公開日:2026年5月18日
国際結婚の破綻時に一方の親が子を本国へ連れ去る「国際的な子の連れ去り」が世界的な問題となっており、日本は2014年4月にハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に加入しました。条約締約国間では、不法に連れ去られた16歳未満の子の常居所地国への返還、または面会交流の援助が認められます。本記事では、ハーグ条約の枠組み、中央当局(日本では外務省)の役割、実施法に基づく返還援助・面会交流援助の申請手続、家庭裁判所の返還命令、行政書士の業務範囲を整理します。
本記事の結論:
- ハーグ条約は16歳未満の子の常居所地国からの不法な連れ去り・留置に対し、原則として元の常居所地国への返還を求める国際条約。
- 日本では外務省(中央当局)が窓口となり、条約実施法(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律)に基づき返還援助・面会交流援助を実施。
- 家庭裁判所での返還命令・拒否事由(子の重大な危険等)の判断は弁護士業務、手続代理は弁護士独占。行政書士・司法書士の業務範囲外。
- 当事務所は関連書類の翻訳整備サポート・申請事前準備・在留資格関連業務を担当します。家事事件は弁護士、家裁提出書類は司法書士または弁護士をご紹介します。
国際的な子の連れ去り問題の事前準備サポート
次のようなお悩みは、行政書士法人Treeにご相談ください(紛争性のある事案は弁護士をご紹介します)。
- 国際結婚の配偶者が子を海外へ連れ去る兆候がある
- 海外から日本へ連れ去られた子の返還を希望している
- 外務省(中央当局)への申請書類の翻訳・整備を行いたい
- 面会交流援助の申請を検討している
- 子と一緒に来日した外国人配偶者の在留資格手続を整理したい
- ハーグ条約・実施法の概要を理解したい
外務省提出書類の翻訳整備、申請事前準備、在留資格関連業務を行政書士法人Treeで対応します。家庭裁判所での返還申立て・面会交流援助申立て・代理交渉は弁護士、家裁提出書類は司法書士または弁護士、出入国管理は申請取次行政書士、税務関係は税理士をご紹介します。
目次
根拠法令(2026年5月時点)
- 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約・1980年採択、日本2014年4月1日発効)
- 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(実施法・平成25年法律第48号)
- 実施法5条以下(外務大臣による援助の決定)
- 実施法26条以下(家庭裁判所による子の返還命令)
- 実施法28条(返還拒否事由)
- 家事事件手続法(家庭裁判所の手続)
- 民法766条(離婚後の親子交流)
- 令和6年法律第33号(2026年4月1日施行・共同親権制度導入)
- 人身保護法・人身保護規則(緊急時の救済手段)
- 行政書士法1条の2(事実証明書類・翻訳文の作成)
1. ハーグ条約の枠組み
ハーグ条約(正式名称:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)は、1980年にハーグ国際私法会議で採択された多国間条約で、現在約100か国が締約しています。日本は2014年4月1日に発効しました。
条約の目的
- 不法に連れ去られ、または留置された16歳未満の子の迅速な返還
- 子の利益を最優先に、常居所地国の裁判所での監護権判断を保護
- 面会交流権の保護
適用要件
- 子が16歳未満
- 子の常居所地が締約国
- 連れ去り先または留置先も締約国
- 連れ去り・留置が監護権を有する者の同意なし、または監護権を侵害するもの
2. 中央当局(外務省)の役割
日本では外務省が中央当局として、ハーグ条約に基づく援助申請の窓口となります。
外務省(中央当局)の業務
- 援助申請の受付(返還援助・面会交流援助)
- 子の所在特定(自治体・関係機関との連携)
- 当事者間の任意の話合いの促進
- 家庭裁判所への申立てに必要な資料提供
- 外国中央当局との連絡調整
- 渡航支援・社会的支援の調整
外務省は当事者の代理人ではなく中立的な調整役で、家庭裁判所での代理人活動は行いません。
3. 返還援助の申請
子が外国から日本へ連れ去られた場合、または日本から外国へ連れ去られた場合、ハーグ条約締約国の中央当局を通じて返還援助を申請できます。
申請者
- 連れ去られた子の監護権を有する者(通常は他方の親)
- 監護権を有する団体・機関
申請窓口
- 子が日本に連れ去られた場合:外国の中央当局を通じて日本の外務省(中央当局)へ申請、または直接日本の外務省へ申請
- 子が外国に連れ去られた場合:日本の外務省(中央当局)を通じて外国の中央当局へ申請
申請に必要な書類
- 申請書(外務省所定の様式)
- 子の出生証明書
- 監護権を証する書類(婚姻証明書・離婚判決等)
- 連れ去り・留置の事実を示す書類
- 子の写真
- 翻訳文(日本語・外国語)
4. 家庭裁判所での返還命令
当事者間の任意の話合いで返還が実現しない場合、申請者は家庭裁判所に子の返還を申し立てます。日本では東京家庭裁判所・大阪家庭裁判所が専属管轄となります。
返還命令の判断
家庭裁判所は、原則として子を常居所地国へ返還する命令を出します。ただし、実施法28条の返還拒否事由に該当する場合は、返還を拒否することがあります。
返還拒否事由(実施法28条)
- 連れ去りから1年経過後の申立てで、子が新たな環境に順応している場合
- 申請者が連れ去り当時に子を現実に監護していなかった場合
- 申請者が事前または事後に同意・黙認した場合
- 常居所地国への返還により子に重大な危険が生じる場合(DV・虐待等)
- 子が返還を拒み、かつ子が意思を考慮するのが適当な年齢・成熟度に達している場合
