公開日:2026-05-22
婚姻費用は、婚姻中の夫婦と未成熟子の生活を維持するために夫婦が分担する費用であり、別居中であっても婚姻関係が継続している限り問題となります。一方、養育費は、離婚後に子を監護していない親が、子を監護している親に対して分担する子の養育費です。両者は算定表が異なり、別居から離婚成立までの期間と離婚後で支払額・対象が変動します。算定表は裁判所が令和元年12月23日に公表した「改定標準算定方式・算定表(令和元年版)」が家庭裁判所実務で広く活用されています。また、養育費については2026年4月1日施行の改正民法により法定養育費・養育費債権への一般先取特権といった新制度が導入されています。
目次
目次
- 婚姻費用とは
- 養育費とは(2026年4月改正対応)
- 婚姻費用と養育費の違い
- 算定表の使い分け
- 別居中から離婚後への切替時期
- 過去の未払婚姻費用を請求できるか
- 公正証書化・強制執行の注意点(一般先取特権の新設)
- 業務範囲の整理
1. 婚姻費用とは
民法第760条により、夫婦は資産、収入その他一切の事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担します。婚姻費用の分担義務は婚姻中は常に存在しますが、実務上その分担が問題となるのは主に別居中であり、別居していても婚姻関係は継続するため、収入が多い側から少ない側へ婚姻費用の支払義務が生じます。
婚姻費用には、配偶者の生活費だけでなく、未成熟子の生活費・教育費等も含まれます。実務上は、収入が高い側が低い側へ支払う形になることが多いですが、単純な収入差だけでなく、子の人数・年齢、監護状況、住居費、特別な医療費・教育費等も確認します。
2. 養育費とは(2026年4月改正対応)
民法第766条・第877条により、離婚後の子の養育費は父母の扶養義務(生活保持義務)に基づくものです。養育費は、父母双方の子に対する扶養義務に基づき、主に子を監護していない親又は監護割合・収入等から見て費用負担をすべき親が、子を監護している親に対して支払う形で取り決められます。2026年4月1日施行後は共同親権のケースもあるため、「親権者かどうか」だけでなく、実際の監護状況と父母双方の収入を確認します。
2026年4月1日施行の改正民法による養育費の新制度
令和6年(2024年)5月成立・令和8年(2026年)4月1日施行の改正民法により、養育費について次の新制度が導入されています。
- 法定養育費(改正民法第766条の3):離婚時に養育費の取決めをしなかった場合でも、子と同居して監護する親は、別居親に対し法律の規定により一定額(子1人あたり月額2万円)の養育費を請求できます。ただし施行日前に離婚した場合には適用されません。
- 養育費債権への一般先取特権(改正民法第306条・第308条の2):養育費債権に一般先取特権が付与され、調停調書・公正証書等の債務名義がなくても、父母間で作成した養育費の取決めの文書に基づいて差押えを申し立てられる場合があります(先取特権が付与される範囲は法務省令で定められ、子1人あたり月額8万円とする方針が示されています)。
- 親の責務(生活保持義務)の明文化:父母は離婚後も子について生活保持義務を負う旨が明文化されました。
3. 婚姻費用と養育費の違い
| 項目 | 婚姻費用 | 養育費 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 民法第760条 | 民法第766条・第877条、第766条の3(法定養育費) |
| 対象期間 | 婚姻中・別居中(離婚成立まで) | 離婚成立後 |
| 含まれる費用 | 配偶者の生活費+未成熟子の生活費・教育費 | 子の養育費のみ |
| 支払義務者 | 収入が多い夫婦の一方 | 子を監護していない親又は監護割合・収入から費用負担すべき親 |
| 算定表 | 婚姻費用算定表 | 養育費算定表(令和元年版)、2026年4月以降は法定養育費の制度も |
