塗装工事は、天候に左右されやすく、下地の劣化が開けてみないと分からない、塗料の品名や塗り回数で品質が大きく変わるという、他の専門工事にはない特徴を持っています。こうした塗装業ならではのリスクを「特約条項」として契約書に落とし込んでおくことが、追加費用や仕上がりをめぐるトラブルを未然に防ぐ最大のポイントです。本記事では、行政書士の立場から、建設業法に基づく法定記載事項を踏まえつつ、塗装工事業者が押さえておくべき業種別の特約条項を、現場の実情に即して整理します。なお、令和6年(2024年)の改正建設業法(令和6年法律第49号)への対応も織り込んでいます。
目次
外壁塗装・屋根塗装の契約書チェック|「一式」表記が危ない理由
塗装工事業は、建設業許可の29業種のうち、専門工事に分類される業種の一つです。建築一式工事以外の建設工事では、1件の請負金額が500万円(税込)以上となる場合に建設業許可が必要になります(材料費・消費税を含めて判断します)。この軽微な建設工事の基準は、建築一式工事以外の工事では500万円(税込)未満が許可不要とされており、2026年現在も変わっていません。許可の有無にかかわらず、塗装の現場で最も多いトラブルは「どこまでが契約の範囲か」をめぐる認識のズレです。
見積書や契約書に「外壁塗装一式」とだけ書かれていると、付帯部(雨樋・破風・軒天・水切りなど)を含むのか、養生の範囲はどこまでか、下地補修は別途か、といった点が後から争いになりがちです。塗装は数量(面積㎡・延長m・箇所数)と工程(高圧洗浄・下地調整・下塗り・中塗り・上塗り)で価格と品質が決まるため、契約書ではこれらを具体的に特定しておくことが欠かせません。
- 塗装範囲・付帯部の部位を明記する
- 使用塗料のメーカー名・製品名・色番号・規格を特定する
- 塗り回数(下塗り・中塗り・上塗り)と希釈率の基準を明記する
- 数量(㎡・m・箇所)と単価、合計金額を内訳で示す
- 高圧洗浄・養生・足場の範囲を区分する
建設業法が求める法定記載事項(19条)を土台にする
塗装の特約条項を考える前提として、建設業法第19条第1項が定める「契約書面の記載事項」を押さえておく必要があります。法定記載事項の全体像については建設工事請負契約書の書き方でも詳しく解説しています。これは元請・下請を問わず、すべての建設工事請負契約に適用されるものです。主な項目は次のとおりです。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期および工事完成の時期
- 工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容
- 前金払・出来形部分への支払の時期および方法の定め
- 設計変更・工事中止等があった場合の工期変更、代金変更、損害負担とその算定方法
- 天災その他不可抗力による工期変更・損害負担とその算定方法
- 価格等の変動・変更に基づく工事内容・請負代金額の変更およびその額の算定方法
- 第三者に損害を与えた場合の賠償金の負担
- 注文者が資材提供・建設機械の貸与をするときの内容と方法
- 検査の時期・方法および引渡しの時期
- 工事完成後の代金支払の時期・方法
- 契約不適合責任またはその履行に関して講ずべき保証等の措置の定め
- 債務不履行の場合の遅延利息・違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
このうち価格変動に基づく代金額変更の項目は、令和6年(2024年)の改正建設業法に伴い「その額の算定方法に関する定め」まで明記することが求められる形に整理されました(この改正は令和6年12月13日に施行されています)。資材高騰局面が続く塗装業では、塗料・足場材の価格変動をどう代金に反映するかを、あらかじめ算定方法とともに書いておくことが、改正対応としても実務上も重要です。なお、国土交通省のガイドラインでは、この定めを記載しない場合だけでなく、「変更しない」「変更を認めない」など協議を前提としない内容にすることも問題とされている点に注意が必要です。
塗装業ならではの特約条項(1)天候・工期・追加工事
塗装は雨天・高湿度・低温下では施工できず、工期が天候に大きく左右されます。標準的な工期に加え、雨天等による中止・順延を不可抗力として扱い、工期を当然に延長できる旨と、その場合に注文者・請負者のいずれにも違約金や損害が発生しない旨を特約で明確にしておくとトラブルを避けられます。建設業法19条の「不可抗力による工期変更」の項目を、塗装の実情に合わせて具体化するイメージです。
追加工事・下地補修の条項
塗装で最も紛争になりやすいのが、足場を組んで初めて分かる下地の劣化(腐食・ひび割れ・雨漏り跡など)への対応です。「追加となる条件」「追加分の単価」「事前承認の手順(必ず連絡し、書面またはメールで了承を得てから着手する)」を特約として定めておけば、後出しの追加請求というトラブルとも一線を画せ、注文者にも安心していただけます。逆に、こうした取り決めがないまま着手すると、追加分の代金回収が難しくなるリスクが請負者側にあります。
塗装業ならではの特約条項(2)品質・契約不適合責任・保証
