数とは異なります。2015年(平成27年)の税制改正で基礎控除額が大幅に引き下げられて以降、「うちは相続税と無縁だろう」と思っていた家庭でも課税されるケースが増えています。この記事では、相続税の基礎控除の計算方法から、課税遺産総額の算出ステップ、税率の仕組み、そして相続税がかかるケース・かからないケースまでを整理します。相続税の計算・申告は税理士の専門領域ですが、その前段階となる戸籍収集・財産調査・遺産分割協議書の作成は行政書士がお手伝いできる部分です。
「相続財産がいくらあるのかわからない」「自分のケースで相続税がかかるのか判断できない」という方は、まず財産の全体像を把握することが第一歩です。行政書士法人Treeでは、戸籍収集から財産調査、遺産分割協議書の作成までワンストップで対応しています。相談は何度でも無料です。
目次
相続税の基礎控除とは?|計算式と法定相続人の数え方
基礎控除額の計算式
相続税には基礎控除という非課税枠が設けられています。遺産の総額がこの基礎控除額を超えなければ、相続税は課税されず、申告も原則として不要です。
基礎控除額の計算式は次のとおりです。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円」です。遺産総額が4,800万円以下であれば相続税はかかりません。法定相続人が1人増えるごとに非課税枠が600万円ずつ広がる仕組みになっています。
法定相続人の数え方のルール
基礎控除額を正しく算出するには、「法定相続人の数」を正確に把握する必要があります。ここで注意すべきポイントがいくつかあります。
- 相続放棄をした人も数える: 相続放棄をした人がいても、基礎控除の計算上は「放棄がなかったもの」として法定相続人の数に含めます(民法上の相続放棄と相続税法上の取扱いは異なります)
- 養子の数には制限がある: 原則として実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までです。ただし、特別養子や配偶者の実子を養子にした場合など、実子として扱い、この制限に含めない例外があります。税負担を不当に減少させる養子の算入が否認される場合もあります
- 代襲相続人は実子扱い: 被相続人の子がすでに亡くなっていて孫が代襲相続する場合、その孫は実子として数えます
養子縁組による節税は広く知られていますが、相続税法では養子の数に上限を設けて過度な節税を防いでいます。基礎控除の計算で法定相続人の数を誤ると、申告要否の判断自体を間違えてしまうため、被相続人の戸籍を丹念にたどって正確な相続関係を確認することが欠かせません。
2015年の税制改正で基礎控除はどう変わったか
現在の基礎控除額は、2015年(平成27年)1月1日以降の相続から適用されたものです。それ以前は「5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の数」という計算式でした。
| 項目 | 改正前(〜2014年12月31日) | 改正後(2015年1月1日〜) |
|---|---|---|
| 基礎控除の定額部分 | 5,000万円 | 3,000万円 |
| 法定相続人1人あたりの加算額 | 1,000万円 | 600万円 |
| 法定相続人3人の場合の基礎控除 | 8,000万円 | 4,800万円 |
改正により基礎控除額は従来の6割に引き下げられました。この結果、改正前の平成26年分では課税割合が約4.4%だったのに対し、改正後は課税割合が9%台にまで上昇しています。都市部にマイホームを持っている方は、土地の評価額だけで基礎控除を超えてしまうケースも珍しくなくなりました。
相続手続き全体の流れを確認しておきたい方は、相続手続きの流れと期限一覧の記事もあわせてご覧ください。
課税遺産総額の計算ステップ
相続税がかかるかどうか、またいくらの税額になるかを判断するためには、課税遺産総額を算出する必要があります。大まかな流れは以下のとおりです。
ステップ1: 相続財産の洗い出しと評価
まず、被相続人のすべての財産を洗い出し、それぞれの相続税評価額を算定します。相続財産には以下のようなものが含まれます。
- 不動産(土地・建物)
- 預貯金・現金
- 有価証券(株式・投資信託など)
- 生命保険金(みなし相続財産)
- 退職手当金(みなし相続財産)
- 貴金属・美術品・車両など
- 事業用資産(売掛金・棚卸資産など)
土地の評価額は路線価方式または倍率方式で算定し、建物は固定資産税評価額を使うのが原則です。被相続人が保険料を負担した部分に対応する死亡保険金と、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金等は、みなし相続財産となります。それぞれ「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額がありますが、相続人が取得した分に限られ、相続放棄者・相続権を失った人・相続人以外の受取人には適用されません。
ステップ2: 債務・葬式費用を差し引く
プラスの財産からマイナスの財産を差し引きます。被相続人の借入金、未払いの税金、葬式費用などが控除対象です。さらに、相続時精算課税に係る贈与財産や、加算対象期間内の暦年課税の贈与財産など、法令上加算が必要な財産を反映して正味の遺産額(課税価格の合計額)を算出します。
ステップ3: 基礎控除額を差し引く
正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた金額が課税遺産総額です。
課税遺産総額 = 正味の遺産額 − 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
この課税遺産総額がゼロ以下であれば、相続税はかからず、原則として申告も不要です。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用した結果として税額がゼロになる場合は、特例の適用を受けるために申告そのものは必要です。この点を見落として申告しないままでいると、特例が認められず税金が発生してしまう可能性があるため注意が必要です。
