結論から言えば、還付金詐欺の被害に遭ったときは、振込先口座の凍結依頼と警察への通報を最優先で行い、そのうえで犯罪事実を具体的に特定した告訴状を提出することが、捜査を動かし被害回復の可能性を残すための現実的な手順です。還付金詐欺は、自治体職員などを名乗って被害者をATMに誘導する特殊詐欺の典型手口で、実務上は電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が中心となり、態様により刑法246条の詐欺罪も問題となります。行政書士は、被害の経緯を時系列で整理し、証拠と結び付けた警察署長宛ての告訴状・告発状を作成することができます。提出先の選定に関する助言や受理後の捜査対応、示談交渉、刑事手続の代理は弁護士の業務であるため、当事務所では必要に応じて弁護士と連携しながら進めます。本記事では、ATM誘導手口の実態、適用条文、告訴状の記載事項、警察初動との連携のポイントを順に説明します。
目次
還付金詐欺とは|ATM誘導型の特殊詐欺
警察庁は還付金詐欺を「税金還付等に必要な手続を装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により財産上の不法の利益を得る手口」と位置付けています。特殊詐欺(電話などで対面せずに信頼させ、振込その他の方法で現金等をだまし取る犯罪の総称)のうち、被害者自身にATMを操作させる点が特徴です。典型的な流れは次のとおりです。
- 市役所・年金事務所・税務署の職員などを名乗り、「医療費(保険料・税金)の還付金がある」と電話をかける
- 「払い戻しの期限が今日まで」と期限を強調して焦らせる
- 「近くのATMで手続できるので、携帯電話を持って向かってほしい」と誘導する
- ATMに着くと電話越しに操作を指示し、実際には犯人側の口座への振込手続をさせる
「還付金がATMで戻る」という手続は存在しません。この種の電話を受けた段階であれば、警察相談専用電話「#9110」や消費者ホットライン「188」に相談することで被害を未然に防げます。振り込んでしまった後は、刑事手続と被害回復手続を並行して進める局面に移ります。
適用条文|電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)と詐欺罪(刑法246条)
還付金詐欺で問題となる条文は、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)と詐欺罪(刑法246条)です。被害者自身にATMを操作させる典型手口では、被害者に送金の処分意思がなく、銀行の電子計算機に虚偽の情報を与えるものと評価されるため、実務上は電子計算機使用詐欺罪が中心的な適用条文となります。刑法246条の2は、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作るなどして財産上不法の利益を得た者を十年以下の拘禁刑に処すると定めており、事案の態様によっては刑法246条の詐欺罪の成否も問題となります。未遂も処罰されます(刑法250条)。
| 条文 | 罪名 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 刑法246条1項 | 詐欺罪(財物の交付) | 10年以下の拘禁刑 |
| 刑法246条2項 | 詐欺利得罪(財産上不法の利益) | 10年以下の拘禁刑 |
| 刑法246条の2 | 電子計算機使用詐欺罪 | 10年以下の拘禁刑 |
なお、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)により懲役・禁錮は拘禁刑に一本化され、令和7年6月1日から施行されています。また、詐欺罪の公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。時間の経過とともに証拠の確保は難しくなるため、告訴の準備は早いほど有利です。
被害届と告訴の違い|刑事訴訟法230条・241条
被害を申告する方法には被害届と告訴があります。告訴は、犯罪の被害者が捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示で、被害者に告訴権が認められています(刑事訴訟法230条)。告訴は検察官または司法警察員に対し、書面または口頭で行い、口頭の場合は調書が作成されます(同法241条)。ただし、当事務所が作成するのは警察署長宛ての告訴状に限り、検察庁提出用の書類は取り扱いません。
| 項目 | 被害届 | 告訴 |
|---|---|---|
| 性質 | 被害事実の申告 | 被害事実の申告+処罰を求める意思表示 |
| 受理後の効果 | 捜査の端緒となる | 司法警察員は速やかに書類・証拠物を検察官に送付(刑訴法242条) |
| 処分の通知 | 通知の定めなし | 起訴・不起訴等の処分が告訴人に通知される(刑訴法260条) |
還付金詐欺では犯人グループが特定されていないことがほとんどですが、告訴は被告訴人を「氏名不詳」としたままでも可能です。詐欺罪は親告罪ではないため、親告罪に適用される告訴期間の制限もありません。
還付金詐欺の告訴状に盛り込むべき記載事項
捜査機関が事件として動きやすい告訴状にするには、犯罪事実(欺く行為→錯誤→処分行為→財産の移転)を証拠と対応させて具体的に記載することが重要です。還付金詐欺では次の事項を押さえます。
- 告訴人の氏名・住所・連絡先
- 被告訴人の表示(不明なら「氏名不詳」とし、名乗った肩書・電話番号など判明している情報を記載)
- 電話を受けた日時、相手が名乗った所属・氏名、「還付金がある」「今日が期限」など欺く文言の具体的内容
- 誘導されたATMの設置場所・金融機関名、操作した日時、指示された操作の内容
