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無資格医療行為の告発状|医師法17条違反の判断基準と刑事責任・行政通報の使い分け

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無資格の者による医療行為が疑われる場面に出会ったとき、「警察に告発すべきなのか」「まず保健所に通報すべきなのか」で判断に迷う方は少なくありません。エステサロンでのレーザー脱毛、免許を持たない施術者によるアートメイク、クリニック内で資格のないカウンセラーが治療方針まで決めてしまう運用など、相談として持ち込まれる形はさまざまです。医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めるだけの短い条文ですが、どの行為が「医業」に当たるのかは条文からは読み取れず、最高裁判所の判断と厚生労働省の通知を重ねて理解する必要があります。

本記事では、医師法第17条違反の判断枠組みを一次資料に基づいて整理したうえで、刑事告発と行政通報のどちらを選ぶべきか、両者をどう組み合わせるかを実務目線で解説します。あわせて、歯科医師法・保健師助産師看護師法・あん摩マツサージ指圧師等に関する法律・柔道整復師法といった隣接資格法との違い、告発状に載せるべき事実と証拠の整理方法についても取り上げます。

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無資格医療行為とは何か|医師法17条が禁じている「医業」の中身

医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。わずか一文ですが、ここでいう「医業」の意味を押さえないと、違反かどうかの判断はできません。

「医業」=「医行為」を「反復継続する意思をもって」行うこと

厚生労働省は、一貫して次の解釈を示しています。「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことである、というものです。

この定義は、平成17年7月26日付け医政発第0726005号「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」で示され、その後の令和4年12月1日付け医政発1201第4号(その2)、令和7年12月26日付け医政発1226第12号(その3)でも同じ文言が繰り返されています。医師法第17条違反を検討するときは、まずこの二段構造、すなわち「①その行為が医行為に当たるか」「②反復継続する意思をもって行われたか」を分けて考えることが出発点になります。

1回だけでも「業」に当たる場合がある

「業として」の要件は、実際に何回行ったかではなく、反復継続する意思があったかどうかで判断されるのが行政解釈です。したがって、看板を掲げ、料金表を用意し、予約を受け付けている状態であれば、たまたま摘発の対象となった施術が1回目であっても「業」の要件を満たしうることになります。逆に、家族に対する一回限りの行為のように、反復継続の意思が認められない場面では「業」に当たらないと判断される余地があります。

また、報酬の有無は「業」の要件そのものではありません。無償のボランティアであっても、反復継続の意思をもって医行為を行えば医師法第17条の問題になり得ます。ただし、有償で継続的に提供されている実態は、反復継続の意思を推認させる有力な事情として働きます。

医師法17条違反の罰則

医師法第31条第1項第1号は、第17条に違反した者を3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科としています。さらに同条第2項は、この罪を犯した者が「医師又はこれに類似した名称」を用いていた場合には、3年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科と、罰金の上限を引き上げています。無資格者が「ドクター」などと称し、医師と紛らわしい名称を用いていた事案では、この加重類型を視野に入れて事実を整理する意味があります。

なお、拘禁刑は令和4年法律第67号による刑法等の改正で懲役刑・禁錮刑を一本化した刑であり、2025年(令和7年)6月1日から施行されています。施行日より前に行われた行為については従前の懲役・禁錮が適用されるため、古い事案を扱うときは行為時の法定刑を確認する必要があります。

「医行為」該当性の判断基準と具体例|最高裁決定と厚労省通知の読み方

実務で最も争いになるのは「その行為は医行為か」という点です。ここには、最高裁判所が示した明確な枠組みと、行政通知による個別の整理があります。

最高裁決定が示した二つの要件

最高裁判所第二小法廷は、令和2年9月16日の決定(タトゥー施術に関する医師法違反被告事件)で、医行為とは「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」をいうと判断しました。ここで重要なのは、「危険な行為であること」だけでは足りず、その前提として「医療及び保健指導に属する行為」であること(いわゆる医療関連性)が必要とされた点です。

同決定は、あわせて判断方法についても、当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮したうえで、社会通念に照らして判断するとしています。

