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目的別信託契約書とは?事業承継信託・遺言代用信託・受益者連続型信託・信託銀行型信託の違いを解説

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信託契約には、認知症対策型の家族信託だけでなく、事業承継を目的とする信託、遺言代用信託(信託法第90条)受益者連続型信託(信託法第91条)など、目的に応じたさまざまな設計があります。一方、特定贈与信託は信託銀行等が取り扱う制度、公益信託は公益信託法上の認可・監督を受ける制度(2026年4月から新公益信託制度が開始)であり、通常の民事信託契約書作成とは手続主体・監督・税務が異なります。本記事では目的別の信託契約の設計ポイント、信託法第91条の30年ルール、特定贈与信託の非課税枠、信託業法との関係、業務範囲を実務目線で整理します。

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目次

  1. 目的別信託契約書とは(民事信託と信託銀行型信託の区別)
  2. 事業承継信託:株式・議決権・受益権の設計
  3. 遺言代用信託:信託法第90条と遺言との違い
  4. 受益者連続型信託:信託法第91条と30年ルール
  5. 特定贈与信託:特定障害者の贈与税非課税制度
  6. 公益信託:2026年4月開始の新公益信託制度
  7. 信託監督人・受益者代理人の設計
  8. 信託口口座・信託登記・税務の注意点
  9. 信託業法と営業信託に関する注意点
  10. 業務範囲の整理
  11. FAQ・まとめ

1. 目的別信託契約書とは(民事信託と信託銀行型信託の区別)

信託契約は、信託財産の管理処分権限を受託者に移し、受益者の利益のために運用する仕組みです。家族信託・民事信託として個人・親族間で設計するもののほか、信託銀行・信託会社が受託する営業信託、公益信託法上の認可・監督を受ける公益信託など、目的・主体・規制が異なる複数の類型があります。

本記事で扱う「目的別信託契約書」は、主に当事者間で争いのない民事信託(事業承継、遺言代用、受益者連続型等)について、契約書の文案作成・公正証書化を行政書士業務範囲で支援する場面を想定します。特定贈与信託・公益信託・営業信託は信託銀行等の制度商品・認可制度であり、通常の民事信託契約書作成とは別の手続が必要です。

2. 事業承継信託:株式・議決権・受益権の設計

後継者への株式・事業承継のために、株式等を信託財産とする信託を設計することがあります。信託財産となった株式の名義・管理処分権限は受託者に移り、受益者は受益権を取得します。「経営権と所有権(受益権)を分離」という単純化した整理ではなく、議決権行使の方針、受益権の帰属、後継者・非後継者への経済的利益の配分を契約書で設計する点が重要です。

事業承継信託では、以下の論点を総合的に確認します。

  • 受託者による議決権行使の方法
  • 株主名簿上の名義
  • 後継者への経営権集中、非後継者への経済的利益の配分
  • 遺留分・遺留分侵害額請求
  • 相続税・贈与税・自社株評価
  • 会社法上の株式譲渡制限・種類株式の活用
  • 受託者の適格性

契約書だけで完結するものではなく、税理士・司法書士・弁護士・公認会計士との連携が必要です。

3. 遺言代用信託:信託法第90条と遺言との違い

信託法第90条の遺言代用信託は、委託者の死亡時に受益者となるべき者が受益権を取得する定め、または委託者の死亡時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける定めを置く信託です。

遺言と異なり、信託契約自体は生前に効力を発生させ、受託者による財産管理を開始できる点が特長です。また、信託行為に別段の定めがない限り、委託者が受益者を変更する権利を有する(信託法第90条第1項)ため、遺言と同様に生前の翻意に対応できます。

もっとも、遺言代用信託の設計では、遺留分侵害額請求、相続税、信託財産の範囲、受託者の権限・義務を踏まえる必要があります。

4. 受益者連続型信託:信託法第91条と30年ルール

信託法第91条のいわゆる受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)は、受益者の死亡その他の事由により、他の者が新たに受益権を取得する定めを置く信託です。たとえば、第1受益者の死亡後に第2受益者、第2受益者の死亡後に第3受益者へと受益権を承継させる設計が考えられます。これにより民法では実現できない数次にわたる財産承継を可能にします。

30年ルール(信託法第91条)の正確な意味

信託法第91条は、後継ぎ遺贈型受益者連続信託について以下の効力制限を定めています。

  • 信託設定から30年を経過するまでは、受益権の承継回数に制限はありません
  • 信託設定から30年を経過した時以後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで(またはその受益権が消滅するまで)信託が存続します
  • つまり、30年経過後に新たな受益権の承継が生じると、その受益者の代をもって信託は終了します(30年経過後の承継は1回限り)

