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「遺言書に”遺贈する”と書かれていたが、相続と何が違うのか」「包括遺贈と特定遺贈で扱いが変わる?」「相続税の2割加算とは?」「死因贈与とは何が違う?」——遺言執行や相続手続で戸惑う方が多いテーマです。本記事では、遺贈の法的根拠(民法964条)、特定遺贈・包括遺贈・死因贈与の違い、相続との比較、遺留分侵害額請求(民法1046条、2019年改正)、相続税2割加算(相続税法18条)の概要、遺言執行者の役割、放棄・承認の手続まで、行政書士が実務目線で解説します。
結論として、遺贈は「遺言による財産の無償譲与」(民法964条)であり、相続人以外にも可能です。包括遺贈は遺産の全部または一定割合を遺贈する形態で受遺者は相続人と同一の権利義務を有し(民法990条)、特定遺贈は個別財産のみ承継する点で大きく異なります。被相続人の配偶者・一親等の血族等以外が相続または遺贈により財産を取得する場合は、相続税2割加算が問題となります(相続税法18条)。遺留分侵害には金銭による侵害額請求(民法1046条、2019年7月施行改正)。包括遺贈は原則3か月以内の承認・放棄判断、特定遺贈は原則いつでも放棄可能(ただし利害関係人から相当期間を定めて催告された場合は期間内の回答が必要)。
遺贈の定め方・執行手続は専門家にご相談を。
目次
遺贈とは|遺言による財産承継・民法964条・受遺者の意味
遺贈は民法964条に基づく制度で、遺言者が遺言によって自己の財産を他人に無償で譲与する行為です。相続が法定相続人に包括的に承継される(民法896条)のに対し、遺贈は受遺者を自由に指定できます。法定相続人以外の親族・友人・団体(NPO・公益法人等)にも財産を遺すことができる柔軟な制度です。
相続・遺贈・死因贈与の違い|税金・登記・放棄手続を比較
| 項目 | 相続 | 遺贈 | 死因贈与 |
|---|---|---|---|
| 根拠条文 | 民法882条以下 | 民法964条以下 | 民法554条 |
| 法的性質 | 包括的承継 | 単独行為(遺言) | 双方行為(贈与契約) |
| 取得者 | 法定相続人 | 受遺能力を有する者(相続人・第三者・法人・団体等。受遺者が遺言者より先に死亡した場合や団体の法的性質によって個別確認が必要) | 契約相手方 |
| 原因 | 被相続人の死亡 | 遺言+被相続人の死亡 | 贈与契約+贈与者の死亡 |
| 承認・放棄 | 相続放棄・限定承認は原則3か月以内 | 包括遺贈の放棄は原則3か月以内(家庭裁判所への申述)。特定遺贈は原則いつでも放棄可(利害関係人から相当期間を定めて催告された場合は期間内に回答) | 原則として撤回可能(贈与者は単独で撤回可、民法1022条準用) |
| 登録免許税(不動産) | 0.4% | 2.0%(相続人への遺贈は0.4%) | 2.0% |
| 不動産取得税 | 非課税 | 特定遺贈で相続人以外が取得する場合のみ課税。相続人への遺贈・包括遺贈(受遺者が誰であっても)は非課税(地方税法73条の7) | 原則課税(相続人であっても課税) |
| 相続税 | 通常税率 | 配偶者・一親等の血族等以外は2割加算(相続税法18条) | 遺贈と同じ取扱い(相続税の対象) |
包括遺贈と特定遺贈の違い|放棄・債務承継・遺産分割協議の注意点
包括遺贈(民法964条前段)
- 遺産の全部または一定割合を遺贈(例:全財産の2分の1を甲に)
- 受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)
- 相続人と同一の権利義務を有するため、積極財産だけでなく相続債務・負担も問題となります(債権者との関係や内部負担割合は個別に確認が必要)
- 包括遺贈の放棄は、自己のために包括遺贈があったことを知った時から原則3か月以内に、家庭裁判所へ申述して行います(相続放棄に準じる手続)