この事案では、タトゥー施術行為は装飾的・象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであり、医学とは異質の美術等に関する知識・技能を要する行為で、歴史的にも長年にわたり医師免許を持たない彫り師が行ってきた実情がある、として、医療及び保健指導に属する行為とはいえず医行為に当たらないと判断されました。

「危ないから医行為」という短絡は誤り

告発を検討する側が陥りやすいのが、「素人がやれば危ないのだから医師法違反だ」という組み立てです。しかし最高裁の枠組みでは、危険性は要件の一部にすぎず、医療関連性の有無が別途問われます。施術の危険性だけを並べた書面は、この点で説得力を欠くことになります。

逆に、行政解釈の側から見れば、危険性が低くても医療の一環として位置づけられてきた行為は、医行為性が肯定されやすくなります。行為の目的が治療・保健にあるのか、医療機関でどのように扱われてきたのか、といった事情を丁寧に拾うことが、書面の説得力を左右します。

個別具体的な判断が原則である

厚生労働省の各通知も、「ある行為が医行為であるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」との前提を明示しています。つまり、行為の名称だけで機械的に線が引けるわけではありません。同じ「爪を切る」でも、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要な状態かどうかで扱いが変わり得る、というのが通知の立場です。

美容系の施術について医行為とされたもの

抽象的な基準だけでは判断がつかないため、厚生労働省は個別の行為について通知を発出しています。告発状を組み立てる際は、対象行為について明示的な通知があるかどうかを最初に確認します。

令和7年8月15日付け医政発0815第21号「美容医療に関する取扱いについて」(厚生労働省医政局長通知)は、無資格者が業として行えば医師法第17条に違反する行為として、次の各通知が示した行為を挙げています。

  • 脱毛行為等――平成13年11月8日付け医政医発第105号「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」。同通知は、用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線その他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射して毛乳頭・皮脂腺開口部等を破壊する行為、酸等の化学薬品を皮膚に塗布してしわ・しみ等に対して表皮剥離を行う行為などを掲げています。
  • いわゆるアートメイク――令和5年7月3日付け医政医発0703第5号「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」。
  • HIFU(高密度焦点式超音波)施術――令和6年6月7日付け医政医発0607第1号「医師免許を有しない者が行った高密度焦点式超音波を用いた施術について」。

アートメイクについて、令和7年8月15日通知は踏み込んだ整理をしています。針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為のうち、施術箇所に本来存在しうる人体の構造物(眉毛、毛髪、乳輪・乳頭等)を描く行為および化粧に代替しうる装飾(アイライン、チーク、リップ等)を描く行為は医行為に該当するとし、「○○メイク」「○○タトゥー」といった別名称で提供されていても、これに該当する行為は医行為に当たるとしています。名称の付け替えでは規制を免れないという整理であり、告発を検討する場面では重要な手がかりになります。

「カウンセラー任せ」の運用も医師法違反となり得る

令和7年8月15日通知は、医療機関の中での無資格者の関与についても明確な線を示しました。診察等により得られた患者の情報から治療方針等について主体的に判断を行い、これを伝達する行為は「診断」であり、このように医学的判断を伴う行為は医行為に該当するため、無資格者が業として行えば医師法第17条違反となる、というものです。

具体的な違法例として、患者の主訴(例:一重まぶたを二重まぶたにしたいという要望)や希望する処置を聞き取ったうえで、具体的な治療方法を選択して患者に提案し、または決定するなど、患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行いこれを伝達する行為が挙げられています。同通知は、形式的には料金設定の説明という体裁を取っていても、実質的に医学的判断を伝達しているなら医行為に該当するとも述べています。「カウンセリングだから問題ない」という説明が通らない場面がある、ということです。

このほか、侵襲を伴う検体の採取をする行為、情報通信機器を用いてビデオ通話・電話・メール・チャット等により患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行い伝達等する行為も、違法例として掲げられています。

原則として医行為でないとされた行為(介護現場等)

他方で、厚生労働省は介護現場等で判断に疑義が生じやすい行為について、「原則として医行為ではないと考えられるもの」を通知で列挙しています。無資格医療行為を疑って通報・告発を検討する際、対象行為がこの列挙に含まれていないかを確認しておくことは必須の作業です。

