公開日:2026年5月11日
親や祖父母の代から所有してきた山林・森林・立木を相続することになったものの、固定資産評価額・林業経営の実態・森林法の届出・相続税の納税猶予制度など、論点が多岐にわたるため何から手を付ければよいか分からないという声を多くいただきます。山林の相続では、所在地の市町村への森林の土地の所有者届出(森林法10条の7の2第1項)、森林経営計画の包括承継届出、林地の固定資産税評価、立木の評価、相続税の山林納税猶予の選択など、宅地・建物の相続とは別系統の手続が並列で発生します。所有者不明森林の発生防止が国土保全上の重要課題となるなか、相続登記義務化(2024年4月1日施行)と森林法の規律下での適正な手続が求められます。本記事では、山林・森林・立木の相続実務を体系的に整理します。
本記事の結論:
- 山林相続の必須3手続は相続登記(3年以内・不動産登記法76条の2)、森林の土地の所有者届出(90日以内・森林法10条の7の2)、森林経営計画認定森林の場合の包括承継届出(森林法17条)。
- 立木は土地と一体評価が原則だが、立木登記(立木ニ関スル法律)または明認方法により土地と分離して取り扱われる場合がある。
- 相続税では立木の15%評価減(相続税法26条の2)と山林納税猶予(租税特別措置法70条の6の6)などの規定があり、適用判断は税理士業務。
- 当所の支援範囲は戸籍収集・相続関係説明図・遺産分割協議書作成等の事実関係整理。相続登記は司法書士、相続税申告・納税猶予は税理士に連携。
遺産分割協議書作成サポート
遺産分割協議書作成について、行政書士法人Treeで対応します。ミニマム 43,780円(税込)/スタンダード 87,780円(税込)/丸投げお任せ 142,780円(税込)。
目次
根拠法令
- 民法882条(相続開始)・896条(相続の一般的効力)・906条(遺産分割の基準)・262条の2(所在等不明共有者の持分取得)・262条の3(同持分譲渡)
- 不動産登記法76条の2(相続登記の申請義務、2024年4月1日施行)・76条の3(相続人申告登記)
- 森林法10条の7の2第1項(森林の土地の所有者となった旨の届出)・214条(届出義務違反の過料)
- 森林法10条の8(伐採及び伐採後の造林の届出。所有者届出とは別制度のため混同注意)
- 森林法11条(森林経営計画の作成)・12条(市町村森林整備計画作成市町村の長による認定)・17条(認定森林所有者等の死亡等による包括承継)
- 森林法施行規則36条1項(森林経営計画の権利義務承継の届出)
- 森林法10条の12の3〜10(所有者不明森林の経営管理に関する特例)
- 森林法191条の3(森林の土地に係る境界明確化に関する措置)
- 相続税法22条(評価の原則)・26条の2(立木の評価における15%評価減)
- 租税特別措置法70条の6の6(山林についての相続税の納税猶予及び免除)
- 財産評価基本通達45-2(純山林・中間山林・市街地山林の区分)・113(森林の主要樹種の立木の評価)
- 立木ニ関スル法律(立木法、明治42年法律第22号)
- 地方税法341条・349条(固定資産税の課税標準・評価)
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法、2023年4月27日施行)
- 国土調査法(地籍調査の根拠)
1. 山林相続で発生する3系統の手続
山林を相続した場合、性質の異なる3系統の手続が同時並行で発生します。第1系統は民事上の相続手続で、戸籍収集・相続人確定・遺産分割協議・相続登記です。2024年4月1日施行の改正不動産登記法76条の2により、不動産(山林を含む)を相続で取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。違反時は10万円以下の過料です。第2系統は森林法に基づく公法上の届出で、後述の森林の土地の所有者届出(10条の7の2)と森林経営計画の包括承継(17条)です。第3系統は税務上の手続で、固定資産税の名義変更(相続登記により自動反映)と相続税の申告(10か月以内)です。
1-2. 相続人申告登記による相続登記義務の簡易履行
2024年4月1日施行の不動産登記法76条の3により、相続登記義務の簡易な履行手段として「相続人申告登記」が新設されました。これは、登記名義人について相続が開始したこと、および自らがその相続人であることを法務局に申し出る簡易な制度で、申出をした相続人は、不動産登記法76条の2の相続登記申請義務を履行したものとみなされます。共有関係が複雑化した山林や、遺産分割協議に時間を要する事案で、当面の過料リスクを回避する手段として有用です。ただし、相続人申告登記は権利関係を確定する登記ではなく、相続発生の事実を登記簿に反映するにとどまります。最終的な権利関係を登記簿に反映するためには、遺産分割協議の成立後に正規の相続登記を行う必要があります(司法書士業務)。
