結論から言えば、秘密証書遺言は「内容を公証人や証人に開示せず、遺言書の存在を公証人に証明してもらえる」方式で、公証人手数料は定額1万3,000円です。ただし公証人が中身を確認しないため方式不備で無効になるリスクが残り、実務での利用はごく限られています。それでも、財産の内容や分け方を家族にも証人にも見せたくない方にとっては、民法970条が用意した貴重な選択肢です。行政書士法人Treeは、戸籍収集による法定相続人の確認や遺産分割協議書の作成を通じて相続手続を支援する行政書士法人であり、不動産登記は司法書士、相続税は税理士、紛争性のある案件は弁護士と連携する体制を取っています。本記事では、秘密証書遺言の特徴と作成手順、公正証書遺言・自筆証書遺言との違い、どのような場面で選ぶ意味があるのかを整理します。
目次
秘密証書遺言とは|民法970条が定める方式
遺言の普通方式には、自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(民法970条)の3種類があります(民法967条)。秘密証書遺言は、遺言書を封筒に入れて封印した状態で公証役場に持ち込み、公証人と証人2名以上に「自分の遺言書である」ことだけを証明してもらう方式です。公証人も証人も封筒の中身を見ないため、遺言の内容は遺言者だけの秘密のまま、提出日と遺言者の申述(自己の遺言書である旨、筆者の氏名・住所)が封紙に記載されて公的に明らかにされます。
民法970条1項は、次の4つの方式をすべて満たすことを求めています。
- 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと
- 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること
- 遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること
- 公証人が、証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともに署名し、印を押すこと
自筆証書遺言と異なり、本文の自書は要求されていません。パソコンで作成した文書や第三者による代筆でも構いませんが、署名だけは遺言者本人が自書し、証書への押印と封印には同じ印章を使う必要があります。
秘密証書遺言の作成手順|5つのステップと費用(公証人手数料1万3,000円)
実際の作成の流れは次のとおりです。
- ステップ1:遺言書本文を作成する(パソコン・代筆可。署名・押印は必須)
- ステップ2:封筒に入れ、証書に押したものと同じ印章で封印する
- ステップ3:証人2名を手配する(欠格事由に注意)
- ステップ4:公証役場に封書を持参し、公証人1名と証人2名の前で「自分の遺言書であること」と筆者の氏名・住所を申述する
- ステップ5:公証人が提出日と申述内容を封紙に記載し、遺言者・証人とともに署名・押印して完成
公証人手数料は、遺言の目的財産の額にかかわらず定額1万3,000円です(公証人手数料令28条。令和7年政令第263号による改正(令和7年10月1日施行)により1万1,000円から改定されました。金額は日本公証人連合会「手数料」参照)。公正証書遺言のように財産額に応じて手数料が増えることはありません。ただし、完成した封書は公証役場では保管されず、遺言者自身が持ち帰って保管します。
証人には、未成年者、推定相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族などはなれません(民法974条)。なお、遺言自体は15歳に達した人であればすることができます(民法961条)。
秘密証書遺言と公正証書遺言・自筆証書遺言の違い|3方式の比較表
3つの方式の違いを一覧で確認しましょう。
| 項目 | 秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 本文の作成 | パソコン・代筆可(署名は自書) | 公証人が作成 | 全文・日付・氏名を自書(財産目録はパソコン等可) |
| 内容の秘密性 | 誰にも知られない | 公証人・証人に開示 | 誰にも知られない |
| 公証人の内容確認 | なし | あり | なし |
| 証人 | 2名以上必要 | 2名以上必要 | 不要 |
| 公的費用 | 定額1万3,000円 | 財産額に応じた手数料+遺言加算1万3,000円(目的価額の合計1億円以下の場合) | 0円(法務局保管は1件3,900円) |
| 保管 | 遺言者自身 | 原本を公証役場が保管 | 遺言者自身または法務局 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 必要(法務局保管なら不要) |
自筆証書遺言については、2019年1月13日施行の改正民法968条2項により財産目録に限りパソコン作成等が認められ、2020年7月10日には法務局の自筆証書遺言書保管制度(手数料1件3,900円)が始まりました。保管制度を利用した自筆証書遺言は検認が不要となるため、「費用を抑えつつ紛失や発見されないリスクも避けたい」というニーズの多くはこちらで満たせます。秘密証書遺言はこの保管制度の対象外である点に注意してください。
秘密証書遺言のメリット・デメリットと使い所
メリットは次の3点に集約されます。
- 内容を配偶者や子を含め誰にも知られないまま、遺言書の存在・提出日および自己の遺言書である旨を公的に明らかにできる
- 本文をパソコンや代筆で作成できるため、全文の自書が難しい方でも作りやすい
- 封印があるため、開封されれば痕跡が残り、すり替えや変造を発見しやすい
一方でデメリットも明確です。公証人は内容を一切確認しないため、財産の特定が不十分だったり記載に不備があったりしても指摘されず、相続開始後に無効や執行不能と判明するおそれがあります。保管も自己責任のため、発見されないまま遺産分割が進むリスクがあり、相続開始後には家庭裁判所の検認手続も必要です。実際、公正証書遺言に比べて秘密証書遺言の利用はごく少数にとどまるとされています。