  • 平成17年通知(平成17年7月26日付け医政発第0726005号)――水銀体温計・電子体温計による腋下での体温計測、耳式電子体温計による外耳道での体温測定、自動血圧測定器による血圧測定、新生児以外で入院治療の必要がない者に対するパルスオキシメータの装着、軽微な切り傷・擦り傷・やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置、一定条件下での軟膏の塗布・湿布の貼付・点眼薬の点眼・一包化された内用薬の内服・坐薬挿入・鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助など。注記では、爪そのものに異常がなく周囲の皮膚にも化膿や炎症がなく糖尿病等に伴う専門的な管理が必要でない場合の爪切り、日常的な口腔内の清拭、耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)、ストマ装具のパウチにたまった排泄物の廃棄、自己導尿の補助としてのカテーテル準備・体位保持、市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸なども挙げられています。
  • 令和4年通知(その2)(令和4年12月1日付け医政発1201第4号)――在宅介護等でのインスリン注射に関する声かけ・見守り・未使用注射器の手渡し・片付け、持続血糖測定器のセンサー貼付と測定値の読み取り、経管栄養の準備・片付け(注入・停止行為を除く)、吸引器の汚水廃棄や水の補充、在宅酸素療法の準備・片付け、膀胱留置カテーテルの蓄尿バッグからの尿廃棄、半自動血圧測定器による血圧測定、食事介助、有床義歯の着脱・洗浄など。
  • 令和7年通知(その3)(令和7年12月26日付け医政発1226第12号)――お薬カレンダーへの一包化医薬品のセット、服薬直前のPTPシートからの薬剤取り出し、専門的な管理が不要と確認された皮膚への湿布の貼付、および医師・看護職員の立会いの下で安全に行えると事前確認された実施者による、尿漏れ等を確認した際の膀胱留置カテーテルと未開封・未使用の蓄尿バッグの接続。

ただし、これらの通知はいずれも「原則として」という留保を付しており、病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には医行為とされる場合もあり得る、と明記しています。また、測定された数値をもとに投薬の要否など医学的な判断を行うことは医行為である、という点も繰り返し示されています。「行為の名前」ではなく「その場面での医学的判断の有無」が分かれ目になる、という理解が正確です。

資格に基づく適法な例外

医師以外の者が医行為に関与できる法律上の仕組みも存在します。看護師等は、保健師助産師看護師法第5条にいう「診療の補助」として、医師の指示の下で医行為に該当する行為を行うことができます。同法第37条の2は、手順書により特定行為を行う看護師について、指定研修機関での特定行為研修の受講を義務づけています。また、社会福祉士及び介護福祉士法第48条の2第1項により、介護福祉士は保健師助産師看護師法第31条第1項・第32条にかかわらず、診療の補助として喀痰吸引等を業として行うことができます。

告発を検討する際は、対象者がこうした資格・研修の枠組みに乗っているかどうかを先に確認しないと、事実誤認のまま書面を作ることになりかねません。

医師法だけではない|隣接資格法の禁止規定と罰則の違い

無資格の施術が問題となる場面では、医師法だけでなく他の資格法が問題になることがあります。適用条文を誤ると、告発状の法的構成そのものが崩れます。

法律・条文 禁止される行為 罰則
医師法第17条 医師でない者が医業をなすこと 3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金または併科(第31条第1項第1号)。医師またはこれに類似した名称を用いた場合は罰金上限200万円(同条第2項)
歯科医師法第17条 歯科医師でない者が歯科医業をなすこと 3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金または併科(第29条第1項第1号)。名称使用の場合は罰金上限200万円(同条第2項)
保健師助産師看護師法第31条 看護師でない者が同法第5条の業(療養上の世話・診療の補助)を行うこと 2年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金または併科(第43条第1項第1号)。名称使用の場合は罰金上限100万円(同条第2項)
保健師助産師看護師法第37条 看護師等が主治の医師等の指示なく診療機械の使用・医薬品の授与等を行うこと 6月以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金または併科(第44条の3第1項第2号)
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第1条・第12条 免許なくあん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅうを業とすること、および同法第1条に掲げるもの以外の医業類似行為を業とすること 50万円以下の罰金(第13条の7第1項第1号・第4号)
柔道整復師法第15条 医師である場合を除き、柔道整復師でない者が業として柔道整復を行うこと 50万円以下の罰金(第29条第1項第1号)
医師法第32条 医業の停止を命じられた者が停止期間中に医業を行うこと 1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金または併科

