補助金関連

持続化補助金の賃金引上げ枠|事業場内最低賃金+50円・赤字事業者の補助率引上げ

更新: 約10分で読めます

賃上げに取り組みながら販路開拓の設備投資もしたい小規模事業者にとって、小規模事業者持続化補助金の「賃金引上げ特例(賃金引上げ枠)」は補助上限を大きく引き上げられる魅力的な選択肢です。結論から言えば、この特例は事業場内最低賃金を地域別最低賃金より+50円以上引き上げるなどの賃上げ要件を満たすことで、通常は50万円の補助上限が+150万円上乗せされて最大200万円(インボイス特例と併用で最大250万円)となり、さらに直近1年間が赤字の事業者は補助率が3分の2から4分の3へ引き上げられる制度です。ただし2026年に動く第20回公募からは賃上げ要件が「従業員1人あたりの給与支給総額を年平均3.0%以上増加させる」方式へと変更されており、どの公募回に申請するかで要件が異なります。本記事では、行政書士の立場から、賃金引上げ特例の要件・補助上限・補助率と、公募回による違いを整理して解説します。なお雇用関係助成金や賃金そのものの労務管理は社会保険労務士、税務処理は税理士の領域であり、当事務所は必要に応じて連携してご案内します。

賃金引上げ特例(賃金引上げ枠)とは|制度の位置づけ

小規模事業者持続化補助金は、商工会・商工会議所の支援を受けながら経営計画を作成し、その計画に基づく販路開拓等の取組を支援する補助金で、中小企業庁・全国商工会連合会等が所管しています。基本となる「通常枠」は補助上限50万円・補助率3分の2ですが、賃上げに取り組む事業者を後押しするために設けられているのが賃金引上げ特例(従来の名称では賃金引上げ枠)です。

この特例は、補助対象事業者が一定の賃上げ要件を満たすことを宣言・実施することで、通常枠の補助上限に150万円が上乗せされ、補助上限が最大200万円となる仕組みです。賃上げという政策目的に協力する事業者に、設備投資・販路開拓の原資をより手厚く配分するという考え方に基づいています。単独の「枠」というより、通常枠に上乗せする「特例」として運用されている点が特徴です。

+50円要件の中身|事業場内最低賃金と地域別最低賃金

本記事のタイトルにある「事業場内最低賃金+50円」は、第19回公募まで適用されてきた賃金引上げ特例の中心的な要件です。具体的には、補助事業の終了時点において、事業場内最低賃金が、地域別最低賃金より+50円以上高い水準であることが求められました(申請時点ですでに地域別最低賃金より+50円以上を支給している場合は、申請時点の事業場内最低賃金からさらに+50円以上引き上げることが必要です)。ここで二つの「最低賃金」を正しく区別する必要があります。

  • 地域別最低賃金:都道府県ごとに国(厚生労働省・各都道府県労働局)が定める最低賃金。毎年10月頃に改定されます。
  • 事業場内最低賃金:その事業場で実際に働く労働者のうち、最も低い時間給。パート・アルバイトを含めて判断します。

つまり「自社で最も時給の低い従業員の賃金を、地域別最低賃金+50円以上の水準にする」というのが+50円要件のイメージです。地域別最低賃金は毎年引き上げられるため、補助事業終了時点の事業場内最低賃金が、地域別最低賃金より+50円以上高い水準を満たしているかを賃金台帳等で確認することになります。最低賃金の引上げが続く近年の情勢では、相応の賃上げ努力が求められる要件といえます。

補助上限と補助率|赤字事業者は3/4へ

賃金引上げ特例を活用した場合の補助上限と補助率を整理すると次のとおりです。金額はいずれも補助金事務局の公表に基づく目安で、最新の公募要領で必ずご確認ください。

区分 補助上限額 補助率
通常枠(基本) 50万円 2/3
賃金引上げ特例(上乗せ後) 200万円(+150万円) 2/3
賃金引上げ特例+インボイス特例 250万円(+50万円) 2/3
賃金引上げ特例に申請する赤字事業者 同上 3/4

