結論から言えば、預貯金詐欺やキャッシュカードすり替えの被害に遭った場合、犯人の処罰を正式に求める意思を捜査機関に示すには「告訴状」の提出が有効な手段になります。これらは刑法上の詐欺罪(刑法246条)や窃盗罪(刑法235条)に該当し得る犯罪で、いずれも非親告罪であるため告訴がなくても捜査・起訴は可能ですが、書面で事実関係と処罰意思を明確に示しておくことで、被害申告の本気度を伝えやすくなります。行政書士は、被害者の方からお話を伺い、事実関係を整理して、警察署長宛ての告訴状という書類を作成するところまでをお手伝いします。提出先の選定に関する具体的助言や受理後の捜査対応、示談交渉、刑事手続の代理は弁護士の業務にあたるため、必要に応じて弁護士への相談や警察への直接相談をご案内します。
目次
預貯金詐欺・キャッシュカードすり替えとは何か
「預貯金詐欺」は、親族・警察官・銀行協会職員等を装って電話をかけ、「あなたの口座が犯罪に利用されており、キャッシュカードの交換手続が必要だ」などと嘘を告げ、キャッシュカード・クレジットカード・預貯金通帳等をだまし取る(脅し取る)手口です。警察庁は、この手口を従来「オレオレ詐欺」に含めていましたが、2020年(令和2年)1月から独立した手口類型として統計上分類しています。なお、令和8年(2026年)からは、急増する「ニセ警察詐欺」の独立やSNS型投資・ロマンス詐欺の統合により、特殊詐欺全体の分類が13類型に整理されました(預貯金詐欺の類型は引き続き存続)。
一方、「キャッシュカードすり替え」は、犯人が訪問してきた際に、被害者が封筒に入れたキャッシュカードを、被害者が印鑑などを取りに行った隙に偽のカードとすり替えて持ち去る手口です。警察庁はこれを「キャッシュカード詐欺盗」と呼んでいます。令和7年以前の警察庁統計では、オレオレ詐欺・預貯金詐欺・キャッシュカード詐欺盗の3手口を合わせて「オレオレ型特殊詐欺」と分類していますが、令和8年からは特殊詐欺全体の分類が整理されています。
「詐欺罪」と「窃盗罪」はどう分かれるのか
同じようにキャッシュカードが奪われる事案でも、法的にどの罪に該当するかは「被害者が自らカードを交付したか否か」で分かれます。
- 詐欺罪(刑法246条):人を欺いて財物を交付させた場合に成立します。法定刑は「10年以下の拘禁刑」です(条文は「懲役」と規定していましたが、刑法改正により拘禁刑へ統一されています)。被害者がだまされて自らカードや現金を相手に渡してしまった「預貯金詐欺」は、原則としてこの詐欺罪が問題となります。
- 窃盗罪(刑法235条):他人の財物を窃取した場合に成立し、法定刑は「10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。すり替え型では、被害者は封筒の中身をその場から持ち去ることまで許したわけではなく「交付」があったとはいえないため、詐欺罪ではなく窃盗罪が問題となるのが一般的です。
このように、外形が似ていても成立する罪名が変わるため、告訴状を作成する際には被害の経緯を時系列で正確に整理することが重要になります。
すり替え型の「実行の着手」をめぐる最高裁の判断
キャッシュカードすり替え型については、犯人が被害者宅を訪問する前に職務質問などで取り押さえられた場合、いつの時点で「窃盗の実行に着手した」といえるかが争われてきました。この点について、最高裁判所第三小法廷は令和4年(2022年)2月14日の決定で、警察官になりすました者が被害者に嘘を告げ、受け子が被害者宅付近まで赴いた段階で、キャッシュカード入りの封筒から注意をそらす行為に及んでいなくても、窃盗罪の実行の着手があったと認める判断を示しました。
つまり、すり替え行為そのものに至る前であっても窃盗未遂罪が成立し得るということです。被害が未遂に終わった場合でも犯罪としての告訴の対象になり得る点は、被害者の方が押さえておきたいポイントです。
告訴と被害届・告発はどう違うのか
被害を申告する方法にはいくつかあり、それぞれ性質が異なります。
| 種類 | 内容 | 処罰を求める意思 |
|---|---|---|
| 被害届 | 被害に遭った事実を捜査機関に申告する書類 | 必須ではない |
| 告訴 | 被害者などが犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示(刑事訴訟法230条) | 必要 |
| 告発 | 被害者以外の第三者が犯罪事実を申告し処罰を求める意思表示 | 必要 |
告訴は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員に対して行います(刑事訴訟法241条1項)。口頭の場合は調書が作成されますが、事実関係が複雑な詐欺・窃盗事案では、内容を整理した「告訴状」という書面で行うのが実務上一般的です。司法警察員(警察)が告訴を受けたときは、速やかに関係書類・証拠物を検察官に送付しなければならないと定められています(刑事訴訟法242条)。なお、当事務所の書類作成サポートは警察署長宛ての告訴状・告発状に限ります。
告訴状に記載すべき主な事項
預貯金詐欺・すり替え事案の告訴状では、次のような事項を整理して記載します。
- 告訴人・被告訴人:被害者の氏名・住所等。犯人が特定できない場合は「氏名不詳」として記載することもあります。
- 告訴の趣旨:いかなる罪名(詐欺罪・窃盗罪など)で処罰を求めるのか。
