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結論から言えば、株式譲渡契約書(SPA)はM&Aにおける会社の売買で最も多く使われる契約書であり、譲渡対象株式の特定・譲渡価額・表明保証・補償条項・競業避止義務などを正確に記載する必要があります。記載内容に不備があると、クロージング後に重大な紛争に発展するおそれがあるため、専門家による作成・チェックが不可欠です。この記事では、株式譲渡契約書の主な記載事項と手続きの流れ、注意点を解説します。
株式譲渡契約書の作成・チェックでお悩みの方は、行政書士法人Treeにご相談ください。M&A関連の契約書作成を専門家がサポートいたします。相談は何度でも無料・全国対応です。
目次
株式譲渡契約書とは
株式譲渡契約書(SPA: Stock Purchase Agreement)とは、株式の売主(譲渡人)と買主(譲受人)の間で、株式の譲渡条件を定める契約書です。M&A(企業の合併・買収)において、対象会社の株式を取得することで経営権を移転させる際に作成されます。
株式譲渡は会社法上の手続きであり、譲渡制限株式の場合は取締役会または株主総会の承認が必要です(会社法136条〜145条)。契約書には、当事者間の権利義務を明確にするための条項を漏れなく盛り込むことが求められます。
M&Aにおける株式譲渡の位置づけ
株式譲渡はM&Aの手法の中で最も一般的な方法です。譲受人が対象会社の株式を取得することで、会社の法人格をそのまま維持できるため、許認可や取引先との契約関係も原則として維持されます。ただし、契約上のChange of Control条項や、許認可ごとの個別要件により別途確認が必要な場合があります。中小企業のM&Aでは、この手法が圧倒的に多く採用されています。
株式譲渡契約書は、この取引の根幹をなす書面です。契約書の内容が取引条件のすべてを規定するため、各条項の文言は慎重に検討する必要があります。
事業譲渡との違い
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 会社の株式(経営権) | 事業に属する個別の資産・負債・契約 |
| 法人格 | 対象会社の法人格は存続 | 対象会社の法人格は変わらない(資産だけ移動) |
| 許認可 | 原則として引継ぎ可能 | 原則として再取得が必要 |
| 従業員 | 雇用関係はそのまま継続 | 個別に転籍の同意が必要 |
| 債務 | 会社の債務もすべて引き継ぐ | 引き継ぐ債務を選択可能 |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 個別資産の移転手続きが必要で複雑 |
| 税務 | 譲渡人に株式譲渡所得課税 | 法人に資産譲渡益課税 |
事業譲渡では引き継ぐ資産・負債を個別に選定できるため、簿外債務のリスクを回避しやすいというメリットがあります。一方、株式譲渡は手続きが比較的シンプルで、対象会社の許認可や契約関係をそのまま維持できる点が大きな利点です。契約書の基本的な書き方については「契約書の書き方完全ガイド」で詳しく解説しています。
株式譲渡契約書の主な記載事項
株式譲渡契約書には、取引の内容を明確にし、当事者間のリスクを適切に配分するための条項を記載します。主な記載事項は以下のとおりです。
| 記載事項 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 当事者の表示 | 譲渡人(売主)・譲受人(買主)の氏名・住所・法人の場合は商号・代表者 | 法人の場合は登記上の正確な商号を記載 |
| 譲渡対象株式の特定 | 対象会社の商号・株式の種類・株数 | 種類株式がある場合は種類ごとに明記 |
| 譲渡価額・支払条件 | 1株あたりの単価・総額・支払方法・支払期日 | 価格調整条項(エスクロー等)の有無を検討 |
| クロージング条件 | 株式引渡し・代金決済の前提条件と日程 | 前提条件の未成就時の取扱いを明記 |
| 表明保証(レプワラ) | 対象会社の財務・法務・事業に関する事実の保証 | 範囲と存続期間を明確に設定 |
| 誓約条項(コベナンツ) | クロージングまでに当事者が遵守すべき義務 | 通常の事業運営の範囲を具体的に定義 |
