公開日:2026年5月16日
離婚後に氏が変わる場合、住民票・戸籍だけでなくパスポート(旅券)の変更手続も必要です。海外渡航予定があるかどうか、有効期限がどれだけ残っているか、復氏したか婚氏続称(民法第767条第2項)を選択したかにより、最適な手続が「記載事項変更(訂正新規発給)」「残存有効期間同一旅券」「新規発給」のいずれかに分かれます。本記事では離婚後のパスポート変更手続を、必要書類・費用・所要日数・選択基準の観点から旅券法・運用に沿って整理します。
本記事の結論:
- 離婚で氏が変わったら速やかにパスポート変更が必要(旅券法10条1項2号)。婚氏続称届を出していれば氏は変わらず変更手続は不要。
- 選択肢は①新規発給(10年16,000円/5年11,000円)、②残存有効期間同一旅券(6,000円)の2パターンが中心。訂正旅券は廃止済。
- 本人申請が原則だが、申請書類の代理提出は可能なケースあり。受領は本人限定。戸籍謄本・写真・住民票等の添付が必要。
- 当所は離婚協議書作成・戸籍収集・関連書類整理を担当。パスポート申請は本人手続のため、書類準備サポートに留まります。
離婚協議書・公正証書の作成サポート
離婚後の氏・戸籍・パスポートの取扱い、子どもの戸籍の異動、財産分与・養育費の合意内容を行政書士が文書化します。協議書から公正証書までワンプライスで文案作成・公証役場との調整に対応し、海外渡航予定がある国際離婚事案にも対応します。
目次
根拠法令
- 旅券法第3条(一般旅券の発給)・第10条(記載事項の訂正・残存有効期間同一旅券)
- 旅券法施行規則(外務省令)第1条〜第10条
- 民法第767条(離婚による復氏等)・第771条(裁判離婚への準用)
- 戸籍法第77条の2(婚氏続称届)・第73条の2(離婚後の戸籍)
- 住民基本台帳法第7条以下(住民票記載事項)
離婚と氏の関係:そもそも変更が必要かを判定
パスポートの変更手続は「氏(または氏名のアルファベット表記)が変わった」場合に発生します。離婚により氏が変わるかどうかは、以下のとおり整理できます。
復氏する場合(民法第767条第1項)
離婚すると、婚姻により氏を改めた配偶者は当然に婚姻前の氏(旧姓)に復します。届出の時点で旧姓に戻り、新戸籍の編製または婚姻前の戸籍に戻る選択ができます(戸籍法第19条)。この場合、パスポートの氏も変更が必要です。
婚氏続称する場合(民法第767条第2項)
離婚の日から3か月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届」(婚氏続称届・戸籍法第77条の2)を提出すれば、婚姻中の氏をそのまま使用できます。この場合、戸籍上の氏に変動がないためパスポートの変更は不要です。期限を過ぎると家庭裁判所の許可(戸籍法第107条)が必要になります。
判定フロー
パスポートの旧氏記載と現氏が同一なら変更不要、相違していれば旅券法第10条第1項第2号に基づく変更手続が必要です。旧姓の併記制度(2021年4月開始)を利用していた場合は、別途確認が必要です。
選択肢1:新規発給(5年または10年旅券)
最も一般的な選択肢が「新規発給」です。新しい氏で5年または10年有効のパスポートを取得します。
必要書類
- 一般旅券発給申請書(5年用または10年用)
- 戸籍謄本(または戸籍全部事項証明書)1通(発行から6か月以内)
- 顔写真1枚(縦4.5cm×横3.5cm、6か月以内撮影)
- 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証等)
- 現在所持しているパスポート(残存有効期間がある場合は失効処理)
費用と所要日数
10年旅券16,000円(収入印紙14,000円+都道府県収入証紙2,000円)、5年旅券11,000円(同9,000円+2,000円)です。20歳未満は10年旅券を取得できず5年のみ(5年6,000円+2,000円=合計8,000円)。所要日数は申請から交付まで6開庁日(土日祝・年末年始除く)が目安です。
残存有効期間の取扱い
離婚前のパスポートに残存有効期間があっても、新規発給では原則失効します(残存期間は引き継がれません)。残存期間が長く惜しい場合は、選択肢2の「残存有効期間同一旅券」を検討してください。
選択肢2:残存有効期間同一旅券の発給
旅券法第10条第1項第2号に基づき、現在のパスポートと同じ残存期間で新しい氏のパスポートを取得できます。
