契約書

競業避止義務契約書の書き方|有効要件・記載例・裁判例を解説

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結論から言えば、競業避止義務契約書は、退職した従業員が競合他社への転職や競合事業の起業を行うことを制限するための書面ですが、その有効性は無制限には認められません。裁判例では、①守るべき企業の利益、②従業員の地位・職務内容、③制限の期間、④制限の地域的範囲、⑤代償措置の有無の5つの要素を総合的に判断して有効性が判断されています。制限が過度に広範であったり、代償措置がない場合は無効とされるリスクがあります。本記事では、競業避止義務契約書の法的根拠、有効性の判断基準、記載例、退職時の誓約書との関係を解説します。

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競業避止義務とは|法的根拠と基本的な考え方

競業避止義務とは、一定の者が特定の事業と競合する行為を行わない義務のことです。労働関係においては、退職後の従業員が競合他社に転職したり、同種の事業を起業したりすることを制限する約定を指します。

在職中の競業避止義務

在職中の従業員は、労働契約に基づく信義則(労働契約法第3条第4項)上の義務として、使用者の利益に反する競業行為を行わない義務を負うと一般的に解されています。就業規則に「許可なく他社の業務に従事してはならない」等の兼業禁止規定がある場合は、その規定も根拠となります。在職中の競業避止義務は、労働契約の存続を前提とするものであり、その有効性が争われることは比較的少ないです。

退職後の競業避止義務

退職後は労働契約が終了しているため、信義則に基づく義務も原則として消滅します。退職後も競業避止義務を課すためには、別途の合意(競業避止義務契約・誓約書等)が必要です。

ただし、退職後の競業避止義務は、憲法第22条第1項が保障する「職業選択の自由」を制約するものであるため、無制限には認められません。合意の有効性は、制限の必要性・合理性が認められる範囲に限定され、裁判例では5つの要素を総合的に考慮して判断されています。

法的根拠の整理

場面 法的根拠 ポイント
在職中 労働契約法第3条第4項(信義則)・就業規則 労働契約の存続中は当然に義務を負う
退職後(合意あり) 競業避止義務契約・誓約書(民法上の契約) 合意の有効性は5要素で総合判断
取締役 会社法第356条第1項第1号(競業取引の制限) 取締役会設置会社では取締役会の承認(会社法第365条第1項)、非設置会社では株主総会の承認が必要
M&A(事業譲渡) 会社法第21条(譲渡会社の競業禁止)/商法第16条〜第18条(個人商人の営業譲渡) 譲渡人は同一市区町村・隣接市区町村の区域内で20年間同種事業を行えない(特約で30年まで延長可。譲渡人が会社か個人商人かで適用条文が異なる)

労働契約法の条文はe-Gov法令検索(労働契約法)で確認できます。

有効性の判断基準|裁判例が重視する5つの要素

退職後の競業避止義務契約の有効性は、裁判例において以下の5つの要素を総合的に考慮して判断されています。これらの要素のバランスが取れていなければ、公序良俗違反(民法第90条)として無効とされるリスクがあります。

要素①: 守るべき企業の利益(正当な利益)

企業が競業避止義務を課す合理的な理由が存在するかが問われます。単に「競合されたくない」というだけでは足りず、保護に値する具体的な利益が必要です。

  • 営業秘密(不正競争防止法第2条第6項に定義される秘密情報)
  • 顧客情報・取引先との関係性
  • 独自のノウハウ・技術情報
  • 高度な研修や教育投資により習得させた専門的技能

一般的な業務知識や経験にとどまる場合は、保護すべき利益として認められにくい傾向があります。

要素②: 従業員の地位・職務内容

競業避止義務を課される従業員が、企業秘密や重要な顧客情報にアクセスできる地位にあったかどうかが重要です。

  • 役員・管理職・幹部社員: 機密情報へのアクセス度合いが高く、競業避止義務が認められやすい
  • 技術開発職・研究職: 独自技術やノウハウに深く関与している場合は認められやすい
  • 一般職・補助的業務: 機密情報との接点が限定的な場合は認められにくい