| 補償条項(インデムニティ) | 表明保証違反等による損害の補償 | 補償上限額・請求期限(バスケット条項等)を設定 |
| 競業避止義務 | 譲渡人が一定期間・一定地域で同種事業を行わない義務 | 期間・地域・対象事業の範囲を合理的に設定 |
| 秘密保持義務 | 取引に関する情報の守秘義務 | 開示範囲の例外規定を設定 |
| 解除条件 | 契約を解除できる事由 | 解除時の損害賠償・違約金の取扱いを明記 |
| 準拠法・管轄裁判所 | 適用法令と紛争時の管轄裁判所 | クロスボーダー取引では仲裁条項も検討 |
各種契約書の種類や選び方については「契約書の種類一覧」を参照してください。なお、株式譲渡契約書のひな形・テンプレートを参考にしたい場合は、経済産業省の「M&Aガイドライン」や中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」(いずれも無料公開)に標準的な書式例が掲載されています。ただし、実際のM&Aでは取引の内容に応じたカスタマイズが不可欠なため、専門家への相談を強くお勧めします。
譲渡対象株式の特定
株式譲渡契約書では、譲渡する株式を正確に特定する必要があります。具体的には、以下の情報を記載します。
- 対象会社の商号: 登記上の正式名称(例: 株式会社○○)
- 株式の種類: 普通株式・種類株式の別(種類株式がある場合は「A種優先株式」等の名称)
- 株式の数: 譲渡する株数(発行済株式総数に対する割合も併記することが多い)
- 株券の有無: 株券発行会社か非発行会社か(会社法214条)
全株式を取得する「100%株式譲渡」の場合は、「譲渡人が保有する対象会社の発行済株式の全部」と明記します。一部譲渡の場合は、取得後の持株比率や議決権比率の記載も検討してください。
譲渡価額と支払条件
譲渡価額は株式譲渡契約書の最も重要な条項の一つです。価額の決定方法として、以下のようなパターンがあります。
- 固定価格方式: 契約締結時に確定した金額で取引する
- 価格調整方式: クロージング日の純資産額や運転資本に基づいて最終価格を調整する
- アーンアウト方式: クロージング後の対象会社の業績に応じて追加対価を支払う
支払条件については、支払方法(銀行振込等)、支払時期、分割払いの有無を明記します。エスクロー(第三者預託)を利用する場合は、エスクロー期間や解放条件も定めます。
表明保証条項(レプワラ)
表明保証条項(Representations and Warranties、略して「レプワラ」)は、主に譲渡人が対象会社に関する一定の事実を「真実かつ正確である」と表明し、保証するものです。代表的な表明保証事項には以下があります。
- 対象会社が適法に設立・存続していること
- 財務諸表が適正に作成されていること
- 簿外債務が存在しないこと
- 重要な訴訟・紛争が存在しないこと
- 税務申告が適正に行われていること
- 許認可が有効に維持されていること
- 知的財産権に第三者の権利侵害がないこと
- 重要な契約に債務不履行がないこと
譲受人側も、買収資金の手当てや必要な社内承認の取得などについて表明保証を行うことがあります。表明保証条項は補償条項と連動するため、その範囲と存続期間の設定が交渉上の重要ポイントとなります。
補償条項(インデムニティ)
補償条項(Indemnity)は、表明保証違反や誓約条項違反があった場合に、相手方が被った損害を補償する義務を定めるものです。以下の点を明確に定める必要があります。
- 補償の対象: 表明保証違反・誓約違反・特定のリスク(税務リスク等)
- 補償上限額(キャップ): 譲渡価額の一定割合を上限とするのが一般的
- 最低請求額(バスケット): 少額の損害を除外する仕組み(ティッピング・バスケットまたはディダクティブル・バスケット)
- 補償請求期限: クロージングから一定期間内に請求しなければ権利が消滅する
損害賠償条項の一般的な考え方については「契約書の損害賠償条項の書き方」も参考になります。
競業避止義務
競業避止義務条項は、株式譲渡後に譲渡人が同種の事業を行って対象会社の価値を毀損することを防ぐ目的で設けられます。有効な競業避止義務とするためには、以下の要素を合理的な範囲に設定する必要があります。
