公開日:2026年5月13日
遺産分割協議は、相続人全員の合意により遺産の分け方を決める手続です。しかし実務では「兄弟仲が悪く話し合いにならない」「特定の相続人が遺産を独占しようとする」「不動産の分け方で対立」「使途不明金がある」「行方不明・認知症の相続人がいる」「自筆遺言の有効性で揉めている」など、トラブルが頻発する領域でもあります。さらに2023年4月1日施行の改正民法904条の3により、相続開始から10年経過後は原則として特別受益・寄与分を主張できなくなったため、長期未分割の事案は早期対応が不可欠となりました。事前に典型的なトラブルパターンと対処法を知っておくことで、紛争を未然に防ぎ、時機を失することなく自分の取り分を守れます。本記事では、実務で頻出する遺産分割協議のトラブル事例10類型を、具体例・法的構成・対処手順・業際の観点から実務目線で解説します。
本記事の結論:
- 遺産分割協議の典型トラブルは10類型に整理できる:感情対立/不動産の分割方法/使途不明金/特別受益/寄与分/行方不明相続人/認知症相続人/未成年相続人/遺言有効性/相続放棄漏れの債務承継。
- 未然防止の鍵は、戸籍・財産目録の事前整備と、中立的な第三者の関与による感情論と法的論点の切り分け。
- 不在者財産管理人選任申立て(民法25条)・成年後見開始の審判申立て(民法7条・843条以下)・特別代理人選任(民法826条等)など、家庭裁判所申立書類の作成は司法書士業務(司法書士法3条1項6号)または弁護士業務。事実関係整理・財産目録作成等は行政書士業務範囲で対応。
- 当所は戸籍収集・相続関係説明図・遺産目録・協議書原案作成まで対応。調停・審判等の紛争性ある事案は弁護士、相続登記は司法書士、相続税は税理士の提携専門家をご紹介します。
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目次
根拠法令
- 民法 906条以下(遺産分割)・906条の2(遺産分割前の処分、2019年7月1日施行)
- 民法 903条(特別受益者の相続分)・903条4項(婚姻期間20年以上の配偶者間贈与の持戻し免除推定、2019年7月1日施行)
- 民法 904条の2(寄与分)
- 民法 904条の3(相続開始から10年経過後の特別受益・寄与分の主張制限、2023年4月1日施行)
- 民法 907条(遺産分割の協議又は審判)
- 民法 915条(相続放棄の熟慮期間)・最判昭和59年4月27日(熟慮期間起算点の特則)
- 民法 1050条1項・2項(特別の寄与・請求期間制限、2019年7月1日施行)
- 民法 1028条以下(配偶者居住権、2020年4月1日施行)
- 民法 25条(不在者の財産管理)・30条1項・2項(普通失踪・特別失踪)
- 民法 7条・843条以下(成年後見)・826条(利益相反行為における特別代理人)
- 民法 968条(自筆証書遺言・財産目録パソコン作成許容、2019年1月13日施行)
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律(自筆証書遺言書保管制度、2020年7月10日施行)
- 不動産登記法 76条の2(相続登記義務化、2024年4月1日施行)
- 戸籍法 120条の2(戸籍広域交付制度、2024年3月1日施行)
- 不動産登記規則 247条(法定相続情報証明制度、2017年5月29日施行)
- 司法書士法 3条1項6号(裁判所提出書類の作成)
- 民事訴訟法・家事事件手続法(調停・審判関連)
1. トラブル類型1:相続人間の感情的対立
1-1. 典型例
- 長年の確執がある兄弟間で話し合いが進まない(連絡を取らないまま十数年)
- 同居して親の介護を担った長男・長女と、遠方で何もしなかった兄弟との間の不公平感
- 親の偏愛・差別(学費の格差・住宅資金の援助有無)による感情的しこり
- 「親の生前に世話をしたのは私」「あなたは何もしていない」という主張の対立
- 配偶者と前妻の子の間の心理的距離(再婚事案)
1-2. 法的論点と感情論の切り分け
感情的対立そのものは法律で解決できませんが、(a) 法定相続分(民法900条)の確認、(b) 特別受益・寄与分の評価、(c) 介護負担への評価(民法904条の2・1050条)など、法的枠組みに整理することで議論の土台ができます。
1-3. 対処法
- 中立的な第三者の関与(行政書士は事実整理・合意済み内容の書面化、相続人間の交渉・調停対応は弁護士業務)