2. 森林の土地の所有者届出(森林法10条の7の2)|相続から90日以内
2012年4月1日に施行された森林法10条の7の2第1項は、地域森林計画の対象となっている民有林について新たに森林の土地の所有者となった者は、所有者となった日から90日以内に、その旨を当該森林の土地の所在する市町村の長に届け出なければならないと定めます。届出義務違反は森林法214条により10万円以下の過料の対象となります。なお、森林法10条の8は伐採及び伐採後の造林の届出(地域森林計画対象民有林の立木を伐採する場合に伐採予定日の90日前から30日前までに提出する届出)に関する別の制度の条文ですので混同しないようご注意ください。
2-1. 届出の対象範囲
届出の対象は、森林法5条に基づく地域森林計画の対象となっている民有林です。登記上の地目が「山林」「保安林」であるかどうかに限らず、地域森林計画の対象範囲に含まれる土地であれば届出が必要となります。地目が雑種地・原野でも対象に含まれる場合があり、逆に登記地目が山林でも地域森林計画の対象外であれば届出は不要です。対象土地該当性は、所在地市町村の林務担当課に確認します。相続による所有権取得もこの届出の対象です。
2-2. 届出書の記載事項と添付書類
届出書には、所有者の住所・氏名・連絡先、土地の所在・地番・面積、所有者となった年月日と原因(相続)、土地の用途等を記載します。令和8年(2026年)4月1日以降は届出様式が改正され、所有者の国籍等が新たな記載事項として追加されました。所有者が法人の場合は、法人の代表者の国籍等、役員や議決権の過半を同一国の者が占める場合はその国名も記載対象となります。添付書類は、登記事項証明書、遺産分割協議書(または法定相続情報一覧図の写し)、戸籍関係書類、土地の位置を示す図面(公図の写し等)など、所有権取得が分かる書類です。
2-3. 遺産分割未了時の届出
相続発生後90日以内に遺産分割協議が整っていない場合は、いったん法定相続人の共有として届出を行い、その後、遺産分割協議により所有者が確定したときは、その協議成立日から90日以内に改めて届出が必要となる場合があります。相続登記の有無に関わらず、相続発生から90日以内が期限となるため、相続登記より先に対応が必要なケースもあります。
3. 森林経営計画認定森林を相続した場合|包括承継届出・変更認定の確認
森林法11条に基づき市町村長または都道府県知事の認定を受けている森林経営計画(以下、計画森林)を相続した場合、森林法17条1項により、認定森林所有者等の地位は包括承継人(相続人)にも効力が及びます。そのため、森林法17条2項に基づく包括承継の届出(被相続人の死亡を理由とする承継)を遅滞なく行う必要があります。さらに、相続により計画内容や認定森林所有者等に変更が生じる場合には、森林法12条に基づく森林経営計画の変更認定の要否を市町村長等に確認します。具体的な届出様式・期限・添付書類は森林法施行規則36条1項以下を根拠とし、自治体によって運用が異なるため、認定権者(市町村長または都道府県知事)の窓口で必ず確認します。
3-1. 計画森林であることのメリット
計画森林であることのメリットとして、計画書記載の伐採の届出簡素化、補助制度・税制特例の検討、相続税評価上の一定の特例や山林納税猶予(後述)の適用可能性などが挙げられます。なお、補助制度の内容や採択上の取扱いは自治体・制度ごとに異なるため、必ず市町村や森林組合に確認します。経営の継続が困難な場合は、計画の取消し、森林組合への業務委託、または森林経営管理制度の活用(森林経営管理法)を検討します。
4. 立木の評価と立木所有権の分離
立木は原則として土地の構成部分として土地と一体で評価・取引されますが、「立木ニ関スル法律」(明治42年法律第22号、通称:立木法)により、樹木の集団を独立の不動産として登記することができます(立木登記)。立木登記がされている場合、土地と立木は別個の所有権となり、相続登記も別個に行う必要があります。立木登記がない場合でも、明認方法(樹皮への所有者氏名の墨書、立札等)により立木の所有権を土地所有権と分離して公示する慣習法上の制度があり、過去の売買・伐採契約等により立木の権利関係が土地所有権と分離している場合があります。土地と立木を切り離して承継させたい場合は、立木登記・契約・現地表示(明認方法)の有無を個別に確認します。
4-1. 立木の相続税評価