- 未分割の遺産について遺産分割協議が必要となる場合には協議に参加
特定遺贈(民法964条後段)
- 特定の財産を指定して遺贈(例:A土地を甲に、B銀行の預金を乙に)
- 債務は原則として承継しない
- 原則としていつでも放棄できます(民法986条)。ただし、利害関係人から相当期間を定めて承認・放棄の催告を受けた場合や、受遺者死亡後に受遺者の相続人が判断する場合があります
- 遺産分割協議への参加不要(指定財産のみ取得)
- 登記・名義変更手続きで取得
要件・プロセス
- ✔ 遺言書の方式要件(自筆・公正証書等)を満たすこと
- ✔ 特定遺贈:特定の財産を指定して遺贈(例:A土地を甲に)
- ✔ 包括遺贈:遺産の全部または一定割合を遺贈(例:全財産の2分の1を甲に)
- ✔ 包括遺贈の受遺者は、原則3か月以内に承認・限定承認・放棄を検討します。特定遺贈の受遺者は原則いつでも放棄できますが、利害関係人から催告を受けた場合は期間内の回答が必要です
- ✔ 遺留分侵害額請求の対象となる(民法1046条)
遺贈と相続税2割加算|兄弟姉妹・孫養子・法人への遺贈の注意点
相続・遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)および配偶者以外の場合、相続税額が2割加算されます。具体的な税額計算・節税の判断は税理士業務のため、提携税理士をご紹介します。
2割加算の対象となり得る者
- 兄弟姉妹(二親等の血族)
- 孫、甥姪、友人など、被相続人の配偶者・一親等の血族・代襲相続人である孫等に該当しない者
- 養子(被相続人の養子となった被相続人の孫)。ただし代襲相続人となっている孫養子は対象外
- 友人・知人・第三者
- 公益法人・認定NPO法人等への遺贈は、一定の要件を満たす場合に非課税等の取扱いが問題となります(法人の種類、公益目的での使用、租税回避性の有無等を税理士に確認)
2割加算されない者
- 配偶者
- 子(実子・養子)
- 父母
- 代襲相続人である孫
- 代襲相続人となっている孫養子(被相続人の子が相続開始前に死亡し代襲した場合)
遺贈と遺留分侵害額請求|民法1046条・1年の時効・内容証明の注意点
2019年7月1日施行の改正民法により、遺留分侵害は金銭による侵害額請求となりました(旧法は現物返還が原則の遺留分減殺請求)。
遺留分の割合
| 相続人 | 遺留分割合 |
|---|---|
| 配偶者のみ | 1/2 |
| 子のみ | 1/2(子が複数いる場合は子の人数で分ける) |
| 配偶者+子 | 配偶者の遺留分は1/4、子全体の遺留分は1/4(子が複数いる場合は子の人数で分ける) |
| 直系尊属のみ | 全体で1/3(複数いる場合は人数で分ける) |
| 配偶者+直系尊属 | 全体の遺留分1/2を法定相続分に応じて配分 |
| 兄弟姉妹 | 遺留分なし |
遺留分侵害額請求の手続
- 侵害額の金銭請求(現物返還ではない)
- 請求期間:遺留分侵害を知ってから1年、相続開始から10年(民法1048条)。なお、権利行使後に発生する金銭債権は別途5年の消滅時効にかかる
- 請求方法:内容証明郵便等で意思表示→協議→調停・訴訟。調停・訴訟代理、相手方との交渉代理は弁護士業務
- 金銭調達のため受遺者の負担となる可能性
遺言執行者の役割
遺言執行者は遺言の内容を実現する者で、遺贈の実行にも重要な役割を果たします。
- 遺言で指定(民法1006条)または家裁が選任(民法1010条)
- 相続人代理人ではなく独立の法的地位(民法1015条、2019年改正)
- 遺贈の登記・名義変更について、相続人への遺贈は受遺者単独で申請可能(2023年4月施行の改正不動産登記法63条3項)。相続人以外への遺贈は遺言執行者と受遺者の共同申請が原則。登記申請代理は司法書士業務
- 受遺者への財産引渡し
- 遺言執行費用は相続財産から支弁
