宅地建物取引業(宅建業)を始めるには、原則として主たる事務所(本店)について1,000万円、従たる事務所(支店)について1か所ごとに500万円の営業保証金を、本店最寄りの供託所(法務局)に供託しなければなりません(宅地建物取引業法第25条・第26条)。この供託と免許権者への届出を済ませた後でなければ、事業を開始することはできません。一方で、宅建業保証協会に加入すれば、本店60万円・支店30万円という大幅に少ない負担で開業できる仕組みもあります。当事務所(行政書士法人Tree)は宅建業免許の申請手続を数多くサポートしており、本記事では開業前に必ず押さえておきたい営業保証金の額・供託方法・期限・保証協会との違いを、行政書士の立場から実務目線で整理します。
目次
営業保証金とは|なぜ1,000万円が必要なのか
営業保証金とは、宅建業者と取引したお客様(取引相手)が、その取引によって損害を受けた場合に、その損害を弁済(還付)するための原資として、あらかじめ供託所に預けておくお金です。不動産取引は金額が大きく、消費者保護の必要性が高いことから、宅建業法は事業開始の前提として一定額の供託を義務づけています。
供託額は事務所の数で決まり、主たる事務所(本店)1,000万円、その他の事務所(支店)は1か所につき500万円です(宅地建物取引業法施行令第2条の4)。たとえば本店のみなら1,000万円、本店+支店1か所なら1,500万円、本店+支店3か所なら2,500万円となります。なお、ここでいう「事務所」は宅建業を継続的に営む施設を指し、案内所など一定の場所は含まれません。事務所に該当するか判断に迷う場合は、免許権者への確認が必要です。
本店・支店ごとの供託額(早見表)
| 事務所の構成 | 計算 | 供託すべき営業保証金 |
|---|---|---|
| 本店のみ | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 本店+支店1か所 | 1,000万円+500万円 | 1,500万円 |
| 本店+支店2か所 | 1,000万円+500万円×2 | 2,000万円 |
| 本店+支店3か所 | 1,000万円+500万円×3 | 2,500万円 |
免許取得後に支店を新設した場合は、その新設分(1か所500万円)を主たる事務所最寄りの供託所に追加で供託し、その旨を届け出た後でなければ、その支店での事業を開始できません。事務所の増設は供託額に直結するため、出店計画は資金計画と一体で検討することが大切です。
供託の方法|金銭・有価証券の取扱い
営業保証金は、本店の最寄りの供託所(法務局)に対して、金銭のほか一定の有価証券でも供託できます。有価証券で供託する場合、その評価額は券面額どおりではなく、種類に応じて次のように評価されます。
- 国債証券:額面金額の100%
- 地方債証券・政府保証債証券:額面金額の90%
- 国土交通省令で定めるその他の有価証券:額面金額の80%
そのため、有価証券のみで1,000万円分を満たすには、地方債なら額面で約1,112万円分が必要になるなど、種類によって用意すべき額面が変わります。金銭と有価証券を組み合わせて供託することも可能です。後述する保証協会へ納付する分担金は金銭のみで有価証券は使えない点と混同しないよう注意してください。
供託から事業開始までの流れと期限
新規免許を受けてから事業を開始するまでの基本的な流れは次のとおりです。
- (1) 免許の通知を受ける(この時点ではまだ営業できません)。
- (2) 営業保証金を供託する(本店最寄りの供託所へ)。
- (3) 供託した旨を免許権者に届出(供託書の写しを添付。国土交通大臣免許または都道府県知事免許)。
- (4) 事業開始。届出をした後でなければ事業を開始してはなりません。
期限にも注意が必要です。免許の通知を受けた日から3か月以内に供託・届出を行わないと、免許権者から「届出をすべき旨」の催告がなされ、その催告が到達した日から1か月以内に届出をしないと、免許を取り消されることがあります。せっかく取得した免許を失わないよう、資金準備と手続のスケジュールは余裕をもって組んでください。
還付・不足額の供託・取戻し
取引相手の損害について営業保証金から還付(弁済)が行われると、供託額が法定額を下回ります。この場合、免許権者からの通知を受けた日から2週間以内に不足額を供託し、さらに供託した日から2週間以内にその旨を免許権者に届け出る必要があります。供託額を常に維持することが求められる仕組みです。