- 感情論と法的論点の切り分け(介護負担→寄与分、生前贈与→特別受益、として整理)
- 段階的協議(祭祀承継・墓地→預貯金→不動産の順で合意できる事項から)
- 遺産目録・相続関係説明図の事前共有による情報の非対称解消
- 協議が膠着すれば家庭裁判所への遺産分割調停申立て(弁護士業務)
2. トラブル類型2:不動産の分割方法対立
2-1. 典型例
- 同居していた長男が「実家を継ぎたい」、別居の次男・三男が「売却して現金で分けたい」と対立
- 固定資産評価額と時価の乖離(路線価・公示価格・実勢価格のいずれを基準とするか)
- 農地・山林・収益物件・別荘・投資用マンション等、分割困難な不動産の処理
- 共有名義のままにした場合、将来の管理・売却・修繕費負担で再紛争のリスク
- 住宅ローン残債が残る不動産の承継者と債務引受の整理
- 借地権・借家権・賃借中アパートの賃料分配
2-2. 4つの分割方法
| 方法 | 内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産そのものを取得 | 不動産を残せる | 評価額の差で不公平 |
| 代償分割 | 1人が取得し他に金銭支払 | 不動産を残せる・公平 | 支払者の資力必要 |
| 換価分割 | 売却して現金分割 | 公平・シンプル | 不動産を失う |
| 共有分割 | 共有名義で取得 | 暫定的解決 | 将来の管理・処分で再紛争 |
3. トラブル類型3:使途不明金・預金引き出し(生前引出し)疑惑
3-1. 典型例
- 同居していた相続人が親のキャッシュカードを管理し、まとまった金額の引出しがある
- 介護費用・施設費名目での引出しはあるが、領収書・実費との突合が取れない
- 被相続人が認知症を発症した時期以降に大口の引出し・出金が集中している
- 被相続人死亡直後(葬儀費用名目)に預金が引き出されている
- 引出し記録の説明を求められた相続人が説明を拒否・回避している
3-2. 法的構成(引出し時期で異なる)
使途不明金は、引出しの時期・被相続人の意思・委任の有無・使途・利益の帰属により、法的構成が分かれます。
- 被相続人生存中の不当な引出し:被相続人の不当利得返還請求権(民法703条)または不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)が相続人に承継される構成で対応
- 相続発生後の引出し:民法906条の2(2019年7月1日施行)により、共同相続人全員の同意がない処分があった場合、当該財産を遺産分割対象として扱うことが可能
- 使途証明あり(介護費・医療費等):被相続人の指示・委任に基づく支出として遺産分割上の調整事項にとどまる場合あり
3-3. 対処法
- 金融機関から取引履歴の開示請求(相続人は単独で開示請求可能。開示可能な期間・必要書類・手数料は金融機関により異なる)
- 介護日誌・領収書・通帳記帳との突合による使途確認
- 引出しが認知症発症後である場合、被相続人の意思能力に関する医療記録・診断書を確認
- 遺産分割協議書で「使途不明金は調査対象とし、判明した分は遺産に組み戻す」旨の合意を入れる方法も検討
- 悪質な事案・金額が大きい事案は弁護士による訴訟提起(行政書士の業務範囲外)
4. トラブル類型4:特別受益の主張
4-1. 特別受益とは(民法903条)
共同相続人の中に、被相続人から(a)婚姻・養子縁組のための贈与、(b)生計の資本としての贈与(住宅取得資金、開業資金、留学費用、独立支援金等)、(c)遺贈を受けた者があるときは、その額を相続財産に加算(持戻し)した上で、相続分から減額する制度です。
4-2. 典型例
- 長男が結婚時に親から住宅取得資金として2,000万円の援助を受けていた
- 次男が起業時に親から開業資金として1,000万円の援助を受けていた
- 長女だけが私立医学部に進学し、6年間の学費・生活費を親が負担した
- 遺言で特定の相続人にのみ多額の遺贈がなされていた
4-3. 持戻し免除と配偶者特例
被相続人が遺言や生前の意思表示で「持戻し免除」の意思を示していれば、特別受益は持戻し計算しません。婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用建物又はその敷地について遺贈又は贈与がされた場合には、原則として持戻し免除の意思表示があったものと推定されます(民法903条4項、2019年7月1日施行)。なお、配偶者居住権(民法1028条以下、2020年4月1日施行)は別制度として整備されており、特別受益の持戻し免除推定とは混同しないように注意が必要です。
