新型コロナウイルス感染症の影響を背景に、雇用調整助成金をはじめとする各種助成金の活用が急速に広がりました。その一方で、実態と異なる申請による「不正受給」が社会問題となり、労働局による調査や、悪質な事案に対する刑事手続が現実に行われています。助成金の不正受給は、受給額の返還にとどまらず、加算金・延滞金の負担、事業主名の公表、さらには刑法上の詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性をはらむ重大な問題です。本記事では、助成金の不正受給がどのような責任につながるのか、そして第三者が不正を知ったときに警察署長宛てに提出する「告発状」の位置づけについて、行政書士の視点から中立的に整理します。
目次
助成金の不正受給とは何か
助成金の不正受給とは、偽りその他不正の手段によって、本来受け取ることのできない助成金を受給し、または受給しようとする行為をいいます。雇用調整助成金や緊急雇用安定助成金などの雇用関係助成金では、実際には休業させていない従業員を休業したものとして申請する、出勤簿やタイムカード・賃金台帳を改ざんする、架空の従業員を計上する、といった手口が典型例として知られています。
これらは「事実と異なる申請内容によって公的資金を得る」という点に本質があり、たとえ事業の存続のためであっても、また結果的に返還したとしても、不正の事実そのものが消えるわけではありません。申請者本人だけでなく、不正受給に関与した代理人や関係者が責任を問われる場合もあります。
不正受給に対する行政上の措置
厚生労働省は、雇用関係助成金の不正受給関係ページで、不正受給が判明した場合の措置を明確に定めています。第一に、不正に受給した助成金の全額の返還を求められます。これに加えて、不正受給額の2割に相当する額(違約金)および、不正受給の日の翌日から納付の日までの期間に応じた年3分の延滞金が課されます。つまり、返還額は受給額そのものを上回ることになります。
第二に、不正受給を行った事業主は、不正受給に係る決定が行われた日から原則として5年間、雇用関係助成金(不正受給を行った助成金以外のものを含む)を受給できなくなります。この期間は、全額が返納されていない場合などにはさらに延長されることがあります。第三に、公表基準に該当する事案については、事業主名や代表者名などが管轄の都道府県労働局のホームページ等で公表されます。なお、これらの行政上の措置は、申請者本人だけでなく、不正に関与した社会保険労務士その他の代理人にも一定の不支給措置等が及ぶとされています。返還額や加算金の具体的な算定は労働局の判断によるものであり、当事務所がこれを代理して算定・交渉することはできません。
詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性
助成金の不正受給は、行政上の措置だけでなく、刑事責任に発展する場合があります。虚偽の申請によって公的機関を欺き、本来受け取れない助成金という財物の交付を受けた、または財産上不法の利益を得た行為は、刑法246条の詐欺罪に該当しうるためです。詐欺罪の法定刑は、2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の「10年以下の懲役」から「10年以下の拘禁刑」へと表記が改められました。これは懲役刑と禁錮刑を一本化する制度改正に伴うもので、上限が10年という重い罪であることに変わりはありません。
悪質性が高い事案や被害額が大きい事案については、労働局から捜査機関への刑事告発が行われ、警察・検察による捜査の対象となることがあります。なお、捜査・起訴は捜査機関や検察官の判断によって進められるものであり、行政書士が刑事手続そのものに関与したり、量刑の見通しを述べたりすることはできません。
詐欺罪の公訴時効
刑事責任には公訴時効があります。詐欺罪は法定刑の上限が10年の拘禁刑にあたるため、刑事訴訟法250条の規定により、公訴時効は7年とされています。時効は、原則として犯罪行為が終わった時から進行します。助成金の不正受給の場合、一般的には不正に助成金の交付を受けた時点が一つの基準となりますが、複数回にわたる申請があった事案など、具体的な起算点の判断は個別の事情によって異なります。
「時効が成立すれば責任を免れる」と安易に考えるのは適切ではありません。前述のとおり行政上の返還請求や不支給措置は刑事の公訴時効とは別の枠組みで行われますし、時効の進行は一定の事由により停止することもあります。個別具体的な時効の判断については、弁護士にご確認ください。