「医業類似行為」の規制には憲法上の限定がある

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第12条は「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」と定めています。ただし、最高裁判所大法廷は昭和35年1月27日の判決で、この規制は人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限局する趣旨と解すべきであり、その限りで公共の福祉上必要な制限として憲法第22条に反しないと判断しました。したがって、健康被害のおそれが具体的に説明できない事案で同条違反を主張しても、そのままでは通りにくいことになります。

罰則の差が実務判断に与える影響

表のとおり、医師法違反と、あん摩マツサージ指圧師等に関する法律違反・柔道整復師法違反とでは、法定刑に大きな開きがあります。前者は拘禁刑を含みますが、後者は罰金のみです。どの法律の問題として構成するかによって、捜査機関の対応の温度感も、後述する公訴時効の扱いも変わってきます。事実関係を曖昧にしたまま「無資格だから違法」とまとめてしまうと、書面としての精度を欠くことになります。

医師免許を持つ側の違反類型|看護師のみの施術・管理者不在・診療録

無資格医療行為の相談は、実際には「無免許の第三者が勝手にやっている」ケースだけでなく、「医療機関の内部で違法な運用がなされている」ケースも相当数あります。令和7年8月15日通知は、この点について詳細な整理を示しました。

看護師等のみによる治療行為

看護師等は、保健師助産師看護師法第5条の「診療の補助」として、同法第37条が主治の医師等の指示を要求していることの反面として、医師の指示の下で医行為に該当する行為を行うことができます。裏返せば、医師の指示がない状況下で看護師等のみによって医行為が実施されている場合は、医師法第17条や保健師助産師看護師法第37条に違反する可能性があります。通知は、看護師等が医師の指示なく脱毛行為等・アートメイク・HIFU施術等の医行為を行うこと、医学的判断を伴う診察を行うこと、具体的な治療方法を選択して患者に提案・決定することを違法例として挙げています。あわせて、医師の側についても、所属医療機関の看護師等がそうした違反行為を行う状況を作り出すことはあってはならない、としています。

管理者の一般的な管理義務違反

医療法第10条により、病院等の開設者はその病院等を臨床研修等修了医師(歯科医業の場合は臨床研修等修了歯科医師)に管理させなければならず、管理者は同法第15条第1項に基づいて従業者を監督し、管理・運営につき必要な注意をしなければなりません。通知は、病院等の管理者が長期間にわたり不在で管理者としての責務を果たすことができない場合を、医療法第15条違反の例として挙げています。

診療録の作成・保存義務違反

医師法第24条第1項は「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と定め、同条第2項は病院・診療所に勤務する医師の診療に関するものは管理者が、その他は当該医師が5年間保存しなければならないとしています。これに違反した場合は、医師法第33条の3第1号により50万円以下の罰金が科されます。通知は、診療を行ったにもかかわらず診療録を作成していない場合のほか、作成した診療録の内容が医師法施行規則第23条の記載事項を満たしていない場合も同法第24条違反に当たると整理しています。

医療広告規制違反

医療法第6条の5第1項は、何人も医業等に関して虚偽広告を行ってはならないと定め、同条第2項は比較優良広告・誇大広告・公序良俗に反する内容の広告等を禁止しています。「絶対に安全」「必ず綺麗になる」といった医学上あり得ない表現、加工・修正した術前術後の写真の広告、「日本一」「No.1」といった最上級表現、体験談の広告などが違反例として通知に挙げられています。無資格施術の周辺では広告表示にも問題があることが多く、行政通報の切り口として使える場合があります。