遺贈寄付(NPO・公益法人への遺贈)
近年、遺産の一部または全部を社会貢献のためにNPO法人・公益法人・母校・宗教団体等へ遺贈する「遺贈寄付」が増えています。実務上のポイントは以下のとおりです。
- 包括遺贈は団体側が受け入れ困難な場合がある:包括遺贈は債務まで承継するため、団体側で受け入れを拒否する場合があります。実務上は特定遺贈(金額・物件を指定)が一般的
- 団体の受入態勢の確認:定款上の受入可否、受入決議、寄付窓口の有無を事前に団体へ確認
- 税務上の取扱い:認定NPO法人や公益法人等への遺贈は、一定の要件を満たす場合に相続税非課税等の取扱いが問題となります。具体的な要件・課税判断は税理士業務のため、提携税理士をご紹介します
- 遺言執行者の指定が重要:寄付を確実に実行するため、団体または信頼できる第三者を遺言執行者に指定するのが一般的
必要書類・料金
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 遺言書 | 自筆証書または公正証書(自筆証書遺言は検認または法務局保管制度の確認) |
| 戸籍謄本一式 | 被相続人の死亡確認・相続関係確認に必要な戸籍。遺言内容、受遺者が相続人か第三者か、遺留分確認の要否により取得範囲を整理 |
| 財産目録 | 不動産・預貯金・有価証券等 |
| 不動産関係資料 | 登記事項証明書、固定資産評価証明書、名寄帳等 |
| 受遺者の本人確認資料 | 個人の場合は住民票・本人確認書類等、相続人である受遺者の場合は戸籍関係書類、法人の場合は登記事項証明書・代表者事項証明書等 |
| 遺言執行者関係資料 | 選任審判書、就任承諾書、印鑑証明書等、事案に応じて確認 |
料金(行政書士法人Treeの代行報酬・税込)
| 項目 | 料金 |
|---|---|
| 自筆証書遺言 ミニ | 32,780円 |
| 自筆証書遺言 フルサポート | 54,780円 |
| 公正証書遺言 ミニ | 43,780円 |
| 公正証書遺言 フルサポート | 65,780円 |
| 遺産分割協議 ミニマム | 43,780円 |
| 遺産分割協議 スタンダード | 87,780円 |
| 遺産分割協議 丸投げお任せ | 142,780円 |
遺贈の活用シーン
- 内縁の妻・夫:法定相続人でないため遺贈で財産を遺す
- 事実婚パートナー:同様の事情
- 同性パートナー:法的婚姻関係が認められないケース
- 世話になった親族・友人:法定相続人以外への感謝
- 遺贈寄付:NPO・公益法人・母校・宗教団体等への寄付。認定NPO法人や公益法人等への遺贈は相続税非課税特例の対象となる場合があり、所得税の寄付金控除対象にもなる
- 相続人の中で特定の人に多めに:相続人に対しては「相続させる」旨の遺言と遺贈のどちらで定めるかにより、登記・税務・執行手続が異なる場合があります
- 子のいない夫婦:兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言により配偶者へ全財産を遺す設計が有効となる場合があります
よくあるケース
- 「内縁の妻に遺したい」——法定相続人でないため遺贈の活用が有効
- 「相続人の一人に特定の不動産を」——遺留分侵害の有無、持戻し免除意思表示の要否、他の相続人との公平性、登記手続を確認
- 包括遺贈受遺者は債務も承継するため事前確認必須
- NPO法人への遺贈で社会貢献
- 母校への遺贈で奨学金原資
- ペット信託と組み合わせて世話人へ遺贈
よくある質問
Q1. 遺贈と相続では税金が変わりますか?
A. 被相続人の配偶者・一親等の血族等以外が相続または遺贈により財産を取得する場合、相続税額の2割加算が問題となります。不動産の遺贈では、登録免許税、不動産取得税、司法書士費用等も相続による取得と異なる場合があるため、司法書士・税理士への確認が必要です。
Q2. 遺贈は放棄できますか?