4-4. 【重要】10年経過後の主張制限(民法904条の3)
2023年4月1日施行の改正民法904条の3により、相続開始から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益・寄与分の主張ができなくなり、法定相続分または指定相続分による分割となります。例外として、次の3つの場合は10年経過後も具体的相続分による分割が可能です。
- ① 10年経過前に家庭裁判所に遺産分割請求をした場合
- ② 期間満了前6か月以内にやむを得ない事由がありその消滅から6か月経過前に家庭裁判所に分割請求した場合
- ③ 相続人全員が具体的相続分による分割に同意した場合
なお、改正法施行(2023年4月1日)時点で既に相続開始から10年経過している場合は、2028年3月末まで5年間の猶予期間が設けられています。長期未分割案件を抱えている方は、この経過措置期間の終了前に対応を進める必要があります。
4-5. 立証のポイント
- 贈与契約書・振込記録・通帳の入出金履歴
- 住宅登記簿(取得時の登記原因・名義)
- 学費・留学費用の領収書、家計簿
- 被相続人の手帳・メモ・口頭での説明録音等
5. トラブル類型5:寄与分の主張
5-1. 寄与分とは(民法904条の2)
共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務提供、療養看護等により、被相続人の財産の維持・増加について「特別の寄与」をした者がある場合、相続分に上乗せして寄与分を認める制度です。
5-2. 典型例
- 同居の長女が10年以上にわたり認知症の親を在宅介護し、施設費用の支出を回避した
- 家業の農業・自営業を無給または低賃金で長年手伝い、事業の存続・拡大に寄与した
- 被相続人の不動産賃貸経営を無償で代行管理し、賃料収入の維持に貢献した
- 被相続人の借金返済・税金支払い等を立て替えて被相続人の財産を守った
5-3. 立証の困難
「特別の寄与」の認定はハードルが高く、配偶者・子の通常の扶養・介護の範囲にとどまる場合は認められにくい傾向があります。無償又は低報酬での長期間・継続的な療養看護、財産の維持又は増加との因果関係、具体的な記録資料などを総合的に検討します。介護記録・家計簿・領収書・診療記録・要介護度認定書類の保存が立証の鍵となります。
5-4. 特別寄与料(民法1050条・2019年新設)
相続人でない親族(被相続人の長男の妻、子の配偶者、内縁の配偶者を除く親族等)が無償で療養看護その他の労務を提供し、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合、相続人に対し特別寄与料を請求できる可能性があります(民法1050条1項)。
【重要:請求期間制限】家庭裁判所への請求には、特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始時から1年という期間制限があります(民法1050条2項)。期間経過後は請求不可となるため、早期の対応が必要です。
5-5. 【重要】10年経過後の主張制限
特別受益と同様、2023年4月1日施行の民法904条の3により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として寄与分の主張ができなくなります(例外3類型あり、詳細は「トラブル類型4:特別受益の主張」を参照)。改正法施行時点で既に相続開始から10年経過している事案については2028年3月末までの猶予期間があるため、それまでに家庭裁判所への分割請求等の対応が必要です。
6. トラブル類型6:行方不明・連絡拒否相続人
6-1. 典型例
- 離婚後数十年連絡が途絶えている兄弟・前妻の子の所在が不明
- 海外居住が長く、住民票上の住所と実際の居所が異なる相続人がいる
- 音信不通の相続人にハガキ・電話で連絡したが反応がない
- 登山中・船舶遭難・震災等で行方不明となった相続人がいる
6-2. 対処法(段階別)
- 所在調査:戸籍附票・住民票による住所確認(行政書士の職務上請求で対応可能)
- 住所判明・連絡可能:本人名義での協議参加要請書面の送付を検討(相手方との交渉代理は弁護士業務)
- 住所不明(生存推定あり):家庭裁判所への不在者財産管理人選任申立て(民法25条。家庭裁判所申立書類の作成は司法書士法3条1項6号の司法書士業務、または弁護士業務)
