公開日:2026年5月16日
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」(民法915条1項)という厳格な期間制限があります。「親が亡くなって遠方の家裁に手続をしなければならない」「3か月では財産調査が間に合わない」――起算点の正確な理解と、期間伸長申立て(民法915条1項但書)が、相続放棄実務の重要論点です。
本記事の結論:
- 相続放棄期間の起算点は自己のために相続の開始があったことを知った時(民法915条1項)。被相続人の死亡を知った時と自己が相続人になったことを知った時の遅い方が起算点。
- 3か月で財産調査が間に合わない場合は家庭裁判所に期間伸長申立て(民法915条1項但書)が可能。期間内の申立てが必須。
- 最判昭59.4.27により、相続財産の存在を知らなかった等の特段の事情があれば、起算点を繰り下げる判例理論が活用できる。
- 当所は戸籍収集・相続関係説明図・事実関係整理書面の作成を担当。相続放棄申述書・期間伸長申立書の作成は司法書士業務のため提携司法書士をご紹介します。
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目次
根拠法令
- 民法 915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
- 民法 938条(相続放棄の方式)
- 民法 939条(相続放棄の効果)
- 家事事件手続法 別表第一・相続放棄
- 最判昭和59年4月27日(熟慮期間の起算点)
1. 相続放棄の3か月期間(民法915条1項)
1-1. 期間の意義
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に対し相続の承認・放棄・限定承認を選択する必要があります。期間経過は単純承認とみなされます(民法921条2号)。
1-2. 起算点の原則
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは:
- 被相続人の死亡を知った時
- 自己が法律上の相続人となったことを知った時
これらの遅い方から起算。
1-3. 知った時の判定
- 同居家族:通常、死亡日
- 遠方親族:死亡通知が届いた日
- 後順位相続人:先順位が放棄したことを知った日
2. 起算点の繰り下げ判例理論
2-1. 最判昭和59年4月27日の意義
「相続人が、相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識すべき時」から起算するとした重要判例。被相続人と疎遠で財産の存在を知らなかったケース等で活用。
2-2. 適用される典型ケース
- 被相続人と長年疎遠で財産情報を知らなかった
- 被相続人が借金をしていた事実を後日知った
- 配偶者・子が放棄した結果、後順位の兄弟姉妹に相続が移った
2-3. 立証の重要性
起算点繰り下げを主張するには、「財産の存在を知らなかった合理的事情」の立証が必須。家庭裁判所への上申書で詳細説明。
3. 期間伸長申立て(民法915条1項但書)
3-1. 申立ての意義
3か月以内に承認・放棄を判断できない事情がある場合、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申立てて、期間延長を得ることができます。
3-2. 申立人
相続人本人。利害関係人(法定代理人等)も可能。
3-3. 申立先
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。
3-4. 必要書類
- 家事審判申立書(伸長)
- 申立人の戸籍謄本
- 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡)
- 被相続人の住民票除票
- 伸長を必要とする事情の説明書
3-5. 申立費用
- 収入印紙:800円(相続人1人につき)
- 郵券:数百円
- 司法書士報酬:30,000〜50,000円程度
3-6. 伸長期間
原則3か月(事案により6か月以上認められることもある)。伸長後さらに伸長申立ても可能。
4. 期間伸長が認められる典型事情
4-1. 財産調査の困難
- 遠方の不動産・預貯金の調査
- 被相続人の事業に関する債権・債務調査
- 海外資産の調査
4-2. 相続人の状況
- 未成年者の法定代理人選任
- 相続人の海外居住
- 相続人の入院・療養中
4-3. 関係者間の協議
- 共同相続人間の協議調整
- 債権者との交渉
5. 期間経過後の救済策
5-1. 起算点繰り下げの主張
後日に債務の存在を知った場合、最判昭59.4.27の起算点繰り下げ理論で相続放棄申述を試みる。
5-2. 限定承認
3か月以内なら、相続放棄ではなく「限定承認」(民法922条)の選択肢も。相続財産の範囲内で債務を弁済する制度。
5-3. 詐害行為取消
債権者がいる場合、相続放棄が詐害行為として取消対象となる可能性は最判平成元年9月14日により否定されています。
6. 相続放棄の効果
6-1. 初めから相続人でなかったとみなされる
民法939条により、相続放棄者は最初から相続人でなかったものとみなされ、相続権・債務承継ともに発生しません。
6-2. 後順位相続人への移転
子全員放棄→直系尊属(親)→兄弟姉妹の順に相続権が移転。最終的に相続人不存在となる場合は相続財産清算人選任の対象。
6-3. 代襲相続の不発生
相続放棄者の子は代襲相続しません(民法887条2項)。「親が放棄したから子が代襲」は発生しない。
7. 相続放棄手続の流れ
- 被相続人死亡・相続開始
- 戸籍収集・財産調査
- 3か月以内の判断
- 家庭裁判所への相続放棄申述書提出
- 家裁からの照会書回答
- 相続放棄申述受理通知書の受領
- 必要に応じて相続放棄申述受理証明書の取得
8. 業務範囲の整理
8-1. 行政書士の業務範囲
- 戸籍収集・相続関係説明図の作成
- 事実関係整理書面の作成
- 相続放棄に関する事実調査・情報整理
8-2. 業務範囲外(提携専門家を紹介)
- 相続放棄申述書の作成・申立 → 司法書士業務(裁判所提出書類)
- 期間伸長申立書の作成・申立 → 司法書士業務
- 限定承認申述書の作成・申立 → 司法書士業務
- 債権者との交渉・訴訟 → 弁護士業務
- 相続税申告 → 税理士業務
FAQ|よくあるご質問
Q1. 相続放棄期間の3か月はいつから数えますか?
A. 「自己のために相続の開始があったことを知った時」から。被相続人の死亡を知り、自己が相続人になったことを認識した時から起算。
Q2. 3か月では足りない場合はどうすればいいですか?
A. 家庭裁判所に「期間伸長申立て」(民法915条1項但書)。財産調査・関係者協議等の事情があれば3か月程度の伸長が認められやすい。
Q3. 後日に多額の借金が発覚したらもう放棄できませんか?
A. 最判昭59.4.27により起算点繰り下げ理論で相続放棄申述を試みることが可能。「財産の存在を知らなかった合理的事情」の立証が鍵。
Q4. 相続放棄したら子も相続しないことになりますか?
A. はい。民法887条2項により、相続放棄者の子は代襲相続しません。
Q5. 限定承認と相続放棄の違いは?
A. 限定承認は相続財産の範囲内で債務を弁済(プラスとマイナスの清算)。相続放棄は最初から相続人でなかったとみなされる(一切の権利義務不承継)。
Q6. 相続放棄申述書はどこに出しますか?
A. 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。戸籍謄本・住民票除票等の必要書類とともに提出。
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相続放棄に関連する戸籍収集・事実関係整理サポート
戸籍収集・相続関係説明図・事実関係整理書面の作成を支援。相続放棄申述・期間伸長申立は司法書士業務(家庭裁判所提出書類)、提携司法書士をご紹介します。
まとめ
相続放棄期間(3か月)の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」。財産調査が間に合わない場合は家庭裁判所への期間伸長申立て、後日に債務発覚した場合は最判昭59.4.27の起算点繰り下げ理論を活用。戸籍収集・事実関係整理は行政書士業務、相続放棄申述・期間伸長申立は司法書士業務、債権者交渉は弁護士業務という業際を踏まえ、専門家チームで対応します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


