防水工事業を営む会社で長年「営業所技術者(旧・専任技術者)」を務めてきた職人さんやベテラン社員が、高齢や体調を理由に引退する。これは多くの建設業者が直面する現実的な課題です。営業所技術者は建設業許可を維持するための必須要件であり、後任を立てられないまま空白が生じると、最悪の場合は許可の維持に支障が出ます。本記事では、行政書士の立場から、防水工事業(建設業法上の業種区分「防水工事業」)における営業所技術者の資格要件と、世代交代をスムーズに進めるための実務的な段取りを、令和6年12月13日施行の改正点も踏まえて整理します。建設業許可の各種申請・変更届の作成は当事務所がサポートできる業務です。
目次
「専任技術者」は令和6年12月から「営業所技術者等」に名称変更
まず前提となる用語の整理です。従来「専任技術者」と呼ばれていた、営業所ごとに常勤で配置が義務づけられる技術者は、令和6年(2024年)12月13日施行の改正建設業法により「営業所技術者等」へ名称が変更されました。「営業所技術者等」は、一般建設業許可における「営業所技術者」(建設業法第7条第2号)と、特定建設業許可における「特定営業所技術者」(同法第15条第2号)の総称です。
重要なのは、名称が変わっただけで、技術者として満たすべき資格・実務経験の要件そのものは変更されていないという点です。世代交代を検討するうえで、後任者が満たすべき基準は従来と同じと理解してかまいません。ただし申請書類や様式の表記は新名称に統一されているため、変更届を出す際は最新の様式を用います。
防水工事業の営業所技術者になれる資格・実務経験
防水工事業で営業所技術者(一般建設業許可)となるためには、次のいずれかを満たす必要があります。世代交代の後任候補が、このどれに当てはまるかを確認することが出発点です。
- 国家資格(施工管理技士):1級建築施工管理技士、または2級建築施工管理技士(仕上げ)
- 技能検定:1級防水施工技能士、または2級防水施工技能士(合格後3年以上の実務経験。ただし平成16年4月1日より前の合格者は1年以上)
- 指定学科+実務経験:所定の指定学科を卒業し、高校卒業の場合は卒業後5年以上、大学・高等専門学校卒業の場合は3年以上の防水工事に関する実務経験
- 実務経験のみ:学歴・資格を問わず、防水工事に関する10年以上の実務経験
現場たたき上げの職人さんが営業所技術者を務めてきた会社では、「10年以上の実務経験」で要件を満たしているケースが少なくありません。一方、後任が若手の場合は実務経験年数が足りないことも多く、その場合は技能検定の取得を計画的に進めるのが現実的です。
特定建設業許可の場合は要件が重くなる
下請に出す金額が大きく特定建設業許可を持っている(または取得を目指す)場合は、特定営業所技術者の要件はより厳しくなります。防水工事業では、1級建築施工管理技士などの1級国家資格者が代表的なルートです。1級国家資格を持たない場合でも、防水工事業は指定建設業ではないため、一般建設業の技術者要件(実務経験等)を満たす者について、元請として4,500万円以上の工事を施工した指導監督的実務経験2年以上を併せて証明するルートがあります。ただし証明資料の準備や行政庁の確認は重くなるため、世代交代で特定建設業許可を維持する場合は、早い段階で1級資格者の確保または指導監督的実務経験の証明可否を確認することが重要です。
令和6年12月改正で営業所技術者が現場を兼務できる場面が拡大
世代交代を考えるうえで知っておきたいのが、令和6年12月13日施行の改正で創設された営業所技術者等が一定の工事現場の主任技術者・監理技術者を兼務できる特例(専任特例)です。従来、営業所技術者は営業所での常勤専任が原則で、現場配置技術者との兼務は厳しく制限されていました。改正により、次のような要件をすべて満たす場合には兼務が可能になっています。
- 対象工事の請負契約金額が1億円未満(建築一式工事は2億円未満)であること
- 兼務できる工事現場は原則1現場であること
- 営業所と現場、または現場間の移動が一日で巡回可能で、移動時間が概ね2時間以内であること
- 当該工事の下請次数が3次までであること
- 情報通信技術(ICT)を活用して工事現場の施工体制を確認できる措置を講じ、現場には監理技術者等との連絡その他必要な措置を講じる者を配置すること
少人数で防水工事を回している会社では、ベテランが営業所技術者でありながら現場にも出ているのが実情です。この特例は、そうした実態に一定の合理性を与えるものですが、兼務には厳格な要件があり、人員の配置を示す計画書の作成・現場据置・保存なども必要です。世代交代の局面で「後任は現場も持たせたい」という場合は、要件適合の可否を個別に確認することをおすすめします。兼務特例の要件やICT活用の詳細については、別記事もあわせてご確認ください。
あわせて押さえたい令和7年2月の金額要件緩和
関連する改正として、令和7年(2025年)2月1日施行で各種金額要件が引き上げられました。防水工事業のような専門工事(建築一式工事以外)に関係する主なものは次のとおりです。世代交代後の体制を設計する際の判断材料になります。
| 区分(建築一式以外) | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 監理技術者・主任技術者の現場専任が必要となる請負金額 | 4,000万円 | 4,500万円 |