「30年経過後の最初の受益者死亡まで」という説明は、起点(30年経過時点で既にいる受益者なのか、30年経過後に新たに取得する受益者なのか)が曖昧で誤解を招くため、注意が必要です。半永久的な財産承継制度ではないため、契約書では現実的な受益者指定が必要です。

5. 特定贈与信託:特定障害者の贈与税非課税制度

特定贈与信託(特定障害者扶養信託契約に基づく信託)は、相続税法第21条の4に基づく贈与税の非課税制度です。

受益者の区分 非課税限度額
特別障害者 信託受益権の価額のうち6,000万円まで
特別障害者以外の特定障害者 3,000万円まで

「軽度障害者」という法令用語はなく、3,000万円枠の対象は「特別障害者以外の特定障害者」(特定一般障害者とも呼ばれます)が正確な表記です。

通常は信託銀行等が受託者となり、受益者である特定障害者の生活費・療養費を定期的に給付します。特定贈与信託は、受益者である特定障害者の死亡の日に終了することとされ、これ以外の信託期間を定めることはできないという特徴があります。税務上の要件確認は税理士に確認します。

6. 公益信託:2026年4月開始の新公益信託制度

公益信託は、学術、文化、社会福祉、環境保全その他の公益目的のために設定される信託です。2026年4月から新公益信託制度が開始され、公益法人制度と整合する形で、行政庁による認可・監督、公益目的事務の適正性、受託者・信託管理人等の体制、情報公開等が制度化されています。

通常の民事信託契約書とは異なり、公益信託法上の認可手続・監督制度を前提に検討します。設定検討は、公益信託の認可基準・税務優遇・運営体制を踏まえ、専門家・行政庁との事前協議が前提となります。

7. 信託監督人・受益者代理人の設計

信託監督人・受益者代理人は、受益者の保護や長期運営の安定のために設置を検討します。設置する場合は以下の事項を契約書で明確にします。

  • 候補者・就任承諾
  • 権限の範囲
  • 報告方法・報酬
  • 辞任・解任の手続
  • 後任選任の方法

受託者本人は信託監督人・受益者代理人に就任することはできません。

8. 信託口口座・信託登記・税務の注意点

信託口口座

民事信託では、信託財産(金銭)の管理のために金融機関に信託口口座を開設することが多いですが、金融機関によって信託口口座の取扱いが異なります。契約書作成前に金融機関への事前相談を行うことが望ましく、契約書内容・受託者・信託目的が金融機関の審査基準に合致するかを確認します。

信託登記

不動産を信託財産とする場合、所有権移転および信託登記が必要です。信託目録の作成、登記申請は司法書士業務です。登録免許税、不動産取得税、固定資産税、受益権に関する税務は税理士確認が必要です。

公正証書化

信託契約は必ずしも公正証書でなければならないわけではありませんが、不動産信託、金融機関での信託口口座開設、長期運営、受託者の権限明確化を考える場合には、公正証書化が実務上有用です。公正証書化の要否は、信託財産・受託者・金融機関対応・将来の紛争予防の観点から検討します。

9. 信託業法と営業信託に関する注意点

営業として信託の引受けを行うこと(信託業法上の信託業)は、信託銀行・信託会社等の免許または登録を受けた事業者の業務です。行政書士や一般の専門家が、報酬を得て反復継続的に受託者となることは、信託業法上の問題を生じ得ます。

当事務所は信託契約書の文案作成・公正証書化支援に限定し、信託の受託・運用・営業信託の引受けは行いません。受託者は家族・親族または信託銀行等の制度商品・認可法人が原則です。

10. 業務範囲の整理

行政書士業務範囲

  • 当事者間で争いのない民事信託契約書の文案作成(事業承継、遺言代用、受益者連続型等)
  • 公正証書化サポート(公証役場との調整・公証人手数料は別途)
  • 信託監督人・受益者代理人の選任条項、報告義務、残余財産帰属、受託者の権限・義務等の条項整備

業務範囲外(連携先専門家)

  • 信託登記(所有権移転・信託登記・信託目録作成)(司法書士)
  • 税務効果・自社株評価・受益権評価・相続税/贈与税申告(税理士)
  • 遺留分紛争・受益権をめぐる争い・遺言信託の解釈をめぐる紛争(弁護士)
  • 営業信託・信託商品の販売(信託銀行・信託会社)
  • 公益信託の認可手続(公益信託法上の所管行政庁との手続)
  • 特定贈与信託の組成・運用(信託銀行等の制度商品)

