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相続人の廃除とは?推定相続人の廃除手続き・対象行為・効果を解説

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「長年にわたって虐待を受けてきた相手に、遺産を渡したくない」「親の財産を使い込んだ子どもに、相続させない方法はないのか」――こうした深刻な悩みに対応するために、民法には推定相続人の廃除(民法892条)という制度が用意されています。

結論から言えば、相続人の廃除とは、被相続人に対する虐待・重大な侮辱・著しい非行があった推定相続人について、家庭裁判所の審判を経て相続権(遺留分を含む)を剥奪できる制度です。ただし認容率は司法統計によると約20〜23%程度と低く、制度の利用には慎重な準備が必要です。

この記事では、相続人の廃除の要件・手続き・効果から、相続欠格との違い、よくある失敗まで、民法の条文と判例に基づいて解説します。

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相続人の廃除とは?制度の概要と法的根拠

相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待・重大な侮辱・著しい非行を行った場合に、被相続人の請求によって家庭裁判所がその相続権を剥奪する制度です(民法892条)。

通常、遺留分を有する相続人(配偶者・子・直系尊属)には、被相続人の意思だけでは排除できない最低限の取り分(遺留分)が保障されています。遺言で「全財産を第三者に遺贈する」と書いたとしても、遺留分侵害額請求によって一定の取り分が確保されるのが原則です。

しかし、被相続人に対して深刻な虐待や背信行為を行った相続人にまで遺留分を認めることは、社会的に不合理といえます。そこで民法は、被相続人自身の意思に基づいて、家庭裁判所の審判により遺留分を含む相続権を剥奪する手段として廃除制度を設けています。

廃除の対象は「遺留分を有する推定相続人」のみ

廃除の対象となるのは、遺留分を有する推定相続人に限られます。具体的には、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属(父母・祖父母)です。

兄弟姉妹には遺留分がないため、相続させたくない場合は遺言で別の人に遺贈すれば足り、わざわざ廃除の手続きを取る必要がありません。この点は誤解が多いポイントです。

推定相続人 遺留分 廃除の対象 遺言で排除可能か
配偶者 あり 対象 遺留分侵害額請求される
子(代襲相続人含む) あり 対象 遺留分侵害額請求される
直系尊属(父母等) あり 対象 遺留分侵害額請求される
兄弟姉妹 なし 対象外 遺言で排除すれば足りる

廃除が認められる3つの要件とは?

民法892条が定める廃除事由は、以下の3つに限定されています。家庭裁判所は、これらの事由が「被相続人と推定相続人の間の家族的共同生活関係を破壊し、相続的協同関係を維持しがたいほどに重大」であるかを総合的に判断します。

要件1: 被相続人に対する虐待

被相続人に対して身体的・精神的な暴力を繰り返し加える行為です。単発の些細なトラブルではなく、継続的かつ深刻な虐待が求められます。

裁判例では、被相続人(60歳以上)に対して少なくとも3回にわたり暴力をふるい、全治3週間を要する両側肋骨骨折・左外傷性気胸等の傷害を負わせて入院治療を余儀なくさせた事案で、虐待に該当するとして廃除が認められています(大阪高裁)。

要件2: 被相続人に対する重大な侮辱

被相続人の名誉や人格を著しく傷つける言動がこれに当たります。一過性の口論ではなく、反復継続的で被相続人の精神的安定を根本から害するレベルが必要です。

東京高裁の判例では、息子が母親に対して「80まで生きれば十分だ。だから、早く死んでしまえ」「病気になって早く死ね」「火事で死ねばいい」などの発言を繰り返した事案で、一過性のものではないとして重大な侮辱に該当すると認定されています。

要件3: 推定相続人のその他の著しい非行

虐待・重大な侮辱以外に、相続的共同関係を破壊するほどの著しい非行全般を指します。具体的には、以下のような行為が該当し得ます。

  • 被相続人の財産の無断使い込み・横領
  • 被相続人に多額の借金を肩代わりさせる行為
  • 長期間の音信不通・遺棄
  • 犯罪行為による服役
  • 反社会的勢力への加入
  • 被相続人の財産を対象とした虚偽の契約書の作成

大阪高裁の判例では、被相続人から管理を任されていた収入資産を横領してギャンブルにつぎ込み、被相続人に多額の借入れや自宅の売却を余儀なくさせた事案で、著しい非行として廃除が認められています。

生前廃除と遺言廃除はどう違う?2つの手続き方法

相続人の廃除には、生前廃除(民法892条)と遺言廃除(民法893条)の2種類があります。それぞれの特徴を比較します。

比較項目 生前廃除(民法892条) 遺言廃除(民法893条)
申立人 被相続人本人 遺言執行者
申立時期 被相続人の生前 被相続人の死亡後(遺言の効力発生後)
管轄 被相続人(申立人)の住所地の家庭裁判所 相続が開始した地の家庭裁判所
遺言執行者 不要 必要(遺言執行者の選任が前提)
効力の発生時期 審判確定時 被相続人の死亡時に遡及
被相続人の出廷 必要な場合がある 不要(死亡後のため)
メリット 生前に確実に結論が出る 対象者との生前の対立を避けられる
デメリット 対象者との関係が決定的に悪化する 認められるか死後まで不確定