2020年(令和2年)4月施行の改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に整理されました。塗装の目的物が種類・品質について契約内容に適合しない場合、注文者は不適合を知った時から原則1年以内に通知することで、修補(追完)・代金減額・損害賠償・契約解除などを請求できます(民法637条・566条)。契約書には、この契約不適合責任の内容や、保証保険契約の締結その他の措置を定める場合はその内容を記載します。
あわせて、塗装業界で一般的な自社保証(施工保証)や塗料メーカー保証、第三者保証(保証保険)の有無・期間・対象範囲・免責事由を特約として整理しておくと、引渡し後の「塗膜の剥がれ・ムラ・色ムラ」をめぐる対応がスムーズになります。保証の対象外となるケース(経年劣化、注文者の管理不備、第三者要因など)も明記しておくことが実務上のポイントです。
- 検査の時期・方法(完了検査の立会い、是正の手順)を定める
- 引渡しの時期と、引渡し前後の責任の分界点を明確にする
- 保証の期間・対象・免責を区分して記載する
塗装業ならではの特約条項(3)足場・近隣・支払条件
足場は塗装工事の安全と品質を左右する重要な仮設です。足場の手配を請負者・注文者・別業者のいずれが行うか、注文者が足場や高圧洗浄機等を提供・貸与する場合はその内容と方法を、建設業法19条の該当項目に沿って契約書に書き込みます。また、塗料の飛散・洗浄水・臭気による近隣への影響に備え、第三者に損害を与えた場合の賠償金の負担に関する定めも欠かせません。
支払条件については、着手金・中間金・完成払いの区分、出来形部分への支払、完成後の支払時期・方法を明記します。下請契約の場合は、注文者(元請)との間でこれらを書面化することが建設業法上も求められます。塗装の現場では「思っていた仕上がりと違う」という主観的な争いが起きやすいため、支払の前提となる検査・引渡しの基準を客観的に定めておくことが、未回収リスクの低減につながります。
専門家への相談・契約書作成のサポート
塗装工事業の請負契約書は、建設業法の法定記載事項を満たしたうえで、自社の施工フローや現場の実情に合った特約条項を盛り込むことで、はじめて「使える契約書」になります。当事務所では、行政書士の職域として、建設業許可の取得・更新のサポートとあわせて、塗装工事業に即した請負契約書・基本契約書・約款の作成を承っています。なお、すでに発生してしまった紛争の交渉・調停・訴訟の代理は弁護士、相続税等の税務は税理士、登記は司法書士と、それぞれ提携・連携してご対応します。契約書作成プランは、PDFデータ納品のミニマムプラン21,780円(税込)、製本郵送付きのスタンダードプラン27,500円(税込)からご用意しています。契約書作成について詳しくは契約書作成サポートのページをご確認ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
塗装工事業の契約書は、「一式」表記を避けて塗装範囲・使用塗料・塗り回数・数量を特定することが出発点です。そのうえで、建設業法19条の法定記載事項(令和6年改正で代金変更の算定方法まで明記が求められる点を含む)を土台に、天候による工期延長、追加工事と下地補修の事前承認手順、契約不適合責任と各種保証、足場・近隣・支払条件といった塗装業ならではの特約条項を整えることで、現場のトラブルを大きく減らせます。許可申請から契約書整備まで、塗装業の実情に即して専門家を活用されることをおすすめします。
塗装工事業の契約書に関するよくある質問
Q:塗装工事の契約書に「一式」と書くのはダメなのですか?
A:法律上「一式」表記が一律に禁止されているわけではありませんが、塗装範囲・付帯部・数量・使用塗料・塗り回数が特定されないと、後の追加費用や仕上がりをめぐる争いの原因になります。実務上は内訳を明記することを強くおすすめします。
Q:雨で工事が延びた場合、追加料金や違約金は発生しますか?
A:通常は天候は不可抗力として扱われ、工期が延長されるだけで、これを理由に当然に違約金が発生するものではありません。ただし契約書に取り決めがないと争いになりやすいため、不可抗力による工期延長の特約を明記しておくことが大切です。
Q:契約金額が500万円未満なら契約書は不要ですか?
A:いいえ。建設業許可が必要となる金額の基準(税込500万円以上)と、契約書を交わすべきかどうかは別の問題です。建設業法は金額にかかわらず請負契約の書面化を求めており、トラブル防止の観点からも契約書の作成をおすすめします。
Q:引渡し後に塗膜が剥がれたら、いつまで請求できますか?
A:契約内容に適合しない不適合があった場合、原則として不適合を知った時から1年以内に通知することで、修補や損害賠償などを請求できます。あわせて自社保証やメーカー保証の期間・対象も契約書で確認しておくと安心です。
Q:追加工事の費用でもめないためにはどうすればよいですか?
A:追加となる条件・単価・事前承認の手順(連絡し、書面やメールで了承を得てから着手する)を契約書の特約として定めておくことが有効です。承認の記録を残すことで、双方が納得した形で精算できます。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。