契約書

事業承継に必要な契約書一覧|株式譲渡・事業譲渡・合併の書類を解説

更新: 約15分で読めます

「事業承継を検討しているが、どんな契約書を準備すればいいのか分からない」――中小企業の経営者やその後継者にとって、承継手続きで必要となる書類の全体像をつかむことは最初の重要なステップです。

結論から言えば、事業承継の方法は大きく株式譲渡・事業譲渡・合併・親族内承継の4パターンに分かれ、それぞれ必要な契約書が異なります。本記事では、各承継方法で作成すべき契約書の種類・主要な記載事項・作成時の注意点を網羅的に整理しました。

なお、契約書の作成は行政書士が対応できる業務です。一方、株式や不動産の移転登記は司法書士、税務申告は税理士、法的紛争が生じた場合は弁護士の業務範囲となりますので、それぞれの専門家との連携が重要です。

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事業承継の4つの方法と必要書類の全体像

事業承継の手法は、会社の規模・後継者の有無・税務上の有利不利によって選択が異なります。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、早期の準備と専門家への相談が推奨されています。

まず、各方法で必要となる主な契約書の全体像を一覧で確認しましょう。

承継方法 概要 必要な主な契約書
株式譲渡 株式の売買により経営権を移転 秘密保持契約書(NDA)、基本合意書(LOI/MOU)、株式譲渡契約書(SPA)、株主間契約書
事業譲渡 事業の全部または一部を譲渡 事業譲渡契約書、競業避止義務に関する合意書、従業員の転籍同意書
合併 2社以上を1社に統合 合併契約書、株主総会議事録
親族内承継 子や親族へ贈与・相続で承継 贈与契約書(株式贈与)、遺留分特例の合意書、遺言書

以下のセクションで、それぞれの契約書について詳しく解説します。

株式譲渡で必要な契約書とは?

株式譲渡は、M&Aにおいて最も多く用いられる手法です。売り手の株主が保有する株式を買い手に売却することで、会社の経営権を移転します。会社の法人格はそのまま存続するため、取引先との契約や従業員の雇用関係に原則として影響が及ばない点がメリットです。

秘密保持契約書(NDA)

M&A交渉の最初に締結するのが秘密保持契約書(NDA: Non-Disclosure Agreement)です。交渉過程では財務情報・顧客情報・技術情報など機密性の高い情報を開示するため、情報漏洩を防止する目的で作成します。

主要な記載事項:

  • 秘密情報の定義と範囲
  • 情報の使用目的(M&A検討目的に限定)
  • 第三者への開示禁止
  • 契約終了後の情報返還・廃棄義務
  • 秘密保持義務の存続期間
  • 違反時の損害賠償条項

NDAは交渉決裂時にも効力を持つため、情報開示を行う前に締結しておくことが鉄則です。NDAの具体的な書き方については「秘密保持契約書(NDA)の書き方|テンプレート付きで解説」で詳しく取り上げています。

基本合意書(LOI/MOU)

基本合意書は、デューデリジェンス(DD)の前段階で交わす文書です。LOI(Letter of Intent)またはMOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれ、譲渡価格の概算・スケジュール・独占交渉権などの基本条件を確認します。

主要な記載事項:

  • 譲渡対象株式数と概算価格
  • デューデリジェンスの実施時期と範囲
  • 独占交渉権の有無と期間
  • 法的拘束力の範囲(秘密保持条項・独占交渉権は拘束力あり、その他は非拘束とするのが一般的)
  • 最終契約締結までのスケジュール

基本合意書全体に法的拘束力を持たせるかどうかは慎重に検討する必要があります。通常は秘密保持義務・独占交渉権・費用負担の条項のみ法的拘束力を持たせ、譲渡価格等はDD結果を踏まえて最終契約で確定させます。

株式譲渡契約書(SPA)

株式譲渡契約書(SPA: Share Purchase Agreement)は、株式譲渡の最終的な合意内容を定める最も重要な契約書です。DDの結果を反映し、譲渡条件を確定させます。

主要な記載事項:

  • 譲渡する株式の種類と数
  • 譲渡価格と支払方法・支払期日
  • クロージング条件(前提条件)
  • 表明保証条項(売主の財務状況・法令遵守等についての保証)
  • 補償条項(表明保証違反時の損害賠償)
  • 競業避止義務
  • 役員・従業員の処遇

表明保証条項は、DD後に発覚した問題への対応を定める重要な条項です。売主が保証した事実が虚偽であった場合、買主は補償を請求できるため、保証範囲と補償上限額を慎重に交渉する必要があります。

株主間契約書

複数の株主が存在する場合や、段階的に株式を譲渡する場合には株主間契約書を締結することがあります。議決権の行使方法・役員選任の合意事項・株式の処分制限などを定めます。

事業譲渡ではどのような契約書が必要か?