反対に、廃業や一部事務所の廃止などで供託金を取り戻す(取戻し)場合は、原則として官報による公告を行い、公告で定めた6か月以上の期間内に権利者からの還付請求(申出)がなかったときに取戻しが可能になります(宅地建物取引業法第30条第2項)。取戻しには一定の期間と手続が必要なため、事業の縮小・撤退時にも計画的な対応が求められます。
保証協会に加入すれば負担を大幅に軽減できる
多くの宅建業者は、1,000万円の現金を供託する代わりに、宅地建物取引業保証協会(いわゆる「全宅(ハトマーク)」「全日(ウサギマーク)」の保証協会)に加入する方法を選んでいます。保証協会に加入すると、営業保証金の供託は免除され、代わりに「弁済業務保証金分担金」を協会へ納付します。
| 制度 | 本店 | 支店1か所 | 納付方法 |
|---|---|---|---|
| 営業保証金(供託) | 1,000万円 | 500万円 | 金銭または有価証券 |
| 弁済業務保証金分担金(保証協会) | 60万円 | 30万円 | 金銭のみ |
分担金は協会が一括して供託所に供託する仕組みのため、業者本人が供託所へ出向く必要はありません。なお、支店を新設した場合は、増設の日から2週間以内に支店1か所につき30万円を保証協会へ納付する必要があります。協会加入には別途、入会金や年会費等の費用がかかるため、自己供託と協会加入のどちらが適しているかは、開業形態や資金計画に応じて検討するとよいでしょう。宅建業免許の申請代行サポートページもあわせてご確認ください。
当事務所のサポート
宅建業の開業では、免許申請のほか、専任の宅地建物取引士の設置、事務所要件、そして本記事で解説した営業保証金・保証協会の選択など、検討すべき事項が多岐にわたります。行政書士法人Treeでは、宅地建物取引業免許の申請書類の作成・申請代行を行い、保証協会加入の段取りも含めて開業までを一貫してサポートします。当事務所では宅建業免許の知事免許申請代行を55,000円(税込)、大臣免許申請代行を110,000円(税込)、会社設立+知事免許のワンストップを110,000円(税込)で承っております(いずれも申請手数料等の実費は別途)。これから不動産業の開業をお考えの方は、ぜひ宅建業免許の申請代行サポートページからお気軽にお問い合わせください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
宅建業の営業保証金は、原則として主たる事務所(本店)1,000万円・従たる事務所(支店)1か所500万円を本店最寄りの供託所に供託する必要があり、供託・届出の後でなければ事業を開始できません。免許通知から3か月以内という期限にも注意が必要です。一方、保証協会に加入すれば本店60万円・支店30万円の分担金で済み、多くの業者がこちらを選択しています。供託か協会加入かは資金計画と事業規模を踏まえて判断し、開業手続全体は早めに準備を進めましょう。
宅建業の営業保証金に関するよくある質問
Q:本店だけで開業する場合、必ず1,000万円を用意しなければなりませんか。
A:営業保証金を自ら供託する方法では本店1,000万円が必要ですが、宅建業保証協会に加入すれば本店分の弁済業務保証金分担金は60万円で済みます。実務上は保証協会への加入を選ぶケースが大半です。
Q:営業保証金は現金でなければいけませんか。
A:金銭のほか、国債(額面の100%)、地方債・政府保証債(90%)、その他省令で定める有価証券(80%)でも供託できます。ただし保証協会へ納付する分担金は金銭のみで、有価証券は使えません。
Q:免許を受けたらすぐに営業できますか。
A:できません。営業保証金を供託し(または保証協会に加入し)、その旨を免許権者に届け出た後でなければ事業を開始できません。免許通知から3か月以内に届出をしないと、催告を経て免許が取り消されることがあります。
Q:支店を増やすと供託額はどうなりますか。
A:自己供託では支店1か所につき500万円を追加で供託し、届出後でなければその支店で事業を開始できません。保証協会加入の場合は、増設日から2週間以内に支店1か所につき30万円の分担金を納付します。
Q:廃業したら供託金はすぐ戻ってきますか。
A:すぐには戻りません。原則として官報で公告し、公告で定めた6か月以上の期間内に権利者からの還付請求(申出)がなかった場合に取り戻すことができます。一定の期間と手続が必要です。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