- 告訴の事実(犯罪事実):いつ、誰から、どのような電話・訪問があり、どのような嘘を告げられ、どのようにカードや現金を失ったのかを時系列で具体的に記載します。
- 立証方法・証拠:着信履歴、通話を録音したデータ、防犯カメラ映像、ATMの取引明細、すり替えられた偽カードそのもの、メモや封筒などの物証。
特に特殊詐欺事案では、犯人が氏名不詳のことが多いため、被害の経緯と客観的証拠をいかに具体的に結び付けて記載できるかが、書類としての説得力を左右します。
預貯金詐欺・キャッシュカードすり替え被害に気づいた直後の対応と証拠保全
預貯金詐欺・すり替え事案では、被害直後の客観的証拠の保全が重要です。具体的には次のような対応が考えられます。
- 犯人からの着信番号・着信時刻を記録し、携帯電話の履歴を保存する。
- 金融機関に連絡してカードの利用停止を依頼し、不正な出金がないか取引履歴を確認する。
- すり替えられた偽のキャッシュカードや、犯人が残した封筒・メモなどを廃棄せず保管する。
- 自宅周辺・金融機関ATM付近の防犯カメラ映像の有無を確認する。
これらの証拠は時間の経過とともに失われやすいため、被害に気づいた段階で速やかに警察へ相談し、並行して証拠を整理しておくことが、その後の捜査の手がかりにつながります。なお、警察庁の令和7年(2025年)確定値では、特殊詐欺全体の認知件数は27,832件、被害額は約1,423.1億円でした。令和7年以前の分類では、オレオレ詐欺・預貯金詐欺・キャッシュカード詐欺盗を合わせた「オレオレ型特殊詐欺」の認知件数は17,439件、被害額は1,174.2億円で、決して珍しい被害ではありません。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、預貯金詐欺・キャッシュカードすり替え被害に関する警察署長宛ての告訴状・告発状の作成をサポートいたします。被害者の方からお話を伺い、複雑になりがちな被害の経緯を時系列で整理し、想定される罪名や記載すべき事実・証拠を踏まえて、警察署に提出するための書面を作成します。最終的な罪名や事件処理は、捜査機関・裁判所が判断します。
行政書士がお手伝いできるのは書類の作成までです。なお、行政書士が業として作成できる告訴状は管轄警察署長宛ての書面に限られ、検察庁に直接提出する告訴状の作成は司法書士・弁護士の業務範囲となります。提出先の選定に関する具体的な助言、警察への提出の代行、受理後の捜査対応、犯人側との示談交渉、刑事手続の代理は弁護士の業務にあたるため当事務所では行いません。これらが必要な場合は、弁護士や警察と連携してご案内します。
告訴状・告発状の書類作成は、スタンダードプラン(ヒアリング+告訴状の作成+修正対応)が 38,280円(税込)、お急ぎ特急プランが 49,280円(税込) です。詳しくは 告訴状・告発状作成サポートのページ をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
預貯金詐欺は人をだまして自らカードを渡させる「詐欺罪」、すり替え型は交付があったといえない「窃盗罪(キャッシュカード詐欺盗)」が問題となり、いずれも非親告罪です。告訴がなくても捜査・起訴は可能ですが、犯罪事実と処罰を求める意思を整理した告訴状を作成しておくことで、被害申告を明確に伝えられます。被害に気づいたら、着信履歴・偽カード・封筒・取引明細などの証拠を保全し、速やかに警察へ相談することが大切です。警察署長宛ての告訴状・告発状の書類作成部分については行政書士がお手伝いできますので、まずはお気軽にご相談ください。
預貯金詐欺の告訴状に関するよくある質問
Q:預貯金詐欺で告訴状を出さないと犯人は処罰されないのですか。
A:いいえ。詐欺罪(刑法246条)も窃盗罪(刑法235条)も非親告罪のため、告訴がなくても捜査機関は捜査・起訴ができます。ただし、告訴状は被害事実と処罰を求める意思を明確に書面化するものであり、被害申告の本気度を伝える手段として有効です。
Q:すり替え被害は詐欺罪と窃盗罪のどちらになりますか。
A:被害者が自らカードを相手に渡した(交付した)といえるかで分かれます。だまされて自分でカードを渡した預貯金詐欺は詐欺罪、封筒の中身を持ち去ることまでは許していないすり替え型は窃盗罪(キャッシュカード詐欺盗)が問題となるのが一般的です。最終的な罪名の評価は捜査機関・裁判所が判断します。
Q:犯人の名前が分からなくても告訴状は作成できますか。
A:作成できます。特殊詐欺では犯人が特定できないことが多く、被告訴人を「氏名不詳」として、被害の経緯と客観的証拠を中心に記載します。着信番号や偽カード、取引明細などの証拠をできる限り残しておくことが重要です。
Q:被害が未遂に終わった場合でも告訴できますか。
A:未遂であっても犯罪は成立し得ます。最高裁令和4年2月14日決定は、すり替え型について受け子が被害者宅付近まで赴いた段階で窃盗の実行の着手を認めており、未遂罪の対象となり得ます。具体的な評価は事案によりますので、警察や弁護士にもご確認ください。
Q:行政書士は告訴状を警察に提出してくれますか。
A:いいえ。行政書士ができるのは、警察署長宛ての告訴状という書類の作成までです。警察への提出代行や提出先の選定に関する具体的助言、受理後の捜査対応、示談交渉、刑事手続の代理は弁護士の業務にあたるため行いません。これらが必要な場合は、弁護士への相談や警察への直接相談をご案内します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