相続税の税率と速算表|税額の計算方法
相続税の速算表
課税遺産総額がわかったら、これを法定相続分に応じて各相続人に按分し、それぞれの取得金額に対して税率を適用します。国税庁が公表している相続税の速算表は以下のとおりです。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
具体的な計算例
実際の計算の流れを、具体例で確認してみましょう。
前提条件: 被相続人の正味の遺産額が8,000万円、法定相続人は配偶者と子2人(計3人)
1. 基礎控除額の算出
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
2. 課税遺産総額の算出
8,000万円 − 4,800万円 = 3,200万円
3. 法定相続分で按分
配偶者(1/2): 3,200万円 × 1/2 = 1,600万円
子A(1/4): 3,200万円 × 1/4 = 800万円
子B(1/4): 3,200万円 × 1/4 = 800万円
4. 速算表で各人の税額を算出
配偶者: 1,600万円 × 15% − 50万円 = 190万円
子A: 800万円 × 10% = 80万円
子B: 800万円 × 10% = 80万円
5. 相続税の総額
190万円 + 80万円 + 80万円 = 350万円
この相続税の総額を、実際の遺産分割の割合に応じて各相続人に配分し、さらに各種の税額控除を適用して最終的な納付額を算出します。ここで重要なのは、ステップ3〜4の按分計算はあくまで法定相続分を使うという点です。実際にどのような割合で遺産を分けたかにかかわらず、相続税の総額の計算段階では法定相続分で按分します。詳しくは国税庁「相続税の計算」のページで確認できます。
相続財産の調査や遺産分割で迷ったら
相続税がかかるかどうかを判断するには、まず相続財産の全体像を正確に把握する必要があります。行政書士法人Treeでは、被相続人の戸籍収集から金融機関への残高照会、固定資産評価証明書や名寄帳の取得まで、財産調査を代行しています。
相続税がかかるケース・かからないケース
相続税がかからないケース
最もわかりやすいのは、正味の遺産額が基礎控除額以下のケースです。たとえば法定相続人が配偶者と子1人の合計2人であれば、基礎控除額は4,200万円です。預貯金と自宅の評価額を合算しても4,200万円以下であれば、相続税の心配はありません。
また、相続人が受け取る死亡保険金や死亡退職金等には、それぞれ非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数)があります。ただし、相続放棄者など相続人に当たらない受取人にはこの非課税枠が適用されません。
相続税がかかるケース
一方、以下のようなケースでは基礎控除を超えて相続税が発生しやすくなります。
- 都市部に不動産を所有している場合: 東京23区や大阪市内などの路線価は高く、土地だけで数千万円の評価額になることがあります
- 法定相続人が少ない場合: 相続人が1人なら基礎控除は3,600万円にとどまるため、比較的少額の遺産でも課税対象になります
- 生前贈与が行われている場合: 相続等で財産を取得した人が被相続人から受けた暦年課税の贈与は、一定期間内のものが加算対象です。2026年12月31日までに開始する相続は原則3年以内、2027年から2030年までに開始する相続は2024年1月1日から死亡日まで、2031年以後は7年以内です。延長された3年超の部分には、合計100万円を加算しない措置などがあります
国税庁の統計によれば、相続税がかかる場合に該当する被相続人の割合は約10%です。ただし、2023年分の9.9%は全国の死亡者数に対する、相続税額のある申告書に係る被相続人数の割合です。同じ年の東京国税局管内(東京都・千葉県・神奈川県・山梨県)では15.4%でした。地価の高い地域にお住まいの方は「自分には関係ない」と決めつけず、一度試算してみることをおすすめします。
主な控除・特例|税額を大きく減らせる制度
基礎控除を超えて課税遺産総額が発生した場合でも、各種の控除・特例を活用することで相続税の負担を大幅に軽減できるケースがあります。代表的なものを紹介します。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した遺産額が1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかからないという制度です。たとえば法定相続分(配偶者と子の場合は1/2)の範囲内で遺産を取得すれば、遺産が数億円規模であっても配偶者の相続税はゼロになります。
ただし、この軽減の適用を受けるためには相続税の申告書を提出する必要があります。「税額がゼロだから申告しなくてよい」と誤解している方が少なくありませんが、申告を怠ると軽減が適用されず本来の税額が課されてしまうため、必ず申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに手続きを行いましょう。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅や事業用の土地について、一定の面積まで評価額を最大80%減額できる制度です。
| 宅地の種類 | 上限面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅) | 330㎡まで | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 400㎡まで | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | 200㎡まで | 50% |
たとえば自宅の土地の相続税評価額が5,000万円で、対象となる土地全体が330㎡以内であり、取得者などの適用要件を満たして全体に80%減額が適用される場合、評価額は1,000万円になります。都市部で自宅の土地評価額が高い方にとっては、この特例の適用有無が相続税額を大きく左右します。配偶者の税額軽減と同様、適用を受けるには申告が必要です。
その他の控除