11. FAQ|よくあるご質問

Q. 遺言代用信託と遺言の違いは?
A. 遺言は原則として遺言者の死亡により効力を生じますが、遺言代用信託は生前に信託契約を締結し、受託者による財産管理を開始したうえで、委託者死亡時または死亡後に指定された受益者へ給付する仕組みを設計できます。また、信託行為に別段の定めがない限り委託者が受益者を変更する権利を有します(信託法第90条第1項)。ただし、遺留分侵害額請求、相続税、信託財産の範囲、受益者変更権、受託者の管理義務を踏まえた設計が必要です。

Q. 事業承継信託のメリットは?
A. 株式を信託財産とすることで、受託者による議決権行使の方針を定め、後継者への経営権集中と非後継者への経済的利益の配分を設計しやすくなる場合があります。ただし、遺留分、受益権評価、相続税・贈与税、株式譲渡制限、会社法上の手続、受託者の適格性を確認する必要があります。

Q. 受益者連続信託の30年ルールとは?
A. 信託法第91条により、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、信託設定時から30年を経過した時以後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで(またはその受益権が消滅するまで)効力を有します。信託設定から30年を経過するまでは受益権の承継回数に制限はありませんが、30年経過後に新たな受益権の承継が生じると、その受益者の代をもって信託は終了します(30年経過後の承継は1回限り)。半永久的な財産承継制度ではないため、契約書では現実的な受益者指定が必要です。

Q. 特定贈与信託の非課税枠と対象者は?
A. 相続税法第21条の4に基づき、特別障害者は信託受益権の価額のうち6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者は3,000万円までが贈与税非課税となります。通常は信託銀行等が受託者となり、受益者である特定障害者の死亡の日に終了します。税務上の要件確認は税理士に確認します。

Q. 行政書士は信託の受託者になれますか?
A. 営業として信託の引受けを行うことは信託業法上の信託業に該当し、信託銀行・信託会社等の免許または登録が必要です。行政書士や一般の専門家が報酬を得て反復継続的に受託者となることは信託業法上の問題を生じ得ます。受託者は家族・親族または信託銀行等の制度商品・認可法人が原則となります。

Q. 信託契約は必ず公正証書にする必要がありますか?
A. 信託契約は必ずしも公正証書でなければならないわけではありませんが、不動産信託、金融機関での信託口口座開設、長期運営、受託者の権限明確化を考える場合には、公正証書化が実務上有用です。要否は信託財産・受託者・金融機関対応・将来の紛争予防の観点から検討します。

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まとめ

信託契約には、認知症対策型の家族信託だけでなく、事業承継を目的とする信託、遺言代用信託(信託法第90条)、受益者連続型信託(信託法第91条)など、目的に応じたさまざまな設計があります。一方、特定贈与信託(相続税法第21条の4)は信託銀行等が取り扱う制度、公益信託は2026年4月開始の新公益信託制度として公益信託法上の認可・監督を受ける制度で、通常の民事信託契約書作成とは手続主体・監督・税務が異なります。

事業承継信託では、信託財産となった株式の名義・管理処分権限は受託者に移り、受益者は受益権を取得します。受託者による議決権行使の方法、受益権の帰属、後継者・非後継者への経済的利益の配分、遺留分、受益権評価、相続税・贈与税、会社法上の制約を契約書で総合的に設計する必要があり、税理士・司法書士・弁護士・公認会計士との連携が前提となります。

遺言代用信託は信託法第90条に基づき、生前から効力が発生し受託者による財産管理を開始できる点が特長で、信託行為に別段の定めがない限り委託者が受益者を変更する権利を有します。受益者連続型信託は信託法第91条の30年ルールにより、信託設定から30年経過後に新たな受益権の承継が生じると、その受益者の代をもって信託は終了します(30年経過後の承継は1回限り)。

特定贈与信託は、特別障害者6,000万円・特別障害者以外の特定障害者3,000万円までの贈与税非課税枠を活用する制度で、信託銀行等が受託者となり、受益者である特定障害者の死亡の日に終了します。「軽度障害者」という法令用語はないため、3,000万円枠の対象は「特別障害者以外の特定障害者」と正確に表記します。

営業として信託の引受けを行うこと(信託業法上の信託業)は信託銀行・信託会社等の免許または登録が必要で、行政書士は受託者となりません。当事務所は当事者間で争いのない民事信託契約書の文案作成・公正証書化サポート・信託監督人/受益者代理人の選任条項整備に対応します。信託登記は司法書士、税務効果・自社株評価・受益権評価・相続税/贈与税申告は税理士、遺留分紛争・信託の解釈をめぐる紛争は弁護士、営業信託・特定贈与信託・公益信託の組成は信託銀行・信託会社・所管行政庁の業務範囲となります。

※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。

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