注目すべきは赤字事業者への配慮です。賃金引上げ特例に申請する事業者のうち、法人は直近1期、個人事業主は直近1年間の課税所得金額がゼロ以下である場合には、補助率が通常の3分の2から4分の3へ引き上げられます。さらに、こうした赤字事業者には「赤字賃上げ加点」が適用され、優先採択の対象になります。賃上げは原資が必要であるにもかかわらず、業績が苦しい事業者ほど賃上げが難しいという実情を踏まえ、赤字でも賃上げに踏み切る事業者を後押しする趣旨です。赤字であることの判定には、確定申告書や決算書など業績を示す書類の提出が求められます。

2026年・第20回公募からの変更点|要件は「給与支給総額3.0%増」へ

ここで必ず押さえておきたいのが、2026年に動く第20回公募からの要件変更です。第20回公募(一般型・通常枠)では、賃金引上げ特例の要件が、これまでの「事業場内最低賃金+50円以上」方式から、従業員1人あたりの給与支給総額を年平均3.0%以上増加させる方式へと変更されました。比較の対象は、補助事業実施期限を終点とする連続した12か月と、その前年同月の連続した12か月で、代表者・役員は除いて判定します。

補助上限(通常50万円+賃上げ150万円+インボイス50万円で最大250万円)や、赤字事業者の補助率4分の3・優先採択といった枠組みは維持されています。あわせて、機械装置等費・委託外注費で2者以上の相見積が必要となる発注総額の基準が、第19回までの「100万円超」から「50万円超(税込)」へ引き下げられた点も、設備投資を伴う申請では重要な変更です。タイトルの+50円要件は第19回までの取扱いとして理解し、第20回以降に申請する場合は給与支給総額3.0%増の要件を前提に計画を立ててください。

第20回(一般型・通常枠)の申請受付は2026年11月5日(木)開始、締切は2026年12月15日(火)17時が目安として公表されています。締切は時刻指定で厳格に運用されるため、余裕をもった電子申請が欠かせません。

申請の流れと注意点|交付決定前の発注は対象外

賃金引上げ特例を含む持続化補助金は、次の流れで進みます。賃上げの実施と証憑の整備が後工程で問われる点に特徴があります。

  • 経営計画書・補助事業計画書の作成:商工会・商工会議所の支援を受けて作成し、事業支援計画書(様式4)の発行を受けます。様式4には発行の締切があるため、申請締切から逆算した準備が必要です。
  • 電子申請:原則としてgBizIDプライムを用いた電子申請(jGrants)で行います。gBizIDプライムの取得には書類申請で2週間程度から1か月程度かかる場合があるため、早めの取得をおすすめします。
  • 採択・交付決定:審査を経て採択・交付決定がなされます。交付決定前に発注・契約・支払いをした経費は原則として補助対象外です。先に設備を買ってしまうと補助されないため、発注のタイミングは慎重に管理してください。
  • 事業実施・実績報告:補助事業を実施し、実績報告を行います。賃金引上げ特例では、補助事業終了時点での賃上げ状況を賃金台帳等で証明する必要があります。
  • 確定検査・入金:補助金は後払いです。実績報告・確定検査を経てから入金されるため、当面の資金繰りは自己資金や融資で手当てする前提で計画してください。

賃上げ要件を満たせなかった場合は、賃金引上げ特例による上乗せ分の補助金の返還を求められることがあります。賃上げは「宣言して終わり」ではなく、補助事業終了時点での達成と証憑の整備までがセットである点に注意が必要です。

士業の役割分担|どこまでが行政書士の業務か

補助金の活用には複数の専門領域が関わります。役割分担を整理しておくと、相談先を誤りません。

  • 補助金の申請書類作成:2026年1月1日施行の改正行政書士法により、補助金申請書類の作成は行政書士の業務として明確に位置づけられています。当事務所では経営計画書・補助事業計画書など申請書類の作成支援を行います。
  • 賃上げに伴う労務管理・雇用関係助成金:賃金規程の整備や、業務改善助成金・キャリアアップ助成金など厚生労働省系の雇用関係助成金は社会保険労務士の領域です。必要に応じて連携してご案内します。
  • 税務処理・消費税の取扱い:補助金収入の会計処理や圧縮記帳、消費税の判断は税理士の領域です。必要に応じて連携します。