上記のほかにも、未成年者控除(18歳になるまで年10万円)、障害者控除(85歳になるまで年10万円、特別障害者は年20万円)、相次相続控除(10年以内に相次いで相続が発生した場合の軽減措置)などがあります。いずれも適用には一定の要件と申告手続きが必要です。
遺産の分割方法によって使える特例が変わるため、遺産分割協議書の書き方の段階でどの特例を念頭に置くかが重要になります。税理士と相談しながら分割内容を決めることで、合法的に税負担を抑えることが可能です。
行政書士と税理士の役割分担|相続税対応の実務
相続税に関して注意していただきたいのが、行政書士資格だけでは、個別の相続税申告に関する税務相談・税務代理・申告書作成を業として行えないという点です。税理士法に別段の定めがある場合を除き、これらは税理士・税理士法人の業務です。一般的な制度の説明と、ご本人による計算・申告とは区別してください。
一方、相続税の申告に至るまでの前段階の手続きには、行政書士が対応できる業務が多く含まれています。
| 手続き | 対応する専門家 |
|---|---|
| 戸籍の収集・相続人の確定 | 行政書士 |
| 相続財産の調査(残高証明の取得・固定資産評価証明書等の収集) | 行政書士 |
| 当事者間で合意した内容に基づく遺産分割協議書の作成(紛争の法律判断・交渉代理を除く) | 行政書士 |
| 預貯金・有価証券の相続手続に関する書類作成等(金融機関の受付条件・他法令による業務制限に従う) | 行政書士 |
| 相続税の計算・申告書の作成 | 税理士 |
| 不動産の相続登記 | 司法書士 |
| 相続争いの代理交渉・訴訟 | 弁護士 |
相続手続きは戸籍収集から始まり、財産調査、遺産分割協議、税申告、名義変更と多くのステップにわたります。すべてをご自身で行うのは負担が大きいため、行政書士に前段階の手続きを依頼し、税金関連は提携税理士に引き継ぐという流れがスムーズです。行政書士法人Treeでは、相続税申告が必要な案件については提携税理士をご紹介し、ワンストップで対応しています。
相続放棄を検討している方は相続放棄の手続きと期限の記事で、遺留分に関する問題がある方は遺留分侵害額請求の方法と計算例の記事でそれぞれ詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 相続税の申告期限はいつまでですか?
被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限を過ぎると延滞税や加算税が課される可能性があります。遺産分割がまとまらない場合でも、未分割の財産を民法上の相続分または包括遺贈の割合で取得したものとして、期限内に申告・納税します。これは「仮申告」ではありません。後日分割した結果に応じて修正申告または更正の請求を行い、更正の請求は原則として分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です。
Q. 基礎控除以下なら申告しなくてよいですか?
正味の遺産額が基礎控除額以下であれば、原則として申告は不要です。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って初めて税額がゼロになる場合は、特例適用のために申告書の提出が必要です。申告せずにいるとこれらの特例が適用されないため注意してください。
Q. 生命保険金は相続税の対象になりますか?
死亡保険金のうち、被相続人が負担した保険料に対応する部分は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。相続人が受け取った分には、相続人全体で500万円 × 法定相続人の数の非課税限度額があります。法定相続人が3人なら限度額は1,500万円ですが、相続放棄者・相続権を失った人・相続人以外の受取人には適用されません。
Q. 遺産分割が終わっていなくても相続税の申告は必要ですか?
はい、申告期限(10ヶ月以内)は遺産分割の完了を待ってくれません。遺産分割が確定していない場合は、各相続人が法定相続分で遺産を取得したものとして計算し、申告・納税する必要があります。なお、未分割の財産には配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できません。「申告期限後3年以内の分割見込書」の添付など所定の手続を行い、原則として申告期限から3年以内に分割して要件を満たす場合には、特例を適用した更正の請求等が可能です。更正の請求の期限にも注意し、税理士・税務署に確認してください。
まとめ
相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します。2015年の税制改正で控除額が6割に引き下げられた結果、課税対象となる方は増加傾向にあり、2023年分の統計では死亡者数のおよそ10人に1人について相続税額のある申告書が提出されました。税額がゼロでも特例のため申告が必要な場合は別にあります。特に都市部に不動産をお持ちの方や法定相続人の数が少ない方は、基礎控除を超える可能性が十分にあります。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を活用すれば税額を大きく減らせるケースもありますが、これらの適用には申告書の提出が前提となる点を忘れないようにしましょう。相続税の計算・申告は税理士の専門領域ですが、その前提となる戸籍収集・財産調査・遺産分割協議書の作成は行政書士がサポートできます。
相続手続きの負担を軽減したい方へ
| サービス | 料金 |
|---|---|
| 遺産分割協議 ミニマム(ご自身で収集した戸籍・財産資料のチェックと協議書作成) | 43,780円(税込) |
戸籍等の取得代行は別プランです。交通費・書類取得費・郵送費等は別途で、数次相続または法定相続人が10名以上の場合は全プランで料金が倍額になります。税理士・司法書士への依頼費用も別途です。まずはお気軽にご相談ください。必要な手続きと費用の見通しをご説明いたします。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