立木の相続税評価は、相続税法26条の2により、相続または遺贈により取得した立木の価額は当該立木の取得時の時価の85/100に相当する金額(15%の評価減)で評価する旨が法律上明記されています。財産評価基本通達113は具体的な評価方法として、森林の主要樹種の立木につき、樹種・樹齢に応じた標準価額、地味級、立木度、地利級(搬出条件)、森林の地積等を用いて評価する旨を定めています。スギ・ヒノキ等の植林地では、樹齢40年生以上の標準伐期に近い立木は経済的価値が高く、林業経営の専門業者による評価(立木調査)が推奨されます。具体的な評価額の算定は税理士または林業評価に詳しい専門家にご確認ください。
5. 相続税における山林・立木の規定
相続税の評価では、山林は財産評価基本通達45-2により純山林(市街地から遠く農地の影響を受けない山林)・中間山林(純山林と市街地山林の中間)・市街地山林(市街化区域内)に区分され、純山林は固定資産税評価額に倍率を乗じた評価となります。立木は前述のとおり相続税法26条の2による15%評価減が適用されます。
5-1. 山林についての相続税の納税猶予及び免除(租税特別措置法70条の6の6)
租税特別措置法70条の6の6の山林納税猶予制度は、林業経営相続人が一定要件を満たす「特定森林経営計画」(一般に対象森林面積100ha以上等の要件があります)の対象となる森林を一括承継し、計画に従って継続的に林業経営を行う場合、特例山林に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予される制度です(林地の評価額そのものを8割減額する制度ではない点に注意)。猶予期間中の経営継続要件・計画遵守要件・10年ごとの継続届出があるため、適用可否は提携税理士・林業普及指導員にご相談ください。
5-2. 森林環境税・森林環境譲与税
2024年度から、個人住民税均等割と併せて年額1,000円の「森林環境税」が本格的に課税されており、その税収は森林環境譲与税として市町村等に配分され森林整備に活用されています。山林を相続して所有することになった場合、相続人もこの森林環境税の納税義務を負うことになります(個人住民税納税義務者と同じ)。森林整備の補助制度は森林環境譲与税を財源として自治体ごとに整備されているため、相続山林の管理計画とあわせて市町村に確認します。
6. 共有山林・所在等不明共有者問題
山林は数次相続を経て共有関係が複雑化しているケースが多く、共有者の一部が所在不明・連絡不可となっている事例も少なくありません。2023年4月1日施行の改正民法・改正不動産登記法では、所在等不明共有者の持分取得(民法262条の2)・持分譲渡(民法262条の3)の制度が整備されました。共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の持分を取得し、または第三者に譲渡することができます。森林法でも、所有者不明森林に関する公告・裁定等を経て一定の範囲で森林の経営管理や施業を可能にする特例制度(森林法10条の12の3以下)が設けられています。ただし、対象森林、公告・裁定の要件、施業主体、補償金の取扱い等は制度ごとに異なるため、市町村・都道府県・専門家と確認しながら進めます。共有山林の整理は、家庭裁判所への申立てを伴うため、司法書士・弁護士のご紹介となります。
7. 山林の境界明確化と地籍調査
森林の境界明確化については、森林法(191条の3)に基づく情報整備、国土調査法に基づく地籍調査、森林経営管理制度における意向調査・現地確認など、複数の制度が関係します。林地の地籍調査進捗は2024年度末時点で全国平均約45%にとどまり、相続した山林の境界が不明確な事例は珍しくありません。境界が不明確な場合は、市町村、森林組合、土地家屋調査士等に相談し、地籍調査の実施状況や隣接地所有者との確認の可否を確認します。境界確定測量・地積測量図の作成は土地家屋調査士業務、所有権界の確認に関する確認書(合意書)の作成補助は行政書士業務範囲となります。
8. 相続した山林を売却・放棄・国庫帰属したい場合の注意点
相続後の山林管理が困難な場合、(1)売却(森林組合・林業事業者・不動産会社への打診)、(2)第三者への寄附・贈与、(3)相続土地国庫帰属法に基づく国庫帰属申請、の3つが現実的な選択肢です。立木の単独売却(伐採権の譲渡)と土地・立木の一括売却では譲渡所得税の取扱いが異なるため、税務は提携税理士に確認します。国庫帰属申請は、2023年4月27日施行の相続土地国庫帰属法に基づき、一定要件を満たす土地について申請が可能ですが、山林では境界不明、崖地、管理に過分な費用を要する土地、通行困難地、権利関係が複雑な土地などに該当しやすく、申請前の現地調査・資料整理が重要です。山林であることだけで一律に対象外となるわけではありません。申請手続は司法書士業務、事前の事実関係整理書面の作成は行政書士業務範囲となります。
