結論から言えば、戸籍をたどっても相続人が一人も見つからない、あるいは全員が相続放棄して相続人がいなくなった場合、その相続財産は宙に浮くのではなく、民法951条によって自動的に「相続財産法人」という法人格を取得します。そして家庭裁判所が選任する相続財産清算人が、その法人を清算していくことになります。私たち行政書士法人Treeは、行政書士の職域において戸籍収集・法定相続人の確認や相続関係資料の作成を行います。相続財産清算人選任申立てなどの家庭裁判所手続、登記及び税務については、それぞれ弁護士・司法書士・税理士へご相談いただくか、必要に応じて専門家をご案内します。本記事では、相続財産法人がいつ・どのように成立し、清算人選任から国庫帰属に至るまでの流れを、条文と実務に即して整理します。
目次
「相続人不存在」とはどのような状態か
「相続人のあることが明らかでない」とは、単に身寄りがない場合だけを指すものではありません。実務上は、次のような場面で問題になります。
- 戸籍をたどっても、配偶者、子や孫などの直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹またはおい・めいなどの代襲相続人のいずれも存在しない場合
- もともと相続人はいたが、その全員が相続放棄をして誰も相続人でなくなった場合
- 相続欠格や推定相続人の廃除により、相続権を持つ者がいなくなった場合
ここで注意したいのは、「推定相続人がいない=相続人不存在」とすぐに結論づけられるわけではない点です。被相続人の出生から死亡までの戸籍を連続して収集し、相続人となり得る者が本当に一人も存在しないことを確認して初めて、相続人不存在として扱えます。なお、相続人の所在が分からないだけで戸籍上は相続人が存在する「行方不明」のケースは、相続財産法人の問題ではなく、不在者財産管理人(民法25条)など別の制度で対応します。「不存在」と「不明」は混同しやすいため、戸籍調査による切り分けが出発点になります。
民法951条が定める「相続財産法人」の成立
民法951条は「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」と規定しています。重要なのは、この法人格が相続開始(被相続人の死亡)と同時に当然に成立する点です。会社設立のように設立登記や定款作成といった手続を経る必要はなく、要件を満たせば法律上自動的に「相続財産法人」が生じます。
なぜわざわざ財産そのものを法人にするのかというと、相続人がいない財産は、そのままでは権利義務の帰属主体が定まらず、債権者への弁済も、財産の処分も誰が行うのか不明確になってしまうからです。財産の集合体に法人格を与えることで、被相続人の債権者や受遺者に対する清算手続を、法的に整理された形で進められるようにしているわけです。あくまで清算を目的とした暫定的・過渡的な法人であり、清算が完了すれば消滅する性質のものです。
不動産がある場合、登記名義はいったん被相続人名義のままですが、清算人が選任されると、登記名義人を「亡○○相続財産」とする氏名変更登記を行う扱いになります。この登記実務は司法書士の職域であり、当事務所では司法書士と連携して対応します。
令和5年4月1日施行の改正と「清算人」への名称変更
かつてこの制度の管理人は「相続財産管理人」と呼ばれていました。令和3年の民法改正(令和5年4月1日施行)により、その職務が実質的に清算であることを踏まえ、相続人不存在の場面で選任される者の名称が「相続財産清算人」に改められました。条文上の用語が変わったため、改正前の書籍やインターネット上の古い記事では「相続財産管理人」と記載されている点に注意が必要です。
この改正の中心は、公告手続の合理化です。改正前は、(1)清算人選任の公告(2か月)、(2)相続債権者・受遺者への請求申出公告(2か月以上)、(3)相続人捜索の公告(6か月以上)という三段階の公告を順番に行う必要があり、権利関係の確定までに合計10か月以上を要していました。改正後は、清算人選任の公告と相続人捜索の公告を最初に同時に行い、その6か月以上の期間内に債権者・受遺者への請求申出公告を満了させる仕組みに整理されました。これにより、権利関係の確定に必要な期間がおおむね6か月程度に短縮されています。
相続財産清算人の選任申立て(民法952条)
相続財産法人は自動的に成立しますが、それを実際に動かす清算人は自動では決まりません。民法952条1項により、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって相続財産清算人を選任します。申立てができる「利害関係人」には、被相続人の債権者、特定遺贈を受けた受遺者、特別縁故者として財産分与を受けたい者などが含まれます。相続放棄者については、放棄時に相続財産を現に占有しているなど、具体的な事情により利害関係の有無が判断されます。