- 期間: 一般的には2〜5年程度。日本の裁判例では、①禁止の必要性・目的、②禁止する地域・業務の範囲、③代償措置(対価・退職金上乗せ等)の有無、④存続期間の4要素を総合的に判断して有効性が判断されます。代償なしで過度に長期・広範囲な制限は無効とされるリスクがあります。
- 地域: 対象会社の事業展開地域に限定する
- 対象事業: 対象会社と競合する事業を具体的に定義する
- 違反時の制裁: 違約金や差止請求の可否を定める
秘密保持義務の書き方については「秘密保持契約書(NDA)の書き方」で解説しています。
株式譲渡の手続きの流れ
株式譲渡によるM&Aは、一般的に以下のステップで進行します。
Step 1: 基本合意書(LOI)の締結
売主と買主の間で、取引の基本条件(対象株式・想定価格帯・スケジュール・独占交渉権等)について大枠の合意を形成します。基本合意書(LOI: Letter of Intent)は法的拘束力を持たない条項と持つ条項(秘密保持・独占交渉権等)を区別して作成するのが通常です。
Step 2: デューデリジェンス(DD)
買主側が対象会社の財務・法務・税務・事業等について詳細な調査を実施します。DDで発見された問題点は、株式譲渡契約書の表明保証条項や補償条項、価格調整に反映されます。
- 財務DD: 財務諸表の正確性、簿外債務の有無、収益力の検証
- 法務DD: 訴訟リスク、許認可の状況、契約関係の確認
- 税務DD: 税務申告の適正性、税務リスクの洗い出し
- 事業DD: 事業の将来性、市場環境、競合状況の分析
Step 3: 株式譲渡契約書の作成・締結
DDの結果を踏まえ、株式譲渡契約書を作成します。各条項について売主・買主間で交渉を行い、双方が合意した内容で契約を締結します。契約書のドラフト作成から締結までに数週間〜数か月を要することもあります。
契約書作成時のチェックポイントについては「契約書のリーガルチェック」を参照してください。
Step 4: 譲渡承認手続き(譲渡制限株式の場合)
対象会社が譲渡制限株式を発行している場合(中小企業の大半が該当します)、株式を譲渡するためには会社の承認が必要です。手続きの流れは以下のとおりです。
- 譲渡承認請求: 株主(譲渡人)が会社に対し、譲渡の承認を請求する(会社法137条)
- 承認機関による決定: 原則として、取締役会設置会社は取締役会、それ以外は株主総会で承認の可否を決定します(会社法139条)。ただし、定款に別段の定めがある場合は、その定めに従います。
- 通知: 会社は請求から2週間以内に承認の可否を通知しなければならない(会社法第139条第2項)。期限内に通知がない場合は承認したものとみなされる(会社法第145条1号)
承認が得られなかった場合の取扱い
譲渡承認請求が不承認となった場合、会社は自ら買い取るか、指定買取人を指定して買い取らせることができます(会社法140条)。買取りの場合の価格は、当事者間の協議により決定しますが、協議が調わないときは裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができます(会社法144条)。株式譲渡契約書には、承認が得られなかった場合の対応(契約の解除、違約金の有無等)を予め定めておくことが重要です。
Step 5: クロージング(株式の引渡し・代金決済)
契約書で定めたクロージング条件がすべて満たされたことを確認した上で、株式の引渡しと代金の決済を同時に行います(同時履行)。クロージング時には、以下の手続きを実施します。
- 譲渡代金の支払い(銀行振込等)
- 株券発行会社の場合: 株券の交付
- 株主名簿の書換請求
- 必要に応じて取締役・代表取締役の変更手続き
- クロージング書類(役員辞任届、就任承諾書等)の授受
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株式譲渡契約書の注意点
譲渡制限株式の承認手続き
日本の中小企業の多くは定款で株式の譲渡制限を設けています。譲渡制限株式を取締役会(または株主総会)の承認なく譲渡した場合、その譲渡は当事者間では有効ですが、会社に対しては効力を主張できません。つまり、株主名簿の書換えを受けられず、議決権の行使や配当の受領ができないことになります。
