公開日:2026年5月4日|最終更新日:2026年5月5日
賃金の未払い、月100時間を超える違法残業、最低賃金を下回る給与——これらはいずれも「経営判断のミス」では済まされず、労働基準法・最低賃金法上の刑事罰が定められた犯罪行為です。被害労働者やその家族、内部告発を検討する従業員からは「労働基準監督署に申告しても動いてくれない」「会社に直接交渉するのは怖い」「刑事責任を追及したい」というご相談を受けることがあります。
本記事では、行政書士法人Treeが作成代行できる警察署長宛て告発状を中心に、労働基準法違反の刑事告発の実務、罰則体系、申告・民事請求との違い、そして士業の業務範囲を整理して解説します。
本記事の結論:
- 賃金未払い・違法残業・最低賃金違反は、強制労働罪(労基法5条・117条)、賃金支払五原則違反(24条・120条1号)、割増賃金不払い(37条・119条1号)、違法残業罪(32条・36条・119条1号)、最低賃金法違反(40条)として、警察署長宛てに刑事告発が可能です。
- 労働基準監督官は特別司法警察職員(労基法102条、最賃法違反は最賃法33条、労安衛法違反は安衛法92条)として捜査権限を有し、刑事告発と労基署申告は並行して進められます。
- 当所では、警察署長宛て告発状の文案作成と証拠資料の整理を「書類作成」の範囲で承ります(受理・捜査開始・起訴・有罪を保証するものではありません)。
- 労基署に提出する労働社会保険諸法令に基づく申告書等の作成・提出代行は社労士、未払賃金の民事請求・交渉・労働審判・訴訟は弁護士、税務処理は税理士の業務範囲となるため、必要に応じて提携専門家をご紹介します。
目次
根拠法令
- 労働基準法(5条・24条・32条・36条・37条・102条・117条〜120条)
- 最低賃金法(4条・33条・40条)
- 労働安全衛生法(92条)
- 刑事訴訟法(239条 告発、241条 書面又は口頭、250条 公訴時効)
- 公益通報者保護法
- 社会保険労務士法(2条1項1号)
1. 労働基準法違反の罰則体系|刑事罰・送検・行政指導との違い
労働基準法は単なる行政取締法規ではなく、第13章「罰則」(117条〜121条)で使用者に対する刑事罰を定めています。「労基署が指導するだけ」と誤解されがちですが、悪質な事案では、労働基準監督官による送検や刑事処分が問題となることがあります。具体的な送検事例は、厚生労働省・各労働局の公表資料等で確認できます。2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に統一されました。
1-1. 罰則の概要
| 条文 | 対象行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 労基法117条 | 強制労働(5条違反) | 1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金 |
| 労基法118条 | 中間搾取・最低年齢違反等 | 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 労基法119条1号 | 違法残業(32条・36条違反)、割増賃金不払い(37条違反)、休憩・休日違反等 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 労基法120条1号 | 賃金支払五原則違反(24条違反)等 | 30万円以下の罰金 |
| 最低賃金法40条 | 地域別最低賃金額未満での労働契約・支払い | 50万円以下の罰金 |
1-2. 両罰規定
労基法121条は両罰規定を置いており、違反行為を行った事業主のみならず、法人そのものにも罰金刑が科される可能性があります。代表者個人と法人の双方を被告発人とする構成も実務上一般的です。
2. 強制労働罪(労基法5条・117条)——労基法上最も重い犯罪
使用者は、暴行・脅迫・監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはなりません(労基法5条)。違反すると1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金という、労基法上最も重い罰則が科されます。
- パスポートの取り上げ、外出制限、帰国妨害等があり、暴行・脅迫・監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段と評価される場合
- 寮への監禁・外出禁止
- 賃金からの過大な天引き、違約金名目の請求、前借金相殺等により退職を妨げる行為。事案により、労基法5条のほか、16条・17条・24条等も問題となります
- 「辞めるなら違約金を払え」という脅迫的引き止め
