別居中の婚姻費用分担について当事者間の話合いがまとまらない場合や話合いができない場合は、家庭裁判所の婚姻費用分担請求調停を利用します。婚姻費用の分担義務は、夫婦が別居していても離婚成立まで継続するもので、根拠は民法第760条(夫婦は、その資産・収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する)です。
本記事では、(1)民法760条と婚姻費用の内容、(2)婚姻費用分担調停の申立先・流れ、(3)改定標準算定表(令和元年版)と個別事情による調整、(4)未払い時の履行勧告(家事事件手続法289条)・履行命令(同法290条/10万円以下の過料)、(5)給与差押えと婚姻費用特有の将来分の差押え(民事執行法151条の2)、(6)強制執行認諾文言付公正証書による直接強制執行の可能性、(7)業務範囲(行政書士・弁護士・司法書士・税理士)を、実務目線で解説します。
別居中の婚姻費用について当事者間で合意できる場合の婚姻費用分担合意書の文案作成・公正証書化サポートは、行政書士法人Treeにご相談ください(強制執行認諾文言付公正証書により、不払い時の強制執行に備えられます)。婚姻費用分担調停・審判の代理対応、相手方との交渉、履行勧告・履行命令・強制執行の代理は提携弁護士、家裁提出書類の作成は司法書士または弁護士をご紹介します。
目次
目次
- 婚姻費用分担の根拠(民法760条)と内容
- 婚姻費用分担調停の申立先・流れ
- 改定標準算定表(令和元年版)と個別事情による調整
- 未払い時の履行勧告(家事事件手続法289条)
- 履行命令と10万円以下の過料(家事事件手続法290条)
- 給与差押え・将来分の差押え(民事執行法151条の2)
- 強制執行認諾文言付公正証書による直接強制執行
- 業務範囲|行政書士・弁護士・司法書士・税理士の役割
- よくある質問
婚姻費用分担の根拠(民法760条)と内容
民法第760条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と定めています。「婚姻から生ずる費用」には、夫婦の生活費(衣食住)に加え、未成熟子の生活費・養育費・教育費等が含まれます。
別居していても、離婚が成立するまでは婚姻関係が継続している以上、収入の多い側は他方に対し婚姻費用を分担する義務を負い続けます。離婚成立後の養育費とは制度上区別されますが、別居期間中の生活費・子の養育費の請求の根拠としては婚姻費用分担が用いられます。
婚姻費用分担調停の申立先・流れ
- 申立先:原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
- 申立人:婚姻費用の分担を求める配偶者
- 主な必要書類:申立書、夫婦の戸籍謄本、申立人の収入資料(源泉徴収票・確定申告書写し等)、相手方の収入資料(入手可能な範囲)、未成熟子がいる場合は子の戸籍・教育費資料
- 費用:収入印紙1,200円、連絡用郵便切手(家庭裁判所により異なる)
調停〜審判の流れ
- 調停申立て
- 第1回調停期日(調停委員会が中立的立場で双方の主張を聴取)
- 収入資料の整理、算定表との照合
- 個別事情(住宅ローン負担、私立学校費、医療費、別居経緯等)の検討
- 調停成立 → 調停調書作成(債務名義となる)
- 調停不成立の場合 → 審判手続に自動移行し、裁判官が婚姻費用の分担について審判
改定標準算定表(令和元年版)と個別事情による調整
家庭裁判所の調停・審判では、司法研修所の研究報告に基づき2019年(令和元年)12月に公表された改定標準算定表(婚姻費用の算定表)が広く用いられます。算定表は、義務者・権利者双方の年収(給与所得者か自営業者かの別を含む)と、子の人数・年齢に基づいて、標準的な婚姻費用の月額の幅を算定するものです。
算定表の使い方
- 夫婦の年収(給与所得者は源泉徴収票の支払金額、自営業者は所得金額)
- 子の人数(0人・1人・2人・3人)と年齢(0〜14歳・15歳以上)
- 権利者と義務者の年収を当てはめ、表上で交わる帯(金額の幅)を確認
算定表は目安|個別事情で調整される
算定表は標準的な金額の目安であり、必ずそのとおりに決まるわけではありません。次のような個別事情があれば、調整が検討されます。
- 住宅ローンの負担状況(権利者居住中か義務者居住中か)
- 私立学校・塾・習い事の費用
- 子の医療費(持病・治療費)
- 監護状況(子と同居している側、面会交流の頻度)
- 別居の経緯(有責性の有無)
- 義務者の特別費用負担(介護費用等)
未払い時の履行勧告(家事事件手続法289条)
調停・審判で定められた婚姻費用の支払いが滞った場合、まず履行勧告を申し出ることができます。根拠は家事事件手続法第289条です。
- 家庭裁判所が義務者の履行状況を調査し、任意の履行を勧告する手続
- 費用をかけずに申し出られる(手数料不要)
