結論から言えば、育成就労外国人は「労働者」であり、労働基準法・最低賃金法をはじめとする労働関係法令が日本人と全く同じく適用されます。賃金は地域別最低賃金以上が義務、労働時間は原則1日8時間・週40時間、年次有給休暇は6か月勤続・8割以上出勤で10日が必ず付与されます。さらに育成就労制度では、受入れの要件として「報酬の額が日本人が同じ業務に従事する場合と同等以上であること」が法令で求められます。令和6年法律第60号による改正後の「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」(平成28年法律第89号)は、令和9年(2027年)4月1日に施行されます。同制度の下でも、労働関係法令の遵守は基本的なルールです。行政書士法人Treeは受入れ機関・監理支援機関の在留資格手続と体制整備を職域として支援し、就業規則・賃金台帳・36協定の作成など労務の実務は社会保険労務士、労使紛争は弁護士と連携してご案内します。本記事では、最低賃金の適用・労働時間・有給休暇・日本人同等処遇の基準を条文に即して整理します。
目次
育成就労外国人は「労働者」――労働法はすべて適用される
育成就労外国人は、受入れ機関(育成就労実施者)と雇用契約を結んで働く「労働者」です。したがって、労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法・労災保険法・雇用保険法などの労働関係法令が、日本人労働者とまったく同じく適用されます。法令の適用に国籍は関係ありません。
特に重要なのが、労働基準法第3条(均等待遇)です。同条は「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定めています。「外国人だから」という理由で賃金を低くしたり休暇を与えなかったりすることは、この条文に正面から違反します。厚生労働省の事業主向け指針でも、労働関係法令が国籍を問わず適用される旨が明記されています。
最低賃金は国籍を問わず適用される
最低賃金法は外国人にもそのまま適用されます。最低賃金には主に2種類あります。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに定められ、産業や職種を問わずその地域で働くすべての労働者に適用されます。
- 特定(産業別)最低賃金:特定の産業について、地域別最低賃金より高い水準で設定されているもの。該当業種では、より高い方が適用されます。
最低賃金法第4条第1項により、使用者は労働者に最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。同条第2項により、最低賃金を下回る賃金を定めた契約はその部分が無効となり、最低賃金と同額を定めたものとみなされます。「合意したから最低賃金未満でよい」という理屈は通りません。最低賃金額は毎年10月頃に改定されるのが通例で、地域別最低賃金未払いは50万円以下の罰金の対象です。最新額は厚生労働省や各都道府県労働局の公表値で必ず確認してください。
育成就労の「日本人と同等以上の報酬」要件
育成就労制度では、最低賃金を満たすだけでなく、受入れの要件として、報酬の額が「日本人が当該業務に従事する場合の報酬の額と同等以上であること」が求められます。これは技能実習・特定技能でも採用されてきた考え方で、育成就労法の下でも基本的な受入れ基準として位置づけられます。
この「同等以上」は、最低賃金さえ守ればよいという意味ではありません。同じ受入れ機関に同種の業務に従事する日本人従業員がいる場合は、その報酬額を踏まえて同等以上であることを説明する必要があります。適切な比較対象者がいない場合の確認方法や提出資料については、育成就労制度の関係省令・運用要領等の最新の内容に従って判断する必要があります。
育成就労外国人の労働時間|36協定・残業・割増賃金のルール
労働時間も日本人と同じルールです。労働基準法第32条は、法定労働時間を原則として1週間40時間・1日8時間と定めています。なお、常時10人未満の労働者を使用する一部の商業・保健衛生業・接客娯楽業等には、週44時間の特例があります。法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせるには、同法第36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出ることが必要です。
法定労働時間を超えた時間外労働には割増賃金が発生します。割増率は、時間外2割5分以上、休日3割5分以上、深夜(原則午後10時~午前5時)2割5分以上です(労働基準法第37条)。割増賃金の支払いにも国籍は関係なく、育成就労外国人にも当然に適用されます。
休憩は労働時間が6時間超で45分以上、8時間超で1時間以上を労働時間の途中に与え(第34条)、休日は毎週1回または4週4日以上を与える(第35条)必要があります。
年次有給休暇――6か月勤続・8割出勤で10日
年次有給休暇(年休)は、労働基準法第39条に基づき、雇入れの日から6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に、必ず10日付与されます。その後は勤続年数に応じて増え、最大20日です。週5日勤務などの通常の労働者の付与日数は次のとおりです。
| 継続勤務年数 | 付与日数 |
|---|---|
| 6か月 | 10日 |
| 1年6か月 | 11日 |
| 2年6か月 | 12日 |
| 3年6か月 | 14日 |
| 4年6か月 | 16日 |
| 5年6か月 | 18日 |
| 6年6か月以上 | 20日 |
さらに、2019年4月施行の改正により、年10日以上の年休が付与される労働者については、使用者は付与日から1年以内に最低5日を取得させる義務を負います。これを怠ると30万円以下の罰金の対象です。育成就労外国人にも同じく付与・取得管理が必要で、年休取得を理由とする賃金減額などの不利益取扱いは認められません。