生前廃除の流れ

被相続人が自ら家庭裁判所に「推定相続人廃除の審判」を申し立てる方法です。家庭裁判所は廃除事由の有無を審理し、認容されれば相続権が確定的に剥奪されます。審判が確定した後、10日以内に市区町村役場へ廃除届を提出し、対象者の戸籍に廃除の事実が記載されます。

遺言廃除の流れ

被相続人が遺言書に廃除の意思を記載し、死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に申し立てる方法です(民法893条)。遺言廃除の場合、廃除の効力は被相続人の死亡時に遡って生じます。

遺言廃除を利用するには、遺言書の中に「推定相続人○○を廃除する」旨の記載と、廃除事由の具体的な記述が必要です。また、遺言執行者の指定も欠かせません。遺言執行者が指定されていない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる必要が生じ、手続きが複雑になります。

遺言廃除では、被相続人の死後に遺言執行者が証拠を集めて申し立てることになるため、生前に証拠や事実関係を整理しておくことが極めて重要です。遺言書には廃除事由をできるだけ具体的に記載し、裏付けとなる証拠(診断書・写真・録音等)も別途保管しておくことが望ましいとされています。

廃除の手続きに必要な書類と費用

申立てに必要な書類

  • 推定相続人廃除の審判申立書
  • 申立人(被相続人)の戸籍謄本
  • 廃除対象者(相手方)の戸籍謄本
  • 廃除事由を裏付ける証拠資料(診断書・写真・メール・録音記録・警察への相談記録など)

費用の目安

費目 金額
収入印紙 800円(推定相続人1人につき)
連絡用の郵便切手 家庭裁判所により異なる(概ね数百円〜数千円程度)
戸籍謄本等の取得費用 1通450円〜750円程度

裁判所に納める費用自体は低額ですが、廃除の申立ては法的に高度な手続きであり、弁護士に手続きの代理を依頼するか、司法書士に審判申立書の作成を依頼するケースが大半です。その場合は別途専門家への報酬が発生します。

なお、行政書士は審判申立書の作成代理を行うことはできませんが、遺言書の作成支援は行政書士の業務範囲に含まれます。遺言廃除を検討される場合は、遺言書の文案作成や公正証書遺言の手続きサポートでお力になれます。

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廃除の効果と代襲相続の関係

廃除が確定するとどうなる?

廃除の審判が確定すると、対象となった推定相続人は以下の権利を全て失います。

  • 相続権: 被相続人の遺産を相続する権利が消滅
  • 遺留分侵害額請求権: 遺留分に基づく金銭請求もできなくなる

廃除の事実は対象者の戸籍に記載されます。これにより、相続開始時に廃除の有無を戸籍から確認できる仕組みになっています。

廃除されても代襲相続は発生する

ここで注意が必要なのは、廃除された人の子(被相続人から見て孫)がいる場合、その子が代襲相続人として相続権を取得する点です(民法887条2項)。廃除はあくまで「その人個人」の相続権を剥奪するものであり、その子や孫には影響しません。

たとえば、被相続人Aが子Bを廃除した場合、Bの子(Aの孫)Cが代襲相続人としてBの相続分を取得します。Cに遺産を渡したくない場合には、別途遺言で対応する必要があります。

相続人の廃除と相続欠格の違い

相続権を失う制度としては、廃除のほかに相続欠格(民法891条)があります。混同されやすいため、両者の違いを整理します。

比較項目 相続人の廃除(民法892条・893条) 相続欠格(民法891条)
発生要件 虐待・重大な侮辱・著しい非行 殺人・遺言書の偽造等(5事由)
効力の発生 家庭裁判所の審判確定が必要 法律上当然に発生(手続き不要)
被相続人の意思 必要(被相続人が請求する) 不要(法律上当然に失う)
取消し 可能(民法894条) 不可
戸籍の記載 あり なし
代襲相続 発生する 発生する
対象者 遺留分を有する推定相続人のみ 全ての相続人

相続欠格の5つの事由(民法891条)

相続欠格は、以下の重大な行為をした者が法律上当然に相続権を失う制度です。

  1. 故意に被相続人または先順位・同順位の相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者
  2. 被相続人が殺害されたことを知りながら告発・告訴しなかった者
  3. 詐欺・強迫によって被相続人の遺言の作成・撤回・変更を妨げた者
  4. 詐欺・強迫によって被相続人に遺言を作成・撤回・変更させた者
  5. 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者

相続欠格は殺人や遺言書の偽造など極めて重大な行為に限られるのに対し、廃除は被相続人に対する虐待・侮辱・非行という比較的広い事由が対象です。ただし、廃除には家庭裁判所の審判が必要であり、被相続人自身の積極的な申立てが欠かせない点で手続き上のハードルがあります。

廃除の取消しは可能?取消し手続きの概要(民法894条)