- 本人申立てが可能(弁護士に依頼しなくても利用できる)
- 強制力はない。義務者が応じない場合は次の段階に進む
履行勧告は、義務者に心理的なプレッシャーを与え、任意の履行につながることがあるため、強制執行の前の段階として有用です。
履行命令と10万円以下の過料(家事事件手続法290条)
履行勧告でも履行されない場合、履行命令を申し立てることができます。根拠は家事事件手続法第290条です。
- 家庭裁判所が、相当の期間を定めて履行を命じる手続
- 履行命令に正当な理由なく従わないときは、家庭裁判所は10万円以下の過料に処することができる(同条第5項)
- 履行命令の対象は、金銭の支払その他財産上の給付を目的とする義務に限られる
- 過料はあくまで制裁であり、過料を払えば義務が消滅するわけではない
履行勧告・履行命令の重要な前提
履行勧告・履行命令は、家庭裁判所の調停・審判等で定められた義務についての履行確保手続です。当事者間の私的合意書や、強制執行認諾文言付公正証書のみを根拠に家庭裁判所の履行勧告・履行命令を利用することはできません(公正証書による履行確保は、後述の直接強制執行が手段となります)。
給与差押え・将来分の差押え(民事執行法151条の2)
履行勧告・履行命令でも履行されない場合、強制執行に進みます。調停調書・審判書等の債務名義に基づき、義務者の給与・預貯金等を差し押さえます。
婚姻費用特有の特例|将来分の差押え(民事執行法151条の2)
婚姻費用のような扶養に関する定期金債権については、未払分だけでなく、まだ支払期の到来していない将来分についても給与等の継続的給付を差し押さえられる特例があります(民事執行法第151条の2)。通常の金銭債権では未払分しか差し押さえられないのに対し、婚姻費用・養育費等は将来分も一度の手続で差し押さえられる強力な仕組みです。
給与差押えの差押禁止範囲
給与の差押えには差押禁止範囲がありますが、婚姻費用・養育費等の扶養義務に基づく請求の場合、差押禁止の範囲が通常の2分の1から2分の1まで(手取りの2分の1)に拡大されており(民事執行法第152条第3項)、回収可能性が高い構造になっています。
強制執行の実務手続
- 債務名義(調停調書・審判書・公正証書)の確保
- 執行文の付与(公正証書の場合は公証役場で)
- 債務名義の送達・送達証明書の取得
- 執行裁判所への申立て(差押債権目録の作成)
- 差押命令の発令・第三債務者(勤務先等)への送達
- 第三債務者からの取立て
強制執行は本人申立ても可能ですが、書類作成や手続が複雑なため、弁護士への代理依頼が一般的です。
強制執行認諾文言付公正証書による直接強制執行
当事者間で婚姻費用について合意できる場合、強制執行認諾文言付の公正証書を作成しておくと、不払い時に調停・審判を経ずに直接強制執行を申し立てることができます(民事執行法第22条第5号)。
公正証書による直接強制執行の要件
- 支払額・支払時期・支払方法を明確に定めていること
- 強制執行認諾文言が記載されていること
- 金銭の一定額の支払等を目的とする請求であること
- 実際の強制執行には、執行文付与・送達・送達証明書取得が必要
協議で合意できる見込みがある場合の、簡便で実効性のある履行確保の方法です。なお、公正証書は家庭裁判所の調停・審判等ではないため、公正証書のみを根拠に履行勧告・履行命令は利用できません。
業務範囲|行政書士・弁護士・司法書士・税理士の役割
- 行政書士(行政書士法人Tree):当事者間で合意内容が整理できている場合の婚姻費用分担合意書の文案作成・公正証書化サポート
- 弁護士:相手方との交渉、婚姻費用分担調停・審判の代理、履行勧告・履行命令・強制執行の代理対応、相手方の収入認定・特別費用・過去分請求等で争いがある場合
- 司法書士または弁護士:家庭裁判所提出書類(調停申立書・強制執行申立書類等)の作成
- 税理士:婚姻費用・養育費の税務上の取扱い、別居後の所得税・住民税対応
本人申立てが可能な手続
次の手続は本人申立ても可能です(代理対応は弁護士業務)。
- 婚姻費用分担調停の申立て
- 履行勧告の申出
- 履行命令の申立て
- 強制執行の申立て(書類が複雑なため代理推奨)
当事者間で婚姻費用について合意ができる場合の婚姻費用分担合意書の文案作成・強制執行認諾文言付公正証書化サポートは行政書士法人Treeにご相談ください。婚姻費用分担調停・審判、履行勧告・履行命令・強制執行の代理は提携弁護士をご紹介します。
よくある質問
Q. 婚姻費用分担調停は本人だけでもできますか.
A. できます. 婚姻費用分担調停は本人申立てが可能で、調停委員会が中立的立場で話合いを進めます. ただし、収入資料の整理、算定表の見方、特別費用(住宅ローン・私立学校費・医療費等)の主張、過去分の請求、相手方の収入認定などで争いがある場合は、弁護士に相談するメリットがあります.