刑事責任の全体像|医師法違反に付随して問題となる罪

無資格医療行為の事案では、医師法違反だけで終わらないことがあります。被害の実態に応じて、次の罪の成否が問題になり得ます。

  • 傷害罪(刑法第204条)――人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。施術によって火傷や瘢痕等の傷害結果が生じ、故意が認められる場合に問題となります。
  • 業務上過失致死傷罪(刑法第211条前段)――業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。無資格者による施術で健康被害が生じた場合の典型的な検討対象です。
  • 詐欺罪(刑法第246条)――人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑。資格の有無や施術内容について虚偽の説明をして料金を受け取っていた場合に問題となり得ます。
  • 医療法違反――病院の開設や、臨床研修等修了医師等でない者による診療所の開設には都道府県知事等の許可が必要であり(医療法第7条第1項)、違反した場合は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(同法第87条第1号)。立入検査に関し報告を怠り、虚偽報告をし、または検査を拒み、妨げ、忌避した場合は20万円以下の罰金(同法第89条第2号)。

公訴時効の目安

刑事訴訟法第250条第1項は「人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるもの」について、同条第2項はそれ以外の罪について、法定刑に応じた時効期間を定めています。主な対応関係は次のとおりです。

罪名 法定刑 公訴時効
医師法第17条違反(同法第31条) 3年以下の拘禁刑等 3年(第250条第2項第6号)
保健師助産師看護師法第31条違反(同法第43条) 2年以下の拘禁刑等 3年(同号)
あん摩マツサージ指圧師等法・柔道整復師法違反 罰金のみ 3年(同号)
業務上過失致傷罪 5年以下の拘禁刑等 5年(第250条第2項第5号)
業務上過失致死罪 5年以下の拘禁刑等 10年(第250条第1項第3号)
詐欺罪 10年以下の拘禁刑 7年(第250条第2項第4号)
傷害罪 15年以下の拘禁刑等 10年(第250条第2項第3号)

業務上過失致死罪は「人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるもの」として同条第1項の適用を受けるため、致傷にとどまる場合より時効期間が長くなります。この点を取り違えると、まだ時効が完成していない事案を諦めてしまうおそれがあります。

時効は「犯罪行為が終つた時」から進行します(刑事訴訟法第253条第1項)。無資格の施術が長期間にわたり反復されていた場合に、いつを起算点と見るかは事案の内容や訴因の立て方によって異なり、一律に断定できません。古い出来事を含む相談では、直近の行為に関する資料が残っているかどうかが、実務上の分かれ目になります。

告発・告訴と行政通報の使い分け|誰が・どこに出せるのか

無資格医療行為の刑事手続を検討するうえで、まず告訴と告発の区別は避けて通れません。そのうえで、刑事告発と行政通報のどちらを主軸に置くかを決めていきます。

告訴(刑事訴訟法第230条)と告発(同第239条第1項)

刑事訴訟法第230条は「犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる」と定めています。これに対し、同法第239条第1項は「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めています。

医師法第17条違反は、特定の個人の権利侵害というより、無資格者による医業から国民の保健衛生上の危害を防ぐという公益の保護を目的とする規定です。そのため、実務上は被害者以外の第三者や事業者団体、同業者などからの告発として構成されることが多くなります。他方、施術によって傷害を負った方が、傷害罪や業務上過失傷害罪について「犯罪により害を被つた者」として告訴を行うことは、当然に考えられます。同一の事案について、医師法違反は告発、傷害等は告訴として整理する組み立ても可能です。

公務員には告発義務がある

刑事訴訟法第239条第2項は「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と定めています。令和7年8月15日通知も、保健所等が医師法違反等に該当する行為を確認し犯罪があると思料するときは、同法第239条の規定等を踏まえて警察等捜査機関に相談・告発することとされたい、と明記しています。行政通報が結果として刑事手続につながり得るのは、この規定があるためです。

提出先は「警察署長(司法警察員)」

刑事訴訟法第241条第1項は「告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない」と定めています。実務では、事件の発生地または被疑者の所在地を管轄する警察署長(司法警察員)宛てに書面を提出するのが一般的です。

この点、行政書士が作成できるのは警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状に限られます。検察庁に提出する書類の作成は司法書士法第3条第1項第4号に定める司法書士の業務であり、行政書士は取り扱うことができません。作成を依頼する際は、提出先がどこになるのかを最初に確認しておくと行き違いがありません。

