相続関連

歯科医院の親族内承継|出資持分・非上場株式・後継者選定・名義書換の進め方

更新: 約8分で読めます

歯科医院を親から子へ、あるいは親族の歯科医師へと引き継ぐ「親族内承継」は、長年地域に根ざした医院を絶やさず次世代へつなぐ大切な選択肢です。しかし、歯科医院の承継は「のれん分け」のような単純な引き継ぎでは済みません。医院の運営形態が個人開設なのか医療法人なのか、出資持分や株式といった財産的権利をどう移すのか、後継者をどう確定させるのか、保健所への開設・廃止の届出をいつ行うのか――こうした論点が複雑に絡み合います。本記事では、歯科医院の親族内承継について、株式・出資持分の評価、後継者の選定、名義書換の進め方といった全体像を、行政書士の視点から整理します。なお、株式・出資持分の評価額の算定や税務上の取扱いは税理士、各種登記は司法書士の専門領域であり、本記事では具体的な評価額の計算は行いません。

歯科医院の事業承継は「運営形態」で手続きが分かれる

歯科医院の親族内承継を考えるうえで、まず確認すべきは医院の運営形態です。大きく「個人開設の歯科診療所」と「医療法人が開設する歯科診療所」に分かれ、承継の手続きはまったく異なります。

  • 個人開設の場合:診療所は院長個人の事業であり、法人格はありません。後継者が事業を引き継ぐには、現院長が診療所を「廃止」し、後継者が新たに診療所を「開設」する、という形をとります。設備や患者基盤は引き継げても、開設者としての地位そのものを移転することはできません。
  • 医療法人の場合:医療法人が診療所の開設者であるため、院長個人が交代しても法人は存続します。承継では、法人の意思決定機関である社員総会における「社員」の交代や、理事長の変更、(持分あり医療法人の場合は)出資持分の移転が論点となります。

同じ「歯科医院の承継」でも、個人開設か医療法人かによって必要な手続き・関与する専門家・税務上の検討事項が大きく変わります。まずは自院がどちらに該当するかを正確に把握することが出発点です。

個人開設の歯科医院を承継するときの届出

個人開設の歯科診療所を親族へ承継する場合、現院長(親)の側で「廃止」、後継者(子)の側で「開設」の手続きが必要です。親子間であっても、第三者への承継と同様に届出が求められる点に注意が必要です。主な届出は次のとおりです。

手続きを行う人 主な届出 提出先・期限の目安
現院長(廃止する側) 診療所廃止届、診療用エックス線装置廃止届 管轄の保健所(廃止後10日以内)
現院長(廃止する側) 保険医療機関の廃止届 地方厚生(支)局など
後継者(開設する側) 診療所開設届、診療用エックス線装置備付届 管轄の保健所(開設後10日以内)
後継者(開設する側) 保険医療機関の指定申請 地方厚生(支)局など

保険医療機関の指定には一定の手続期間を要するため、開設のタイミングと保険診療の開始時期にずれが生じないよう、スケジュールを逆算して準備することが重要です。なお、開設者変更と同時に診療を継続する場合などには、地方厚生局で指定期日の遡及が認められる取扱いが問題となることがあります。届出の様式や添付書類、提出期限、保険医療機関指定の取扱いは自治体・管轄により細部が異なるため、必ず管轄の保健所・地方厚生局に事前確認してください。当事務所では、これらの開設・廃止に関する各種届出書類の作成をご支援できます。

医療法人の歯科医院を承継するときの論点

医療法人が開設する歯科医院では、法人そのものは存続するため、承継の中心は「経営権の移転」になります。ここで押さえておきたいのが、医療法人特有の機関設計です。

医療法人(社団)には最高意思決定機関として社員総会があり、定款変更や理事の選任などの重要事項を決議します。医療法人の「社員」は株式会社の株主に似た存在ですが、出資額にかかわらず一人一票の議決権を持ち、剰余金の配当を受けられない点が大きく異なります。後継者へ経営権を移すには、理事長の交代に加え、社員の交代(現経営者の退社と後継者の入社)が必要になる場合があります。

さらに、医療法人は設立時期によって「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」に分かれます。持分あり医療法人では出資者が出資持分という財産的権利を持つため、この出資持分を後継者へどう移転するか(生前の贈与・譲渡か、相続による承継か)が重要な検討事項になります。ただし、出資持分を後継者へ移転するだけでは経営権までは承継されず、前述の社員の交代を別途行う必要がある点に注意が必要です。なお、出資持分の評価額は、贈与・譲渡・相続税務の検討時に重要となります。

当事務所では、医療法人の定款の確認・変更案の整理、社員総会の議事録の作成、退社・入社に関する書類作成など、行政書士の職域でご支援します。一方、出資持分の評価額の算定や移転に伴う税務上の取扱いは税理士医療法人の役員変更等の登記は司法書士の専門領域ですので、これらは各専門家にご確認ください。