- 振込先口座(金融機関・支店・口座番号・名義)と振込金額
- 罪名および罰条(電子計算機使用詐欺罪・刑法246条の2が中心。事案の態様により詐欺罪・刑法246条)
- 処罰を求める意思表示
- 証拠資料の一覧(ATM利用明細票、通帳・取引履歴、着信履歴、通話録音、メモなど)
ATM利用明細票と着信履歴は、欺く行為と財産移転を直接つなぐ資料です。処分せずに原本を保管し、写しの添付や原本提示の方法は提出先の警察に確認してください。
還付金詐欺の被害に遭ったら|警察への通報・口座凍結・証拠保全
還付金詐欺では、振込直後の初動が被害回復の可能性を左右します。犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法、平成19年法律第133号、平成20年6月21日施行)に基づき、金融機関は犯罪利用口座の取引停止(凍結)を行い、口座に残った資金については、預金保険機構の公告後、被害者が申請期間内に振込先金融機関へ申請し、支払決定を受けた場合に被害回復分配金が支払われます。分配金は口座の残高が原資となるため、犯人側が出金する前に凍結できるかが重要です。被害に気付いたら、110番または最寄りの警察署への通報と同時に、振込先の金融機関へ連絡して凍結を依頼してください。
警察への相談時には、時系列の経緯メモ、ATM利用明細票、着信履歴を持参すると事情聴取が円滑に進みます。告訴状はその場で受理されるとは限らず、記載の補正や資料の追完を求められることもありますが、犯罪事実が具体的で証拠との対応が明確な書面は、その後のやり取りを大きく短縮します。被害者が高齢のご家族である場合は、本人の記憶が鮮明なうちに聴き取りを行い、書面化しておくことも有効です。
当事務所のサポート
行政書士法人Treeでは、権利義務・事実証明に関する書類の作成業務として、還付金詐欺をはじめとする特殊詐欺被害について、警察署長宛ての告訴状・告発状の作成を承ります。被害の経緯を丁寧に聴き取り、犯罪事実の特定、罰条の整理、証拠資料の一覧化までを書面として仕上げます。料金は告訴状・告発状の作成38,280円(税込)からで、事案の複雑さにより変動します。なお、行政書士が行えるのは書類の作成までであり、提出先の選定に関する助言、受理後の捜査対応、示談交渉、刑事手続の代理は弁護士の業務のため行いません。これらが必要な事案では弁護士をご紹介するなど、他士業と連携して対応します。詳細は告訴状・告発状作成サポートのご案内をご覧ください。ご相談は何度でも無料です。
告訴状・告発状の作成でお困りの方へ。行政書士法人Treeでは、警察署(司法警察員)に提出する告訴状・告発状について、事実関係と証拠を整理した書面の作成を承ります。書類作成に関するご相談は何度でも無料です。※検察庁に提出する書類の作成は司法書士・弁護士の業務です。また、提出先の選定に関する法的助言、告訴の代理、受理後の捜査対応や示談交渉は弁護士の業務であり、当法人では取り扱いません。
まとめ
還付金詐欺は、自治体職員などを装いATMへ誘導して振込をさせる特殊詐欺の典型手口で、実務上は電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2、10年以下の拘禁刑)が中心となり、態様により刑法246条の詐欺罪も問題となります。被害後は、振込先口座の凍結依頼と警察への通報を最優先とし、振り込め詐欺救済法による被害回復手続と、犯罪事実を具体的に記載した告訴状の提出を並行して進めることが重要です。犯人が不詳でも告訴は可能であり、ATM利用明細票や着信履歴といった証拠と事実を結び付けた書面が、警察の初動と捜査を後押しします。書面の準備でお困りの際は、早めに専門家へご相談ください。当事務所の告訴状作成サービスの詳細は告訴状・告発状作成サポートのご案内をご参照ください。手口の一次情報は警察庁「還付金詐欺」(SOS47)、口座凍結後の公告は預金保険機構「振り込め詐欺救済法に基づく公告」で確認できます。
還付金詐欺の告訴に関するよくある質問
Q:犯人が誰か分からなくても告訴できますか?
A:できます。告訴状の被告訴人欄は「氏名不詳」とし、相手が名乗った肩書や着信番号、振込先口座の情報など判明している事項を記載します。犯人の特定は捜査機関の役割です。
Q:被害届と告訴状はどちらを出すべきですか?
A:被害届は被害事実の申告にとどまるのに対し、告訴は処罰を求める意思表示を含み、受理されると司法警察員には書類・証拠物を検察官へ速やかに送付する義務が生じ(刑事訴訟法242条)、処分結果も通知されます(同法260条)。処罰を求める意思が明確なら告訴を検討する価値があります。
Q:振り込んでしまったお金は戻りますか?
A:振り込め詐欺救済法に基づき、犯罪利用口座が凍結され残高がある場合には、被害回復分配金の支払を受けられる可能性があります。ただし原資は口座の残高であり、全額が戻る保証はありません。凍結が早いほど回復の可能性は高まります。
Q:告訴に期限はありますか?
A:詐欺罪は親告罪ではないため、親告罪に適用される告訴期間の制限はありません。ただし詐欺罪の公訴時効は7年(刑事訴訟法250条2項4号)であり、時効完成後は処罰できません。証拠確保の面でも早期の対応が望まれます。
Q:行政書士にはどこまで依頼できますか?
A:当事務所に依頼できるのは、警察署長宛ての告訴状・告発状の作成までです。検察庁提出用の書類は取り扱いません。提出先の選定助言、受理に向けた警察との折衝、受理後の捜査対応、示談交渉、刑事手続の代理は弁護士の業務です。当事務所では、これらが必要な場合に弁護士と連携する体制を整えています。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