申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。裁判所が公表している申立費用の主なものは次のとおりです(令和5年4月1日改正後)。
| 項目 | 金額・内容 |
|---|---|
| 収入印紙(申立手数料) | 800円 |
| 連絡用の郵便切手 | 各家庭裁判所が定める額 |
| 官報公告料 | 5,582円(裁判所の指示後に納付) |
| 予納金 | 事案により数十万円〜100万円程度(財産の内容により異なる) |
予納金は、清算人の報酬や手続費用に充てるためのもので、相続財産から十分に費用を賄える見込みがある場合は不要となることもあります。逆に財産が乏しい場合は高額になりやすく、清算終了後に余りがあれば申立人に返還されます。申立てに際しては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、住民票除票、不動産登記事項証明書や預貯金残高証明書など、財産と相続人不存在を裏付ける資料の収集が前提になります。この戸籍収集・相続人調査の部分こそ、当事務所が継続的にお手伝いしている領域です。
選任後の清算手続と公告の流れ
清算人が選任されると、おおむね次の順序で手続が進みます。
- 清算人選任・相続人捜索の公告(6か月以上):家庭裁判所が、清算人を選任した旨と、相続人があるなら一定期間内に権利を主張すべき旨を公告します(民法952条2項)。この期間は6か月を下ることができません。
- 債権者・受遺者への請求申出公告(2か月以上):清算人が、相続債権者および受遺者に対し、一定期間内(2か月以上)に請求の申出をするよう公告します(民法957条)。この期間は、上記6か月の期間内に満了するように設定されます。
- 債権者・受遺者への弁済:申出のあった債権者・受遺者に対し、財産の中から弁済を行います。
- 相続人不存在の確定:6か月以上の捜索公告期間内に権利を主張する相続人が現れなければ、相続人の不存在が法的に確定します(民法958条)。
これらの公告は、いずれも官報により行われます。相続財産清算人には、事案に応じて弁護士や司法書士などが選任されることがあります。選任された清算人は家庭裁判所の監督の下で財産の管理・換価・弁済を行い、訴訟代理など資格上の制限がある業務については、必要に応じて弁護士等へ対応を依頼します。当事務所は、行政書士の職域である戸籍収集や相続関係資料の作成を担当し、家庭裁判所への申立書類作成や申立てについては弁護士・司法書士をご案内します。
特別縁故者への財産分与と国庫帰属(民法958条の2・959条)
相続人の不存在が確定しても、残った財産が直ちに国のものになるわけではありません。被相続人と特別の縁故があった人に財産が渡る道が用意されています。
民法958条の2は、(1)被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の配偶者など)、(2)被相続人の療養看護に努めた者、(3)その他被相続人と特別の縁故があった者に対し、家庭裁判所が相当と認めるときに、清算後に残った相続財産の全部または一部を分与できると定めています。この特別縁故者からの財産分与の申立ては、相続人捜索の公告期間(6か月以上)が満了した後、3か月以内に行わなければなりません。この3か月という期間は短く、見落とすと権利を失うため、内縁関係などで分与を受けたい立場の方は早めの準備が必要です。
特別縁故者への分与もされず、なお残った財産がある場合は、民法959条により、その残余財産は最終的に国庫に帰属します。共有持分については、特別縁故者への財産分与の有無などにより他の共有者へ帰属する場合もあるため、財産の性質や手続の結果によって帰趨が分かれます。一連の流れを時系列で整理すると次のようになります。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続開始時 | 相続財産が当然に法人化 | 民法951条 |
| 選任申立て | 家裁が清算人を選任・公告(6か月以上) | 民法952条 |
| 清算 | 債権者・受遺者へ公告・弁済 | 民法957条 |
| 不存在確定 | 捜索期間満了で相続人不存在が確定 | 民法958条 |
| 分与申立て | 満了後3か月以内に特別縁故者が申立て | 民法958条の2 |
| 国庫帰属 | 残余財産は国庫に帰属 | 民法959条 |
当事務所のサポート