全従業員に一律に競業避止義務を課す就業規則の規定は、対象者の地位に照らして合理性を欠くと判断されるおそれがあります。特に、機密情報へのアクセスが限定的な一般職や補助職にまで一律に課す場合は、対象者の選定・制限範囲について慎重な検討が必要です。

要素③: 制限の期間

競業避止義務を課す期間が合理的な範囲にとどまっているかが問われます。期間が長くなるほど、従業員の職業選択の自由への制約が大きくなるため、有効性が否定されやすくなります。

期間 裁判例の傾向
6か月〜1年 有効と認められやすい
1年〜2年 他の要素(代償措置等)との兼ね合いで有効とされる場合がある
2年超 相当な代償措置がなければ無効とされるリスクが高い
期間の定めなし 原則として無効

要素④: 制限の地域的範囲

競業が禁止される地域が、企業の事業展開地域に照らして合理的な範囲にとどまっているかが問われます。地域の限定がない場合(全国・全世界で競業禁止)は、制限が過度に広範とみなされやすくなります。

要素⑤: 代償措置の有無

競業避止義務を課す見返りとして、従業員に何らかの経済的な代償が提供されているかが重要な考慮要素です。代償措置の例としては以下のようなものがあります。

  • 退職金の上乗せ・特別手当の支給
  • 在職中の高額な報酬(競業避止義務の対価を含むと解される場合)
  • 競業避止期間中の補償金の支払い

代償措置が全くない場合、競業避止義務の有効性が否定されるリスクが高まります。なお、代償措置があれば当然に有効となるわけではなく、他の要素との総合判断である点に留意が必要です。

主要な裁判例|有効・無効の判断が分かれたケース

競業避止義務の有効性に関する裁判例を整理します。

有効と判断された裁判例

裁判例 概要 有効と判断された理由
フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地判昭45.10.23) 特殊な技術情報を有する研究開発職に対し、退職後2年間の競業禁止を課した事案 守るべき技術的秘密があること、対象者が秘密に深く関与する地位であったこと、期間が2年と限定されていたこと
新大阪貿易事件(大阪地判平3.10.15) 海外取引の営業担当に退職後3年間の競業禁止を課した事案 営業秘密(海外取引先情報)の保護の必要性、従業員が重要顧客を担当していたこと、退職金の支給があったこと

無効と判断された裁判例

裁判例 概要 無効と判断された理由
東京リーガルマインド事件(東京地決平7.10.16) 競業避止義務違反に基づく差止め・損害賠償等が問題となった事案 事案評価が分かれ得るため、単純な有効・無効の二分法ではなく、個別事情(対象者の地位・制限範囲・代償措置等)を踏まえた検討が必要
ヤマダ電機事件(東京地判平19.4.24) 店舗従業員に対し退職後の競業禁止を課した事案 対象者が機密情報にアクセスする地位になく、地域的制限もなく、代償措置もなかったこと

裁判例の傾向として、制限の範囲が必要最小限に絞られ、かつ相応の代償措置がある場合に有効と認められやすく、逆に全従業員一律・全地域・長期間・代償なしの条件では無効とされやすいことが読み取れます。

競業避止義務契約書の書き方|記載すべき条項

競業避止義務契約書は、有効性を確保するために、前述の5要素を意識した記載が必要です。主な記載事項は以下のとおりです。

記載すべき主要条項

条項 記載内容 作成時の注意点
当事者の表示 使用者(会社)と従業員の氏名・住所等 法人の場合は登記上の正式名称を記載
守るべき利益の特定 保護対象となる営業秘密・顧客情報等の範囲 抽象的な記載(「会社の秘密」等)は避け、具体的に特定する
競業禁止の内容 禁止される行為の範囲(同種事業への就業・起業・役員就任等) 必要最小限の範囲に限定する
制限期間 退職日から○年間 1〜2年が一般的。2年超は代償措置との兼ね合いが重要
地域的範囲 競業が禁止される地域 事業展開地域に照らして合理的な範囲に限定する
代償措置 退職金の上乗せ・競業避止手当等の内容 代償の有無と内容を明記する(有効性の重要な考慮要素)
違反時の効果 損害賠償・違約金・差止請求の可否 違約金額は合理的な範囲に設定する
秘密保持義務 退職後の秘密保持義務の内容 競業避止義務とあわせて規定するのが一般的

