結論から言えば、離婚公正証書に強制執行認諾文言が入っていても、その正本があるだけでは差押えはできません。実際に強制執行を申し立てるには、公証役場で「執行文」を付与してもらい、送達証明書などの必要書類を整える手続が別途必要になります。執行文には大きく分けて単純執行文と条件成就(事実到来)執行文があり、どちらが必要かは公正証書の書き方で決まります。当事務所は行政書士として、離婚協議書・公正証書の原案作成と事実整理、そして将来の執行を見据えた条項設計をサポートします。なお、実際の差押え・取立てや裁判上の争いは弁護士、登記は司法書士、年金分割の手続は年金事務所と連携してご案内します。この記事では、執行文の種類の違い、執行文付与申立書・公正証書謄本・送達証明書などの必要書類、郵送申立ての可否、手数料を整理します。
目次
そもそも執行文とは何か
執行文とは、債務名義(公正証書など)に強制執行をする力(執行力)が現に存在すること、及びその範囲を公的に証明する付記文言です。金銭の支払いを目的とし、債務者が「直ちに強制執行に服する」旨を陳述した強制執行認諾文言付き公正証書は、民事執行法22条5号の「執行証書」として債務名義になります。しかし債務名義があるだけでは足りず、執行文の付与を受けて初めて、裁判所に対する強制執行(給与や預貯金の差押えなど)の申立てが可能になります。
離婚公正証書の場面では、養育費・婚姻費用・財産分与・慰謝料といった金銭の支払いが滞ったときに、この執行文が重要な意味を持ちます。執行文は、その公正証書を作成した公証役場の公証人に申請して付与してもらいます。
単純執行文とは
単純執行文は、債務名義に記載されたとおりの執行力をそのまま認める、最も基本的な執行文です。条件成就執行文や承継執行文に当たらない場合は、単純執行文の付与となります。
たとえば「毎月末日限り、養育費として金○円を支払う」というように、支払時期と金額が確定期限・確定額で特定されている条項であれば、原則として単純執行文で足ります。もっとも、確定期限が到来していない将来分の養育費については、民事執行法151条の2により、扶養義務等に係る定期金債権の一部に不履行がある場合に限り、期限未到来分についても債権執行を開始できるとされています。また、期限未到来分について差し押さえられるのは、各定期金債権の期限到来後に弁済期が到来する給与その他の継続的給付に係る債権に限られます。
条件成就(事実到来)執行文とは
条件成就執行文は、民事執行法27条1項に基づくもので、請求が「債権者の証明すべき事実の到来」に係っている場合に、債権者がその事実の到来を証明したときに付与される執行文です。停止条件や不確定期限が付されている等、債務名義の表示だけでは執行できる状態かどうかが分からないケースに用いられます。
離婚公正証書でこれが問題になりやすいのは、次のような条項です。
- 「子が私立大学に進学した場合は、学費として別途○円を支払う」など、一定の事実の発生を条件とする給付
- 「再婚し同居を開始したときは○円を支払う」など、将来の不確定な事実にかからせた給付
- 債権者側が先に何らかの給付や引渡しを行うことを条件とした、いわゆる反対給付に係る定め
このような条項では、債権者が条件成就・事実到来を証明する文書を添えて申請する必要があります。条文・実務の取扱いによっては、証明文書だけでは足りず、民事執行法33条の執行文付与の訴えによって裁判所の判断を経なければならない場合もあります。
なお「承継執行文」(民事執行法27条2項)は、相続や債権譲渡により当事者以外の者に執行力を及ぼす場合に付与されるもので、離婚後に当事者が亡くなったケースなどで問題になります。
単純執行文と条件成就執行文の違い(早見)
| 比較項目 | 単純執行文 | 条件成就(事実到来)執行文 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民事執行法26条(一般の付与) | 民事執行法27条1項 |
| 使う場面 | 確定期限・確定額の給付(通常の養育費等) | 条件・不確定期限・反対給付に係る給付 |
| 債権者の証明 | 原則不要 | 事実到来・条件成就を証明する文書が必要 |
| 債務者への送達 | 公正証書謄本等の送達証明が必要 | 左記に加え、執行文及び証明文書の謄本も送達が必要(民事執行法29条) |
| 公証人手数料 | 2,000円 | 2,000円+2,000円の加算(合計4,000円) |
※公証人手数料は2025年(令和7年)10月1日改正後の額です(公証人手数料令、令和7年政令第263号)。条件成就執行文・承継執行文等は、執行文付与の手数料2,000円に2,000円が加算されます。
執行文付与申立ての流れと必要書類
執行文の付与は、公正証書を作成した公証役場に対して申請します。一般的な流れは次のとおりです。
- (1) 申請先:その公正証書を作成した公証役場(公証人)。窓口だけでなく郵送による申請にも対応している役場が多いです。
- (2) 主な必要書類:執行文付与申立書、強制執行認諾条項付の公正証書正本、本人確認資料(マイナンバーカードや運転免許証、または実印+印鑑登録証明書)。郵送の場合は返信用のレターパックプラスや書留用封筒を加えます。条件成就執行文では、これに事実到来・条件成就を証明する文書を添えます。
