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認知症の患者数は増加の一途をたどっています。2024年5月に認知症施策推進関係者会議で公表された将来推計(老人保健事業推進費等補助金による研究班(九州大学・二宮利治教授ら))によると、2025年時点の認知症患者数は約471万6,000人、2040年には約584万人に達する見込みです(出典:厚生労働省「認知症およびMCIの高齢者数と有病率の将来推計」)。
結論から言えば、認知症になる前にやるべき法的手続きは次の5つです。
- 任意後見契約
- 財産管理等委任契約
- 遺言書の作成(公正証書遺言)
- 家族信託(民事信託)
- 死後事務委任契約
判断能力が低下した後では、これらの法律行為を行うことは極めて困難になります。銀行口座の凍結、不動産の処分不能、遺言の無効リスク――認知症がもたらす法的なリスクは想像以上に深刻です。60代のうちから備えを始めることで、ご自身やご家族の将来を確実に守ることができます。
※ 本記事の内容は2026年4月時点の民法・任意後見契約に関する法律・信託法等に基づく一般的な解説です。認知症の診断・治療に関しては医師にご相談ください。個別の法的手続きについては行政書士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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目次
なぜ認知症になると法律行為ができなくなるのか?
契約や遺言といった法律行為は、本人に「意思能力」(自分の行為の結果を理解する能力)があることが前提です。民法第3条の2では、意思能力を有しない者がした法律行為は無効とされています(参考:民法|e-Gov法令検索)。
認知症が進行して判断能力が著しく低下すると、この意思能力がないと判断される可能性が高くなります。具体的には、次のような深刻な問題が生じます。
- 銀行口座の凍結:金融機関が本人の判断能力低下を把握すると、口座からの出金や振込が停止される
- 不動産の売却・賃貸が不可能に:売買契約や賃貸借契約が締結できなくなる
- 遺言書の作成が困難に:遺言能力(遺言の内容を理解する能力)がないとして無効になりうる
- 保険の解約・変更ができない:本人以外が手続きできず、必要な資金を確保できない
- 介護施設の入所契約ができない:本人が契約当事者になれない
こうした事態に陥ってから慌てて対策を取ろうとしても、本人の意思を反映した手続きはもはや不可能です。後から利用できるのは、家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見制度」に限られますが、後見人を自分で選べない、財産の柔軟な活用が制限されるなど、多くの制約があります。
認知症になる前にやるべき5つの法的手続き【比較表付き】
以下の5つの手続きは、いずれも判断能力が十分にあるうちにしか行えません。まずは全体像を比較表で確認しましょう。
| 手続き | 主な目的 | 効力の発生時期 | 公正証書の要否 | 費用の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 任意後見契約 | 判断能力低下後の財産管理・身上監護 | 判断能力低下後(家庭裁判所への申立て後) | 法律上必須 | 公証人手数料1万3,000円+専門家報酬 |
| 財産管理等委任契約 | 判断能力低下前からの財産管理 | 契約締結後すぐ | 任意(推奨) | 公正証書にする場合は公証人手数料+専門家報酬 |
| 遺言書(公正証書遺言) | 財産の承継先の指定 | 本人の死亡後 | 公正証書遺言の場合は必須 | 公証人手数料(財産額による)+専門家報酬 |
| 家族信託 | 財産の管理・運用・処分の委託 | 契約締結後すぐ | 任意(推奨) | 30万〜100万円程度(専門家報酬含む) |
| 死後事務委任契約 | 死後の葬儀・届出・解約手続き等 | 本人の死亡後 | 任意(推奨) | 数万円〜(契約内容による) |
重要なのは、これらの手続きを単独ではなく組み合わせて活用することです。たとえば「任意後見契約+財産管理等委任契約+死後事務委任契約」の3点セットにすれば、元気なうちから亡くなった後まで切れ目のない備えが実現します。どの組み合わせが最適かは、ご本人の家族構成・財産状況・健康状態によって異なりますので、専門家への相談をおすすめします。
5つの手続きを詳しく解説