契約書の基本的な書き方については「契約書の書き方完全ガイド」を参照してください。秘密保持条項の詳細は「秘密保持契約書(NDA)の書き方」で解説しています。

競業避止義務契約書の記載例

以下は、退職時に締結する競業避止義務契約書の記載例です(あくまで一般的な構成の参考例であり、実際の契約書は個別の事情に応じた調整が必要です)。

競業避止義務に関する合意書

株式会社○○(以下「甲」という。)と○○○○(以下「乙」という。)は、乙の退職に際し、以下のとおり合意する。

第1条(目的)
本合意は、甲の営業秘密および顧客との信頼関係を保護することを目的とする。

第2条(競業避止義務)
乙は、甲を退職した日から1年間、甲の事業所が所在する○○県内において、甲と競合する○○事業(具体的に定義)に従事してはならない。ここでいう「従事」とは、自ら同種事業を営むこと、競合他社に雇用されること、競合他社の役員に就任すること、競合他社に対しコンサルティングを行うことを含む。

第3条(代償措置)
甲は、本合意に基づく競業避止義務の対価として、乙に対し、退職時に競業避止手当金○○万円を支払う。

第4条(秘密保持義務)
乙は、在職中に知り得た甲の営業秘密(顧客情報、技術情報、財務情報その他甲が秘密として管理する情報)を、退職後も第三者に開示または漏洩してはならない。

第5条(違反時の措置)
乙が本合意に違反した場合、甲は乙に対し、違反行為の差止めを請求できるほか、これにより生じた損害の賠償を請求することができる。

第6条(合意管轄)
本合意に関する紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上の合意を証するため、本書2通を作成し、甲乙各1通を保有する。

令和○年○月○日

甲: 株式会社○○ 代表取締役 ○○○○ 印
乙: ○○○○ 印

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退職時の誓約書との関係

競業避止義務は、入社時の雇用契約書に盛り込む方法と、退職時に誓約書として取得する方法の2つのパターンがあります。

入社時に合意する場合

雇用契約書や就業規則に競業避止義務条項を含める方法です。入社時に従業員の署名を得ておくことで、退職時に改めて合意を得る手間を省けます。ただし、入社時は従業員の交渉力が弱い立場にあることから、裁判では合意の任意性がより厳格に審査される傾向があります。

退職時に誓約書を取得する場合

退職時に改めて競業避止義務の誓約書に署名してもらう方法です。退職時であれば、従業員がどの程度の機密情報に触れたかが明確になっており、制限の範囲を実態に即して設定しやすいという利点があります。

ただし、退職時に署名を拒否された場合は強制できません。また、退職の意思表示後に署名を求めると、「署名しなければ退職手続きを進めない」等の圧力と受け取られる場合があるため、任意に署名を得られるよう配慮が必要です。

入社時と退職時の比較

比較項目 入社時の合意 退職時の誓約書
取得のしやすさ 入社手続きの一環として取得しやすい 従業員が拒否する可能性がある
制限範囲の設定 入社時点では業務内容が不明確な場合がある 退職時点の業務実態に応じて具体的に設定できる
合意の任意性 入社の条件として提示されるため任意性が問われやすい 退職は既に決まっているため比較的任意性が認められやすいが、圧力と受け取られないよう注意
代償措置の設計 在職中の処遇に含めるか、退職時に精算するか要検討 退職金の上乗せ等と連動させやすい

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制限の範囲が広すぎる

「甲と競合するすべての事業への従事を禁止する」「日本国内全域で禁止する」等の広範な規定は、裁判で無効と判断されるリスクが高くなります。制限は、守るべき利益に照らして必要最小限の範囲に留めてください。

代償措置がない

代償措置の有無は有効性判断の重要な要素です。退職金や手当等の代償が全くない状態で競業避止義務を課すと、公序良俗違反(民法第90条)として無効とされるリスクが高まります。