後継者の選定と「出資持分・非上場株式」の集約

親族内承継を円滑に進める最大の鍵は、後継者の早期確定と、経営権の裏付けとなる権利の集約です。医療法人化していない場合でも、関連する事業が株式会社(たとえば医療関連の物販・運営会社など)の形をとっていれば、その株式の承継が論点になります。

非上場株式は、相続が発生すると複数の相続人に分散しがちです。経営に必要な議決権が後継者以外にも分散すると、医院や会社の意思決定が滞るおそれがあります。そのため、誰を後継者とするかを生前に明確にし、その後継者に株式・出資持分を集約する設計が望まれます。具体的には、生前であれば贈与や譲渡、相続発生時であれば遺言や遺産分割協議を通じて、後継者へ権利を集める方法が考えられます。

注意したいのは、株式や出資持分の評価額をいくらと見るか(税務評価)、また移転に伴う贈与税・相続税の取扱いは税理士の専門領域であり、行政書士は具体的な評価額の算定や節税の助言を行うことはできません。当事務所では、後継者への権利集約を実現するための遺産分割協議書や、当事者間の合意を裏づける契約書・事実証明に関する書類の作成をご支援し、税務の検討が必要な場面では税理士と連携いたします。

相続による承継と「名義書換」の進め方

生前に承継が完了せず、相続によって株式・出資持分や事業用資産を引き継ぐ場合、相続手続きの一環として権利の名義を後継者へ移す「名義書換」が必要になります。

非上場株式の名義書換は、相続人が新たな株主であることを発行会社に知らせ、株主名簿を書き換えてもらう手続きです。名義書換が完了するまでは、後継者は株主としての権利を十分に行使できません。多くの中小企業の株式には譲渡制限が付されていますが、相続による取得は「譲渡」ではないため会社の承認は原則不要とされます。一方で、譲渡制限株式の相続をめぐっては、会社による売渡請求など固有の論点があるため、定款の定めを確認しておくことが大切です。

相続手続き全般では、2024年の制度改正にも目を向けておきましょう。2024年3月からは戸籍の広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍証明書を取得できるようになり、相続人調査の負担が軽減されました。また2024年4月からは相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から原則3年以内に登記の申請をしなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります。医院の土地・建物を相続する場合はこの義務化の対象となります。

これらの手続きのうち、相続を原因とする不動産登記や会社の役員変更登記は司法書士相続税の申告や株式の税務評価は税理士相続人間で争いがある場合の交渉・調停の代理は弁護士の領域です。当事務所が行政書士として担うのは、戸籍等を収集したうえでの相続関係を示す書類の整理や、遺産分割協議書・各種承継に関する契約書の作成であり、それぞれの専門家と適切に連携しながら進めます。

承継を成功させるための準備のポイント

歯科医院の親族内承継は、思い立ってすぐに完了するものではありません。後継者の育成、患者・スタッフへの引き継ぎ、各種届出、権利の移転と、複数のステップを計画的に重ねていく必要があります。準備にあたっては、次の点を早めに整理しておくとよいでしょう。

  • 自院の運営形態(個人開設か医療法人か、持分あり・なしか)の確認
  • 後継者の確定と、本人・親族間での合意形成
  • 株式・出資持分など経営権に関わる権利の所在と分散状況の把握
  • 保健所・地方厚生局への届出スケジュールの逆算
  • 税務(税理士)・登記(司法書士)など、連携すべき専門家の早期手配

これらを早期に整理しておくことで、相続発生という不確実なタイミングに振り回されず、計画的な承継を進めやすくなります。

歯科医院の親族内承継について、遺産分割協議書・契約書・事実証明に関する書類の作成や、保健所等への各種届出書類の作成をお考えの方は、お気軽に当事務所へご相談ください。料金については個別にお問い合わせください。ご相談は何度でも無料です。株式・出資持分の評価や税務は税理士、登記は司法書士など、必要に応じて各分野の専門家と連携してご対応いたします。相続に伴う遺産分割協議書の作成についてはこちらのご案内ページもご覧ください。

まとめ

歯科医院の親族内承継は、個人開設か医療法人かという運営形態の見極めから始まり、保健所等への開設・廃止の届出、後継者の確定、株式・出資持分といった経営権の集約、そして相続時の名義書換まで、多くの論点が連なります。とりわけ株式・出資持分の評価や税務は税理士、登記は司法書士の専門領域であり、専門家同士の連携が欠かせません。行政書士法人Treeは、遺産分割協議書・契約書・各種許認可や届出書類・事実証明に関する書類の作成を通じて、円滑な事業承継をご支援します。早めの準備が、地域に根ざした歯科医院を次世代へ確実につなぐ第一歩です。

※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。

行政書士法人Tree