- 長期不通(生死不明):失踪宣告の検討。普通失踪(民法30条1項・不在者の生死が7年間明らかでないとき)または特別失踪(同条2項・戦争・船舶沈没・震災等の危難が去った後1年間生死不明)の要件を確認
- 連絡拒否(生存・住所判明):家庭裁判所への遺産分割調停申立て(弁護士業務)
7. トラブル類型7:認知症相続人の参加
7-1. 問題点
判断能力を欠く相続人が遺産分割協議に参加しても、当該相続人の意思表示は無効となり、結果として協議全体が無効となるリスクがあります。協議成立後に判断能力欠如が判明すれば、相続登記・預金解約等の手続も覆る可能性があります。
7-2. 典型例
- 母の相続で、共同相続人である父が認知症を発症している
- 兄弟相続で、独居の兄が認知症の診断を受けている
- 協議書に署名捺印したが、当時すでに判断能力に疑義があった
7-3. 対処法
- 判断能力の程度を医師の診断書で確認(後見・保佐・補助のいずれが相当か)
- 家庭裁判所への成年後見開始の審判申立て(民法7条・843条以下。申立書類の作成は司法書士業務または弁護士業務)
- 成年後見人が選任されたら、後見人が認知症相続人を代理して協議に参加
- 後見人と本人との利益相反がある場合(共同相続人の関係に立つ場合等)は、成年後見監督人の有無や事案に応じて、特別代理人選任等の対応を検討(民法826条等)
- 協議成立後は家庭裁判所への報告(後見人の善管注意義務、本人にとって不利益な合意は無効化リスク)
8. トラブル類型8:未成年相続人の代理
8-1. 問題点
未成年者と親権者(法定代理人)の双方が相続人となる場合、利益相反となるため親権者は未成年者を代理して遺産分割協議に参加することはできません(民法826条1項)。未成年の兄弟姉妹が複数いて親権者が同一の場合も、未成年者間で利益相反となるため各別に特別代理人が必要です(民法826条2項)。
8-2. 典型例
- 父が死亡し、母と未成年の子が相続人となる(母と子の利益相反)
- 祖父が死亡し、代襲相続で未成年の孫が相続人となり、親権者である母も別途相続人ではないが代理人として関与
- 未成年の兄弟姉妹が複数おり、同一の親権者では代理できない
8-3. 対処法
家庭裁判所に「特別代理人選任」を申立て(民法826条)、特別代理人が未成年者を代理して協議に参加します。未成年者が複数いる場合は各別に特別代理人を選任する必要があります。申立書類の作成は司法書士業務(司法書士法3条1項6号)または弁護士業務、申立てに必要な戸籍・財産目録・分割協議書案の作成は行政書士業務で対応可能です。
9. トラブル類型9:遺言の有効性争い
9-1. 典型例
- 自筆証書遺言の形式不備(全文自書がなく一部パソコン作成・日付の特定不能・印章なし・加除訂正方式違反等)
- 遺言時の判断能力に疑義(認知症診断後・入院中・終末期の作成)
- 同居していた相続人による遺言書の偽造・変造の疑い
- 複数の遺言書が発見され内容が抵触する
- 付言事項のみで具体的な分割指定が不明確
9-2. 自筆証書遺言の形式要件(民法968条)と最新改正
自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し押印することが必要です。2019年1月13日施行の改正民法968条により、財産目録部分はパソコン作成や登記簿謄本・通帳コピーの添付が許容されました(各葉に署名押印が必要)。また、2020年7月10日施行の自筆証書遺言書保管制度(法務局における遺言書の保管等に関する法律)により、法務局保管された遺言書は形式チェックを経ており、家庭裁判所の検認も不要となるため、形式不備・偽造変造のリスクを大幅に低減できます。
9-3. 対処法
- 自筆証書遺言等については、必要に応じて家庭裁判所での検認手続を行う(検認は遺言書の存在と内容を確認する手続であり、遺言の有効・無効を判断する手続ではない点に注意)
- 形式不備が明白な場合は無効を主張
- 判断能力争いは医療記録(カルテ・看護記録・要介護認定書類・長谷川式スコア等)による立証
- 偽造変造の疑いは筆跡鑑定(公的機関または鑑定人)
- 遺言無効確認訴訟・遺言執行者解任の申立て等は弁護士業務
10. トラブル類型10:相続放棄漏れによる債務承継
10-1. 問題点
