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器物損壊罪の告訴状の書き方|犯罪成立要件と記載例

更新: 約12分で読めます

器物損壊罪は親告罪です。被害者が告訴しなければ、検察官は起訴できません(刑法第264条)。つまり、車を傷つけられた、窓ガラスを割られたといった被害を受けても、被害届を出すだけでは犯人を処罰に問うことができない場合があります。確実に刑事事件として捜査を求めるには、告訴状を作成して警察署または検察庁に提出する必要があります。

器物損壊罪の告訴状に必要なのは、(1)被害物の特定、(2)損壊行為の具体的記述、(3)犯人の故意を示す事情、(4)証拠資料の添付の4点です。本記事では、犯罪成立要件の整理から告訴状の書き方、記載例までをステップ形式で解説します。

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器物損壊罪とは?刑法第261条の規定と法定刑

器物損壊罪は、刑法第261条に規定されています。条文は以下のとおりです。

前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

2025年6月1日の刑法改正により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に一本化されました。法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料です。

なお、条文中の「前三条」とは、公用文書等毀棄罪(第258条)・私用文書等毀棄罪(第259条)・建造物等損壊罪(第260条)を指します。これらの対象物を除いた「他人の物」すべてが器物損壊罪の客体となります。

器物損壊罪はどのような場合に成立する?構成要件を整理

告訴状を作成するにあたり、器物損壊罪がどのような場合に成立するかを正しく理解しておくことが重要です。以下の3つの要件がすべて揃った場合に犯罪が成立します。

構成要件 内容 告訴状への記載ポイント
1. 他人の物 被害者以外の者が所有する物。動物も含む 被害物の所有者・種類・特徴を具体的に記載
2. 損壊(または傷害) 物の効用を害する一切の行為。物理的破壊に限らない 損壊行為の態様・結果を具体的に記述
3. 故意 他人の物を損壊することの認識・認容 故意が推認できる事情(動機・犯行前後の言動等)を記載

「損壊」にはどのような行為が含まれる?

器物損壊罪における「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為をいいます(大判明治42年4月16日)。物理的に壊す行為だけでなく、心理的・感情的にその物を使用できなくする行為も含まれます。

  • 物理的な損壊: 窓ガラスを割る、車のボディを傷つける、タイヤをパンクさせる
  • 効用を害する行為: 食器に放尿する(大判明治42年4月16日)、看板を取り外して投棄する、壁にペンキを塗りたくる
  • 動物の傷害: 他人のペットを故意に傷つける行為(条文上「傷害」として規定)

器物損壊罪の告訴で押さえるべき期間制限

器物損壊罪は親告罪のため、以下の2つの期間制限に注意が必要です。

期間の種類 起算点 期間 根拠法
告訴期間 犯人を知った日の翌日 6か月 刑事訴訟法第235条第1項
公訴時効 犯罪行為が終わった日 3年 刑事訴訟法第250条第2項第6号

「犯人を知った」とは、犯人を他の人と区別して特定・識別できる程度に認識した状態をいいます。犯人の氏名まで判明している必要はなく、「あの人が犯人だ」と分かれば起算されます。告訴期間を過ぎると告訴権が消滅し、たとえ公訴時効が残っていても処罰を求めることができなくなります。

器物損壊の告訴状はどう書く?作成手順をステップ形式で解説

告訴状には法定の書式はありませんが、捜査機関に受理されやすい構成があります。以下の手順に沿って作成してください。

ステップ1: 表題・宛先を記載する

告 訴 状」と中央に表題を記載します。宛先は犯罪地または被告訴人の住所地を管轄する○○警察署長 殿または○○地方検察庁 御中とします。

ステップ2: 告訴人(被害者)の情報を記載する

氏名・住所・生年月日・職業・連絡先(電話番号)を記載します。法人が被害者の場合は、法人名・代表者名・所在地を記載します。

ステップ3: 被告訴人(加害者)の情報を記載する

氏名・住所が判明していればそのまま記載します。氏名不詳の場合でも「被告訴人 氏名不詳(○○に居住する男性)」のように判明している特徴を記載すれば告訴は可能です。

ステップ4: 告訴の趣旨を記載する

「被告訴人の下記所為は、刑法第261条(器物損壊罪)に該当すると思料されるので、捜査の上、厳重に処罰されたく告訴いたします。」と処罰を求める意思を明示します。

ステップ5: 告訴の事実(最重要)を記述する

損壊行為の経緯を5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・どのように・なぜ)で具体的に記述します。器物損壊罪では以下の点を意識してください。