Q. 履行勧告と履行命令の違いは何ですか.
A. いずれも家事事件手続法に基づく家庭裁判所の手続です. 履行勧告(同法第289条)は義務者に任意の履行を促すもので強制力はありません. 履行命令(同法第290条)は相当の期間を定めて履行を命じるもので、正当な理由なく従わないときは10万円以下の過料に処せられることがあります(同条第5項). いずれも、それ自体で財産を差し押さえる手続ではなく、強制的な回収には別途強制執行の申立てが必要です.
Q. 公正証書だけを根拠に履行勧告・履行命令を利用できますか.
A. できません. 履行勧告・履行命令は、家庭裁判所の調停・審判等で定められた義務についての履行確保手続です. 公正証書のみを根拠とする場合は、直接強制執行(民事執行法22条5号)が手段となります.
Q. 婚姻費用の未払い時、将来分も差し押さえられますか.
A. できます. 婚姻費用のような扶養に関する定期金債権では、まだ支払期の到来していない将来分についても給与等の継続的給付を差し押さえられる特例があります(民事執行法第151条の2). 通常の金銭債権では未払分しか差し押さえられないのと比べ、強力な仕組みです.
Q. 算定表どおりの金額に必ず決まりますか.
A. 算定表は標準的な金額の目安であり、必ずそのとおりに決まるわけではありません. 住宅ローンの負担、私立学校費、医療費、監護状況、別居経緯などの個別事情により調整される場合があります.
Q. 婚姻費用分担調停の申立先はどこですか.
A. 原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てます. 申立てには収入印紙1,200円と連絡用郵便切手が必要です.
Q. 強制執行認諾文言付公正証書があれば、すぐに強制執行できますか.
A. 公正証書(執行証書)は調停・審判を経ずに強制執行を申し立てる債務名義となります. ただし、実際の強制執行には、公証役場での執行文付与、債務名義の送達、送達証明書の取得が必要です. また、強制執行できるのは金銭の一定額の支払等を目的とする請求に限られます.
Q. 履行命令の過料を払えば婚姻費用の義務はなくなりますか.
A. なくなりません. 過料は履行命令違反に対する制裁であり、過料を払っても本来の婚姻費用支払義務は消滅しません. 過料の支払いと別に、本来の婚姻費用を支払う義務が残ります.
まとめ
別居中の婚姻費用分担は、民法第760条に基づき、夫婦が資産・収入その他一切の事情を考慮して分担します。当事者間で話合いがまとまらない場合や話合いができない場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立て、調停が不成立となった場合は審判に移行します。
金額の目安は改定標準算定表(令和元年版)で、夫婦の年収・子の人数・年齢から算定しますが、住宅ローン負担・私立学校費・医療費・監護状況等の個別事情により調整される場合があります。算定表どおりに必ず決まるわけではない点に注意してください。
調停・審判で定められた義務の未払い時は、履行勧告(家事事件手続法第289条)→履行命令(同法第290条/正当な理由なく従わないと10万円以下の過料)→強制執行の順で履行確保を進めます。婚姻費用のような扶養に関する定期金債権では、未払分だけでなく将来分についても給与等を差し押さえられる特例(民事執行法第151条の2)があり、給与差押えの差押禁止範囲も手取りの2分の1まで拡大されています(同法第152条第3項)。
当事者間で合意できる場合は、強制執行認諾文言付公正証書を作成しておくと、不払い時に調停・審判を経ずに直接強制執行を申し立てられます(民事執行法第22条第5号)。なお、公正証書のみを根拠に履行勧告・履行命令は利用できない(家庭裁判所の調停・審判等で定められた義務が前提)点に注意してください。
婚姻費用分担合意書の文案作成・公正証書化サポートは行政書士法人Treeにご相談ください。婚姻費用分担調停・審判、履行勧告・履行命令・強制執行の代理対応は提携弁護士、家裁提出書類の作成は司法書士または弁護士、税務は税理士をご紹介します。
関連記事
- 婚姻費用分担請求とは|別居中の生活費の相場と請求方法
- 婚姻費用と養育費の違い|別居中・離婚後の切替時期、算定表、2026年改正の法定養育費
- 離婚前の別居|別居協議書の作り方と婚姻費用の整理
- 離婚調停の手続きガイド|申立て・期日・調停成立までの流れ
- 養育費の強制執行手続き|差押えの要件・申立方法・費用
- 海外赴任中の離婚協議|在外公館の署名証明・代理人による公正証書作成・通則法27条
※ 本記事は執筆時点の法令(民法、家事事件手続法、民事執行法等)・公的機関の公表情報・運用実務に基づき作成しています。改定標準算定表は司法研修所の研究報告に基づき2019年(令和元年)に公表されたもので、その後の家庭裁判所の運用により細部が異なる場合があります。最新情報のご確認と専門家へのご相談をお願いいたします。