業務範囲の整理
行政書士業務(Treeで対応可能)
- 戸籍収集・相続関係説明図・法定相続情報一覧図の作成
- 相続財産目録(山林・立木を含む)の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 森林の土地の所有者届出書(森林法10条の7の2第1項)の作成・提出手続のサポート(自治体の取扱いにより委任状等が必要)
- 境界確認書(合意書)の作成補助
- 相続土地国庫帰属申請に関する事実関係整理書面の作成
業務範囲外(提携専門家をご紹介)
- 相続登記・相続人申告登記・立木登記の申請(司法書士業務)
- 境界確定測量・地積測量図の作成(土地家屋調査士業務)
- 相続税申告・山林納税猶予の適用判断・立木の具体的評価(税理士業務)
- 家庭裁判所への遺産分割調停・所在等不明共有者持分取得の申立て(司法書士・弁護士業務)
- 共有山林分割訴訟・境界確定訴訟の代理(弁護士業務)
- 相続土地国庫帰属申請手続(司法書士業務)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 森林の土地の所有者届出を90日以内にしないとどうなりますか。
森林法214条により、届出をしない場合や虚偽の届出をした場合は10万円以下の過料の対象となります。実務上の対応は自治体により異なるため、相続発生後は早期に市町村窓口へ確認し、期限内に届出を行うことが重要です。
Q2. 相続した山林を売却したい場合の流れは。
相続登記完了後、地元の森林組合または林業事業者・不動産会社に売却を打診します。立木の単独売却(伐採権の譲渡)と土地・立木の一括売却では譲渡所得税の取扱いも異なるため、税務は提携税理士に確認します。
Q3. 山林を放棄したいのですが可能ですか。
2023年4月27日施行の相続土地国庫帰属法により、一定要件を満たす土地は国庫帰属を申請できます。山林では境界不明、崖地、管理に過分な費用を要する土地、権利関係が複雑な土地等の事由により承認されないケースもあるため、申請前の現地調査・資料整理が重要です。山林であることだけで一律に対象外となるわけではありません。
Q4. 立木だけを誰かに相続させることはできますか。
立木ニ関スル法律(立木法)に基づく立木登記、または明認方法により土地と独立した権利として公示されている場合は、土地と切り離した相続・遺贈が可能です。登記・明認方法のいずれも整備されていない通常の山林では、立木は土地と一体となるため、土地と切り離した相続は実務上困難です。
Q5. 山林納税猶予を受けるための要件は。
特定森林経営計画の認定森林を一括承継すること、林業経営相続人の要件(経営者要件)、特定森林経営計画に従った継続経営、10年ごとの継続届出等の要件があります。詳細は税理士に確認してください。
Q6. 数次相続で山林の共有者が30人を超えています。
当面の相続登記義務の履行として相続人申告登記(不動産登記法76条の3)を行う方法、所在等不明共有者の持分取得(民法262条の2)の申立てを家庭裁判所に行う方法等があります。事案により司法書士・弁護士をご紹介します。
関連記事
- 法定相続情報一覧図とは|相続関係説明図との違い・作成方法・必要書類を解説
- 特別縁故者財産分与申立て|民法958条の2の3類型・申立期間・予納金
- 数次相続の遺産分割協議書の書き方|相次いで相続が発生した場合の対応を解説
- 相続税の申告期限は延長できる?未分割申告・分割見込書・小規模宅地等の特例
遺産分割協議書作成サポート
遺産分割協議書作成について、行政書士法人Treeで対応します。ミニマム 43,780円(税込)/スタンダード 87,780円(税込)/丸投げお任せ 142,780円(税込)。
まとめ
山林・森林・立木の相続は、宅地・建物の相続と比べて、森林法の届出義務・立木評価の専門性・境界明確化の困難・共有関係の複雑化・納税猶予制度の存在など、独自の論点が多数発生します。とくに、相続発生から90日以内の森林の土地の所有者届出(森林法10条の7の2)と、3年以内の相続登記義務(不動産登記法76条の2)は法定期限のある手続のため、相続発生後早期の確認が重要です。立木の評価(相続税法26条の2の15%評価減)・山林納税猶予(租税特別措置法70条の6の6)の適用は税務専門領域となるため税理士へ、相続登記・相続人申告登記・所在等不明共有者持分取得は司法書士へ、それぞれ適切な専門家との連携設計が円滑な相続実務の鍵となります。Treeでは戸籍収集・相続関係説明図作成・遺産分割協議書作成等の事実関係整理を行い、提携専門家との橋渡しを行います。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