対象者を一律に設定している

全従業員に同一の競業避止義務を課す規定は、機密情報に触れない一般従業員に対しては不合理な制限となり得ます。対象者は、職位・職務内容に応じて個別に設定することが望ましいです。

「競業」の定義が曖昧

禁止される「競業」の範囲が明確でないと、どの行為が違反に当たるかの判断ができず、従業員にとって予測可能性が低くなります。禁止される事業の種類・業務内容を具体的に定義してください。

秘密保持義務との混同

競業避止義務は「競業行為の禁止」、秘密保持義務は「秘密情報の開示・使用の禁止」であり、対象が異なります。両者を混同すると、それぞれの適用範囲が不明確になるため、別条項として整理してください。

よくある質問

Q. 競業避止義務契約書に署名しなければ退職できませんか?

競業避止義務契約書への署名は任意であり、署名を拒否しても退職の権利には影響しません。民法第627条第1項により、期間の定めのない労働契約の場合、労働者はいつでも解約の申入れができ、申入れから2週間で契約は終了します。使用者が「署名しなければ退職手続きを進めない」等の圧力をかけることは、署名の任意性を損ない、契約の有効性に影響し得ます。

Q. 競業避止義務に違反した場合、どのような責任を負いますか?

競業避止義務契約が有効である場合、違反した従業員は契約上の債務不履行(民法第415条)に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。また、契約に差止条項が含まれている場合は、競業行為の差止めを求められることもあります。ただし、競業避止義務契約自体が無効と判断されれば、これらの責任は生じません。

Q. フリーランスや業務委託契約でも競業避止義務を課せますか?

フリーランスや業務委託(委任・準委任・請負)契約においても、契約条項として競業避止義務を定めることは可能です。ただし、2024年11月施行のフリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)はフリーランスと発注事業者間の取引適正化を目的とした法律であり、競業避止義務条項の有効性基準を直接規定するものではありません。有効性の判断は、契約自由の原則を前提としつつ、取引上の優越的地位・独占禁止法・フリーランス法の趣旨等も踏まえて行われるため、競業避止義務の範囲は合理的に限定することが重要です。業務委託契約の基本については「業務委託契約書の書き方」を参照してください。

Q. 競業避止義務の期間は何年まで有効ですか?

法律で一律の上限が定められているわけではありませんが、裁判例の傾向として、1年以内は有効と認められやすく、2年を超えると無効とされるリスクが高まります。期間が長い場合は、代償措置の充実度や、守るべき利益の重要性・従業員の地位など他の要素とのバランスがより厳しく審査されます。

Q. 就業規則に競業避止義務の規定があれば、個別の契約書は不要ですか?

就業規則に競業避止義務の規定がある場合でも、個別の合意書を作成することをお勧めします。就業規則は全従業員に一律に適用されるため、個々の従業員の職位・業務内容に応じた制限範囲の設定が困難です。個別の契約書であれば、対象者の職務に応じて制限範囲や代償措置を具体的に設定でき、有効性が認められやすくなります。

Q. 取締役の競業避止義務と従業員の競業避止義務は違いますか?

はい、法的根拠が異なります。取締役は会社法第356条第1項第1号に基づき、在任中の競業取引について取締役会(または株主総会)の承認が必要です。この義務は法定の義務であり、別途の合意がなくても適用されます。一方、従業員の退職後の競業避止義務は法律上当然には発生せず、契約・誓約書等による合意が必要です。取締役退任後の競業避止義務についても、別途の合意が必要とされています。

まとめ

  • 退職後の競業避止義務には別途の合意(契約書・誓約書)が必要
  • 有効性は5要素(守るべき利益・従業員の地位・期間・地域・代償措置)で総合判断
  • 制限が過度に広範・代償措置なしの場合は無効とされるリスクあり
  • 対象者の職位・業務内容に応じた個別の設計が重要
  • 入社時の合意と退職時の誓約書はそれぞれ利点・注意点が異なる

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※ 本記事の内容は、細心の注意を払って作成しておりますが、2026年4月時点の法令に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案については、必ず専門家にご相談ください。民法の条文はe-Gov法令検索(民法)、労働契約法の条文はe-Gov法令検索(労働契約法)で確認できます。

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