- 常居所地国に返還することが人権・基本的自由に反する場合
近年、DV・虐待被害を理由とする返還拒否申立てが増加しており、子の重大な危険の認定基準が論点となっています。
5. 面会交流援助
ハーグ条約は、子の返還だけでなく国境を越えた面会交流の援助も対象とします。中央当局は、当事者間の面会交流の合意形成、家庭裁判所への面会交流調停申立てへの援助を行います。
面会交流援助の流れ
- 外務省への面会交流援助申請
- 子の所在特定
- 当事者間の任意の話合い促進
- 必要に応じて家庭裁判所への面会交流調停・審判の申立て
- 面会交流の実現(直接面会・電話・ビデオ通話等)
6. 2026年4月1日施行の共同親権制度との関係
令和6年法律第33号により、2026年4月1日から日本でも共同親権制度が施行されました。共同親権の場合、一方の親が他方の同意なく子を国外へ連れ出すことは、共同で行う身上監護権の侵害として、より明確にハーグ条約上の「不法な連れ去り」に該当する可能性が高まります。
従来は単独親権制度下で「親権者が子を連れて出国する」ケースが多かったため、ハーグ条約の運用上難しい判断もありましたが、共同親権導入後は両親の合意なし出国の不法性がより明確化されます。
7. 緊急時の人身保護請求
ハーグ条約・実施法の手続には時間がかかるため、緊急性の高い事案では人身保護法・人身保護規則に基づく人身保護請求が併用されることもあります。人身保護請求は弁護士代理が原則で、家事事件として家庭裁判所ではなく地方裁判所が管轄します。
8. 業務範囲の整理
行政書士の業務範囲
- 外務省(中央当局)提出書類の翻訳整備・事実関係整理
- 監護権を証する書類(婚姻証明書・離婚判決・戸籍)の取得・整備サポート
- 事実証明書類としての子の生活実態・監護実態の整理
- 海外配偶者・連れ去り親の在留資格手続(申請取次行政書士業務)
- 離婚協議書・親子交流に関する合意書の作成(紛争性のない範囲)
業務範囲外(連携先専門家)
- 家庭裁判所での返還命令申立て・面会交流調停の代理(弁護士業務)
- 家裁提出書類の作成(司法書士または弁護士業務)
- 人身保護請求の代理(弁護士業務)
- 返還拒否事由(DV・虐待等)の主張・立証(弁護士業務)
- 国際私法上の準拠法・管轄裁判所の助言(弁護士業務)
- 子の引渡し執行・強制執行(弁護士業務)
- 外国法・外国判決の効力に関する助言(弁護士業務)
FAQ|よくあるご質問
Q1. ハーグ条約は何歳までの子が対象ですか?
A. 16歳未満の子が対象です。16歳に達した時点で条約の適用は終了します。
Q2. 配偶者が日本人だが、子と一緒に海外へ出国してしまった場合、ハーグ条約は適用されますか?
A. 子の常居所地が日本(または条約締約国)で、連れ去り先も締約国であれば、原則としてハーグ条約の適用対象となります。日本の外務省(中央当局)に返還援助を申請します。
Q3. DV被害を理由に外国から子と一緒に日本へ帰国した場合、返還命令が出ますか?
A. 実施法28条の返還拒否事由(子に重大な危険)に該当すれば返還を拒否される可能性があります。DV・虐待の主張・立証は弁護士による専門的対応が必要で、家庭裁判所での詳細な事実認定が行われます。
Q4. 中央当局(外務省)に申請すれば必ず返還されますか?
A. いいえ。外務省は当事者間の任意の話合いを促進する中立的な調整役で、強制力を持ちません。任意で返還されない場合、家庭裁判所での返還命令申立てが必要です。家裁の代理人活動は弁護士業務となります。
Q5. 共同親権の導入でハーグ条約適用はどう変わりますか?
A. 2026年4月1日施行の共同親権制度下では、一方の親が他方の同意なく子を国外へ連れ出す行為が、共同身上監護権の侵害として「不法な連れ去り」に該当する可能性が高まります。これにより、ハーグ条約上の返還援助対象となる事案範囲が広がる可能性があります。
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国際的な子の連れ去り問題の事前準備サポート
外務省(中央当局)提出書類の翻訳整備、申請事前準備、監護権を証する書類の取得整備、事実関係整理書面の作成、海外配偶者の在留資格手続、紛争性のない離婚協議書・親子交流合意書の作成を行政書士法人Treeで対応します。家庭裁判所での返還命令申立て・面会交流調停の代理、家裁提出書類の作成、人身保護請求の代理、DV・虐待主張の立証等は弁護士・司法書士をご紹介します。
まとめ
ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)は、1980年採択・約100か国が締約する多国間条約で、日本は2014年4月1日に発効しました。16歳未満の子が常居所地国から不法に連れ去り・留置された場合、原則として常居所地国への返還を求める枠組みです。日本では外務省(中央当局)が窓口となり、実施法に基づき返還援助・面会交流援助を実施します。当事者間の任意の話合いで返還が実現しない場合、家庭裁判所(東京・大阪の専属管轄)に返還命令を申し立てます。実施法28条の返還拒否事由(子の重大な危険・新たな環境への順応・申請者の同意等)に該当すれば返還が拒否されることもあり、特にDV・虐待を理由とする拒否申立てが近年増加しています。2026年4月1日施行の共同親権制度導入により、一方の親が他方の同意なく子を国外へ連れ出す行為の不法性がより明確化される可能性があります。外務省提出書類の翻訳整備・事実関係整理・在留資格手続は行政書士業務として対応可能ですが、家庭裁判所での返還命令申立て・面会交流調停・人身保護請求・代理交渉は弁護士、家裁提出書類は司法書士または弁護士と、各専門家チームで対応することが安全で確実な解決につながります。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


