離婚の財産分与の基準時は、「どの財産を分け合うか(対象財産の確定)」と「その財産をいくらと評価するか(評価)」で考え方が分かれます。実務では、対象財産を確定する基準時は原則として「別居時」(別居時主義)、不動産や株式など価格が変動する財産の評価の基準時は原則として「離婚時(分与時)」とするのが、判例・家庭裁判所実務の一般的な取扱いです。当事務所(行政書士法人Tree)は、ご夫婦で合意された内容を前提に、こうした基準時の考え方を踏まえた離婚協議書の作成をサポートいたします。本記事では、別居時主義の根拠、財産ごとの基準時の扱い、例外となるケース、そして2026年4月1日施行の改正民法で延長された請求期限までを整理します。
目次
財産分与の根拠と「基準時」が問題になる理由
財産分与は、民法第768条に定められた制度で、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を、離婚に際して清算するものです(清算的財産分与)。同条第3項は、各当事者の寄与の程度や婚姻の期間、その他「一切の事情」を考慮して分与の額・方法を定めるとしています(同項は2026年4月1日施行の改正で考慮要素が明文化され、寄与の程度が明らかに異ならないときは相等しいものとする旨も規定されました)。
ここで問題になるのが、「いつの時点の財産を、いつの価値で分けるのか」という基準時です。婚姻から離婚までの間には、別居・収入の変動・財産の値上がりや値下がりなどさまざまな出来事があり、どの時点を基準にするかで分与の対象や金額が大きく変わります。そこで実務は、基準時を次の二つに分けて考えます。
- 対象財産を確定する基準時=どの財産を分与の対象に含めるか(原則:別居時)
- 財産を評価する基準時=対象財産をいくらと評価するか(原則:離婚時/分与時)
対象財産の確定は「別居時」が原則(別居時主義)
分与の対象となる財産を確定する基準時は、原則として別居時とされています。これは、夫婦が別居した時点で、財産の維持・形成に対する協力関係が一応終了したと考えられるためです。したがって、別居後に一方が自分の収入だけで新たに取得した財産は、原則として分与の対象になりません。同様に、別居後に増えた預貯金や、別居後に組んだ借入なども、原則として相手方とは無関係なものとして扱われます。なお、基準時に含まれる時期のものであっても、婚姻前から各自が有していた財産や、婚姻中であっても相続・贈与によって取得した財産は『特有財産』として、基準時にかかわらず財産分与の対象外となります。
一方、別居をせずに同居したまま離婚に至った場合は、協力関係が離婚時まで続いていたと考えられるため、離婚時を基準に対象財産を確定するのが一般的です。
このように、別居の有無やその時期は分与の範囲を左右する重要な事実です。別居開始日が争いになることもあるため、いつから生活実態が分かれたのかを示す資料(住民票の異動、賃貸借契約、転居の通知、家計の分離が分かるやり取りなど)を残しておくと、後の話し合いがスムーズになります。
財産の評価は「離婚時(分与時)」が原則
対象に含めると決まった財産を「いくら」と評価するかについては、価格が変動する財産は原則として離婚時(分与時)の時価で評価します。評価額の変動は夫婦の協力や貢献とは関係なく生じるものだからです。たとえば、別居時に評価額100万円だった株式が、離婚時に相場の変動で200万円になっていれば、原則として離婚時の評価で算定します(逆に値下がりした場合も同様です)。
ただし、預貯金のように価値が基本的に変動しない財産は、別居時の残高がそのまま評価額となるのが通常です。財産の種類によって基準時の考え方が異なる点が、実務で混乱しやすいところです。
財産の種類ごとの基準時の扱い
主な財産について、確定と評価の基準時を整理すると次のとおりです。
| 財産の種類 | 対象財産の確定 | 評価の基準時 |
|---|---|---|
| 預貯金 | 別居時の残高が対象 | 別居時の残高(基本的に変動しないため) |
| 不動産(自宅など) | 別居時に存在していたもの | 離婚時(分与時)の時価が原則 |
| 株式・投資信託 | 別居時に保有していたもの | 離婚時(分与時)の時価が原則 |
| 生命保険(解約返戻金) | 別居時に存在していたもの | 別居時を基準とすることが多い |
| 住宅ローン等の負債 | 別居時に残っていた残債 | 別居時の残高を基準とすることが多い |
| 退職金 | 同居期間に対応する部分 | 後述(特殊な調整あり) |
不動産は価格変動が大きいため、評価額をめぐって争いになりやすい財産です。当事者間で合意できない場合は、不動産業者の査定や不動産鑑定士の鑑定評価を用いて評価額をすり合わせます。住宅ローンが残っている場合は、評価額からローン残債を差し引いて純資産を算定するのが一般的です。
退職金は、婚姻期間のうち別居後の期間は協力関係がないものとして、同居期間に対応する部分を分与対象とするのが一般的です。すでに支給された退職金は対象になりやすく、将来支給される退職金についても、支給の蓋然性が高い場合には対象とされることがあります。算定方法は事案により幅があるため、個別の検討が必要です。
別居時主義の「例外」となるケース
別居時を基準とするのはあくまで原則であり、民法第768条第3項の「一切の事情」のもとで、個別事情に応じて修正されることがあります。代表的な例外は次のとおりです。
- 別居後も経済的な協力関係が続いていた場合:別居していても家計が実質的に一体で、生活費を継続的に分担し合っていたようなケースでは、別居後に増えた財産も対象に含まれる余地があります。