労働局への通報と警察署長宛て告発状の違い
助成金の不正受給を知った場合、管轄の都道府県労働局に情報提供・通報する方法があります。労働局への通報は、助成金の支給決定・返還請求・事業主名公表などの行政上の調査につながる手段です。これに対し、警察署長宛ての告発状は、詐欺罪などの犯罪事実を捜査機関に申告し、刑事手続の端緒とするための書面であり、目的や効果が異なります。
どちらを選ぶべきかは、資料の内容、不正の具体性、刑事責任を求める意思の有無によって異なります。当事務所では、警察署長宛ての告発状および関連する事実証明書面の作成について、行政書士の職域内で対応します。労働局への通報後の調査対応、返還請求への対応、刑事事件の代理・弁護が必要な場合は、弁護士・社会保険労務士等の専門家へご相談ください。
第三者による告発状とは|行政書士が作成できる書面
取引先や元従業員などの第三者が、助成金の不正受給という犯罪事実を知ったとき、これを捜査機関に申告して処罰を求める手段の一つが「告発」です。犯罪の被害者本人が行うものを「告訴」、被害者以外の第三者が行うものを「告発」といい、両者は法律上区別されます。助成金の不正受給では、直接の被害者は国や公的機関であるため、外部の第三者が行うのは通常「告発」にあたります。
行政書士は、他士業の独占業務に該当するものを除き、権利義務又は事実証明に関する書類の作成を業として行うことができます。当事務所が作成をお手伝いできるのは、警察署長宛ての「告発状」および、これに関連する事実証明に関する書面の作成です。具体的には、把握している事実関係を時系列で整理し、根拠となる資料を踏まえて、告発の趣旨と事実を明確に記載した書面を作成します。
一方で、検察庁に対する告訴・告発状の作成や裁判所に提出する書類の作成は司法書士または弁護士の業務範囲であり、相手方との示談交渉、損害賠償請求や不正受給額の返還請求の代理、被害額の算定は弁護士の業務範囲です。いずれも行政書士の業務範囲外であり、事案に応じて司法書士・弁護士にご依頼ください。当事務所はこの職域を明確に守り、できることとできないことを正直にお伝えしたうえで業務にあたります。
告発状作成を依頼する際の流れと注意点
告発状は、ただ「不正があった」と訴えるだけでは足りず、いつ・誰が・どのような手段で・何を行ったのかという事実を、できる限り具体的かつ客観的に記載することが重要です。当事務所では、相談者からお預かりした資料や事実関係を丁寧に確認し、書面として整える作業をお手伝いします。証拠資料そのものの収集や評価、捜査の見通しに関する判断は当事務所の業務範囲には含まれませんので、必要に応じて弁護士その他の専門家と連携してご対応いただくことをおすすめします。
また、捜査機関が告発を受理するかどうかは捜査機関の判断によります。受理されなかった場合の対応を含め、見通しについて過度な期待を持たせるような説明は行いません。事実に基づいた書面を、適切な体裁で作成することが行政書士の役割です。
助成金の不正受給に関する告発状の作成をご検討の方は、行政書士法人Treeにご相談ください。当事務所では、警察署長宛ての告発状および関連する事実証明書面の作成について、告訴状・告発状 スタンダードプラン 38,280円(税込)、お急ぎ特急プラン 49,280円(税込)の料金にて承っております。万一不受理となった場合の対応については、オプション対応(不受理時対応)+33,000円(税込)をご用意しています。費用やサービス内容の詳細、ご相談のお申し込みは、https://office-tree.jp/kokuso/ よりご確認ください。
まとめ
助成金の不正受給は、不正受給額の全額返還に加え、その2割相当額および延滞金の負担、5年間の不支給措置、事業主名の公表といった行政上の重い措置を招くとともに、刑法246条の詐欺罪(2025年6月1日施行の改正により10年以下の拘禁刑、公訴時効7年)として刑事責任に発展する可能性があります。第三者がこうした不正を捜査機関に申告する手段が告発であり、行政書士は警察署長宛ての告発状および事実証明に関する書面の作成をお手伝いできます。検察庁宛ての書類の作成は司法書士または弁護士、示談交渉や返還請求の代理は弁護士の職域となりますので、事案の内容に応じて適切な専門家にご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。