3か月の熟慮期間(民法915条1項)を過ぎてしまい、被相続人の負債を法定単純承認(民法921条)として承継してしまうケース。先順位相続人(配偶者・子等)の放棄により自分が相続人となったことを知らず、債権者からの請求で初めて気付くケースも頻発します。
10-2. 典型例
- 疎遠な父が死亡し、半年後に消費者金融から請求書が届いて初めて借金の存在を知った
- 長く同居していた相続人が放棄したことを兄弟が知らず、債務承継してしまった
- 連帯保証人としての地位を承継していたが知らないまま3か月経過した
- 遺産分割協議書に署名捺印してしまい、法定単純承認とみなされる行為があった
10-3. 対処法
- 相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所への相続放棄申述(民法915条1項)
- 3か月を超えた場合でも、相続財産が全く存在しないと信じていたなど特段の事情がある場合は、相続財産の存在を認識した時または通常認識し得べき時から3か月以内とした判例あり(最判昭和59年4月27日)。ただしこの判例の射程は限定的で、適用には個別事案の慎重な検討と疎明資料が必要
- 3か月の熟慮期間内に伸長を申立てる方法もあり(民法915条1項ただし書)
- 家庭裁判所提出書類の作成・申立対応は、弁護士または司法書士の業務範囲(代理権の有無や事件内容により異なる)
- 放棄前に遺産を処分・消費すると法定単純承認となり放棄不可となるため要注意
11. トラブル予防のための事前対応
11-1. 被相続人の生前対応
- 遺言書の作成(公正証書遺言を強く推奨。自筆証書遺言の場合は、2019年1月13日施行の改正民法968条により財産目録部分のパソコン作成が許容、2020年7月10日施行の自筆証書遺言書保管制度により法務局での保管が可能となり、形式不備・偽造変造リスクを低減できる)
- 付言事項で家族への想い・分割理由を説明(法的効力はないが感情面でのトラブル予防に有効)
- エンディングノートで財産目録・デジタル資産・希望を整理
- 生前贈与・生前の話し合いで家族の理解を得る(特別受益として持戻し対象になる点に留意)
- 任意後見契約・財産管理委任契約による生前の認知症対応
11-2. 相続発生後の対応
- 戸籍収集・相続人確定(2024年3月1日施行の戸籍広域交付制度〔戸籍法120条の2〕により、本籍地以外の市区町村窓口で戸籍証明書を一括取得可能。ただし、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の窓口請求のみ可能で、代理人請求・郵送請求は対象外(行政書士の職務上請求対象外)。コンピュータ化されていない一部の戸籍・戸籍の附票・改製原戸籍の一部などは対象外のため、これらは従来通り本籍地に請求が必要)
- 法定相続情報一覧図の作成・法務局認証取得(2017年5月29日施行の法定相続情報証明制度を活用すれば、複数の金融機関・法務局への戸籍束の提出を1通の法定相続情報一覧図で代替可能)
- 遺産目録の作成(不動産評価・預貯金・有価証券・債務)
- 中立的な第三者の関与(行政書士は事実整理・合意済み内容の書面化、相続人間の交渉・調停対応は弁護士)
- 協議内容の文書化(遺産分割協議書)
- 相続登記の早期申請(2024年4月1日施行の改正不動産登記法76条の2により、相続による所有権取得を知った日から3年以内の申請が義務化。正当な理由なく違反すると10万円以下の過料。施行日前に発生した相続も、施行日から3年以内〔2027年3月末まで〕に登記が必要)
12. 業務範囲の整理
12-1. 行政書士の業務範囲
- 戸籍収集(職務上請求。広域交付制度は対象外)・相続関係説明図作成・法定相続情報一覧図の作成支援
- 遺産目録の作成
- 遺産分割協議書の作成(相続人間に争いがない範囲での合意内容の書面化)
- 相続人間に争いがない範囲での事実関係・資料整理サポート
12-2. 業務範囲外(提携専門家を紹介)
- 遺産分割調停・審判の代理・交渉代理 → 弁護士業務(弁護士法72条)
- 遺言無効確認訴訟・遺留分侵害額請求訴訟 → 弁護士業務
- 家庭裁判所提出書類(相続放棄申述書・特別代理人選任申立書・成年後見開始審判申立書・不在者財産管理人選任申立書等)の作成・申立対応 → 弁護士または司法書士の業務範囲(代理権の有無や事件内容により異なる。司法書士法3条1項6号)
- 不動産の相続登記 → 司法書士業務
- 相続税の試算・申告 → 税理士業務
FAQ|遺産分割協議のトラブル・揉める相続のよくあるご質問
Q1. 相続人の1人が協議に応じない場合は?