  • 被害物の特定: 車両であれば車種・色・ナンバー、建物の窓であれば階数・位置など
  • 損壊の具体的態様: 「鋭利な物でボンネットに長さ約50cmの線状の傷をつけた」等
  • 損害の程度: 修理費用や交換費用の見積額

ステップ6: 告訴に至る経緯と証拠を記載する

被害発覚の経緯、被害届の提出状況、犯人特定の経緯などを補足します。添付する証拠の一覧もここに記載します。

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告訴状の記載例(器物損壊・車両への傷つけ)

以下は自動車を傷つけられた事案を例にした告訴状の記載例です。実際の告訴状では、事実関係に応じて内容を変更してください。

告 訴 状

○○警察署長 殿

告訴人  氏名 ○○ ○○
     住所 東京都○○区○○町○丁目○番○号
     生年月日 昭和○○年○月○日
     職業 会社員
     電話番号 090-○○○○-○○○○

被告訴人 氏名 ○○ ○○
     住所 東京都○○区○○町○丁目○番○号

第1 告訴の趣旨

 被告訴人の下記所為は、刑法第261条(器物損壊罪)に該当すると思料されるので、捜査の上、厳重に処罰されたく告訴いたします。

第2 告訴の事実

 被告訴人は、令和○年○月○日午後○時頃、東京都○○区○○町○丁目○番地先の月極駐車場において、同駐車場内に駐車中の告訴人所有の普通乗用自動車(○○色・車種○○・登録番号 品川○○○あ○○○○)のボンネット及び右側面ドア部分を、鋭利な金属様の物で引っ掻き、長さ約50センチメートルないし約1メートルの線状の傷を複数本生じさせ、もって他人の物を損壊した。

 上記損壊による修理費用は、○○自動車修理工場の見積りによれば金○○万円である。

第3 告訴に至る経緯

 告訴人は、令和○年○月○日午前○時頃、上記駐車場に駐車していた自車に上記の傷があることを発見した。前日の午後○時頃に駐車した時点では傷は存在しなかったため、同日午後○時から翌日午前○時までの間に損壊行為が行われたものと考えられる。

 告訴人は直ちに○○警察署に連絡し、被害届を提出した(受理番号:第○○○○号)。その後、駐車場に設置された防犯カメラの映像を管理会社に依頼して確認したところ、令和○年○月○日午後○時○分頃、被告訴人が告訴人の車両に近づき、右手に持った金属様の物で車体を引っ掻いている様子が録画されていた。告訴人は、被告訴人が同駐車場の隣の区画を利用している○○ ○○であることを防犯カメラ映像から特定した。

第4 証拠資料

 1. 車両の損壊状況の写真 ○枚
 2. 防犯カメラ映像(DVD-R) 1枚
 3. 修理費見積書(○○自動車修理工場作成) 1通
 4. 被害届受理票の写し 1通
 5. 駐車場賃貸借契約書の写し 1通

令和○年○月○日

告訴人 ○○ ○○ ㊞

告訴状の記載項目チェックリスト

告訴状作成時に漏れがないか、以下の表で確認してください。

記載項目 内容 注意点
表題 「告訴状」 中央揃えで記載
宛先 ○○警察署長 殿 / ○○地方検察庁 御中 管轄の警察署または検察庁
告訴人情報 氏名・住所・生年月日・職業・連絡先 日中連絡がとれる電話番号を記載
被告訴人情報 氏名・住所(不明の場合は判明情報) 氏名不詳でも特徴を記載すれば可
告訴の趣旨 刑法第261条に該当する旨と処罰意思 適用条文を明示する
告訴の事実 5W1Hによる損壊行為の具体的記述 被害物の特定・損壊態様・損害額を明記
告訴に至る経緯 被害発覚・犯人特定の経緯 時系列で整理する
証拠資料一覧 添付する証拠の名称と通数 原本ではなくコピーを添付
日付・署名・押印 作成日・告訴人の署名・押印 2部用意し1部に受付印をもらう

器物損壊の告訴ではどのような証拠を集めるべき?