1. 任意後見契約 ― 認知症対策の柱となる制度
任意後見契約とは、将来の判断能力の低下に備えて、あらかじめ信頼できる人(任意後見受任者)に財産管理や身上監護を委任しておく契約です。「任意後見契約に関する法律」に基づき、必ず公正証書で作成する必要があります。
最大のメリットは、「誰に」「何を」任せるかを本人が自分で決められる点にあります。法定後見制度では家庭裁判所が後見人を選任するため、面識のない専門家が選ばれることもありますが、任意後見契約ではその心配がありません。
ただし、契約を結んだだけでは効力は発生しません。実際に判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立て、監督人が選任されて初めて効力が生じます。この「二段階の仕組み」を理解しておくことが重要です。
任意後見契約の公正証書作成にかかる法定費用は、公証人手数料1万3,000円、登記嘱託手数料1,600円、登記所への印紙代2,600円です。
制度の詳しい仕組みや手続きの流れについては「任意後見契約とは?制度の仕組み・手続きの流れを行政書士が解説」で解説しています。
2. 財産管理等委任契約 ― 元気なうちから使える「つなぎ」の契約
財産管理等委任契約は、判断能力に問題がない段階でも、信頼できる人に財産管理や生活上の事務を委任できる契約です。民法の委任契約の規定(民法第643条〜第656条)に基づきます。
任意後見契約との大きな違いは、契約締結後すぐに効力が生じる点です。加齢や体調の変化で銀行や役所への外出が難しくなった場合でも、受任者が代わりに手続きを行えます。
実務上よく見られるのが、この契約を任意後見契約とセットで結ぶ「移行型」と呼ばれる方式です。判断能力が十分なうちは財産管理等委任契約で、低下した後は任意後見契約で――と、切れ目なくサポートを受けられる体制が整います。
財産管理等委任契約の仕組みと活用法については別記事で詳しく解説しています。
3. 遺言書の作成 ― 認知症リスクが高まる前に
遺言書は、自分の財産を「誰に」「どのくらい」残すかを法的に有効な形で書き残す文書です。遺言書がない場合、相続人全員による遺産分割協議が必要となりますが、相続人の中に認知症の方がいると法定後見人の選任が必要となり、手続きが大幅に複雑化・長期化します。
認知症への備えとして遺言書を作成するなら、公正証書遺言が最も安全です。公証人が本人の意思能力を確認したうえで作成するため、後日「認知症だったから遺言は無効だ」と争われるリスクを大幅に低減できます。自筆証書遺言は、作成時の本人の判断能力が後から問題視されやすいという弱点があります。
なお、遺言書はあくまで「死後」の財産承継を定めるものであり、生前の財産管理には対応できません。そのため、任意後見契約や家族信託と組み合わせて活用するのが理想的です。
遺言書の種類ごとの違いについては「遺言書の種類と選び方|自筆証書・公正証書・秘密証書の比較」をご覧ください。
4. 家族信託(民事信託) ― 柔軟な財産管理が可能
家族信託は、信託法に基づき、信頼できる家族に財産の管理・処分を委託する仕組みです。たとえば、親(委託者兼受益者)が子(受託者)に不動産を信託し、子が管理・売却の判断を行いながら、その利益は親が受け取る――といった設計が可能です。
家族信託の大きなメリットは、後見制度では難しい「積極的な資産運用・処分」ができる点です。任意後見人の基本任務は本人の財産を「守る」ことであり、不動産の売却や投資には制約が伴います。一方、家族信託では、信託契約で定めた範囲内で受託者が柔軟に財産を動かせます。
ただし、家族信託には限界もあります。身上監護(介護サービスの契約や施設入所手続きの代理)には対応できないため、家族信託と任意後見契約を併用するのが実務上の理想形とされています。また、信託契約の設計には専門的な知識が必要であり、費用も比較的高額になる傾向があります。
5. 死後事務委任契約 ― 亡くなった後の手続きを確実に
死後事務委任契約は、自分が亡くなった後に必要となる各種手続きを、あらかじめ第三者に委任しておく契約です。具体的には、葬儀・火葬の手配、行政機関への届出、各種契約の解約、遺品整理などが対象となります。
任意後見契約は本人の死亡と同時に終了するため、死後の事務処理は別途手当てが必要です。特におひとりさまや身近に頼れる親族がいない方にとっては、死後事務委任契約の重要性は極めて高いと言えます。
死後事務委任契約の詳しい内容については「死後事務委任契約とは?契約内容・費用・注意点を解説」で解説しています。