A. 特定遺贈は原則としていつでも放棄できますが、利害関係人から相当期間を定めて催告された場合は、その期間内に承認・放棄を判断する必要があります。包括遺贈は相続放棄に準じ、原則3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要です。
Q3. 遺留分を侵害する遺贈は無効ですか?
A. 無効ではありませんが、遺留分権利者から侵害額請求がなされた場合は金銭で精算する必要があります(2019年改正で金銭請求化)。
Q4. 包括遺贈の受遺者は遺産分割協議に参加しますか?
A. 包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条)、未分割の遺産について遺産分割協議が必要となる場合には協議に参加します。遺言内容により分割協議の要否は異なるため、具体的な遺言内容を確認します。
Q5. 遺贈先が遺贈前に死亡した場合は?
A. 受遺者が遺言者より先に死亡した場合、原則として遺贈は効力を生じません(民法994条1項)。遺贈に代襲はありませんが、遺言で「受遺者が先に死亡した場合は別の者に遺贈する」旨の予備的遺言(補充遺言)を定めておけば、その定めに従います。
Q6. 法人への遺贈はできますか?
A. 法人への遺贈は可能です。ただし、法人の種類、定款上の受入れ可否、受入決議、相続税・法人税等の課税関係、公益法人・認定NPO法人等の非課税要件を確認する必要があります。
Q7. 内縁の妻への遺贈で注意点は?
A. 内縁関係の立証資料(同居、住民票、家計の共有、親族・周囲への説明等)、相続人からの遺留分侵害額請求への備え、相続税2割加算等に注意が必要です。事実婚契約書は関係性の補強資料になり得ますが、財産を確実に遺すには遺言書の作成が重要です。
Q8. 自筆証書遺言と公正証書遺言、遺贈にはどちらが良いですか?
A. 公正証書遺言は公証人が関与するため方式不備による無効リスクがほぼなく、原本が公証役場で保管され紛失・偽造の恐れがありません。家庭裁判所の検認も不要で、遺言執行もスムーズです。自筆証書遺言は2020年7月10日から法務局保管制度(保管申請3,900円)が利用可能で紛失・偽造リスクは軽減されましたが、遺言の内容自体の有効性は保証されないため、遺贈の確実な実現を重視する場合は公正証書遺言が推奨されます。
Q9. 死因贈与と遺贈はどう違いますか?
A. 遺贈は遺言による単独行為で、遺言者だけで成立しますが、死因贈与は贈与者と受贈者の合意による契約(民法554条)です。法的性質が異なるため、不動産の場合の不動産取得税は死因贈与だと相続人であっても課税される、登録免許税は死因贈与でも相続人以外と同じ2.0%になる、撤回方法が異なる、等の差異があります。具体的な税務判断は税理士への確認が必要です。
行政書士法人Tree|遺言書作成サポート
自筆証書遺言32,780円〜54,780円/公正証書遺言43,780円〜65,780円(税込)。遺贈内容を含む遺言書作成から遺言執行の事務サポートまで、必要に応じて司法書士・税理士・弁護士と連携して対応します。
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まとめ
- 遺贈は民法964条に基づく遺言による無償譲与
- 包括遺贈と特定遺贈で承継範囲・債務承継・放棄方法が異なる
- 被相続人の配偶者・一親等の血族等以外が相続または遺贈により財産を取得する場合は、相続税2割加算が問題となる(相続税法18条)
- 不動産取得税は包括遺贈なら受遺者が誰であっても非課税、特定遺贈で相続人以外が取得する場合のみ課税(地方税法73条の7)
- 2019年7月改正で遺留分侵害額請求は金銭請求化(民法1046条)
- 遺言執行者の登記権限は2023年4月改正不登法で整理(相続人への遺贈は受遺者単独申請可)
- 包括遺贈は原則3か月以内に承認・放棄判断、特定遺贈は原則いつでも放棄可能(ただし利害関係人から催告を受けた場合は期間内の回答が必要)
- 受遺者が先に死亡した場合に備え、予備的遺言(補充遺言)の活用が有効
- 内縁の妻・事実婚・遺贈寄付(NPO・公益法人)等で活用シーン多数
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