| 特定建設業許可が必要となる下請発注金額 | 4,500万円 | 5,000万円 |
| 施工体制台帳の作成が必要となる下請金額(民間工事で元請特定建設業者が作成する場合) | 4,500万円 | 5,000万円 |
金額要件が緩和されたことで、規模によっては現場専任や特定建設業許可が不要になるケースが広がりました。なお、施工体制台帳については、民間工事では上記金額が目安になりますが、公共工事では下請契約を締結した場合、金額にかかわらず作成が必要となる点に注意が必要です。世代交代の負担を抑えるうえでも、自社の工事規模が新しい基準のどこに位置するかを一度確認しておくと安心です。
空白期間を作らない世代交代の実務的な段取り
営業所技術者の交代で最も避けたいのは、退任と後任配置の間に「不在期間」が生じることです。許可業者は営業所ごとに常勤の技術者を置き続ける義務があるため、実務では次のような順序で進めます。
- 後任候補の要件確認:上記の資格・実務経験のどれで要件を満たすかを早期に確定する。資格取得が必要なら逆算してスケジュールを組む。
- 実務経験を証明する資料の準備:実務経験10年で立てる場合は、在籍期間や工事実績を示す書類(工事請負契約書・注文書・確認資料等)の収集が要になる。ベテランが在籍しているうちに整えておくのが重要。
- 後任の常勤性の確認:健康保険・厚生年金保険の資格確認書、資格情報のお知らせ、雇用保険関係書類、住民票、賃金台帳、出勤簿など、提出先の許可行政庁が求める常勤性確認資料を確認する。
- 変更届の作成・提出:交代が確定したら、許可行政庁へ営業所技術者の変更届を提出する(届出期限は変更があった日から2週間以内)。退任と新任のタイミングを重ね、空白を作らないよう調整する。
特に「実務経験で要件を満たす後任」への切替えは、証明資料の準備に時間がかかるため、引退の予定が見えた段階で前倒しに着手するのが安全です。建設業許可の変更届や業種ごとの技術者要件の整理については、当事務所が書類作成からサポートいたします。
営業所技術者の世代交代は、要件確認・資料収集・変更届の段取りを誤ると許可維持に直結する重要な手続です。「後任が要件を満たすか分からない」「実務経験の証明資料が揃うか不安」という防水工事業者の方は、お早めに当事務所へご相談ください。建設業許可の新規・更新・業種追加・変更届の作成を行政書士がサポートします。ご相談は何度でも無料です。建設業許可サポートの詳細はこちらをご覧ください。
まとめ
防水工事業の営業所技術者(旧・専任技術者)の世代交代では、(1)令和6年12月の名称変更後も資格・実務経験要件は不変であること、(2)後任が「1級・2級建築施工管理技士(仕上げ)」「防水施工技能士」「実務経験10年」などのどれで要件を満たすか、(3)現場兼務の特例や令和7年2月の金額要件緩和を踏まえた体制設計、(4)変更届で空白期間を作らない段取り、の4点が要点です。資料準備に時間を要するため、早めの準備が成功の鍵となります。
防水工事業の営業所技術者の世代交代に関するよくある質問
Q:営業所技術者が急に退職し、後任がまだ要件を満たしていません。どうなりますか。
A:営業所技術者は営業所ごとに常勤で配置する義務があり、不在の状態が続くと許可の維持に支障が生じます。要件を満たす後任を速やかに確保し、変更届を提出する必要があります。実務経験で要件を立てる場合は証明資料の準備に時間がかかるため、退職が見込まれる段階で早めに準備を始めることをおすすめします。
Q:後任が防水の実務経験10年で要件を満たす予定ですが、何を証明すればよいですか。
A:原則として、防水工事に関する10年以上の実務経験を、在籍期間と工事実績の両面から示す資料が必要です。具体的には工事の請負契約書・注文書や、その期間在籍していたことを裏づける資料などです。許可行政庁によって求める資料が異なるため、提出先の基準に沿って整えることが大切です。
Q:ベテランが営業所技術者をしながら現場にも出ています。改正で兼務できるようになったのですか。
A:令和6年12月13日施行の改正で、契約金額1億円未満(建築一式は2億円未満)・原則1現場・移動概ね2時間以内・下請3次まで・ICT活用や連絡員配置などの要件をすべて満たす場合に限り、営業所技術者等が現場の主任技術者等を兼務できる特例が創設されました。要件は厳格で人員配置計画書の作成等も必要なため、適合の可否は個別に確認が必要です。
Q:2級建築施工管理技士(仕上げ)を持つ社員を後任にできますか。
A:一般建設業許可の防水工事業であれば、2級建築施工管理技士(仕上げ)は営業所技術者の資格要件に該当します。ただし特定建設業許可の特定営業所技術者となるには原則1級資格や指導監督的実務経験が必要となるため、自社が一般か特定かで判断が変わります。
Q:世代交代と同時に建設業許可の更新時期が重なります。手続はどう進めますか。
A:技術者の変更届と更新申請は別の手続ですが、時期が近い場合は全体のスケジュールを一体的に管理すると効率的です。変更届で後任を確定させたうえで更新に臨むのが基本となります。期限や必要書類を整理し、空白や遅延が生じないよう段取りすることが重要です。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