株式譲渡契約書には、譲渡承認の取得をクロージングの前提条件として明記し、承認が得られなかった場合の取扱い(契約の解除等)も定めておくことが重要です。
印紙税は原則非課税
株式譲渡契約書は、印紙税法上のいずれの課税文書にも該当しないため(第1号文書「営業の譲渡に関する契約書」にも該当しません)、原則として収入印紙の貼付は不要です。ただし、契約書の中に不動産の譲渡、金銭消費貸借、債権譲渡、債務引受け等、別途課税文書に該当し得る内容が含まれている場合は、印紙税が課される可能性があります。契約書の内容に応じて個別に判断する必要があります。
株主名簿の書換え
株式譲渡の効力は当事者間の合意で発生しますが、会社や第三者に対して株主であることを主張するためには、株主名簿の書換えが必要です(会社法130条1項)。クロージング後は速やかに株主名簿の書換請求を行いましょう。
株券発行会社の場合は株券の交付が効力発生要件(会社法128条1項)であるため、株券の存在を事前に確認し、紛失している場合は株券喪失登録の手続き(会社法223条以下)を検討する必要があります。
よくある質問
Q. 株式譲渡契約書に印紙税はかかる?
株式譲渡契約書は印紙税法上の課税文書に該当しないため、原則として印紙税はかかりません。ただし、契約書の中に不動産の譲渡や金銭消費貸借に関する条項が含まれる場合は、その部分について課税される可能性があります。
Q. 株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶべき?
株式譲渡は手続きがシンプルで許認可や契約関係を維持しやすい一方、簿外債務を含めた会社の全リスクを引き継ぎます。事業譲渡は引き継ぐ資産を選択できますが、許認可の再取得や従業員の転籍同意が必要です。対象会社の状況やリスクの大きさに応じて判断してください。
Q. 表明保証条項はなぜ重要?
表明保証条項は、売主が対象会社について「簿外債務がない」「訴訟がない」等の事実を保証するものです。万一、保証した内容が事実と異なっていた場合に、買主が売主に対して補償を請求する根拠となります。デューデリジェンスで把握しきれないリスクに対する安全装置としての機能があります。
Q. 株式譲渡契約書は行政書士に依頼できる?
株式譲渡契約書の作成やチェックは行政書士に依頼できます。行政書士は権利義務に関する書類の作成を業務としており(行政書士法1条の2)、契約書の作成は代表的な業務の一つです。ただし、訴訟に関する法的助言や代理は弁護士の業務となるため、紛争が生じている場合は弁護士への相談が必要です。
まとめ
- 株式譲渡契約書はM&Aで最も一般的に使われる契約書であり、記載事項の正確性が取引の安全を左右する
- 表明保証・補償条項・競業避止義務は交渉上の重要ポイントであり、範囲と期間の設定が重要
- 譲渡制限株式の場合は取締役会(または株主総会)の承認が必要
- 株式譲渡契約書は印紙税が原則非課税
- クロージング後は株主名簿の書換えを速やかに行う
税務上の注意点
株式譲渡による所得には税金がかかります。個人オーナーが株式を譲渡した場合、譲渡益(譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用)に対して申告分離課税20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が課されます。取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算することが認められています。一方、法人オーナーが株式を譲渡した場合は、譲渡益が法人の課税所得に算入され、法人税等が課されます。株式譲渡の税務処理は取引金額が大きくなることが多いため、契約書の作成段階から税理士と連携して進めることをお勧めします。
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※ 本記事の内容は2026年4月時点の会社法に基づく一般的な解説です。M&Aの具体的な法的助言は弁護士にもご相談ください。税務面の検討は税理士にご相談ください。会社法の条文はe-Gov法令検索(会社法)で確認できます。