事業譲渡は、会社の事業の全部または一部を他の会社に譲り渡す手法です。株式譲渡と異なり、譲渡対象の資産・負債・契約関係を個別に選別できるため、買い手にとって不要な負債やリスクを切り離せる点が特徴です。ただし、会社法上、一定規模以上の事業譲渡には株主総会の特別決議が必要となります(会社法第467条)。

事業譲渡契約書

事業譲渡契約書は、譲渡する事業の範囲と条件を定める中核的な契約書です。株式譲渡と異なり、資産・負債・従業員・取引先との契約関係を一つひとつ特定する必要があるため、記載事項が多くなる傾向があります。

主要な記載事項:

  • 譲渡対象事業の範囲(具体的に特定)
  • 譲渡対象に含める資産・負債の一覧(別紙で詳細を添付することが多い)
  • 譲渡価格と支払条件
  • 従業員の引継ぎに関する取決め
  • 取引先との契約の承継方法
  • 許認可の再取得に関する事項
  • 表明保証・補償条項
  • クロージング条件

事業譲渡では、許認可が承継されない点にも注意が必要です。建設業許可・飲食店営業許可など事業に必要な許認可は、買い手が新たに申請・取得しなければなりません。

競業避止義務に関する合意書

会社法第21条により、事業譲渡をした場合、譲渡人は同一市区町村および隣接市区町村で20年間、同一の事業を行うことが制限されます。これは法定の競業避止義務ですが、当事者間の合意により期間を30年まで延長することも可能です(会社法第21条第2項)。一方、特約で競業避止義務を排除することもできます。

この合意書では、競業避止の範囲(地域・業種・期間)を当事者間で具体的に定めます。法定の範囲を変更する場合には、別途書面で合意しておくと後の紛争を防げます。

従業員の転籍同意書

事業譲渡では、株式譲渡のように雇用関係が自動的に承継されません。従業員を譲受会社に引き継ぐ場合は、従業員一人ひとりから転籍の同意を書面で取得する必要があります。

記載すべき事項:

  • 転籍先の会社名・所在地
  • 転籍後の労働条件(給与・勤務地・業務内容など)
  • 勤続年数の引継ぎの有無
  • 退職金の取扱い

従業員の同意なく転籍させることはできないため、十分な説明期間と選択の自由を確保することが重要です。同意を得られなかった従業員については、譲渡元企業での雇用継続や退職の手続きを進めることになります。

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事業承継に関わる契約書は種類が多く、記載漏れや条項の不備が後のトラブルにつながりかねません。行政書士法人Treeでは、事業承継に関連する各種契約書の作成を承っています。

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合併で必要な契約書・書類の一覧

合併は、2つ以上の会社を法的に1つに統合する手法です。吸収合併(存続会社が消滅会社を吸収)と新設合併(全当事会社が消滅し新会社を設立)の2種類があり、実務上は吸収合併が大多数を占めます。合併では消滅会社の権利義務が包括的に承継されるため、個別の資産・契約ごとに移転手続きを行う必要がありません。

合併契約書

合併契約書は、会社法第748条以降に定められた法定の記載事項を含む必要があります。吸収合併と新設合併で記載事項が異なるため、合併の形態に応じた条項を盛り込みます。

吸収合併の場合の主要記載事項(会社法第749条):

  • 存続会社および消滅会社の商号・住所
  • 消滅会社の株主に対する対価(存続会社の株式・金銭等)とその割当て
  • 効力発生日
  • 存続会社の定款変更事項(必要な場合)

合併契約書は、各当事会社の株主総会の特別決議による承認を受けなければ効力が生じません(会社法第783条・第795条)。

株主総会議事録

合併の承認には株主総会の特別決議が必要です。株主総会議事録は、決議の成立を証明する書面として登記申請にも使用されるため、正確に作成することが求められます。

記載すべき事項:

  • 開催日時・場所
  • 出席株主数と議決権数
  • 議案の内容(合併契約の承認)
  • 決議の結果
  • 議長・出席取締役の氏名

なお、合併に伴う登記手続き(変更登記・解散登記)は司法書士の業務範囲です。行政書士は合併契約書の作成を担当し、登記申請については司法書士と連携して進めます。

親族内承継に必要な契約書は?