適用ケース
離婚直後で現パスポートの残存期間が3年以上残っているような場合、新規10年で取り直すよりも、残存期間同一旅券のほうが費用対効果が良いことがあります(差額10,000円)。ただし残存期間が短い(1〜2年程度)場合は、新規発給で長く使えるようにしたほうが結果的に得です。
費用
残存有効期間同一旅券は6,000円(収入印紙4,000円+都道府県収入証紙2,000円)です。新規10年(16,000円)と比較すると10,000円安く、新規5年(11,000円)と比較すると5,000円安くなります。
必要書類
- 残存有効期間同一旅券申請書
- 戸籍謄本1通(発行6か月以内、変更事項が記載されたもの)
- 顔写真1枚
- 本人確認書類
- 現在所持しているパスポート
選択肢3:訂正旅券(廃止済み)
旧制度では「訂正旅券」として、パスポートの内側に新氏を追記する方式がありました。ただし米国・カナダ等への入国時に「ICAO規格の機械読取部分(MRZ)と表記が異なる」として渡航トラブルが多発したため、2014年3月19日以前申請分で打ち切られています。現在は新規発給または残存有効期間同一旅券のいずれかを選択する運用です。
申請手続の実務
申請窓口
住所地の都道府県旅券事務所(パスポートセンター)または市町村窓口で申請します。原則として本人が窓口に出頭する必要があります。受領も本人出頭が原則ですが、未成年者は法定代理人が同伴可能です。
代理提出の可否
申請書の提出(記載・押印)は本人原則ですが、提出のみ家族・行政書士が代理することが可能です。受領は本人出頭が原則となります。これは旅券法上、本人確認が厳格に求められるためです。
査証(ビザ)の取扱い
離婚により氏が変わった場合、すでに取得済みの査証(米国ビザ・中国ビザ等)は新パスポートに移転または再取得が必要なケースがあります。各国大使館・領事館の対応により異なるため、渡航前に確認してください。米国ビザの場合は旧パスポート+新パスポートを併携する運用で当面対応可能なことが多いですが、長期滞在ビザは再申請が必要になるケースが多いです。中国・ロシア・インド等のビザ厳格国は新パスポートでの再申請が原則となります。
緊急時のパスポート(旅券事務臨時開庁)
家族の重病・死亡等の緊急事由がある場合、旅券事務所が臨時開庁・優先処理を行うケースがあります。証明書類(病院診断書・死亡通知等)と渡航日程の提示が必要で、自治体により対応に差があります。渡航日まで時間がない場合は、まず管轄旅券事務所に相談してください。
子どものパスポートの取扱い
離婚により親権者・氏が変わった場合、子どものパスポートも別途変更が必要です。子どもの氏は親権者の氏と一致させるため家庭裁判所の許可(民法第791条第1項)または親権者変更(民法第819条)に伴う氏の変更(戸籍法第20条の2)の手続を経て、その後パスポート手続に進みます。
共同親権導入後の取扱い
2026年4月1日施行の改正民法により共同親権が導入されました。子どものパスポート申請には親権者全員の同意が原則必要となります。共同親権下で一方の親が同意しない場合、家庭裁判所の判断(民法第824条の2第3項:単独行使を認める場合の規定)が必要となるケースが想定されます。実務運用は今後外務省の通達等で具体化される見込みです。
マイナンバーカード・運転免許証等の連動手続
離婚により氏が変わった場合、パスポートだけでなく以下も変更が必要です:
- マイナンバーカード(戸籍変更後14日以内、住民基本台帳法)
- 運転免許証(速やかに、道路交通法第94条第1項)
- 健康保険証(事業者・市町村への届出)
- 銀行口座・クレジットカード・証券口座
- 不動産登記名義(任意・所有不動産がある場合)
順番としては、戸籍変更→住民票変更→マイナンバーカード変更→パスポート変更という流れが標準です。マイナンバーカードはパスポート申請時の本人確認書類として活用できるため、先行して変更しておくと手続がスムーズです。運転免許証も本人確認書類として併用可能ですが、住所欄・氏名欄が最新であることが前提となります。
戸籍謄本の取得タイミング