「5つの手続き、どう組み合わせればいい?」迷ったらプロにご相談ください
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法定後見制度との違いは?任意後見契約を選ぶべき理由
「認知症になってから対策すればいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。確かに、判断能力が低下した後でも「法定後見制度」を利用することは可能です(参考:裁判所「成年後見制度についてー後見・保佐・補助」)。
しかし、法定後見制度にはいくつかの重要なデメリットがあります。
| 比較項目 | 任意後見制度 | 法定後見制度 |
|---|---|---|
| 後見人の選任 | 本人が事前に選べる | 家庭裁判所が選任(本人の希望が通るとは限らない) |
| 手続きの時期 | 判断能力があるうちに契約 | 判断能力が低下してから申立て |
| 本人の意思の反映 | 契約内容で詳細に定められる | 本人の意思が反映されにくい場合がある |
| 財産管理の柔軟性 | 契約で定めた範囲で柔軟に対応可能 | 財産の維持・保全が原則。積極的な処分は制限的 |
| ランニングコスト | 監督人報酬(月額1〜3万円程度) | 後見人報酬(月額2〜6万円程度。財産額による) |
| 終了条件 | 本人の死亡・解約など | 本人の死亡(途中終了は原則不可) |
特に注意が必要なのは、法定後見制度では本人の意思が十分に反映されにくい点です。後見人は家庭裁判所が選任するため、家族が希望する人物ではなく、弁護士や司法書士等の専門職が選ばれるケースも少なくありません。また、法定後見は本人が亡くなるまで原則として終了できないため、長期にわたる後見人報酬の負担も発生します。
こうしたデメリットを考えると、判断能力があるうちに任意後見契約を結んでおくことが、最も本人の意思を尊重した備えであることは間違いありません。
いつから準備を始めるべき?60代からの備えが安心
「まだ自分は大丈夫」「認知症なんてまだ先の話」と思う方は多いかもしれません。しかし、認知症のリスクは年齢とともに確実に高まります。前述の推計では、65歳以上の高齢者における認知症の有病率は2022年時点で約12.3%とされています。
また、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を含めると、高齢者の約3〜4人に1人が何らかの認知機能の低下を抱えている計算になります。MCIの段階では日常生活に大きな支障はないものの、法律行為の有効性について争いが生じる可能性があります。
具体的な準備の目安としては、次のような考え方が一般的です。
- 60代前半:情報収集を始め、どの手続きが必要か検討する。専門家への初回相談
- 60代後半〜70代前半:任意後見契約・財産管理等委任契約・遺言書の作成に着手
- 70代後半以降:判断能力の維持が確認できるうちに、未完了の手続きを急ぐ
「まだ早い」と感じる段階で着手するのが、結果的にちょうどよいタイミングです。判断能力に不安を感じてからでは、契約の有効性が問題になるリスクがあります。
よくある失敗・見落としがちなポイント
認知症への法的備えにおいて、よくある失敗や見落としを事前に知っておくことで、より確実な対策が可能になります。
任意後見契約だけで安心してしまう
任意後見契約は判断能力が低下した後に発効する制度です。判断能力はあるが身体が不自由な期間のサポートがカバーできないため、「財産管理等委任契約」とセットで結んでおかないと空白期間が生じます。また、死後の事務処理も任意後見契約の範囲外であるため、死後事務委任契約も併せて検討すべきです。
自筆証書遺言を認知症リスクがある中で作成する
自筆証書遺言は手軽に作成できる一方、作成時の本人の判断能力が後から争点になりやすい形式です。認知症のリスクが少しでもある場合は、公証人が本人の意思能力を確認する公正証書遺言を選択すべきです。
家族信託を万能と考えてしまう
家族信託は柔軟な財産管理が可能ですが、身上監護には対応できません。介護施設の入所契約や医療に関する手続きの代理は、任意後見契約でカバーする必要があります。「家族信託さえあれば全て安心」という認識は危険です。
契約書を作っただけで放置する
任意後見契約を結んだ後、受任者との連絡が途絶えてしまうケースがあります。定期的な連絡や見守りの体制を構築しておかないと、いざ判断能力が低下した際に任意後見監督人の選任申立てが遅れ、必要な保護が受けられない事態に陥る可能性があります。