後継者が経営者の子や親族である場合、株式の贈与・相続によって経営権を移転するケースが多くなります。中小企業ではこの親族内承継が依然として多い形態ですが、相続税・贈与税の負担が大きくなりやすいため、税制面の対策が重要です。

贈与契約書(株式贈与)

生前に後継者へ株式を贈与する場合には、贈与契約書を作成します。口頭でも贈与契約は成立しますが、書面化しなければ税務調査で贈与の事実を立証できず、相続財産に含められるリスクがあります。

株式贈与契約書の主要記載事項:

  • 贈与者(現経営者)と受贈者(後継者)の氏名・住所
  • 贈与する株式の種類・数量
  • 会社名・本店所在地
  • 贈与の実行日
  • 名義書換の手続き

株式の贈与では、非上場株式の評価額が高額になることがあります。評価方法は国税庁の「財産評価基本通達」に基づきますが、評価額の算定は税務の専門領域であり、税理士に確認することが望ましいでしょう。贈与契約書の一般的な書き方については「贈与契約書の書き方|不動産・金銭の贈与で必要な記載事項」もご参照ください。

経営承継円滑化法に基づく遺留分特例の合意書

後継者に株式を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。この問題に対応するため、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)では、遺留分に関する民法の特例が設けられています。

この特例には次の2つがあります。

特例の種類 内容
除外合意 後継者が贈与等により取得した株式を遺留分算定の基礎財産から除外する
固定合意 遺留分算定の基礎財産に算入する際の株式の価額を合意時点の価額に固定する

この合意書は、推定相続人全員の書面による合意が必要です。合意後は経済産業大臣の確認を受け、家庭裁判所の許可を得ることで効力が発生します。手続きの詳細は中小企業庁の「経営承継円滑化法による支援」のページで確認できます。

デューデリジェンス(DD)に関連する書類

M&Aによる事業承継(株式譲渡・事業譲渡・合併)では、最終契約の前にデューデリジェンス(DD: Due Diligence)を実施するのが一般的です。DDとは、買い手が対象会社の財務・法務・税務・労務等の状況を精査する調査手続きです。

DDで買い手側が開示を求める主な書類は以下のとおりです。

DD分野 開示を求められる主な書類
財務DD 決算書(3〜5期分)、税務申告書、勘定科目内訳書、月次試算表、資金繰り表
法務DD 登記簿謄本、定款、株主名簿、重要契約書一覧、訴訟・紛争の有無に関する報告書
税務DD 税務申告書・別表、税務調査の履歴、繰越欠損金の状況
労務DD 就業規則、賃金台帳、労使協定(36協定等)、社会保険加入状況
事業DD 事業計画書、主要取引先一覧、市場分析資料、知的財産権の一覧

DDの結果は最終契約書の内容(譲渡価格の調整、表明保証条項の範囲等)に直接影響するため、開示資料は正確かつ網羅的に準備することが求められます。なお、財務DD・税務DDは公認会計士や税理士、法務DDは弁護士が担当するのが通常です。

事業承継税制(特例承継計画)の概要

事業承継に伴う贈与税・相続税の負担を軽減するため、事業承継税制が設けられています。この制度は経営承継円滑化法に基づくもので、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税が猶予されます。

特例措置(特例承継計画)の主なポイントは次のとおりです。

  • 対象株式: 非上場株式の全てが納税猶予の対象
  • 猶予割合: 贈与税・相続税ともに100%猶予
  • 複数人への承継: 先代経営者以外からの贈与も対象。最大3人の後継者まで適用可能
  • 雇用確保要件: 実質的に弾力化されている(要件未達でも猶予継続が可能な場合がある)

特例承継計画の詳細や適用要件については、中小企業庁の「経営承継円滑化法による支援」のページで最新情報を確認してください。税額の計算や申告手続きは税理士の業務範囲ですので、制度の利用を検討する場合は税理士への相談が不可欠です。

事業承継の契約書でよくある不備・失敗

事業承継の契約書では、以下のような不備がトラブルの原因になりやすい傾向があります。制度上の事実に基づき、注意すべきポイントを整理します。

表明保証条項の範囲が曖昧

株式譲渡契約書や事業譲渡契約書における表明保証条項で、保証の範囲を「重大な点において正確」といった曖昧な文言にしてしまうケースがあります。何が「重大」にあたるかで争いになるため、具体的な金額基準(例: 100万円超の債務)を設定するなど、客観的な判断基準を明記することが望ましいです。