賃金引上げ特例は、賃上げ(労務)と設備投資(補助金)と税務が交差する制度です。「販路開拓の計画づくりと申請書類は行政書士、賃金・労務は社労士、税務は税理士」という役割分担を意識して準備を進めると、手戻りを防げます。

当事務所のサポート

行政書士法人Treeでは、小規模事業者持続化補助金の賃金引上げ特例を含め、経営計画書・補助事業計画書の作成支援、公募要領の読み解き、要件の整理、スケジュール管理といった補助金申請の実務を、行政書士の職域の範囲でサポートしています。賃上げに伴う賃金規程の整備や雇用関係助成金は社会保険労務士、補助金の会計・税務処理は税理士など、他士業の領域については必要に応じて連携してご案内します。「赤字でも賃上げ特例を使えるのか」「+50円要件と給与総額3.0%要件のどちらで申請すべきか」といった段階からのご相談も歓迎です。補助金申請のサポートをご検討の方は、補助金申請サポートのご案内ページをご覧ください。料金や進め方については個別にお問い合わせください。ご相談は何度でも無料です。

まとめ

小規模事業者持続化補助金の賃金引上げ特例は、賃上げ要件を満たすことで通常50万円の補助上限が+150万円上乗せされ最大200万円(インボイス特例併用で最大250万円)となり、直近1年が赤字の事業者は補助率が3分の2から4分の3へ引き上げられ優先採択の対象にもなる制度です。賃上げ要件は、第19回公募までが「事業場内最低賃金を地域別最低賃金より+50円以上」、2026年の第20回公募からは「給与支給総額の年平均3.0%以上増加」と公募回で異なります。交付決定前の発注は対象外、補助金は後払いといった基本も押さえ、最新の公募要領を確認のうえ準備を進めてください。

持続化補助金の賃金引上げ特例に関するよくある質問

Q:事業場内最低賃金と地域別最低賃金は何が違うのですか。

A:地域別最低賃金は都道府県ごとに国が定める最低賃金で、毎年10月頃に改定されます。事業場内最低賃金は、その事業場で実際に働く労働者のうち最も低い時間給で、パート・アルバイトを含めて判断します。+50円要件は、補助事業終了時点の事業場内最低賃金が、地域別最低賃金より+50円以上高い水準を満たしているかで判定します(すでに地域別最低賃金より+50円以上を支給している場合は、申請時点の事業場内最低賃金からさらに+50円以上引き上げます)。

Q:赤字なら本当に補助率が4分の3になりますか。

A:賃金引上げ特例に申請する事業者のうち、直近1年間(直近の事業年度)の課税所得金額がゼロ以下である場合に、補助率が通常の3分の2から4分の3へ引き上げられます。あわせて赤字賃上げ加点による優先採択の対象にもなります。赤字であることは決算書・確定申告書等で証明する必要があります。

Q:+50円要件と給与支給総額3.0%増加要件のどちらで申請すればよいですか。

A:どちらが適用されるかは申請する公募回によって決まります。+50円方式は第19回公募までの要件で、2026年の第20回公募からは従業員1人あたりの給与支給総額を年平均3.0%以上増加させる方式に変更されています。申請を検討している公募回の公募要領で、現に適用される要件を確認してください。

Q:賃上げを達成できなかった場合はどうなりますか。

A:賃金引上げ特例の賃上げ要件を補助事業終了時点で満たせなかった場合、特例による上乗せ分の補助金の返還を求められることがあります。賃上げは宣言だけでなく、終了時点での達成と賃金台帳等による証明までが必要です。労務面の制度設計は社会保険労務士の領域にも関わるため、必要に応じて連携してご案内します。

Q:申請書類の作成は行政書士に依頼できますか。

A:はい。2026年1月1日施行の改正行政書士法により、補助金申請書類の作成は行政書士の業務として位置づけられています。経営計画書・補助事業計画書など申請書類の作成支援は当事務所で対応できます。一方、雇用関係助成金は社会保険労務士、補助金の税務処理は税理士など、他士業の領域は必要に応じて連携してご案内します。

※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。

行政書士法人Tree