ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、設備投資を通じた生産性向上と「持続的な賃上げ」をセットで求める制度です。採択・交付を受けて終われば良いわけではなく、補助事業終了後の事業計画期間にわたって賃上げ目標(給与支給総額・事業場内最低賃金)を達成しているかどうかが、毎年の事業化状況報告でチェックされます。そして目標が未達となった場合、一定の考え方に基づき補助金の一部または全部の返還を求められることがあります。本記事では、現行の公募要領を前提に、賃上げ要件の内容、未達時の返還の取扱い、判定の考え方と実務上の注意点を整理します。なお、用語は公募要領等の一次情報の表記に合わせて「事業所内最低賃金」と表記します。
目次
ものづくり補助金の賃上げ要件とは
ものづくり補助金では、申請の前提となる基本要件のなかに賃上げに関する目標が組み込まれています。現行の枠組み(第23次公募)では、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、(1)事業者全体の付加価値額を年平均成長率3.0%以上増加させること、(2)従業員1人あたり給与支給総額を年平均成長率3.5%以上増加させること、(3)事業所内最低賃金を事業実施都道府県の地域別最低賃金より30円以上高い水準とすること、が基本要件として求められます。なお、応募申請時の従業員数が21名以上の場合は、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表も基本要件に含まれます。
第23次公募では、返還等に関わる給与支給総額について、給与支給の「総額」ではなく「1人あたり給与支給総額」で成長率を判定する扱いに限定されています。いずれの要件・数値も公募回によって見直されることがあるため、実際の申請にあたっては必ずその回の公募要領で最新の数値・条件を確認してください。
給与支給総額と事業所内最低賃金の違い
賃上げ要件を理解するうえで重要なのが、「1人あたり給与支給総額」と「事業所内最低賃金」という二つの指標の違いです。第23次公募要領では、1人あたり給与支給総額は、従業員に支払った給与等(給料、賃金、賞与等を含み、福利厚生費、法定福利費、退職金は除く)を従業員数で除したものとされています。一方の事業所内最低賃金は、補助事業を実施する事業所で最も低い賃金水準で働く方の時間あたり賃金に着目した指標で、地域別最低賃金との比較で判定されます。
1人あたり給与支給総額は、従業員1人あたりの給与等の水準を伸ばす指標であるため、単に人員を増やして給与総額が増えたというだけでは達成判断につながりません。事業所内最低賃金は「個々の最低水準」を引き上げる必要があるため、対象となる方の時給を確実に上げる対応が求められます。性質が異なる二つの目標を、いずれも事業計画期間を通じて満たし続ける必要がある点に注意が必要です。
賃上げ要件未達時の返還の考え方
賃上げ目標が達成できなかった場合の取扱いは、未達となった指標によって考え方が分かれます。あくまで一般的な整理であり、具体的な金額や適用は事案ごとに事務局の判断によりますが、おおむね次のように説明されています。
1人あたり給与支給総額の目標が未達となった場合は、第23次公募以降の取扱いとして、補助金交付額に未達成率を乗じた額の返還を求められるとされています。具体的には「補助金交付額×(1−(事業計画期間最終年度における1人あたり給与支給総額の年平均成長率÷1人あたり給与支給総額目標値))」により算定され、年平均成長率がゼロまたはマイナスの場合は全額返還となります。他方、事業所内最低賃金の目標が未達となった場合は、補助金交付額を事業計画期間の年数で除した額(たとえば5年計画なら1年あたり補助金交付額の5分の1に相当する額)の返還を求められるとされています。返還額の具体的な計算や、その後の会計・税務上の処理については個別性が高く税務の領域に踏み込むため、本記事では一般的な考え方の紹介にとどめます。
返還が求められない場合(例外)
賃上げ目標が未達であっても、一律に返還となるわけではありません。第23次公募要領では、付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として営業利益が赤字である場合、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合、再生事業者である場合には、返還を求めないことがあるとされています。具体的にどの例外に該当するか、必要となる疎明資料は何かといった点は、公募回ごとの要領や事務局の運用によって異なります。「未達=即返還」と早合点せず、また逆に「例外があるから大丈夫」と安易に考えず、自社の状況を要領に照らして丁寧に確認することが大切です。
判定のタイミングと実務上の注意点
賃上げ要件の達成状況は、補助事業終了後の事業計画期間中に毎年提出する「事業化状況報告」のなかで確認されます。1人あたり給与支給総額は事業計画期間の最終年度における年平均成長率で、事業所内最低賃金は3〜5年の事業計画期間中、毎年3月末時点での水準で判定されるのが基本的な考え方です。指標ごとに見るタイミングや基準が異なるため、両方を取り違えないことが重要です。
実務上は、(1)申請時に提出した賃上げ計画の数値を社内で正確に共有しておくこと、(2)毎期、1人あたり給与支給総額と事業所内最低賃金の双方を実績ベースで確認し早めに乖離を把握すること、(3)賃金台帳や就業規則・賃金規程など根拠資料を整備しておくこと、が未達リスクの低減につながります。賃上げの実務(賃金規程の改定や最低賃金への対応など労務手続)は社会保険労務士、返還額の会計・税務処理や税額の計算は税理士の領域です。当事務所(行政書士法人Tree)は補助金の申請支援を担い、必要に応じてこれらの専門家と連携してご対応します。
ものづくり補助金の賃上げ要件や未達時の返還の見通しについてお困りの場合は、個別にお問い合わせください。ご相談は何度でも無料です。補助金に関するご相談はこちら
まとめ
ものづくり補助金の賃上げ要件は、1人あたり給与支給総額(年平均成長率の目標)と事業所内最低賃金(地域別最低賃金との比較)という性質の異なる二つの指標から構成され、いずれも補助事業終了後の事業計画期間を通じて満たし続ける必要があります。未達となった指標に応じて返還の考え方が異なり、一定の例外も設けられています。要件の数値や運用は公募回ごとに見直されるため、最新の公募要領で確認することが不可欠です。賃上げ計画の妥当性確認から事業化状況報告まで、補助金申請支援を行う行政書士として、労務は社会保険労務士、税務は税理士と連携しながらサポートいたします。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。