競業避止義務の範囲を定めていない

事業譲渡では会社法の法定規定があるものの、株式譲渡には法定の競業避止義務がありません。M&A後に売主が同種の事業を開始してしまうリスクを防ぐため、株式譲渡契約書でも競業避止条項(地域・期間・業種の範囲)を明確に定めておく必要があります。

従業員の転籍同意を事後的に取得しようとする

事業譲渡の場合、雇用関係は自動承継されないため、従業員の同意が必要です。クロージング直前に慌てて同意取得を進めると、十分な説明ができず従業員の反発を招くことがあります。事前に十分な説明期間を確保し、労働条件の変更有無を明示して同意を得ることが重要です。

贈与契約書を作成していない

親族内承継で株式を贈与する際に、書面を作成せずに名義変更だけ行ってしまうケースがあります。書面がないと、税務調査の際に贈与の時期・範囲を証明できず、相続財産に含めて課税されるおそれがあります。金額にかかわらず贈与契約書を必ず作成してください。

秘密保持契約書の締結を後回しにする

M&A交渉に入る前にNDAを締結していないと、交渉が不成立になった場合に開示済みの機密情報を保護する手段がなくなります。相手方に企業情報を開示する前に、必ずNDAを締結しておくべきです。

よくある質問

Q. 事業承継で最低限必要な契約書は何ですか?

A. 承継方法によって異なりますが、株式譲渡であれば最低限「秘密保持契約書」と「株式譲渡契約書」が必要です。事業譲渡では「事業譲渡契約書」、親族内承継では「贈与契約書」が中心になります。実務上はこれに基本合意書やDD関連の書類が加わるのが一般的です。

Q. 行政書士は事業承継の契約書を作成できますか?

A. はい。行政書士は権利義務に関する書類の作成が業務範囲であり、株式譲渡契約書・事業譲渡契約書・合併契約書・贈与契約書などの作成が可能です。ただし、登記申請は司法書士、税務申告は税理士、法的紛争の代理は弁護士の業務範囲となるため、必要に応じて各専門家との連携が求められます。

Q. 事業承継税制の特例承継計画はいつまでに提出が必要ですか?

A. 特例承継計画の提出期限については、制度の改正や延長が行われることがあるため、最新の期限は中小企業庁の公式ページで確認してください。計画の策定には認定経営革新等支援機関の所見が必要ですので、早めに税理士等の専門家に相談されることをおすすめします。

Q. 株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶべきですか?

A. 一概には言えませんが、株式譲渡は手続きがシンプルで会社全体を引き継ぐ場合に向いています。一方、事業譲渡は不要な資産・負債を切り離せるため、特定の事業部門だけを取得したい場合に適しています。税務上の影響も異なるため、税理士を含む専門家に相談のうえ判断するのが望ましいです。

Q. 事業承継の契約書に印紙税はかかりますか?

A. 事業譲渡契約書は印紙税法上の課税文書(第1号文書)に該当し、記載金額に応じた収入印紙の貼付が必要です。株式譲渡契約書については、株式の譲渡のみを内容とする場合は原則として不課税ですが、金銭の受領に関する記載がある場合などは課税される場合があります。合併契約書は印紙税法上の第5号文書に該当し、1通につき4万円の収入印紙が必要です。個別の判断は税務署に確認してください。

まとめ

事業承継で必要な契約書のポイントを整理すると、次のとおりです。

  • 株式譲渡: NDA → 基本合意書 → 株式譲渡契約書の順に作成。表明保証条項が最も重要
  • 事業譲渡: 譲渡対象の特定が肝心。従業員の転籍同意も忘れずに取得
  • 合併: 会社法の法定記載事項を網羅した合併契約書が必要。登記は司法書士に依頼
  • 親族内承継: 贈与契約書の作成は必須。経営承継円滑化法の遺留分特例も検討

事業承継の契約書は、会社の将来と関係者の利益に直結する重要書類です。各種契約書の概要は「契約書の種類一覧|行政書士が作成できる契約書と依頼すべきケース」でも紹介していますので、あわせてご確認ください。

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※ 本記事の内容は2026年4月時点の会社法・経営承継円滑化法等に基づく一般的な解説です。事業承継は個別の事情により適切な方法が異なります。登記手続きは司法書士、税務申告・税額の計算は税理士、法的紛争が生じた場合は弁護士にご相談ください。最新の制度情報は中小企業庁「事業承継」のページでご確認ください。

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