公開日:2026年5月16日
霊柩車・寝台自動車を使って遺体や事故・救急搬送の利用者を搬送する事業を行うには、貨物自動車運送事業法に基づく国土交通大臣(地方運輸局長)の許可が必要です。一見「人」を運ぶようにみえますが、法的には「特殊な貨物(遺体)」の運送と位置づけられ、特定貨物自動車運送事業(または一般貨物自動車運送事業の特殊な形態)として許可申請を行います。本記事では霊柩車・寝台車事業の許可区分・営業区域・車両要件・必要書類を、葬祭事業者・新規参入事業者向けに整理します。
本記事の結論:
- 霊柩運送事業は貨物自動車運送事業法2条2項の貨物自動車運送事業に該当し、同法3条の許可が必要。一般貨物自動車運送事業(緑ナンバー)の枠内で「霊柩運送限定」として申請。
- 霊柩運送には車両5両以上要件の緩和(最低1両でも可)等の運用例外あり。寝台車(民間救急含む)も同枠で申請可能。
- 営業所・車庫・運行管理者・整備管理者・所要資金等は通常の運送業許可と共通。許可後は運賃料金届出・法定記録整備が必要。
- 当所は霊柩運送事業許可申請書・事業計画書・添付書類一式の作成を担当。労務管理・社会保険手続は社会保険労務士をご紹介します。
運送事業許可・車両関連の申請サポート
霊柩運送・寝台車事業の許可申請、緑ナンバー取得、車庫証明・名義変更・封印取付までを行政書士が文書作成・申請代行します。葬祭ホール開業に伴う車両整備、事業承継時の事業計画変更認可にも対応しています。
目次
根拠法令
- 貨物自動車運送事業法第2条(定義)・第3条(一般貨物自動車運送事業の許可)
- 貨物自動車運送事業法第7条(運送約款)・第8条(運賃料金)・第9条(事業計画)
- 貨物自動車運送事業輸送安全規則(運行管理者・整備管理者・点呼)
- 道路運送車両法第59条(新規検査)・第60条(自動車検査証の交付)
- 「一般貨物自動車運送事業の許可に関する処理方針」(地方運輸局公示)
- 「霊きゅう運送事業」「患者等搬送事業」に係る運用通達
霊柩運送・寝台車事業の法的位置づけ
「貨物」としての遺体・搬送用ストレッチャー
遺体は法的には「貨物」として扱われ、霊柩自動車による搬送は貨物運送事業に該当します。一般人の感覚では「人」を運ぶ事業に見えますが、貨物自動車運送事業法第2条第2項の解釈上、霊柩運送は同法の枠内で営業許可を要します。
寝台自動車の二類型
寝台自動車には2種類あります:①遺体搬送を主目的とする「霊柩運送」、②負傷者・病人の搬送を主目的とする「患者等搬送(民間救急)」。①は貨物運送事業、②は道路運送法に基づく一般乗用旅客自動車運送事業(特殊用途)または運輸局への届出事業として整理されます。両者は異なる許可・届出体系のため、事業内容の確認が重要です。
営業ナンバー(緑ナンバー)の必要性
霊柩運送を業として行う場合、車両は事業用自動車(緑ナンバー)として登録する必要があります。自家用(白ナンバー)車両での有償運送は、貨物自動車運送事業法違反となります(同法第70条第1号、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)。
霊柩運送事業許可の要件
営業所・車庫の要件
営業所は事業計画に必要な広さ(机・電話・パソコン等が設置できる広さ)を有し、都市計画法・建築基準法に違反しないことが必要です。車庫は営業所から原則10km以内(地方運輸局により直線距離指定の差異あり)、車両前後左右0.5m以上の空地を確保し、出入口・接道幅員等の道路運送車両法基準を満たすことが求められます。
車両要件と最低車両数の特例
一般貨物自動車運送事業の許可は原則5両以上の車両保有が必要ですが、霊柩運送事業については1両からの許可申請が可能です(運用上の特例)。これは事業特性(葬祭時に集中需要、平時の車両稼働率が低い)に配慮したものです。車両は霊柩自動車(宮型・洋型・バン型・バス型)または寝台自動車として構造変更検査を受けたものを使用します。
運行管理者・整備管理者
運行管理者:保有車両29両以下なら1名以上の選任が必要。資格取得は「運行管理者試験(貨物)」合格または5年以上の実務経験+基礎講習修了によります。整備管理者:3級以上の自動車整備士技能検定合格者または整備実務2年以上+整備管理者選任前研修修了者を選任します。
所要資金と財務要件
事業開始に必要な資金(人件費・燃料費・修繕費・車両費・施設費・税金・保険料等の概ね2か月分+事務所維持費の6か月分等)を、自己資金として申請日以降許可日までの期間中に確実に保有することが必要です。霊柩運送は車両数が少ないため一般貨物より所要資金は抑えられる傾向ですが、それでも数百万円規模になります。