- 単身赴任など、協力関係が実質的に継続していた場合:物理的に離れていても夫婦の協力関係が失われていないと評価できるときは、別居時を機械的に基準としません。
- 同居のまま離婚した場合・家庭内別居の場合:明確な別居がなければ離婚時が基準になります。家庭内別居についても、単に会話が少ないだけでなく、家計や生活実態が分離していたかが重要な判断基準になります。
- 退職金など、別居後の支給でも対象となり得る財産:前述のとおり、同居期間に対応する部分が考慮されます。
例外に当たるかどうかは、家計の分離状況や生活実態を示す客観的な資料の有無によって判断が変わります。家計簿、振込の記録、やり取りの履歴などが判断材料になり得ます。
話し合いで決める場合と、行政書士の関わり方
財産分与は、必ずしも裁判所の手続を経る必要はなく、ご夫婦の合意で柔軟に決めることができます。基準時の考え方は判例・実務の「原則」であり、当事者が納得すれば、別居時・離婚時のいずれを基準にするか、評価額をいくらにするかを話し合いで取り決めることが可能です。合意した内容は離婚協議書にまとめ、対象財産・評価額・分与の方法・支払時期などを明確に記載しておくことが、後のトラブル防止につながります。
当事務所は、離婚協議書の作成を通じて、合意内容を法的に整った書面に落とし込むお手伝いをいたします。なお、財産分与の請求は離婚成立後も可能ですが、請求できる期間には法律上の制限(民法第768条第2項の除斥期間)があります。2026年4月1日施行の改正民法により、2026年4月1日以後に離婚した場合は離婚のときから5年、2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり離婚のときから2年が家庭裁判所に財産分与の処分を請求できる法律上の期間です。除斥期間は時効と異なり中断・更新がないため、早めの取り決めが大切です。一方、調停・審判・訴訟といった裁判所での代理や、慰謝料の金額算定に関する助言は弁護士の業務であり、不動産登記の手続は司法書士、年金分割の細かな計算や税務上の取扱いは年金事務所・税理士の領域です。当事務所では、必要に応じて提携する弁護士・司法書士・税理士と連携してサポートいたします。
離婚協議書の作成は行政書士法人Treeへ
財産分与は、基準時の整理と財産の洗い出し、そして合意内容を正確な書面に残すことが何より大切です。当事務所では、ご夫婦の状況を丁寧に伺いながら、財産分与・養育費・親子交流(面会交流)などを盛り込んだ離婚協議書の作成をサポートしております。離婚協議書作成プランは、ミニマムプラン21,780円(税込)、スタンダードプラン27,500円(税込)、公正証書作成サポートプラン32,780円(税込)をご用意しています。まずは離婚協議書作成サポートのページをご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
財産分与の基準時は、対象財産の確定は別居時(別居時主義)、価格が変動する財産の評価は離婚時(分与時)が原則です。預貯金は別居時の残高、不動産・株式は離婚時の時価が基本となり、退職金は同居期間に対応する部分が考慮されます。別居後も協力関係が続いていた場合などは別居時主義の例外となり得ます。話し合いで柔軟に決めることもでき、合意は離婚協議書に明確に残しておくことが重要です。請求できる期間は、2026年4月1日以後の離婚なら5年、それ以前の離婚なら2年が目安となる点にもご注意ください。
財産分与の基準時に関するよくある質問
Q:別居後に貯めたお金も財産分与の対象になりますか。
A:原則として対象になりません。別居により夫婦の協力関係が終了したと考えられるためです。ただし、別居後も家計が実質的に一体であったなど、経済的な協力関係が続いていたと評価できる事情があれば、例外的に対象に含まれる余地があります。
Q:別居時と離婚時で自宅の価格が変わりました。どちらで評価しますか。
A:不動産のように価格が変動する財産は、原則として離婚時(分与時)の時価で評価します。評価額の上下は夫婦の協力とは無関係に生じるためです。住宅ローンが残っている場合は、評価額からローン残債を差し引いて純資産を算定するのが一般的です。
Q:別居の開始日がはっきりしません。どう扱われますか。
A:別居開始日は対象財産の範囲を左右するため、争いになることがあります。住民票の異動、転居の通知、賃貸借契約、家計が分かれたことが分かるやり取りなど、生活実態が分離した時期を示す資料を残しておくと、話し合いや手続が円滑になります。
Q:退職金はいつの時点を基準に分けますか。
A:婚姻期間のうち別居後の期間は協力関係がないものとして、同居期間に対応する部分を分与対象とするのが一般的です。すでに支給された退職金は対象になりやすく、将来分も支給の蓋然性が高ければ対象とされることがあります。算定方法には幅があるため、個別の検討が必要です。
Q:財産分与はいつまでに請求できますか。
A:離婚成立後も請求できますが、民法第768条第2項に期間制限(除斥期間)があります。2026年4月1日施行の改正民法により、2026年4月1日以後に離婚した場合は離婚のときから5年、2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり2年が、家庭裁判所に財産分与の処分を請求できる法律上の期間です。除斥期間は中断・更新がないため、期間を過ぎると家庭裁判所への処分請求ができなくなります。早めに取り決めておくことをおすすめします。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。