受理後の流れ

司法警察員は、告訴または告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければなりません(刑事訴訟法第242条)。検察官は、告訴・告発のあった事件について公訴を提起し、または提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人・告発人に通知しなければならず(同法第260条)、不起訴処分をした場合に告訴人・告発人から請求があるときは、速やかにその理由を告げなければなりません(同法第261条)。

ただし、告発は書面を提出すれば必ず受理されるというものではありません。捜査機関は、犯罪の嫌疑を基礎づける具体的事実と資料の有無を見ています。日時・場所・行為態様が特定されておらず、証拠の裏づけもない書面は、相談段階で止まることが少なくありません。受理されるかどうかは、書面の体裁ではなく事実の具体性と資料の厚みで決まると考えておくのが実際的です。

行政通報という選択肢|病院・診療所の中で行われている場合

無資格医療行為が疑われる場面では、刑事告発だけが選択肢ではありません。むしろ、行為が行われている「場所」によって、有効なルートが変わります。

令和7年8月15日通知によれば、患者等からの情報提供に基づき、病院等において医師法違反や保健師助産師看護師法違反に該当する行為が行われ、管理者が医療法第15条に基づく監督義務を果たせていない疑いがあると認めるときは、保健所等は医療法第25条第2項に基づく立入検査等を行うことが可能とされています。医療法違反の疑いがある場合も同様です。

立入検査の結果、業務が法令等に違反する場合等には、医療法第24条の2第1項に基づく改善命令、これに従わない場合の同条第2項に基づく業務停止命令、さらに同法第29条第1項第4号に基づく開設許可の取消しまたは閉鎖命令へと段階が進み得ます。管理者が犯罪または医事に関する不正行為等を行っている場合には、同法第28条に基づく管理者の変更命令も用意されています。

ここで注意したいのは、立入検査は犯罪捜査のために認められたものではないという点です(医療法第25条第5項において準用する同法第6条の8第4項)。行政の調査権限と刑事捜査は目的も手続も異なります。だからこそ通知は、犯罪があると思料するときは警察等捜査機関に相談・告発することとされたい、と続けているのです。

病院等以外の場所で行われている場合

エステサロン、美容サロン、個人宅など、病院・診療所以外の場所で無資格者が医業を行っている場合はどうでしょうか。令和7年8月15日通知は、この点について、無資格者が医業を行うことは医師法第17条に違反し刑罰の対象となるため、無資格による医業を確認した場合は刑事訴訟法第239条の規定等を踏まえ、警察等捜査機関に相談・告発を行うといった適切な対応を図られたい、としています。

医療法第25条の立入検査は病院・診療所・助産所等を対象とする権限であり、一般のサロンに対して当然に及ぶものではありません。したがって、病院等以外の場所での無資格施術は、行政の是正命令ではなく刑事手続が本筋になるという整理になります。保健所に相談しても「警察へ」と案内されることが少なくないのは、この構造によるものです。

その他の相談窓口

  • 医療安全支援センター――医療法第6条の13により、都道府県、保健所を設置する市および特別区は、医療に関する苦情への対応・相談、必要な情報の提供等を行う施設を設けるよう努めるものとされています。医療機関での対応に疑問がある段階の相談先として機能します。
  • 消費生活センター等――令和7年8月15日通知は、契約内容や解約条件など契約に関する相談については、各自治体の消費生活センターや消費生活相談窓口との適切な連携を図られたい、としています。高額な回数券契約や解約トラブルが絡む場合の窓口です。
  • 特定商取引法に基づく申出――特定商取引に関する法律第60条第1項は「何人も、特定商取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあると認めるときは、主務大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる」と定め、同条第2項は、申出があったときは主務大臣が必要な調査を行い、申出の内容が事実であると認めるときは適当な措置をとらなければならないとしています。
  • 公益通報者保護法に基づく通報――同法第2条第3項の「通報対象事実」は、別表に掲げる法律に規定する罪の犯罪行為の事実等とされ、別表第8号を受けた政令(公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令)には、医師法、歯科医師法、保健師助産師看護師法、医療法、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律、柔道整復師法がいずれも掲げられています。事業者内部の労働者・役員等が通報する場合には、同法第3条による解雇の無効等の保護が働き得ます。