一度廃除が認められた後でも、被相続人はいつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法894条1項)。また、遺言によって廃除の取消しの意思を表示することも可能です(同条2項)。

たとえば、廃除後に推定相続人が行いを改め、被相続人との関係が修復された場合には、取消しの審判を申し立てることで相続権を回復させることができます。廃除の取消しが確定すると、その推定相続人は相続人としての地位を回復します。

なお、取消しの請求ができるのは被相続人本人のみであり、廃除された推定相続人自身が取消しを請求することはできません。この点は見落とされやすいポイントです。

廃除の申立てでよくある失敗と注意点

廃除は認容率が低い手続きであるため、以下のような失敗や注意点を事前に把握しておくことが重要です。

証拠の不十分さで却下されるケース

廃除の申立てが却下される最大の原因は、廃除事由を裏付ける証拠の不足です。「虐待を受けた」「ひどいことを言われた」という被相続人の主張だけでは不十分で、診断書・録音・メール・第三者の証言など客観的な証拠が不可欠です。

一時的な家族間の対立では認められにくい

親子間・夫婦間の一時的な口論や感情的な対立は、通常、廃除事由としては認められません。家庭裁判所は「家族的共同生活関係を維持しがたいほどに重大」であることを求めるため、反復継続的な行為の立証が必要です。

遺言廃除で遺言執行者を指定し忘れる

遺言で廃除の意思を記載しても、遺言執行者を指定していなければ、死後に家庭裁判所で遺言執行者選任の手続きが別途必要になります。これにより手続きの開始が大幅に遅れる可能性があります。遺言廃除を行う場合は、必ず同一の遺言書内で遺言執行者も指定しておきましょう。

代襲相続への対策が漏れる

前述のとおり、廃除された者の子(孫)は代襲相続人となります。「あの子どもに渡したくない」という意図であっても、その子ども(孫)への相続までは阻止できません。孫への相続を避けたい場合は、別途遺言で具体的な遺産の配分を指定する必要があります。

審判申立書の作成を自力で行おうとする

推定相続人廃除の審判は、民事訴訟に準じた高度な法的手続きです。申立書には廃除事由を法的に整理して記載する必要があり、証拠の選定・提出方法にも専門的な判断が求められます。弁護士または司法書士への依頼を強くお勧めします。

よくある質問

Q. 相続人の廃除をすれば、その人には一切遺産が渡らないのですか?

廃除された本人は相続権を完全に失い、遺留分侵害額請求もできなくなります。ただし、廃除された人に子がいる場合は、その子が代襲相続人として遺産を取得する可能性があります。代襲相続まで阻止するには、別途遺言で対策する必要があります。

Q. 廃除の申立ては弁護士に依頼しなければできませんか?

法律上は被相続人本人が申立てをすることも可能です。しかし、廃除の認容率は司法統計によると約20〜23%程度と低く、廃除事由の法的な整理や証拠の提出方法に専門知識が求められるため、弁護士への依頼が現実的です。行政書士は審判申立ての代理はできませんが、遺言廃除を見据えた遺言書の作成支援は可能です。

Q. 生前廃除と遺言廃除のどちらを選ぶべきですか?

確実性を重視するなら生前廃除が適しています。生前に審判の結論が出るため、廃除が認められるかどうかを本人が確認できます。一方、対象者との関係悪化を避けたい場合や、本人が高齢で裁判所への出廷が困難な場合は、遺言廃除が選択肢になります。

Q. 一度廃除した相続人を元に戻すことはできますか?

はい、可能です。民法894条に基づき、被相続人はいつでも家庭裁判所に廃除の取消しを請求できます。取消しの審判が確定すれば、その推定相続人は相続権を回復します。なお、遺言によって取消しの意思を表示することもできます。

Q. 相続欠格と廃除は併用できますか?

相続欠格は法律上当然に相続権を失う制度であり、廃除は被相続人の意思に基づく制度です。両方の事由に該当する場合、相続欠格が優先して適用されるため、改めて廃除の申立てをする実益は通常ありません。相続欠格に該当しない行為について廃除を検討する、という使い分けが一般的です。

まとめ

相続人の廃除は、遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪できる強力な制度です。制度のポイントを整理します。

  • 廃除事由: 虐待・重大な侮辱・著しい非行の3つ(民法892条)
  • 手続き: 生前廃除(本人が申立て)と遺言廃除(遺言執行者が申立て)の2種類
  • 効果: 相続権と遺留分侵害額請求権の喪失。ただし代襲相続は発生する
  • 認容率: 約23%と低く、客観的な証拠の準備が不可欠
  • 取消し: 被相続人はいつでも取消し可能(民法894条)
  • 相続欠格との違い: 廃除は被相続人の意思+家裁の審判が必要、欠格は法律上当然に発生

廃除は行使のハードルが高い制度ですが、遺言だけでは遺留分の壁を超えられない場面で有効な手段です。遺言廃除を検討される場合は、廃除事由の具体的な記載と遺言執行者の指定を含む遺言書を作成しておくことが重要です。

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