近年は外国人労働者(特定技能・技能実習等)の人権侵害事案で5条違反の告発が注目されており、警察・労働基準監督官による捜査対象となっています。当事務所は申請取次行政書士・登録支援機関として在留資格関連業務にも対応しており、外国人雇用に関する労務コンプライアンス整備のご相談も承ります。
3. 未払賃金・残業代不払いの罰則|労基法24条・37条・119条・120条
労基法24条は賃金支払いの五原則(通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払い)を定めており、通常の賃金を支払期日に全額支払わない場合は、労基法24条違反として30万円以下の罰金が問題となります(120条1号)。
一方、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金(残業代)の不払いは労基法37条違反として、より重い「6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」(119条1号)の対象です。24条違反と37条違反は別の罪であり、罰則も異なります。
3-1. 「未払い残業代」と「不払」の違い
計算方法の解釈相違による未払いと、明確な意図的不払い(サービス残業強制、固定残業代の悪用、勤怠改ざん等)は刑事的評価が異なります。告発状作成にあたっては、悪質性を基礎づける事実関係(タイムカード改ざんの指示メール、賃金台帳と実労働時間の乖離など)を客観的資料で示すことが重要です。
4. 違法残業・36協定違反の刑事罰|月100時間超・過労死事案の告発
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働について、適法な36協定がない場合、36協定で定めた範囲を超える場合、または法定の時間外労働上限を超える場合は、労基法32条・36条違反として6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が問題となります。変形労働時間制、管理監督者性、休日労働の扱い等は個別に確認が必要です。
2019年の働き方改革関連法施行以降、違法残業については罰則付きの上限規制が明確化されました。36協定の特別条項を適用しても、以下の上限があります(労基法36条6項):
- 時間外労働は年720時間以内(休日労働除く)
- 時間外労働と休日労働の合計は単月100時間未満(休日労働含む)
- 時間外労働と休日労働の合計は複数月平均80時間以内(休日労働含む)
- 時間外労働が月45時間を超えるのは年6か月まで
これらのいずれかを超える残業の常態化、過労死・過労自殺事案では、事案により、法人、代表者、事業場の責任者、労務管理担当者等の刑事責任が問題となった例があります。
5. 最低賃金法違反の確認方法|時給換算・固定残業代・試用期間中の最低賃金
地域別最低賃金(都道府県ごと)を下回る賃金で労働させた場合、最低賃金法40条により50万円以下の罰金が問題となります。なお、船員以外の特定(産業別)最低賃金を下回る場合は、賃金全額払原則違反として労基法120条1号により30万円以下の罰金となります。固定残業代の名目で実質時給を最低賃金以下に抑える手口、研修期間中・試用期間中の最低賃金割れ、歩合制の下限割れなどが典型です。
6. 労基法違反の告発状作成|行政書士ができること・警察と労基署の違い
告発は刑事訴訟法239条1項に基づき「何人も、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」とされています。告発は刑訴法241条1項により書面又は口頭で行うことが認められていますが、捜査機関による事実の正確な把握と受理可能性の観点から、実務上は書面(告発状)で行うのが一般的です。
労基法違反については、労働基準監督官が特別司法警察職員として捜査権限を有するため、実務上は事業所所在地を管轄する労働基準監督署への申告・相談が重要な窓口となります。刑事訴訟法上の告発は捜査機関に対して行うことができ、事案により警察署、労働基準監督署、検察庁等への相談・提出が問題となります。当事務所では、警察署長宛て告発状の文案作成を中心にお取り扱いします。
6-1. 行政書士が作成できる範囲
- ご依頼者から提供された資料・事情に基づく事実関係の聴き取りと時系列整理(相手方・関係者への調査、事情聴取、交渉代理は行いません)
- ご本人が保有する証拠資料(タイムカード・給与明細・メール・チャット等)の分類、一覧化、添付資料リスト化
- 警察署長宛て告発状の文案作成
- 添付資料リストの作成
6-2. 行政書士が行えない範囲(業際)
- 労働基準監督署に提出する労働社会保険諸法令に基づく申告書等の作成・提出代行:社会保険労務士の業務範囲。当所では提携社労士をご紹介します
- 未払賃金の民事請求・内容証明による請求・労働審判・訴訟代理:弁護士の独占業務。提携弁護士をご紹介します