4. 算定表の使い分け
- 婚姻費用算定表:婚姻中・別居中の夫婦及び子の生活費分担を算定するために用います。子の有無、子の人数・年齢、義務者・権利者の年収、給与所得者か自営業者かにより表を選びます。
- 養育費算定表:離婚後又は父母が別居している場合の子の養育費を算定するために用います。子の人数・年齢、父母双方の年収、給与所得者か自営業者かにより表を選びます。
算定表は、裁判所が令和元年12月23日に公表した「改定標準算定方式・算定表(令和元年版)」が家庭裁判所実務で広く活用される標準的な目安です。ただし、私立学校費、塾代、医療費、子の障害・病気、住宅ローン、双方の資産状況、高額所得、再婚・扶養家族の存在などの個別事情により、算定表から増減調整される場合があります。
なお、2026年4月施行の法定養育費は、養育費の取決めがない場合に法律上当然に発生する最低限の額(子1人あたり月額2万円)であり、算定表に基づく個別の養育費の取決めとは別のものです。
5. 別居中から離婚後への切替時期
- 別居中から離婚成立まで:婚姻費用が問題になります。婚姻費用には、配偶者の生活費と子の生活費が含まれます。
- 離婚成立後:婚姻費用は原則として終了し、子については養育費が問題になります。
- 切替の明確化:離婚成立時には、婚姻費用から養育費へ切り替える始期を明確にしておくことが重要です。
6. 過去の未払婚姻費用を請求できるか
当事者間で合意できれば過去分を含めて清算することは可能です。家庭裁判所実務では、婚姻費用分担調停・審判の申立時、又は内容証明郵便等により明確に請求した時点を始期として認められることが多いとされています。請求前の過去分が常に認められるわけではないため、未払いがある場合は早めに請求の意思表示又は調停申立てを行うことが重要です。
未払婚姻費用は、離婚成立前に発生した分について離婚後も清算対象となる場合があります。ただし、始期、金額、請求方法、財産分与での清算との関係は個別判断です。
7. 公正証書化・強制執行の注意点(一般先取特権の新設)
養育費・婚姻費用などの金銭債務について、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと、不払い時に改めて訴訟を提起せず、債務名義として強制執行を申し立てられる場合があります。ただし、実際の差押えには、公正証書の送達、執行文、差押対象財産の特定等の手続が必要です。
2026年4月1日施行の改正民法により、養育費債権に一般先取特権が付与されました。これにより、父母間で作成した養育費の取決めの文書に基づく差押えも可能となる場合があり、養育費の取決めを書面で明確に残しておくことの重要性が一層高まっています。
※親権、監護、親子交流などの非金銭条項は、強制執行認諾文言により当然に直接実現できるものではないため、条項の実効性や家庭裁判所手続との関係を別途確認します。
婚姻費用・養育費の合意書作成・公正証書化サポート
婚姻費用分担合意書・養育費合意書の文案作成、公正証書化サポート(強制執行認諾文言付)について、行政書士法人Treeへご相談ください。
8. 業務範囲の整理
当事務所の対応範囲
- 双方が合意している金額又は算定表を参考にした金額を、合意書・公正証書原案に整理
- 婚姻費用分担合意書・養育費合意書の文案作成
- 強制執行認諾文言付き公正証書の原案作成・公証役場との文案調整
業務範囲外(連携先専門家)
- 相手方との代理交渉、金額について争いがある場合の交渉・調停代理・紛争対応:弁護士業務
- 婚姻費用分担調停・養育費調停・親権者指定・変更審判の代理:弁護士業務
- 養育費・婚姻費用の強制執行、財産開示、第三者からの情報取得、養育費の先取特権に基づく手続等の裁判所提出書類作成:司法書士業務、代理対応・交渉は弁護士業務
- 離婚関連の税務(譲渡所得・贈与税の判定等):税理士業務
FAQ|よくあるご質問
Q1. 婚姻費用と養育費は同時に請求できますか?