告訴状の受理率を高めるためには、証拠の整理が不可欠です。器物損壊事案で有効な証拠を以下にまとめます。

証拠の種類 具体例 入手方法
被害状況を示すもの 損壊された物の写真・動画 被害発覚後すぐに複数の角度から撮影
犯行を示すもの 防犯カメラ映像、目撃証言 管理会社・近隣への確認(早めの対応が必要)
損害額を示すもの 修理費見積書、購入時のレシート 修理業者に見積りを依頼
犯行の動機を推認させるもの トラブルの経緯を示すメール・LINE スクリーンショットを保存・印刷
被害物の所有を示すもの 車検証、購入契約書、賃貸借契約書 手元の書類を確認

証拠は原本を手元に保管し、告訴状にはコピーを添付します。防犯カメラ映像は上書き消去されることが多いため、被害に気づいたらすぐに保存を依頼してください。

告訴状作成時によくある不備

告訴状が受理されない原因として、以下のような不備がよく見られます。提出前に確認してください。

  • 被害物の特定が不十分: 「車を傷つけた」だけでは不十分。車種・色・登録番号・損壊箇所を具体的に記載する
  • 損壊行為の具体性が欠けている: 「壊した」ではなく、いつ・どこで・どのような方法で損壊したかを5W1Hで記述する
  • 告訴期間の経過: 犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴権が消滅する。早めの対応が必要
  • 証拠が添付されていない: 告訴事実を裏付ける証拠が乏しいと受理を渋られるケースがある
  • 民事トラブルとの混同: 「弁償してほしい」という損害賠償の主張が前面に出ると、民事紛争として処理される可能性がある。告訴状では処罰意思を明確にする

民事の損害賠償請求との併用は可能?

器物損壊に対しては、刑事告訴とは別に民事上の損害賠償請求(民法第709条・不法行為)を行うことも可能です。両者は別々の手続きであり、同時に進めることができます。

  • 刑事告訴: 犯人の刑事処罰を求める手続き(告訴状を警察署・検察庁に提出)
  • 民事請求: 修理代や代替品購入費用など、被害の金銭的回復を求める手続き(内容証明郵便による請求・民事訴訟)

刑事告訴を行うことで犯人に心理的プレッシャーがかかり、民事での示談交渉が進みやすくなる場合もあります。なお、示談が成立して告訴を取り消した場合、器物損壊罪は親告罪であるため不起訴処分となります。また、親告罪における告訴の取消しは刑事訴訟法第237条第2項により再度の告訴が禁止される点にも注意が必要です。

よくある質問

Q. 犯人が分からない場合でも告訴できますか?

はい。犯人が不明でも「被告訴人 氏名不詳」として告訴状を提出することは可能です。ただし、器物損壊罪は親告罪のため、犯人を知った日から6か月の告訴期間が設けられています。犯人が不明の間は告訴期間が進行しませんが、公訴時効(3年)は進行するため、証拠の確保を含め早めの対応が重要です。

Q. 器物損壊の公訴時効は何年ですか?

器物損壊罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法第250条第2項第6号)。犯罪行為が終わった日から起算されます。なお、告訴期間(犯人を知った日から6か月)が先に経過すると、公訴時効が残っていても処罰を求めることはできなくなります。

Q. 壊された物の修理代が少額でも告訴できますか?

はい。器物損壊罪に被害額の下限はありません。法律上は少額の被害でも告訴可能です。ただし、実務上は被害額が極めて少額の場合、捜査機関が積極的に捜査を行わない場合や、検察官が起訴猶予とする場合があります。証拠を十分に揃えて告訴状を提出することで、受理の可能性を高めることができます。

Q. 告訴を取り消した後、再度告訴することはできますか?

器物損壊罪は親告罪です。親告罪の告訴を取り消した場合、刑事訴訟法第237条第2項により再度の告訴は認められません。示談交渉の過程で告訴を取り消す場合は、示談条件を十分に確認してから判断してください。なお、非親告罪の場合は再告訴が可能です。

まとめ

  • 器物損壊罪は親告罪であり、被害者の告訴がなければ起訴されない
  • 「損壊」とは物の効用を害する一切の行為を指し、物理的な破壊に限られない
  • 告訴期間は犯人を知った日から6か月、公訴時効は3年
  • 告訴状では被害物の特定・損壊行為の具体的記述・証拠の添付が重要
  • 刑事告訴と民事の損害賠償請求は同時に進行可能

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