営業区域の指定
霊柩運送事業は営業区域指定(県単位または運輸局管内)があります。営業区域外を「発地」として運送する行為は禁止されますが、「着地」が営業区域外となる長距離運送は許容されます。複数県をまたぐ事業展開を計画する場合は、運輸局管内(例:関東運輸局=1都7県)を事業区域とすることで広範囲の発地に対応できます。
営業区域変更の手続
営業区域の拡張・変更は事業計画変更認可申請(貨物自動車運送事業法第9条第1項)が必要です。新規許可と同様の審査を経るため、計画的な拡張が求められます。
申請の流れと必要書類
標準的な申請フロー
- 事前相談(管轄運輸支局)
- 営業所・車庫の物件確保・図面作成
- 運行管理者・整備管理者の選任予定
- 許可申請書一式の作成・提出
- 法令試験受験(個人事業主または法人代表者)
- 許可(標準処理期間3〜5か月)
- 運行管理者・整備管理者選任届
- 運賃料金設定届出
- 運送約款設定認可申請
- 事業用自動車等連絡書取得・車両登録(緑ナンバー)
- 事業開始届出
主な提出書類
- 一般貨物自動車運送事業(霊きゅう)許可申請書
- 事業計画(営業所・車庫・車両・運送品目・運賃等)
- 所要資金計画書・資金の調達方法
- 営業所・車庫の見取図・平面図・写真・賃貸借契約書
- 車両明細・車検証・車庫証明(自動車保管場所証明書)
- 運行管理者・整備管理者の選任予定者の資格証明
- 法人謄本・定款・直近事業年度の決算書(法人申請の場合)
- 個人事業の場合は資産目録・住民票
運賃料金・運送約款
運賃料金の設定
運賃料金は事業者が自由に設定できますが、運輸局への届出が必要です(貨物自動車運送事業法第8条)。霊柩運送の運賃は「基本運賃(10kmまで〇〇円)」「超過1kmあたり〇〇円」「特別車両割増」「夜間料金」「待機料金」「冷蔵保管料金」等を組み合わせて設定するのが一般的です。地方運輸局が公示する標準運賃を参考にしつつ、地域実情に応じて設定します。
運送約款の選択
標準霊きゅう運送約款を採用する場合は届出のみで済みますが、独自約款を作成する場合は地方運輸局長の認可が必要です(同法第7条)。葬儀社向けに特約(複数搬送割引等)を設ける場合は独自約款の方が柔軟ですが、認可の手続負担が発生します。実務上は標準約款での開始+必要に応じて独自約款への移行という段階的対応が現実的です。標準約款は国土交通省の公示に最新版があり、改正時は速やかに改正後の約款適用への切替えが必要となります。
運賃料金変更時の届出
運賃料金を変更する場合は、変更後30日以内に届出を行います。価格設定の自由度が高い反面、消費者保護の観点から不当な値上げ(独占的地位の濫用等)は独占禁止法違反として問われる可能性があります。地域競合状況・葬儀社との取引慣行を踏まえた合理的設定が望まれます。
許可後の継続義務
輸送安全規則上の義務
運行管理者による点呼(出庫前・帰庫後・中間点呼)の実施、運転日報の作成と1年間の保存、車両の3か月点検・12か月点検の実施、整備記録簿の整備等が義務付けられます。事業用自動車事故報告書の提出義務、自動車事故報告規則第3条の重大事故報告も適用されます。
事業報告書・事業実績報告書
毎事業年度終了後100日以内に事業報告書、毎年7月10日までに事業実績報告書を地方運輸局長に提出します(貨物自動車運送事業報告規則第2条・第2条の2)。
各種変更届
営業所・車庫の移転、車両の増減、運行管理者・整備管理者の変更、役員変更、商号変更等の事項は、それぞれ事業計画変更認可申請または届出が必要です(貨物自動車運送事業法第9条)。営業所・車庫の移転は事業計画変更認可(30日前まで)、車両の増減は届出(事後30日以内)、運行管理者・整備管理者の変更は届出(事後30日以内)など、事項により認可と届出の区分・期限が異なります。届出漏れは輸送安全規則違反として行政処分の対象となるため、社内の変更管理体制を整えておくことが重要です。
葬祭事業者の周辺許認可
葬祭ホール(葬儀場)の建築・運営
葬祭ホールの新設は建築基準法・都市計画法・消防法の規制対象となり、用途地域による制約があります。火葬場は墓地、埋葬等に関する法律第10条に基づく経営許可が必要で、原則として地方公共団体が経営主体となります。民間事業者が火葬場を経営することは現行法上極めて限定的です。
葬祭業の登録・許可
葬祭業(葬儀社)そのものは特別な許可制度がない自由業ですが、霊柩運送・墓地経営・骨壺販売等の周辺事業は個別の許認可規制があります。葬祭ディレクター技能審査は厚生労働省認定の技能評価制度であり、業務遂行の必須要件ではありません。