家庭裁判所への遺産分割調停申立てを検討します。調停不成立なら審判に移行。期間は1〜3年程度。
Q2. 使途不明金の証拠はどう集めますか?
相続人は、金融機関に対して被相続人口座の取引履歴開示を求められる場合があります。開示可能な期間(多くは過去10年程度)、必要書類、手数料は金融機関により異なりますが、引出し時期・金額・使途確認の手がかりとなります。介護日誌・領収書との突合、被相続人の判断能力(医療記録・要介護認定書類等)を含めて総合的に評価します。
Q3. 特別受益と寄与分はどちらも主張できますか?
主張できます。両者を相殺・調整して具体的相続分を計算します。複雑な事案は弁護士・税理士の協力が必要。
Q4. 遺産分割協議に期限はありますか?
遺産分割協議自体に絶対的な期限はありませんが、関連する期限が複数あります。
①相続放棄:相続開始を知った時から3か月以内(民法915条1項)
②相続税申告:相続開始を知った日の翌日から10か月以内
③相続登記義務化:相続による不動産取得を知った日から3年以内(2024年4月1日施行・正当な理由なく違反すると10万円以下の過料。遺産分割成立後の追加的義務にも注意)
④特別受益・寄与分の主張:相続開始から10年以内(2023年4月1日施行の民法904条の3。経過措置として2028年3月末まで猶予期間あり)
⑤特別寄与料の請求:相続開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始時から1年以内(民法1050条2項)
いずれも期間経過後は主張・手続が制限されるため、計画的な対応が必要です。
Q5. 行方不明の相続人の代わりに分割できますか?
不在者財産管理人選任、または失踪宣告を経る必要があります。家庭裁判所手続のため司法書士・弁護士の関与が一般的。
Q6. 協議成立後に新たな財産が見つかったら?
原則として、新たに発見された財産について追加の遺産分割協議を行います。協議書に未発見財産の取扱条項(例:「未発見財産は法定相続分により分割」「未発見財産は○○が取得し他に金銭で代償する」等)を入れておく方法もありますが、財産の種類(不動産・預金・有価証券等)や名義変更手続によっては、改めて協議書や相続人全員の協力・印鑑証明書が必要となる場合があります。
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まとめ
遺産分割協議のトラブルは、相続人間の感情的対立、不動産分割対立、使途不明金、特別受益・寄与分の主張、行方不明・認知症・未成年相続人、遺言の有効性争い、相続放棄漏れ等の10類型が代表的です。事前の遺言書作成・付言事項記載(自筆証書遺言書保管制度の活用も有効)、相続発生後の中立的専門家関与、遺産分割協議書の文書化により多くのトラブルを予防できます。特に2023年4月1日施行の改正民法904条の3により、相続開始から10年経過後は原則として特別受益・寄与分の主張ができなくなり、施行時点で既に10年経過している事案も2028年3月末で猶予期間が終了します。長期未分割案件は早期の対応が不可欠です。さらに2024年4月1日施行の相続登記義務化(3年以内・10万円以下の過料)、2024年3月1日施行の戸籍広域交付制度など、近年の制度改正にも対応が必要です。調停・訴訟・交渉代理は弁護士業務、家裁書類の作成は弁護士または司法書士業務、相続登記は司法書士業務、相続税は税理士業務という業際を踏まえ、専門家チームでの対応が安心です。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