- 検察庁宛ての告発、告発後の捜査対応、不起訴対応、検察審査会申立て等:法的判断・代理対応が問題となりやすいため、原則として弁護士への相談を推奨します
- 会社との交渉代理・和解金額の協議:弁護士業務
- 税務上の処理(源泉徴収・追加徴収等):税理士業務。提携税理士をご紹介します
7. 労働基準監督官の特別司法警察職員性(労基法102条・最賃法33条・安衛法92条)
労働基準監督官は、労基法違反の罪について司法警察員の職務を行います(労基法102条)。最低賃金法違反については最賃法33条、労働安全衛生法違反については安衛法92条が根拠条文となり、これらの法令違反についても労働基準監督官が司法警察員として捜査権限を有します。
つまり、労基法違反の罪について、刑事訴訟法上の司法警察員として、法令上の要件に従い捜査、送致等を行う権限があります(武器携帯権限はない点で警察官と異なりますが、捜査権限は実質的に同等です)。捜索・差押え等は令状の要否を含め、刑事訴訟法上の手続に従います。
そのため、告発の選択肢としては(a) 警察署長宛ての告発と(b) 労働基準監督署への申告(労基法104条)の2系統があります。両者は制度上併存し得ます。ただし、同一事実について提出先、提出書類、本人の説明内容、証拠資料、民事請求との関係を整理したうえで進める必要があります。なお、(b)の申告書作成・代理は社労士業務であり、当所では提携社労士をご紹介します。
8. 在職中の内部告発と公益通報者保護法|不利益取扱い禁止と民事請求の違い
8-1. 民事と刑事は別建て
未払い賃金の支払いを「会社に請求する」のは民事の問題で、弁護士業務(請求代理)または労働者本人による請求になります。一方、刑事告発は「会社・経営者を処罰してほしい」という申告であり、民事請求と並行・先後問わず行えます。
8-2. 公益通報者保護法による不利益取扱いの禁止
労働者が労基法違反等について、公益通報者保護法の要件を満たして通報した場合、通報を理由とする解雇その他の不利益取扱いは禁止されます。ただし、通報先・通報内容・目的等により保護要件が異なるため、事前整理が重要です。社内通報・行政通報・外部通報それぞれに保護要件があり、告発前の準備段階として、要件該当性のチェックが重要です。
料金プラン(告発状作成)
| プラン | 料金(税込) | 含まれる内容 |
|---|---|---|
| スタンダード | 38,280円 | ヒアリング+時系列整理+警察署長宛て告発状の文案作成+添付資料リスト作成(受理・捜査開始・起訴・有罪を保証するものではありません) |
| お急ぎ特急 | 49,280円 | スタンダードの内容を優先対応で進行 |
| オプション | 不受理時対応 +33,000円 | 不受理となった場合の追加対応 |
※ 弁護士・社労士・税理士の費用は別途となります。ご相談は何度でも無料。Web面談・対面どちらも全国対応です。
よくある質問
Q1. 告発状はどこに提出すればよいですか?
当事務所では、事業所所在地を管轄する警察署長宛ての告発状作成を中心にお取り扱いしています。労働基準監督署への申告と並行することも可能ですが、申告書の作成・提出代理は社労士業務のため当所では行いません。
Q2. 在職中でも告発できますか?
可能です。ただし、公益通報者保護法上の保護を受けるには、通報内容・通報先・通報目的等の要件を満たす必要があります。在職中の告発・通報では、証拠保全、守秘義務、社内での不利益取扱いリスク、退職時期などを慎重に検討します。
Q3. 退職して数年経っていますが告発できますか?
労基法違反の罪は、法定刑の長期に応じて公訴時効が定まります(刑事訴訟法250条2項)。具体的には:
- 強制労働罪(労基法117条、1年以上10年以下の拘禁刑):時効7年
- 中間搾取罪(118条、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金):時効3年
- 違法残業罪・割増賃金不払い(119条1号、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金):時効3年
- 賃金支払五原則違反(120条1号、30万円以下の罰金):時効3年
- 最低賃金法40条違反(50万円以下の罰金):時効3年
具体的な時効完成の有無は弁護士に確認してください。早めにご相談ください。
Q4. 証拠が手元にほとんどありません。それでも告発できますか?
告発自体は可能ですが、捜査機関が動くかは証拠の質に大きく左右されます。ご本人が保有しているタイムカードのコピー、給与明細、業務指示のメール・チャット、シフト表、勤怠記録など、可能な限り客観資料を確保してからのご相談をお勧めします。同僚への接触や証言確保は慎重に行う必要があります。
Q5. 内容証明郵便で会社に未払賃金を請求してほしいのですが?