こうした特徴から、秘密証書遺言が選択肢になるのは「内容の秘匿を最優先したいが、全文を自書するのは難しい」という限られた場面です。確実性なら公正証書遺言、費用重視なら保管制度を利用した自筆証書遺言を軸に検討し、秘匿性に価値を見いだせる場合に選ぶのが現実的です。
無効時の救済(民法971条)と開封・検認のルール
秘密証書遺言としての方式に不備があっても、遺言書そのものが自筆証書遺言の方式(全文・日付・氏名の自書と押印)を満たしていれば、自筆証書遺言として有効に扱われます(民法971条)。逆にいえば、本文をパソコンで作成していた場合はこの救済を受けられないため、無効リスクに備えてあえて全文を自書しておくという工夫も考えられます。
相続開始後の取扱いにも注意が必要です。封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できません(民法1004条3項)。これに反して開封しても遺言が直ちに無効になるわけではありませんが、5万円以下の過料の対象になります。遺言書の提出を怠った場合や、検認を経ないで遺言を執行した場合も同様に過料の対象です(民法1005条)。検認の申立ては遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に行い、費用は遺言書1通につき収入印紙800円分、検認済証明書の交付は1通150円分です(裁判所「遺言書の検認」参照)。
遺言に不動産が含まれる場合は、検認後の相続登記も見据える必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化され、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります。正当な理由がないのに申請を怠った場合は10万円以下の過料の対象となり得ます(不動産登記法76条の2、164条1項)。登記申請の代理は司法書士の職域のため、当事務所では提携司法書士をご紹介しています。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、戸籍謄本等の収集による法定相続人の確認、相続関係説明図の作成、遺産分割協議書の作成を行政書士の職域としてお引き受けしています。遺言書が見つからない場合や、秘密証書遺言が方式不備で無効となり法定相続人全員での遺産分割協議が必要になった場合に、協議の結果を各種手続で通用する書面に整えます。不動産登記は司法書士、相続税申告は税理士、相続人間に争いが生じた案件は弁護士と連携して対応します。なお、相続放棄の申述は家庭裁判所への手続であり、行政書士は代理できません。
料金は、遺産分割協議書作成のミニマムプラン43,780円(税込)、スタンダードプラン87,780円(税込)、手続をまとめてお任せいただける丸投げプラン217,800円(税込)の3つをご用意しています。詳しくは遺産分割協議書作成サポートのご案内をご覧ください。遺言書の作成そのものをご検討中の方は遺言書作成サポートもあわせてご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
相続手続でお困りの方へ。行政書士法人Treeでは、戸籍の収集による相続人調査から遺産分割協議書の作成までをサポートします。書類作成に関するご相談は何度でも無料です。※相続登記は司法書士、相続税申告は税理士、相続放棄など家庭裁判所へ提出する書類の作成は司法書士・弁護士の業務であり、当法人では取り扱いません。
まとめ
秘密証書遺言は、内容を完全に秘密にしたまま存在だけを公証してもらえる独自の価値を持つ一方、公証人の内容確認がなく、保管は自己責任で、相続開始後には検認が必要という弱点があります。公正証書遺言や保管制度を利用した自筆証書遺言と比較し、秘匿性をどこまで重視するかで選ぶことが大切です。万一無効になった場合に相続手続がどう進むかまで見据えて、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。
秘密証書遺言に関するよくある質問
Q:秘密証書遺言の本文はパソコンで作成してもよいですか?
A:構いません。民法970条は本文の自書を要求しておらず、パソコンでの作成や第三者による代筆も可能です。ただし署名は必ず遺言者本人が自書し、証書への押印と封筒の封印には同じ印章を使う必要があります。
Q:作成にかかる費用はいくらですか?
A:公証人手数料は財産額にかかわらず定額1万3,000円です(公証人手数料令28条)。このほか、相続開始後の検認に遺言書1通につき収入印紙800円分が必要です。証人への謝礼や専門家に依頼する場合の報酬は別途かかります。
Q:秘密証書遺言も法務局の保管制度に預けられますか?
A:預けられません。2020年7月10日に始まった遺言書保管制度(手数料1件3,900円)は自筆証書遺言のみが対象です。秘密証書遺言は遺言者自身で保管場所を確保し、信頼できる人に存在を伝えておくことが重要です。
Q:方式の不備で秘密証書遺言が無効になったらどうなりますか?
A:遺言書が全文・日付・氏名の自書と押印という自筆証書遺言の方式を満たしていれば、自筆証書遺言として有効に扱われます(民法971条)。それも満たさない場合は遺言がないものとして、法定相続人全員による遺産分割協議で相続手続を進めることになります。
Q:証人には誰を頼めばよいですか?
A:未成年者、推定相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族などは証人になれません(民法974条)。相続に利害関係のない知人のほか、業務上の守秘義務を負う行政書士などの専門家に依頼する方法もあります。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