葬儀互助会との関係
葬儀互助会は割賦販売法上の「前払式特定取引」として経済産業大臣の許可(同法第35条の3)が必要であり、保全措置・帳簿備置・前受金の管理等が義務付けられます。霊柩運送事業者が葬儀互助会と提携する場合は、保全制度・解約返戻金の取扱いを契約書で明確化することが重要です。
業務範囲の整理
行政書士業務(許可申請の作成・代理)
- 一般貨物自動車運送事業(霊きゅう)許可申請書の作成・提出代理
- 事業計画書・資金計画書の作成
- 営業区域変更・車両増減の事業計画変更認可申請の作成
- 運送約款認可申請・運賃料金届出書の作成
- 事業用自動車等連絡書・車庫証明・名義変更の作成
業務範囲外(他士業領域)
- 運送約款違反等の損害賠償交渉(弁護士業務/弁護士法第72条)
- 運輸局の処分(営業停止・許可取消)に対する審査請求書の作成(行政不服審査法上は行政書士可、訴訟移行は弁護士)
- 労働関係の36協定届出(社会保険労務士業務)
- 事業税・消費税の税務申告(税理士業務)
- 運転者の労務管理規程作成(社会保険労務士業務)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 葬儀社が自社で霊柩車を保有する場合、許可は不要ですか?
A. 葬儀料金に搬送費が含まれる「葬祭サービスの一環」として行う場合でも、独立した運送行為と判断されれば許可が必要です。形式上「無償」でも、葬儀代金との実質的対価関係があれば有償運送に該当する可能性が高く、許可取得が望ましいです。
Q2. 1台からでも許可は取れますか?
A. 霊柩運送事業は運用上、1両からの許可申請が可能です。ただし営業所・車庫・運行管理者・整備管理者等の他要件は一般貨物と同様に必要となります。
Q3. 軽自動車で霊柩運送はできますか?
A. 軽自動車を使用する場合は「貨物軽自動車運送事業」の届出(貨物自動車運送事業法第36条)となります。一般貨物よりハードルが低い反面、車両規格の制約から本格的な霊柩車には不向きです。寝台車型搬送に限定されるケースが多いです。
Q4. 事業承継の場合の手続は?
A. 2020年改正貨物自動車運送事業法により、譲渡譲受認可・合併分割認可・相続認可の制度が整備されました(同法第30条〜第33条)。事業承継前後で許可番号は維持され、地位承継のスキームを使えます。許可取消事由がある譲渡人からの承継は不可です。
Q5. 許可取得から営業開始までどれくらいかかりますか?
A. 申請から許可まで標準処理期間3〜5か月、許可後の登録(緑ナンバー取得)に1〜2週間、運送約款認可・運賃料金届出を経て営業開始まで、計4〜6か月見込んでおくと安全です。
Q6. 患者等搬送(民間救急)は霊柩運送と一緒に許可できますか?
A. 患者等搬送は道路運送法上の一般乗用旅客自動車運送事業(または独自事業類型)として、別個の許可・届出が必要です。霊柩運送許可と一括ではなく、別途手続を行います。
関連記事
- 貨物軽自動車運送事業の届出(黒ナンバー)完全ガイド|令和7年安全対策強化対応・必要書類・営業ナンバー取得の流れ
- 介護タクシー開業の許可取得|東京・埼玉・神奈川・千葉対応・福祉輸送限定(4条許可)の要件と申請を解説
- 事業用自動車の届出と手続き|白ナンバーと緑ナンバーの違いを解説
- 車両の構造等変更検査とは?必要書類・手続き・費用を行政書士が解説
運送事業許可・車両関連の申請サポート
霊柩運送・寝台車事業の許可申請、緑ナンバー取得、車庫証明・名義変更・封印取付までを行政書士が文書作成・申請代行します。葬祭ホール開業に伴う車両整備、事業承継時の事業計画変更認可にも対応しています。
まとめ
霊柩車・寝台車事業は貨物自動車運送事業法に基づく許可事業であり、営業区域・車庫・運行管理者・整備管理者等の要件を満たす必要があります。一般貨物との差異は、最低車両数(1両から可)、特殊車両(霊柩自動車・寝台自動車)の構造変更、葬儀業界特有の業務形態にあります。葬儀社が自社運搬を内製化する場合や、新規事業として霊柩運送に参入する場合は、許可申請の事前計画(営業所・車庫の確保、運行管理者・整備管理者の選任、所要資金の調達)が極めて重要です。許可後の運賃料金届出・運送約款認可・各種変更届を含めて、行政書士に相談しながら進めることをおすすめします。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