使い分けの考え方

状況 主に検討するルート 期待できる効果
病院・診療所内での無資格者による診断・施術、看護師のみの施術 保健所等への情報提供(医療法第25条第2項の立入検査の端緒)+警察への告発 改善命令・業務停止命令等の行政措置と刑事責任追及の両面
サロン等、医療機関以外での無資格施術 警察署長(司法警察員)宛ての告発 刑事責任の追及。行政の是正命令は原則として想定されない
健康被害が現に発生している 警察への告訴・告発(傷害罪・業務上過失致死傷罪等も併せて検討) 被害事実に即した罪名での立件
広告表示に虚偽・誇大がある 保健所等への情報提供(医療法第6条の8) 報告命令・立入検査、中止命令・是正命令
高額契約・解約トラブルを伴う 消費生活センター、特定商取引法第60条の申出 相談・あっせん、行政による調査と措置
事業者内部の従業員が把握している 公益通報者保護法に基づく通報 通報者としての法的保護を受けつつ是正を促す

実務上は、いずれか一つを選ぶというより、行政通報で事実を明るみに出し、並行して刑事告発の準備を進めるという組み合わせが現実的です。行政の立入検査で作成された資料が、後の刑事手続で意味を持つこともあります。

告発状に載せる事実と証拠の整理|書面化の実務

告発状の本体は、法律論ではなく事実です。どれだけ緻密に条文を並べても、事実が特定されていなければ捜査機関は動けません。

行為を特定する

最低限、次の要素を書き分けられる状態にしておく必要があります。

  • いつ――施術・行為が行われた年月日と時間帯。複数回にわたる場合は、確認できる限り一覧化します。
  • どこで――店舗名、所在地、部屋番号まで。移動型・出張型の場合は施術場所と移動の経緯。
  • 誰が――施術者の氏名、通称、肩書。医療機関内の事案では、医師・看護師・無資格者の役割分担。
  • 誰に対して――施術を受けた人の属性。健康被害が生じている場合はその内容。
  • 何を――使用した機器の名称・型番、照射条件、薬剤名、針の種類、施術部位、施術時間。名称が「タトゥー」「メイク」等でも、実質的な行為態様を具体的に書きます。
  • どのような態様で――予約方法、料金、契約形態、反復継続の意思を示す事情(看板、料金表、ウェブサイト、SNS、回数券など)。

証拠として整理できるもの

  • ウェブサイト・SNS・広告チラシの写し(取得日時を記録し、URLとともに保存)
  • 予約画面、申込書、契約書、同意書、料金表、領収書、クレジットカードの利用明細
  • 施術中・施術後の写真、機器の写真、使用薬剤の容器やラベルの写真
  • 施術者とのメッセージのやり取り、通話記録
  • 健康被害が生じた場合の医療機関の受診記録、診断書(作成は医師に依頼します)
  • 関係者の説明を記録した書面

電子データは、削除・改変のリスクを考えて早い段階で保存しておくことが重要です。ウェブページはスクリーンショットだけでなく、URLと取得日時を併記した形で残しておくと、後から特定しやすくなります。

医行為該当性の理由づけの書き方

前述のとおり、医行為該当性は「医療及び保健指導に属する行為であること」と「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれがあること」の両面から検討されます。書面では、対象行為について明示的な行政通知があるかどうかを示したうえで、行為の目的、行為者と相手方の関係、行われた具体的状況などの事情を、通知や最高裁決定の判断枠組みに沿って配置していくのが基本形になります。

逆に、避けるべき書き方もあります。証拠のない伝聞を断定的に書くこと、施術者の人格に対する評価を並べること、「詐欺に決まっている」といった評価を証拠の裏づけなしに書くことは、いずれも書面の信用性を下げます。確認できた事実と、推測にとどまる事項とを明確に書き分けることが、結果的に受理につながります。

