給料を一部しか払ってもらえない、最低賃金を下回る額しか支払われない――こうした賃金未払いは、単なる民事上の未払い問題にとどまらず、刑事罰の対象となる法令違反です。賃金の全額払いを定める労働基準法24条に違反すれば30万円以下の罰金、地域別最低賃金を下回れば最低賃金法40条により50万円以下の罰金が科され得ます。両方に該当する事案では、それぞれが別個の犯罪として成立し得ます。本記事では、行政書士の立場から、賃金未払いを刑事告発する際の法的根拠・条文・手続の流れ、そして労基法違反と最賃法違反が重なる場合の考え方を、一次情報に基づき実務的に解説します。
目次
賃金未払いは「犯罪」になる――労基法24条と罰則
労働基準法24条は、賃金について5つの支払い原則を定めています。具体的には、(1)通貨で、(2)労働者に直接、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払う、という原則です。このうち賃金未払いで問題になりやすいのが全額払いの原則です。残業代を払わない、合意なく一方的に給与から天引きする、退職した従業員の最終給与を払わないといった行為は、いずれも24条違反となり得ます。
この24条に違反した場合、労働基準法120条1号により30万円以下の罰金が科され得ます。賃金未払いは民事の問題と考えられがちですが、法律上は明確に刑事罰が定められた違反行為である点を、まず押さえておく必要があります。
最低賃金を下回る支払い――最低賃金法40条の罰則
支払額が地域別最低賃金を下回る場合は、さらに最低賃金法の問題になります。最低賃金法4条1項は、使用者に対し最低賃金額以上の賃金を支払う義務を課しており、これに違反した場合、同法40条により50万円以下の罰金が定められています(地域別最低賃金および船員に適用される特定最低賃金に係るものに限ります)。
地域別最低賃金は毎年改定されます。令和7年度(2025年度)の改定では、全国加重平均額が1,121円(前年度1,055円)となり、47都道府県すべてで1,000円を超えました。最低額は1,023円、最高額は東京都の1,226円で、新しい金額は2025年10月1日から2026年3月31日までの間に都道府県ごとに順次発効し、現在は全都道府県で発効済みです。自分の賃金が最低賃金を下回っていないか確認する際は、勤務地の都道府県の最新額を必ず確認してください。
なお、最低賃金法には両罰規定(同法42条)があり、違反行為をした個人(代表者・従業者など)を罰するほか、その法人または事業主に対しても罰金刑を科すことができます。労働基準法にも同様の両罰規定(121条)があります。
労基法24条違反と最賃法違反が同時に問題となる場合
賃金未払いの事案では、一つの行為が複数の法令違反に同時に該当することがあります。たとえば、最低賃金を下回る額しか支払わなかった場合、最低賃金との差額は未払賃金となり、労働基準法24条(全額払い)違反であると同時に、最低賃金法4条1項違反でもある、という構成が考えられます。
これらは異なる法律で定められた別個の罰則であり、事案によっては複数の法令違反が同時に問題となります。告発する側としては、「全額払い違反」と「最低賃金法違反」を切り分けて、どの行為がどの条文に関係するのかを整理しておくと、捜査機関に事実関係が伝わりやすくなります。ただし、最終的にどの罪で立件・起訴し、罪数や量刑をどのように判断するかは捜査機関・検察官・裁判所の専権事項であり、具体的な刑の見込みや量刑に関する判断・助言は弁護士の業務領域です。当事務所は、刑の見込みについての助言は行わず、事実関係を正確に記載した告発書面の作成という形でサポートします。
| 違反する法令 | 主な内容 | 罰則 |
|---|---|---|
| 労働基準法24条 | 賃金の全額払い等(5原則)違反 | 30万円以下の罰金(120条1号) |
| 最低賃金法4条1項 | 地域別最低賃金を下回る支払い | 50万円以下の罰金(40条) |
「告発」とは何か――告訴・労基署申告との違い
賃金未払いを刑事手続にのせる方法として、告発と告訴があります。告訴は犯罪の被害者など一定の者が行うものであるのに対し、告発は刑事訴訟法239条1項により「何人でも」行うことができます。賃金未払いの被害を受けた労働者本人だけでなく、事実を知った第三者も告発が可能です。
労働基準法違反・最低賃金法違反は親告罪ではないため、被害者の告訴がなくても捜査・起訴は可能です。告発は、捜査機関に犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示として、捜査の端緒(きっかけ)となる重要な書面です。賃金未払いのように使用者の対応が悪質・継続的な場合に、行政指導だけでなく刑事責任の追及を求める手段として用いられます。
賃金未払いは労基署・警察のどこへ相談・告発するのか
労働基準関係法令違反の捜査は、警察だけでなく労働基準監督官も担っています。労働基準監督官は、労働基準法違反については労働基準法102条、最低賃金法違反については最低賃金法33条により、特別司法警察職員(司法警察員)としての職務を行い、告訴・告発を受けた事件などについて刑事訴訟法による捜査を行い、事件を検察庁へ送致します。実務上は、労働基準監督署への申告(労基法104条・最低賃金法34条)や告発を端緒に監督・指導が行われ、悪質・重大なケースが送検に至ります。厚生労働省の公表によれば、労働基準関係法令違反の送検件数は近年でも年間数百件規模に上っています。
告発の進み方の一例は次のとおりです。
- 証拠の収集(雇用契約書、就業規則、タイムカード・勤怠記録、給与明細、賃金台帳、未払い額の計算根拠、督促のやり取り等)