原則として、婚姻中・別居中は婚姻費用として配偶者分と子の生活費を含めて分担し、離婚成立後は子について養育費を取り決めます。そのため、別居中に同じ子の生活費について婚姻費用と養育費を二重に請求するわけではありません。離婚成立時には、婚姻費用から養育費へ切り替える始期を明確にしておくことが重要です。なお、2026年4月1日施行の改正民法により、離婚時に養育費を取り決めなかった場合でも、施行日後に離婚したケースでは法定養育費(子1人あたり月額2万円)を請求できるようになりました。
Q2. 過去の婚姻費用は遡って請求できますか?
当事者間で合意できれば過去分を含めて清算することは可能です。家庭裁判所実務では、婚姻費用分担調停・審判の申立時、又は内容証明郵便等により明確に請求した時点を始期として認められることが多いとされています。請求前の過去分が常に認められるわけではないため、未払いがある場合は早めに請求の意思表示又は調停申立てを行うことが重要です。
Q3. 公正証書化のメリットは?
養育費・婚姻費用などの金銭債務について、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと、不払い時に訴訟・調停を経ずに強制執行を申し立てられます(送達、執行文、差押対象財産の特定等の手続要件あり)。加えて、2026年4月1日施行の改正民法では養育費債権に一般先取特権が付与され、父母間で作成した養育費の取決めの文書に基づく差押えも可能となるため、養育費の取決めを書面で明確に残しておくことの重要性が一層高まっています。
Q4. 法定養育費とは何ですか?
2026年4月1日施行の改正民法第766条の3で新設された制度で、離婚時に養育費の取決めをしなかった場合でも、子と同居して監護する親が別居親に対し、法律の規定により一定額(子1人あたり月額2万円)の養育費を請求できる制度です。ただし、施行日前に離婚した場合には適用されません。具体的な手続・支給時期等は最新の法務省・厚生労働省・こども家庭庁等の案内を確認します。
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まとめ
婚姻費用(民法第760条)は婚姻中・別居中の夫婦と未成熟子の生活費分担、養育費(民法第766条・第877条)は離婚後の子の養育費で、両者は算定表が異なります。婚姻費用には配偶者の生活費だけでなく子の生活費・教育費が含まれ、収入差だけでなく子の監護状況・住居費・特別費用等を総合的に判断します。
算定表は裁判所が令和元年12月23日に公表した「改定標準算定方式・算定表(令和元年版)」が家庭裁判所実務で広く活用されており、子の人数・年齢、義務者・権利者の年収、給与所得者か自営業者かにより表を選びます。算定表は標準的な目安であり、私立学校費・医療費・住宅ローン・高額所得等の個別事情で増減調整される場合があります。
別居中(離婚成立前)は婚姻費用、離婚成立後は養育費が対象で、婚姻費用と養育費を二重に請求するものではありません。過去の未払婚姻費用は、家庭裁判所実務では調停申立時又は明確な請求時を始期とすることが多いため、未払いがある場合は早めに請求の意思表示又は調停申立てを行うことが重要です。
2026年4月1日施行の改正民法により、養育費について次の新制度が導入されています。法定養育費(第766条の3):離婚時に養育費の取決めをしなかった場合でも、子1人あたり月額2万円を請求可能。養育費債権への一般先取特権(第306条・第308条の2):父母間で作成した養育費の取決めの文書に基づく差押えが可能(先取特権の範囲は法務省令で月額8万円の方針)。親の責務(生活保持義務)の明文化。一般先取特権の付与により、養育費の取決めを書面で明確に残しておくことの重要性が一層高まっています。
当事務所では、双方が合意している金額又は算定表を参考にした金額を、婚姻費用分担合意書・養育費合意書として文案化し、強制執行認諾文言付き公正証書の原案作成・公証役場との文案調整を承ります。相手方との代理交渉・調停代理・強制執行の代理対応は弁護士業務、裁判所提出書類の作成は司法書士業務、離婚関連の税務は税理士業務として整理します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