パスポート申請には離婚事項が反映された最新の戸籍謄本(発行から6か月以内)が必要です。本籍地以外で離婚届を提出した場合、本籍地への書類転送に1〜2週間程度を要するため、その期間は戸籍謄本に反映されません。海外渡航予定が迫っている場合は、本籍地に直接届け出るか、戸籍反映を待ってからパスポート申請に進む必要があります。戸籍謄本は本籍地市町村に直接請求するほか、戸籍広域交付制度(2024年3月1日施行)により本籍地以外でも本人・配偶者・直系親族分の取得が可能です(職務上請求は対象外)。
旧姓併記制度との関係
マイナンバーカード・住民票・印鑑登録・パスポートでは旧姓併記制度が運用されています。離婚により復氏した場合、現在の氏が「新たな本姓」となり、旧姓欄に「離婚前の婚姻氏」を併記することが可能です。ビジネス上の連続性のため婚姻氏を併記したい場合は、住民票への旧姓記載の届出(市町村窓口)から進め、マイナンバーカード・パスポートに連動させます。ただし併記処理にはタイムラグがあるため、海外渡航予定がある場合は早めに準備してください。
業務範囲の整理
行政書士業務(書類作成・契約書作成)
- 離婚協議書・離婚公正証書原案の作成
- 事実関係を整理した説明書面の作成
- 婚氏続称届の制度説明・記載要領の説明
- パスポート申請手続のフロー説明
業務範囲外(他士業領域)
- パスポート申請書類の代理作成・代理提出(旅券は本人申請が原則/受領も本人出頭)
- 家庭裁判所への子の氏の変更許可申立書の作成(司法書士業務/本人作成は可)
- 離婚調停・訴訟の代理(弁護士業務/弁護士法第72条)
- 外国大使館での査証手続代理(行政書士業務範囲外)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 離婚届を出した日からどれくらいで戸籍に反映されますか?
A. 本籍地の市町村に直接届け出た場合は当日〜翌日、本籍地以外で届け出た場合は本籍地に書類が転送されるため1〜2週間程度かかります。戸籍謄本に反映されてからパスポート申請が可能になります。
Q2. 婚氏続称届を出すのを忘れて3か月過ぎてしまいました。元の婚姻中の氏に戻せますか?
A. 家庭裁判所に「氏の変更許可申立て」(戸籍法第107条)を行えば可能ですが、「やむを得ない事由」が必要となり、簡単には認められません。3か月以内の届出を強くおすすめします。
Q3. 離婚成立後、すぐに海外旅行があります。何を優先すべきですか?
A. 渡航日まで時間がない場合は「残存有効期間同一旅券」が最短です。戸籍謄本の準備(離婚反映後)と顔写真・申請書類で約6開庁日で交付されます。査証が必要な国へは事前に大使館確認をしてください。
Q4. 婚姻中に取得した旧姓併記のパスポートはどうなりますか?
A. 2021年4月から旧姓併記制度(旅券面の所持人記入欄ではなく、IC内のヘボン式ローマ字氏名表記の併記)が運用されています。離婚で復氏した場合、併記されていた旧姓が新たな本姓となるため、原則として新規発給が必要です。
Q5. 国際結婚から離婚した場合、パスポート手続はどうなりますか?
A. 外国人配偶者の氏(カタカナ表記+ヘボン式ローマ字)に変更していた場合、復氏により日本姓に戻ります。パスポートの氏名表記が大きく変わるため、新規発給が望ましいです。在日外国人配偶者の在留資格にも影響があるため、入管手続も連動して確認してください。
Q6. 子どもを連れて離婚しました。子どものパスポート手続はいつ行いますか?
A. 子の氏の変更許可(民法第791条)→入籍届(戸籍法第98条)→住民票変更→子のパスポート変更という順序です。共同親権の場合は両親の同意が原則必要となるため、調整に時間がかかります。
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まとめ
離婚後のパスポート変更は、氏が変わるか変わらないかで対応が大きく分かれます。婚氏続称届(民法第767条第2項)を3か月以内に提出すれば氏は変わらず変更不要、復氏する場合はパスポートの新規発給または残存有効期間同一旅券の選択となります。費用と残存期間のバランスから最適な選択肢を判断してください。子どものパスポートは2026年4月施行の共同親権導入により両親同意原則となるため、離婚協議の段階で取扱いを明確にしておくことが望ましいです。離婚協議書・公正証書での合意形成は行政書士、家庭裁判所手続は司法書士・弁護士、入管手続は行政書士というように、専門家を適切に使い分けてください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