- 事実関係の整理(いつ・誰が・いくら・どの賃金を支払わなかったか、最低賃金を下回るか)
- 告発書面の作成(違反事実と該当条文を特定して記載)
- 警察署または労働基準監督署への提出・相談
- 捜査機関による受理・捜査、検察庁への送致
告発が受理されるかどうかは、犯罪事実が具体的に特定され、証拠によって裏づけられているかが大きく影響します。「給料が支払われない」という抽象的な訴えにとどまらず、未払いの期間・金額・根拠を客観的資料で示すことが重要です。なお、告発状を作成して提出する場合、その提出先は警察署長宛てとするのが基本です。
当事務所がサポートできること
行政書士は、事実証明に関する書類の作成を業務とすることができ、賃金未払いに関する告発状(警察署長宛て)や被害届などの書面作成をお手伝いできます。具体的には、ご事情のヒアリング、未払いの期間・金額・支払状況などの事実関係の整理、添付資料候補の整理、そして警察署長宛ての告発書面の作成です。
一方で、使用者に対する未払賃金の請求・交渉・示談や、量刑の見通しに関する助言は弁護士の業務です。また、個別労働関係紛争のあっせん等の手続代理(特定社会保険労務士)や労務管理・労働社会保険関係の手続は社会保険労務士、登記は司法書士など、他士業の業務にわたる場合もあります。これらが必要な場面では、提携する弁護士・社会保険労務士等の専門家と連携してご案内します。書面作成は当事務所が、法的代理や交渉は弁護士が、というように役割を分担することで、適正な手続を進めることができます。
賃金未払いの刑事告発をお考えの方、まず何から準備すべきか分からない方は、告訴・告発状作成サポートのページをご覧ください。当事務所では、告発状・告訴状・被害届の作成を承っており、料金はスタンダードプラン38,280円(税込)、お急ぎ特急プラン49,280円(税込)です。不受理時の公安委員会への申立書作成オプション(33,000円・税込)もご用意しています。検察審査会への審査申立てそのものの代理・対応は弁護士の業務となるため、必要な場合は提携する弁護士をご案内します。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
賃金未払いは、労働基準法24条(全額払い)違反として30万円以下の罰金、最低賃金法4条1項違反として50万円以下の罰金が科され得る、れっきとした法令違反です。最低賃金を下回る支払いは両法に同時に該当し得るため、事実と条文を整理して告発に臨むことが大切です。告発は刑事訴訟法239条により誰でも行うことができ、労働基準監督官は特別司法警察職員として捜査・送致を担います。証拠を整え、違反事実を具体的に特定することが受理への近道です。書面作成は行政書士、法的代理・交渉は弁護士と、専門家の役割を踏まえてご準備ください。
賃金未払いの刑事告発に関するよくある質問
Q:賃金未払いで会社を刑事告発できるのは被害を受けた本人だけですか。
A:いいえ。告発は刑事訴訟法239条1項により「何人でも」行うことができます。賃金未払いの被害を受けた労働者本人に限らず、事実を知った第三者も告発が可能です。なお、被害者本人が処罰を求める場合は告訴という方法もあります。
Q:労働基準法24条違反と最低賃金法違反は両方同時に成立しますか。
A:成立し得ます。最低賃金を下回る支払いは、未払賃金が生じている点で労働基準法24条の全額払い違反に当たると同時に、最低賃金法4条1項違反にも当たり得ます。両者は別個の罰則であり、複数の罪が問題となる構成が考えられます。最終的な立件・量刑の判断は捜査機関・裁判所が行います。
Q:告発はどこに提出すればよいですか。
A:労働基準監督署への申告・相談のほか、警察署長宛ての告発状提出が考えられます。労働基準監督官は、労働基準法違反については労働基準法102条、最低賃金法違反については最低賃金法33条により、特別司法警察職員として捜査できるためです。行政書士が作成する告発状という書面で提出する場合は、警察署長宛てとするのが基本です。提出先や進め方に迷う場合は、事前にご相談ください。
Q:受理されやすくするにはどうすればよいですか。
A:未払いの期間・金額・対象となる賃金の種類を具体的に特定し、雇用契約書・勤怠記録・給与明細・賃金台帳・督促の記録などの客観的証拠で裏づけることが重要です。抽象的な訴えではなく、どの行為がどの条文に当たるかを整理した書面にすることで、受理につながりやすくなります。
Q:賃金未払いの刑事告発に時効はありますか。
A:刑事責任を問うための公訴時効があります。労働基準法24条違反(120条1号・30万円以下の罰金)も最低賃金法4条1項違反(40条・50万円以下の罰金)も罰金刑であるため、公訴時効は犯罪行為が終わった時から3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。これは刑事手続上の期間であり、未払賃金そのものを民事で請求する権利の消滅時効(労働基準法115条)とは別に進行します。時間が経つほど証拠の確保も難しくなるため、未払いに気づいたら早めに資料を整えて準備することが大切です。
Q:行政書士はどこまで手伝ってくれますか。
A:事実関係の整理と、告発状(警察署長宛て)・被害届などの書面作成をお手伝いできます。使用者に対する未払賃金の請求・交渉・示談や量刑の見通しの助言は弁護士の業務、個別労働関係紛争のあっせん等の手続代理(特定社会保険労務士)や労務管理は社会保険労務士の領域となるため、必要に応じて提携する弁護士・社会保険労務士等と連携してご案内します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。