よくある質問

資格の有無がわからない場合でも告発できますか

刑事訴訟法第239条第1項は「犯罪があると思料するとき」に告発できると定めており、確実な立証まで求めているわけではありません。もっとも、資格の有無は事案の核心であるため、施術者が資格を有していないと考える根拠(本人の説明、店舗の表示、資格者の掲示がないこと等)は具体的に記載する必要があります。医師については厚生労働省の医師等資格確認検索システムで氏名等から確認できる場合があります。

匿名で通報することはできますか

保健所等への情報提供は匿名でも受け付けられることがありますが、告訴・告発は告訴人・告発人を特定して行うものであり、匿名では成り立ちません。刑事訴訟法第260条・第261条による処分の通知や理由の告知も、告発人が特定されていることを前提としています。匿名での情報提供にとどめるか、告発人として名前を出すかは、目的に応じて選ぶことになります。

自分が施術を受けた当事者ですが、告訴と告発のどちらですか

医師法第17条違反については、実務上は告発として構成することが一般的です。他方で、施術によって傷害を負った場合には、傷害罪や業務上過失傷害罪について被害者として告訴を検討する余地があります。事案の内容によって適切な構成が変わるため、事実関係を整理したうえで判断することになります。

すでに保健所に相談しましたが動いてもらえません

病院・診療所以外の場所で行われている行為については、医療法上の立入検査権限が及ばず、保健所として取り得る手段が限られていることがあります。この場合、令和7年8月15日通知が示すとおり、警察等捜査機関への相談・告発が本筋になります。相談時に、行為の日時・場所・態様と裏づけ資料を整理して持参できるかどうかで、対応は大きく変わります。

健康被害の賠償も一緒に請求できますか

刑事の告訴・告発と、民事の損害賠償請求は別の手続です。賠償金額の算定や相手方との交渉、訴訟の代理は弁護士の業務であり、行政書士が取り扱うことはできません。刑事手続と民事手続のどちらを先行させるかも含め、方針は分けて検討する必要があります。

告発状を出したら必ず捜査されますか

告発の受理と、その後に捜査が進むかどうかは別の問題です。捜査機関は、証拠上の見通しや事案の内容を踏まえて処理を判断します。不起訴処分となった場合には、告発人からの請求により、検察官が速やかにその理由を告げなければならないとされています(刑事訴訟法第261条)。

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まとめ

医師法第17条の「医業」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことです。医行為に当たるかどうかは、最高裁判所第二小法廷の令和2年9月16日決定が示したとおり、医療及び保健指導に属する行為であることと、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれがあることの両面から、社会通念に照らして判断されます。

個別の行為については、行政通知が判断の手がかりになります。レーザー脱毛等(平成13年11月8日付け医政医発第105号)、いわゆるアートメイク、HIFU施術はいずれも医行為とされ、令和7年8月15日付け医政発0815第21号は、無資格のカウンセラーが患者の個別の状況に応じて医学的判断を行い伝達する行為も医行為に当たると明示しました。反対に、介護現場等で原則として医行為でないとされる行為も、平成17年・令和4年・令和7年の各通知に列挙されています。

刑事責任の面では、医師法第17条違反は同法第31条第1項第1号により3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金またはその併科、医師またはこれに類似した名称を用いた場合は同条第2項により罰金の上限が200万円に引き上げられます。隣接資格法とは法定刑が大きく異なるため、どの法律の問題として構成するかを見誤らないことが重要です。

手続の選択では、行為が行われている場所が分岐点になります。病院・診療所の中であれば、保健所等による医療法第25条第2項の立入検査から改善命令等につながる行政ルートが機能します。医療機関以外の場所での無資格施術については、令和7年8月15日通知が示すとおり、刑事訴訟法第239条を踏まえた警察等捜査機関への相談・告発が本筋です。行政通報と刑事告発は排他的な選択肢ではなく、並行して進めることが有効な場合が多くあります。

行政書士法人Treeでは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状について、事実関係と証拠を整理した書面の作成を承ります。行為の日時・場所・態様の特定、資料の整理、医行為該当性に関する事実の書き分けなど、書面としての精度を高める部分をお手伝いします。書類作成に関するご相談は何度でも無料ですので、まずは事実関係の整理からご相談ください。

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