同等処遇を支える書類整備と注意点
日本人同等処遇を実際に担保するには、書面と記録の整備が欠かせません。賃金・労働時間等を明示した雇用契約書・労働条件通知書(本人が理解できる言語での説明・交付が望まれます)、就業規則、賃金台帳、出勤簿などを適正に作成・保存することが求められます。
- 賃金からの控除:寮費・食費・水道光熱費などを賃金から控除する場合は、法令に別段の定めがある場合を除き、労働基準法第24条に基づく労使協定が必要です。控除する項目・金額を明確にし、育成就労制度上の費用負担基準や本人との合意内容に照らして、合理的で不当に高額でない額とする必要があります。
- 固定残業代・名目上の手当:実態のない手当で最低賃金や同等報酬を「形だけ満たす」ことはできません。最低賃金の算入対象とならない賃金(時間外割増賃金、賞与等)もあるため、算入の可否は慎重に判断します。
- 社会保険・税:健康保険・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税の取扱いは日本人と同様で、実務は社会保険労務士・税理士の職域です。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeは、育成就労・特定技能をはじめとする在留資格手続を支援します。また、特定技能1号については、登録支援機関として受入れ機関から委託を受けた支援業務に対応します。なお、監理型育成就労における監理支援は、育成就労法上の許可を受けた監理支援機関が担います。具体的には、在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請などの入管手続、受入れ要件(日本人同等以上の報酬を含む)を満たすための受入れ体制の整理、必要書類の点検・作成支援を行います。なお、就業規則・36協定・賃金台帳など労務管理の実務は社会保険労務士、労使紛争・未払い賃金等の争訟は弁護士、社会保険・税務は社会保険労務士・税理士と連携してご案内し、当事務所はそれらの職域を越えてお引き受けすることはいたしません。
登録支援・就労ビザの料金は、案件の内容(人数・分野・手続種別)に応じた個別のお見積りとしてご案内します。登録支援機関に支援業務を委託する場合の月額支援委託費は、市場の相場として外国人1人あたり平均2〜3万円程度(税込)が目安です。詳細は就労ビザ・外国人雇用サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
外国人材の受入れ・登録支援でお困りの企業様へ。行政書士法人Treeでは、在留資格の申請取次に加え、支援計画の作成や各種届出までをサポートします。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
育成就労外国人は「労働者」であり、労働基準法・最低賃金法は日本人と同じく適用されます。賃金は地域別最低賃金以上が義務(最低賃金法第4条)、労働時間は原則1日8時間・週40時間(労働基準法第32条)、年次有給休暇は6か月勤続・8割出勤で10日が必ず付与され、最大20日まで増えます(同法第39条)。加えて育成就労制度では、受入れ要件として「日本人が同じ業務に従事する場合と同等以上の報酬」が求められます。育成就労制度は令和9年(2027年)4月1日に施行されます。最低賃金額や制度の運用基準は改定される可能性があるため、出入国在留管理庁・厚生労働省等の最新の公表内容を確認のうえ対応してください。手続や体制整備でお困りの際は、行政書士法人Treeにご相談ください。
育成就労外国人の労働条件に関するよくある質問
Q:育成就労外国人にも最低賃金は適用されますか。
A:適用されます。最低賃金法に国籍は関係なく、日本国内で働く外国人にも地域別最低賃金(該当業種では特定最低賃金の高い方)以上の賃金を支払う義務があります。最低賃金未満を定めた契約はその部分が無効となり、最低賃金額が適用されます。
Q:「日本人と同等以上の報酬」とは、最低賃金を満たせばよいということですか。
A:違います。最低賃金は最低限の下限にすぎません。育成就労では、同じ業務に従事する日本人従業員の賃金水準と同等以上であることが受入れ要件として求められます。比較対象の日本人がいない場合は、近隣同業他社の水準などを参考に合理的に判断します。具体的な基準は最新の運用方針・政省令で確認が必要です。
Q:育成就労外国人に残業をさせることはできますか。
A:法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間外労働をさせるには、36協定の締結・届出が必要です。時間外2割5分以上、休日3割5分以上、深夜2割5分以上の割増賃金の支払いも、日本人と同じく必要です。長時間労働は本人の健康や定着にも影響するため、適正な管理が望まれます。
Q:年次有給休暇は外国人にも与えなければなりませんか。
A:与える必要があります。雇入れから6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤すれば、日本人と同じく10日の年休が必ず付与され、勤続に応じ最大20日まで増えます。年10日以上付与される場合は、使用者に年5日の取得させる義務があります。一時帰国のために年休を使うことも妨げられません。
Q:寮費や食費を給与から差し引いても問題ありませんか。
A:寮費や食費を賃金から控除する場合は、法令に別段の定めがある場合を除き、労働基準法第24条に基づく労使協定が必要です。控除項目・金額を明確にし、育成就労制度上の費用負担基準や本人との合意内容に照らして、不当に高額とならないよう設定してください。なお、最低賃金を満たしているかどうかは控除後の手取り額ではなく、最低賃金の算入対象となる賃金を時間額に換算して判定します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