相続財産法人や相続財産清算人が関わる場面では、まず「本当に相続人が一人もいないのか」を戸籍で正確に確定させることが、すべての手続の出発点になります。行政書士法人Treeでは、行政書士の職域において、被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍の収集、法定相続人の確認、相続関係を一覧化した資料の作成をお引き受けします。相続財産清算人選任申立てや特別縁故者への財産分与申立てに関する書類作成・手続については、弁護士または司法書士へご相談ください。相続人がいる通常のケースでは、遺産分割協議書の作成も承っております。料金の目安は、遺産分割協議書作成のミニマムプラン43,780円、スタンダードプラン87,780円、すべてお任せいただける丸投げプラン217,800円(いずれも税込)です。
なお、清算人選任の申立書作成は弁護士・司法書士、家庭裁判所への申立て代理は弁護士の職域です。相続登記は2024年4月1日から義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となります。登記申請の代理は司法書士、相続税申告は税理士の職域です。相続放棄の申述も家庭裁判所への手続であり、申述書等の裁判所提出書類の作成は弁護士・司法書士、申立ての代理は弁護士の職域となるため、行政書士はこれらを行えません。当事務所は戸籍収集・相続人調査・遺産分割協議書作成を担い、これらの専門家と連携して全体をつなぎます。詳しいプラン内容は遺産分割サポートのご案内ページをご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は民法951条により相続開始と同時に当然に「相続財産法人」となります。その清算を担うのが、令和5年4月1日施行の改正で「相続財産管理人」から名称が改められた相続財産清算人で、家庭裁判所が利害関係人または検察官の請求によって選任します(民法952条)。選任後は6か月以上の公告を経て相続人不存在が確定し、特別縁故者への分与(満了後3か月以内の申立て)を経て、なお残る財産は民法959条により国庫に帰属します。手続の入口である戸籍調査・相続人確定は当事務所が、申立て・登記・税務は各専門家が分担します。「身寄りがない方の財産」「相続放棄で誰もいなくなった財産」でお困りの際は、まず戸籍からの確認をご相談ください。
相続財産法人・相続財産清算人に関するよくある質問
Q:相続財産法人をつくるために設立登記は必要ですか。
A:必要ありません。民法951条により、相続人のあることが明らかでないときは、相続開始(被相続人の死亡)と同時に相続財産が当然に法人となります。会社のような設立登記や定款は不要で、要件を満たせば法律上自動的に成立します。
Q:相続財産管理人と相続財産清算人は何が違うのですか。
A:相続人不存在の清算手続については、令和3年の民法改正により、令和5年4月1日から旧称の「相続財産管理人」が「相続財産清算人」に改められました。ただし、現行民法には、相続人がいる場合などに相続財産を保存・管理する別制度として「相続財産管理人」も存在します。そのため、現在は両者を同じ制度として扱わず、相続人不存在の清算を行う者は「相続財産清算人」と表記する必要があります。
Q:相続財産清算人の選任は誰が申し立てられますか。
A:民法952条により、利害関係人または検察官が申し立てられます。利害関係人には、被相続人の債権者、受遺者、特別縁故者となり得る方、相続放棄をして財産の管理責任から解放されたい元相続人などが含まれます。申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
Q:手続にはどのくらいの費用がかかりますか。
A:申立てには収入印紙800円、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円が必要です。これに加えて、清算人の報酬や手続費用に充てる予納金として、事案により数十万円から100万円程度が求められることがあります。予納金は清算終了後に余りがあれば返還されます(令和5年4月1日改正後の取扱い)。
Q:内縁の配偶者ですが、相続人がいない夫の財産を受け取れますか。
A:可能性があります。生計を同じくしていた内縁の配偶者は、民法958条の2の特別縁故者として財産分与を申し立てられる場合があります。ただし申立ては相続人捜索の公告期間(6か月以上)が満了した後3か月以内に行う必要があり、期間が短いため早めの準備が重要です。分与の可否・範囲は家庭裁判所が判断します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