よくある質問
Q. 認知症と診断された後でも任意後見契約は結べますか?
認知症の診断を受けた後でも、判断能力が残っている場合には任意後見契約を結べる可能性はあります。ただし、公証人が本人の意思能力を確認した結果、契約締結に足りる判断能力がないと判断された場合は締結できません。また、後日に契約の有効性を争われるリスクも高まります。そのため、認知症の診断を受ける前に契約を済ませておくことが望ましいのは確実です。
Q. おひとりさまでも任意後見契約は利用できますか?
利用できます。身近に信頼できる親族がいない場合でも、行政書士・弁護士・司法書士などの専門家や、社会福祉法人・NPO法人を任意後見受任者に選任できます。おひとりさまの場合は、任意後見契約に加えて死後事務委任契約も併せて締結しておくと、死後の手続き面でも安心です。
Q. 任意後見契約と家族信託はどちらを優先すべきですか?
一概にどちらが優先とは言えません。不動産の管理・売却が主な目的であれば家族信託が向いていますが、介護施設の契約や入院手続きなど身上監護が必要な場合は任意後見契約が不可欠です。多くの場合、両方を併用するのが最善の選択肢です。どちらを優先するかは、保有する財産の種類やご家族の状況によって異なりますので、専門家に相談されることをおすすめします。
Q. 法定後見制度を利用する場合の手続きの流れは?
法定後見制度は、本人・配偶者・4親等内の親族・市区町村長等が家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てることで手続きが始まります。申立て後、家庭裁判所の調査官による調査や鑑定を経て、審判が下されます。申立てから後見開始までの期間は、一般的に2〜4か月程度です(参考:裁判所「成年後見制度についてー後見・保佐・補助」)。
Q. 費用の総額はどのくらいになりますか?
手続きの組み合わせによって異なりますが、一般的な目安は次のとおりです。任意後見契約の公証人手数料等の法定費用は約1万7,000円、財産管理等委任契約と合わせて公正証書にする場合は2万〜3万円程度の法定費用がかかります。これに行政書士等への専門家報酬が加わります。行政書士法人Treeでは任意後見契約サポートを39,800円(税抜)から承っています。家族信託は財産の規模や信託内容によりますが、専門家報酬を含めて30万〜100万円程度が相場です。
まとめ|判断能力がある「今」こそ行動のとき
認知症への法的備えは、判断能力がしっかりしている「今」だからこそ可能な手続きです。この記事で解説した5つの手続きの要点を改めて整理します。
- 任意後見契約:認知症対策の柱。自分で選んだ人に、判断能力低下後の財産管理・身上監護を託せる
- 財産管理等委任契約:任意後見との「移行型」セットで、元気なうちから切れ目のない支援体制を構築
- 遺言書(公正証書遺言):認知症リスクがある段階で作成するなら公正証書遺言一択。相続トラブルの予防にも
- 家族信託:柔軟な財産管理・処分が可能。任意後見契約と併用するのが理想
- 死後事務委任契約:おひとりさまには特に重要。死後の葬儀・届出・解約を確実に処理してもらえる
60代のうちから情報収集を始め、70代前半までには主要な契約を完了させておくことが、安心した老後への第一歩です。「まだ早い」と思える時期が、実は最適なタイミングにほかなりません。
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