- (3) 送達の手続:強制執行の前提として、債務者に公正証書謄本等が送達されていることを証する「送達証明書」が必要です。作成時に送達済みでない場合は、執行文付与とあわせて公証役場で送達の申立てを行います。条件成就執行文では、執行文及び証明文書の謄本も債務者に送達しなければなりません(民事執行法29条)。
主な公証人手数料は、執行文の付与が2,000円、送達が1,600円、送達証明が300円、正本・謄本の交付が紙1枚につき300円です(いずれも2025年10月1日改正後の額)。これらを揃えたうえで、地方裁判所に対して債権差押命令などの強制執行を申し立てる流れになります。なお、裁判所への強制執行の申立書類そのものの作成は弁護士や本人が行う領域であり、行政書士の業務範囲ではありません。
離婚公正証書を作る段階で気をつけたいこと
執行文の付与をスムーズにする最大のポイントは、公正証書を作る段階で「単純執行文で動かせる条項」にしておくことです。具体的には、強制執行認諾文言が入っていること、金銭債権であること、金額が特定されていること、支払時期(分割払いの場合は始期と終期)が特定されていることが基本となります。条件や反対給付を安易に付けると、いざというときに条件成就執行文が必要になり、証明文書の準備や送達で手続が重くなります。
また、2026年(令和8年)4月1日に施行された改正民法により、共同親権の導入や、これまでの「面会交流」が「親子交流」へと整理されるなど、離婚後の子をめぐる定めの枠組みが変わりました。年金分割についても、2026年(令和8年)4月1日以降に離婚等をした場合は請求期限が原則として離婚等の翌日から5年に変更されていますが、同日前に離婚等をした場合は従前どおり原則2年以内とされています(年金分割の手続自体は年金事務所の所管です)。条項の文言は、こうした最新の制度をふまえて設計することが大切です。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、離婚協議書・離婚公正証書の原案作成と事実整理を承っています。将来の執行を見据え、当事者間で合意済みの養育費・財産分与・慰謝料などの金額・支払時期を文面上明確にし、できる限り単純執行文で対応できる条項に整える形で原案を作成します。公証役場との打合せに必要な資料の整理もお手伝いします。一方で、実際の差押え・取立てや相手方との交渉・慰謝料請求の代理は弁護士、不動産の名義変更登記は司法書士、年金分割の手続は年金事務所と、それぞれの専門家・窓口と連携してご案内します。
料金(いずれも税込)は、離婚協議書のミニマムプランが21,780円、スタンダードプランが27,500円、公正証書作成サポートプランが32,780円です。お急ぎの場合の超特急お急ぎサービスは+5,000円、代理人作成サポートは1名追加につき+15,000円です。詳しくは離婚協議書・公正証書作成サポートのご案内ページをご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
離婚公正証書で実際に差押えを行うには、強制執行認諾文言に加えて公証役場での執行文付与が必要です。確定期限・確定額の通常の給付なら単純執行文(民事執行法26条)で足り、手数料は2,000円。条件や反対給付に係る給付では条件成就執行文(同27条1項)となり、事実到来の証明文書と追加の送達が必要で、手数料は合計4,000円となります。執行をスムーズにする鍵は、公正証書を作る段階で条項を明確に特定しておくことです。当事務所は原案作成と事実整理の段階からお手伝いします。
執行文付与に関するよくある質問
Q:公正証書を作ってあれば、すぐに給与の差押えはできますか。
A:公正証書(強制執行認諾文言付き)があるだけでは差押えはできません。公証役場で執行文の付与を受け、債務者への送達証明を整えたうえで、地方裁判所に強制執行を申し立てる必要があります。
Q:単純執行文と条件成就執行文は、どちらが付くか自分で選べますか。
A:選べません。どちらになるかは公正証書の条項の書き方で決まります。確定期限・確定額の給付なら単純執行文、条件や反対給付に係る給付なら条件成就執行文(民事執行法27条1項)となります。だからこそ作成段階の条項設計が重要です。
Q:執行文付与にかかる費用はいくらですか。
A:公証人手数料は、執行文の付与が2,000円(条件成就・承継執行文等は+2,000円で合計4,000円)、送達が1,600円、送達証明が300円、正本・謄本の交付が紙1枚300円です(2025年10月1日改正後の額)。このほか裁判所に申し立てる強制執行の費用が別途かかります。
Q:将来の養育費もまとめて差し押さえられますか。
A:養育費のような扶養義務等に係る定期金債権については、民事執行法151条の2により、その一部に不履行がある場合、確定期限が到来していない将来分についても、各期限到来後に弁済期が到来する給与その他の継続的給付に係る債権に限って差押えの対象にできる仕組みが設けられています。具体的な可否は事案によりますので、執行段階では弁護士にご確認ください。
Q:相手が亡くなった場合や引っ越して住所が変わった場合はどうなりますか。
A:相続などで当事者が変わった場合は承継執行文(民事執行法27条2項)が必要になることがあります。住所変更があると送達手続に影響しますので、まず公正証書を作成した公証役場にご相談ください。当事務所でも前提となる事実整理をお手伝いします。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