未払賃金の請求は、金額計算、支払交渉、労働審判・訴訟対応が問題となりやすいため、弁護士への相談を推奨します。当所では、相手方との交渉代理や請求代理は行いません。
Q6. 労働基準監督署への申告を代行してもらえますか?
労働基準監督署に提出する労働社会保険諸法令に基づく申告書等の作成・提出代行は、社会保険労務士の業務範囲となります。当所では労基署申告の代理は行わず、必要に応じて提携社労士をご紹介します。
Q7. 会社と交渉して未払い分を回収してほしいのですが?
金銭請求の交渉代理は弁護士業務です。当所では提携弁護士をご紹介します。
Q8. 36協定を超える残業を強要されていますが、月何時間からアウトですか?
36協定の特別条項を適用しても、時間外労働には①単月100時間未満(休日労働含む)、②複数月平均80時間以内(休日労働含む)、③年720時間以内(休日労働除く)、④月45時間超は年6か月までという法定上限があります(労基法36条6項)。これらのいずれかを超えれば、労基法119条1号の罰則対象となる可能性があります。ただし、36協定の内容、労働時間制度、管理監督者性、適用除外・特例の有無等を確認する必要があります。
Q9. 最低賃金を下回っているか、どう確認すればよいですか?
都道府県別の地域別最低賃金(厚生労働省公表)と、ご自身の実労働時間に対する実支給額を時給換算して比較します。固定残業代込みの場合は、最低賃金の対象となる賃金と、時間外割増賃金・精皆勤手当・通勤手当・家族手当等の除外賃金を分けて、所定労働時間あたりの賃金額を確認します。具体的計算は社労士、税務処理が絡む場合は税理士をご紹介します。
Q10. 経営者として、社内のコンプライアンス体制を整えたい場合、何ができますか?
企業側の労務コンプライアンスでは、就業規則、賃金規程、36協定、勤怠管理ルール、内部通報制度などの整備が重要です。ただし、就業規則・賃金規程・36協定など労働社会保険諸法令に基づく書類の作成・届出は社会保険労務士の業務範囲となるため、当所では契約書・社内規程の一般的な文案整理や専門家連携を行い、必要に応じて提携社労士をご紹介します。
Q11. 検察庁に直接告発状を出したいのですが?
検察庁宛ての告発や、告発後の捜査対応・不起訴対応・検察審査会申立て等は、法的判断や代理対応が問題となりやすいため、弁護士への相談を推奨します。当所では警察署長宛て告発状の文案作成を中心にお取り扱いします。なお、警察署経由の告発であっても、捜査の結果として検察官送致され、起訴・不起訴の判断がなされます。
Q12. 告発しても警察が動かない場合は?
告発後の捜査の進め方や、不起訴に対する検察審査会への申立て等は弁護士業務となります。当所では提携弁護士をご紹介します。
労働基準法違反の告発をご検討の方へ
賃金未払い・違法残業・最低賃金違反は、事案により労基法・最低賃金法上の刑事罰の対象となる可能性があります。計算方法の争い、労働時間制度、管理監督者性、適用除外の有無等を確認したうえで、告発状の文案を作成します。当所では、警察署長宛て告発状の文案作成と関連書類の整理を承ります。
お問い合わせはこちら|タイムカード、給与明細、雇用契約書、就業規則、36協定、業務指示メール・チャット、シフト表などがあると確認がスムーズです
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まとめ
- 労基法違反は罰則付きの刑事規制であり、強制労働罪(5条・117条)、賃金支払五原則違反(24条・120条1号)、割増賃金不払い(37条・119条1号)、違法残業罪(32条・36条・119条1号)、最低賃金法違反(40条)が代表的
- 2025年6月1日改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に統一
- 労基法違反では、労働基準監督官が特別司法警察職員として捜査権限を有する(労基法102条・最賃法33条・安衛法92条)。労基署への申告・相談、警察署への告発、検察庁への相談等の選択肢があり、提出先は事案に応じて整理
- 労働基準監督署に提出する労働社会保険諸法令に基づく申告書等の作成・提出代行は社労士業務、未払賃金の民事請求・交渉・労働審判・訴訟は弁護士業務、税務処理は税理士業務。当所では提携専門家をご紹介
- 行政書士法人Treeは、警察署長宛て告発状の文案作成と事実・証拠資料の整理を「書類作成」の範囲で承ります。ただし、告発状の受理、捜査開始、起訴・有罪を保証するものではありません
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


